大阪府の農業は,規模が小さいが園芸作物や果樹などの栽培を中心に,生産地と消費地が近いという強みを活かした都市農業を展開している。しかしながら,農業者の高齢化や担い手不足,耕地面積の減少は依然として続いており,厳しい状況におかれている。そこで,大阪の都市農業の振興,農空間の保全のための独自の制度として,平成20年4月に「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」を制定した。さらに,平成24年3月には「おおさか農政アクションプラン」を策定し,企業や都市住民など多様な担い手の参入の推進,府内産農産物「大阪産(もん)」のブランド力の向上や6次産業化の推進,遊休農地の解消促進と府民参加による農空間の保全・活用の促進など各種施策を展開している。
都市農業は全国の農業産出額の約3割を占めるなど食料の安定供給に加え,多面的機能という点では東日本大震災以降,防災面(避難場所など)での重要性が再認識されている。しかし,市街化調整区域の農地保全には国の法律だけでなく自治体独自の取組みが必要である。本報では,都市農業のうち調整区域内の農地保全策である横浜市農業専用地区制度の特性を紹介したうえで,当制度が調整区域における農業・地域振興に与える効果とその効果の発現過程を検討した。結果,横浜市農業専用地区制度を導入することで内発的な地域振興が展開されるという効果がみられ,またその効果は当制度の特徴と地元農家により設立される農専地区協議会の機能により発現していた。
事前に登録されたボランティアを農家の求めに応じて農作業のために派遣する仕組みである援農ボランティアについて,川崎市と茅ヶ崎市を事例に,制度と活動の実態把握と課題の抽出,望ましい姿の考察を行った。援農ボランティアは60歳代を中心とした社会貢献を意識している人たちが担っており,除草などの容易な作業を担うことが多いが,一部では果樹の熟練が必要な作業を任せる例も見られる。改善点として,スキルアップや横のつながりのための研修制度の創設,ボランティアの派遣先調整方法の工夫などが必要となる。これらから,ボランティア参加者自身が主体となった営農機会の確保へ発展できるような仕組みの創設を検討した。
「農空間づくりプラン」とは,大阪府が独自施策として取り組んでいるもので,農業者や地域住民などで構成する農空間づくり協議会を設置し,その協議会の構成員が,農空間の保全や農業振興を中心としたまちづくりに向けて地域の課題や将来のあり方について話し合い,意見やアイデアをまとめたものである。本報では,この「農空間づくりプラン」の一例として,豊能町牧地区における実施例を紹介する。牧地区で農空間づくりプランをまとめていく過程から完成までの経過,また,策定された「農空間づくりプラン」に基づき,現在行っている農地の保全活動(ボランティアなどの外部の力を活用した遊休農地の復元,および鳥獣被害防止柵の設置による遊休農地の発生防止に向けた取組み)を紹介する。
東京都は,樹林地や農地などの民有地の緑の保全という観点から,平成22年5月に区市町村と合同で「緑確保の総合的な方針」を策定し,その取組みを推進している。農の風景育成地区は,本方針に基づく取組みの一つで,農地や樹林地が比較的まとまって残る地区を指定し,都市計画制度などを積極的に活用することで地域のまちづくりと連携しながら農のある風景を保全,育成する制度である。その概要を,世田谷区に指定した事例を参考に紹介する。
炭素クレジットは,温室効果ガスの削減量を証明したもので,市場を通じて先進国で取引されている。京都議定書で制度化され,国連CDM理事会が発行するクリーン開発メカニズム(CDM)事業による炭素クレジットは,開発途上国での温室効果ガス排出削減・吸収事業を対象としている。このうち,植林CDM事業は,開発途上国の農山村地域においてのみ可能な事業で,低所得農村の開発に貢献することを期待されている。パラグアイの低所得農村地域で実施中の植林CDM事業における炭素クレジットの取得のための活動を紹介し,炭素クレジットの利用に係る社会的な問題点および植林CDM事業の経済性について明らかにする。
農道の設計および機能保全では,農道の種類に応じた適切な自動車荷重を設定することが重要になる。農道は,高速車両と低速車両の混合交通となる特徴を有しているが,基幹的農道およびほ場内農道のうち幹線農道を除く農道においては,車両制限令や道路構造令で定められている49kNの輪荷重,荷重分担比1:4のT荷重とは異なる乗用トラクタや軽トラックの通行が一般に多い。そこで本報では,自動車荷重に関わる事項について述べた後に,乗用トラクタおよび軽トラックにおける自動車荷重の特徴について述べ,農道における要求機能に基づいた性能照査型の設計および機能保全について自動車荷重の視点から考察を行う。
本研究は,これまで提案してきた新たな用水の反復利用分析方式である昇順方式を用いて,実際の水田における用水需要実態が,用水の反復利用にどの程度反映しているかを分析した。手取川扇状地七ヶ用水地区を対象として,実測流量と面積比例させた取水量を与えて昇順方式により算定した推定流量とがどのような関係にあるかを実測流量資料の得られている8本の幹線水路について比較した。両者の間に大きな不一致は見られなかったが,正の相関は確認できなかった。この理由は,都市化などによる用水利用の変化が,過去に設定された水利権水量と整合しないことや,都市用水の流入など農業用水のみでは用水の需要実態が十分説明できないためではないかと推定された。