アフリカでは降雨強度が強く,用排水路(土水路),畔などが侵食により崩壊するという現象がみられる。このため,耐侵食性を有し,持続的に維持管理が可能な,農民自らの技術で建設できる水路の開発が求められている。水路の流れの把握,開発した技術の効果の検証を行うためには水路の粗度係数を算定する必要がある。しかしながら,現地で土水路の粗度係数を算定するための水路床勾配を計測することは困難であった。このためレーザー距離計と現地で容易に手に入る材料を用いて現地で簡易に水路床勾配を計測する手法を考案した。これにより土水路が多い途上国において,水路の粗度係数を簡易に算定する際に利用できる。また,粗度係数が算定できることにより,用水計画の策定に役立つほか,土水路の劣化進行の指標として利用が可能である。
手作業を中心としたリンゴ生産現場では,後継者不足が栽培技術の途絶につながる心配がある。本研究では,収穫適期の判断基準をテーマとし,青森県弘前市近郊のリンゴ園において,管理運用が容易な装置を利用したモニタリング実験を実施した。観測データとベテラン農家の判断指標をマッチングすることで,経験に基づく感性的な技術を指標化した。同時に,農家参加型のモニタリングを基礎とし,継続的な対話を続けることで,センサネットを利用したモニタリングシステムの導入を図った。これにより,生産現場におけるICT導入による栽培技術継承の可能性を示した。
全世界で使用されている携帯電話通信網を利用したフィールドデータ伝送システムについて報告する。現在,伝送システムは,P2P(Peer to Peer)から,M2M(Machine to Machine)システムへ移行している。M2Mシステムの事例として,国内,国外からの伝送システムの実態とその実施例について報告する。伝送料は,SIMフリー化の影響をうけ,国内はもとより,国外からのデータ伝送料は,非常に安価になった。また,データを,クラウドサーバに蓄積するシステムを構築しているので,インターネットを利用して,世界中の携帯電話通信網のある地点から,ユーザーの机上,もしくは出先の野外においても簡単にデータ収集・監視ができる。また,電源も太陽電池でまかなえることから,設置も非常に容易になる。
水土を連続した系とみた場合,センサによる観測値の検定には,数値シミュレーションが有効な手段である。近年,表計算ソフトを用いた流体力学の数値シミュレーション研究が進んでいる。表計算ソフトを用いて基礎となる微分方程式を解くのである。本研究では,測点の配置やセンサの埋設深度を規定するための一助として表計算ソフトを用いた土壌水流動モデルを開発した。透水係数や水分特性曲線は,数値解を求めるシートを準備し,解析領域内のセルにパラメータを与えた。基礎方程式を解くことで,浸透領域内のあらゆる点における圧力ポテンシャル,流れの向きと速度が予測可能であり,観測値の予測に有効である。ここでは,表計算ソフトの特徴を活かした水土動態予測のための数値計算モデルについて概説する。
東日本大震災の発生後,津波被害を受けた農業基盤などの復旧に当たっては,復旧後の環境への影響予測が困難となっている。著者らは,震災後の宮城県石巻市北上地区における津波被害状況ならびに農業基盤の復旧に係るスケジュールを現地踏査や被災者,土地改良区職員および行政担当者などからのヒアリングにより把握し,津波被害を受けた農地周辺の環境再生モニタリング,環境再生を促進するための方策を実施した。これらの結果をもとに,大規模な災害復旧における環境配慮対策の実施のための環境情報管理の必要性を考察し,住民参加を活用した環境情報管理の課題を明らかにした。
昨今,農業農村整備事業の効果は,費用対効果の一層の向上が求められている。そのような中,単一な事業導入による「直接効果」については,一定の算出方式で評価されてきたが,事業の導入によりほかの産業部門などへ波及する「間接効果」や複数の事業導入が相互に影響しあって生じる「相乗効果」は,評価する手法がいまだに判然としていない。筆者らは,それら種々の効果が農業農村の振興と活性化に大きく寄与していると考え,現地実態調査に基づき,それら効果の発現メカニズムを多面的に図式化した「効果発現モデル」と各種効果を数値化し算定・評価する「効果算定手法」の開発を行った。本報では,その取組みについて報告する。
庄内平野北部で400年以上前に先人たちの知恵と努力で造られた農業用水路は,時代とともに改良が重ねられてきた。平成14年から開始された,国営かんがい事業による更新整備によって,維持管理労力を軽減させたディスクスクリーン式除塵施設の設置,一元的な施設管理を可能とした水管理施設の整備,石積みによる環境に配慮した水路施工など,地域のニーズを取り入れながら灌漑施設はより使いやすいものへと生まれ変わった。今後も継続して地域の財産として灌漑施設が活かされ,わが国有数の米どころ庄内の美田が地域の人々に守られていくことが必要である。本報では,平成23年度に完了を迎えた国営かんがい事業による更新整備の事例を報告する。