平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,農業用ため池堤体の損傷が数多く確認された。震災後2年が経過した現在においても数多くの施設において補修・改修が続けられている。今後想定される大規模地震への戦略的保全管理を考慮した場合,東日本大震災において被災した施設の復旧過程について詳細な検討を加えることは,技術的課題を明確にするために有効であると考えられる。本報では,東日本大震災により被災したため池施設の実態調査結果を概説した後に,被災した2カ所のため池堤体について常時微動計測による詳細調査を試みた結果を報告する。
東日本大震災における数多くのため池被害などにより,全国で約1万4千カ所の警戒ため池などで,ため池減災のためのハザードマップ作成などソフト対策が急務とされている。各都道府県で整備されている水土里情報などデータベースを活用して簡易氾濫解析およびハザードマップ作成を行うことにより,詳細解析に比して大幅な低コスト化が可能になるが,現在の簡易氾濫解析システムでは詳細地形,破堤条件などが考慮されていないために実情に即した精度の良い氾濫解析を行うことができない。そこで本報では,従来の簡易氾濫解析手法の改善を行って上記各項目を考慮した解析を可能としたので,その概要を示すとともに,典型的なため池の事例で改善効果を示した。
科学的知見から提示される防災情報は,それを受け取る住民の感受性や納得感を推し量る配慮が欠落しがちなために,地域の自主的な防災・減災活動に結びついていない状況が多く指摘されている。本報では,情報の受け手側,つまり住民の提供された情報を受容し解釈する意識の醸成に焦点を当てる。この課題に応えるために,住民の日常的な生活経験をベースに,住民自ら地域環境の観察と評価から災害リスク箇所を析出する作業を通じて,災害リスクを我がこととして捉える防災意識の醸成に至る「手作り防災マップWS」手法を考案した。この手法を用いることで,住民はハザードマップなどの防災情報を踏まえた自主防災・減災活動に積極的に取り組むことになる。
構造物の地震波伝播特性は,構造物の健全性の把握や耐震性の評価などにおいて重要な指標の一つと考えられる。地震波伝播特性を評価する手法として,地震波干渉法は,人工的な起振を行わず,受動的な振動計測のみにより評価ができる低コストな手法であり,数多いため池の健全性や耐震性の評価に適している。本報では,地震波干渉法の適用により,堤体の地震観測記録から地震波伝播特性の評価を行う。また遠心力模型実験における堤体模型について,圧縮や強い振動に起因する地震波伝播特性の変動の実態を明らかにする。以上をもとに,同手法によるため池などの土構造物の地震波伝播特性評価と,長期供用時の経年変化監視への適用性について検討する。
わが国には約21万カ所のため池が存在し,地域別に見ると近畿地方および降水量の少ない瀬戸内地方に多く存在している。ため池のうち,受益面積が2ha以上のものは,約6.5万カ所となっており,その4分の3は江戸時代以前に築造されたものである。約6.5万カ所のため池のうち,約20%は主に老朽化対策として国庫補助事業により整備されてきたが,東日本大震災の影響から,中央防災会議において検討されている南海トラフの巨大地震などの大規模地震の対策が急務となっている。本報では,ため池の現状と大規模地震,豪雨災害の対策および管理・監視体制における背景と課題,さらに,これらの防災・減災対策の施策や取組みについて記述する。
能登半島の先端に位置する石川県珠洲市は過疎高齢化が進行した地域であり,小規模なため池を中心に放棄や管理の粗放化が問題となっている。現在,多様な主体の参画・連携のもと策定作業が進められている「地域連携保全活動計画」のなかで,ため池の希少水生生物を守りながら地域資源としての利活用を図るために,放棄されたため池を利用したジュンサイ栽培が提案されている。能登地域ではジュンサイ利用の食文化もあり,地域需要も見込まれるほか,ジュンサイは希少ゲンゴロウ類などの水生昆虫の産卵植物や隠れ場として貢献しうる。当該地区の取組みは,放棄された小規模ため池を新たな地域資源として再生・位置づけるものとして注目される。
地域で一体となってため池を保全しようとする動きは,1991年策定のオアシス構想以降,2002年度からの兵庫県東播磨地域のいなみ野ため池ミュージアム,2007年度からの農地・水保全管理支払交付金など全国的な広がりをみせている。こうした動きに沿ってため池を農業用ため池として保全することは,ため池存立の第一義である農業の存続上重要である。ただ,農業用ため池として維持することが種々の取組みをもってしても難しい場合,次善策として水面の保持という選択肢を検討する場合も出てくると思われる。そこで,本報では,養鯉業という他産業への転換によって結果的に水面の保持を果たしている事例として,山古志郷と呼ばれる長岡市山古志地区と小千谷市東山地区におけるため池の歴史的変遷を紹介し,ため池保全の一例を示す。
スリランカ乾燥地域の小規模ため池の多くは,連珠ため池システムを形成しており,農業者主体で維持管理がされているが,老朽化が著しい。また,気候変動の影響で極端な気象現象が増加することが予測されており,ため池の防災整備は緊急の課題である。2010〜2011年に大規模な洪水が発生した際には,中北部州アヌラーダプラ県でも,多数のため池が破壊された。これらの被災ため池に係る現地調査の結果を踏まえ,老朽化した小規模ため池の洪水被害を軽減させるための対策として,「下流への影響の検討とその結果を踏まえた洪水吐水路の維持管理向上」と「補修時の適切な堤高確保と,洪水吐データの収集による補修の優先順位づけ」を提案する。