本研究は,水田地帯からの流出水が沿岸海域にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。閉鎖性海域である小浜湾およびその流入河川の北川を対象に,水質および底質を分析した。その結果,水質に関しては北川起源の濁度および有機物が小浜湾のそれらに及ぼす影響は小さかった。底質に関しては浮泥の原因となるシルト・粘土の割合は小さかった。以上のことから,水田地帯から流出する濁水が小浜湾に及ぼす影響は小さいと推定された。この原因の1つとして,小浜湾は北川からの流入水負荷の程度が比較的小さい海域であるためと考えられた。
今後の農林業従事者の著減,森林の高齢林化,整備された農林道,水利施設の老朽化に伴って,自然資源が発揮してきた公益的機能の低下が危惧される。手取川流域の自然資源の受益者数で示すと,米は47万人分,水道水は96万人分で,流域人口21.4万人に比べて,多くを流域外に移出している。現況の森林の炭素吸収量は,年間約50万人分の呼気排出量に相当して,流域人口の2.3倍である。このように,手取川流域の自然資源は,多様な機能で流域外の多くの人々に便益を提供している。
リンゴ生産を主体とする青森県の中山間地域において,耕作放棄となっているリンゴ園の圃場特性を耕作地と対比し,リンゴ園所有農家の後継者の有無,将来の耕作意向との関係を絡めながらリンゴ園の耕作放棄発生要因を明らかにした。その結果,勾配が急な圃場,通作に不便な圃場ほど耕作放棄されている傾向にあった。そして,リンゴ園の将来の耕作意向をみたところ,圃場条件よりも後継者の有無に左右される傾向が示唆されたことから,中山間地域の樹園地についても圃場条件の改善とともに担い手の確保を図ることが重要であることがわかった。
山間渓流は,流量変動が大きく,土砂礫や流木・枝葉などの浮遊流下物が多く,洪水などにより常に地形も変化しており,現場の施工条件も厳しい。したがって,山間渓流の取水工の計画・設計・施工に当たっては,それぞれの現地条件に合わせた工夫と対策を講じ,設置後は適切な維持管理が必要である。本報では,近年,長野県で取り組んできたバースクリーン型渓流取水工49カ所について,下方取水方式(チロルタイプ)から,後方取水方式(バックストリームインテイク)・複合取水方式・床固めカスケード方式へと変遷進化してきた経緯をまとめ,今後の方向性を述べる。
本報では,ガーナ国アシャンテ州で行った調査結果をもとに,現地で行われている灌漑稲作の状況から,耕うん機の稼働率の向上を目的に,その用途を多様化する上での課題について検討した。その結果,耕うん機の用途の多様化には,バーチカルポンプや脱穀機,トレーラ,アタッチメントの活用が有望なことが分かった。そして,これらの技術普及の課題として,耕うん機以外の機材を購入するための補助金制度や支援制度の改善,水田への機材の搬入・搬出のための農道やバーチカルポンプを利用するための共同取水場の整備,わが国で使われなくなった技術を支援するための南南協力の推進などが必要なことが分かった。
本報では,東日本大震災に先行する2004年新潟県中越地震のコミュニティ再編事例を現地調査に基づき紹介する。河道閉塞で水没した集落では,帰村後,行事を通して外部者と交流し,連携して集落運営を行っている。行事実施や施設整備の費用負担について,集落会計をもとに分析した結果,集落行事は集落が,交流行事は外部者も含む参加者が負担することを基本としながらも,外部者の参加増加に伴って集落行事でも外部者も負担するようになってきている。また,住民に新たな費用負担を課さずに交流施設と生活環境施設の整備を実現していた。区長は今後の展開として,外部者を集落自治組織の役職に就けたいと構想している。