農業用ダムの主要な役割は,下流受益地の各時期の水需要に応じた農業用水の供給であり,放流量の季節変化が一般的に大きい。他方で,水力発電を行う立場からは,一般に放流量および落差を極力一定に保つことで効率の良い発電ができる。したがって,灌漑水供給のための水管理と効率的な水力発電のための水管理の方針は,相反する場合がある。本報は,農業用ダムにおいて,これら2つの相反する目的を調整し,小水力発電の効率化を目的とする水管理の手法を提示し,事例分析を行った。その結果,とくに非灌漑期に極力定常的な放流・発電を行うことによって,設備利用率の向上や単位発電量当たり建設費の削減が可能であると考えられた。
本地区は,国営雄物川筋農業水利事業(昭和21~55年度)で整備された各種の施設の更新整備などを実施すべく平成13年度から実施中であり,平成25年度の事業完了を迎え,コスト縮減の取組み,用水安定取水のための併設型用水路,維持管理労力の軽減のための用水管理施設の構築,皆瀬頭首工および成瀬頭首工における環境と景観との調和に配慮した整備などについて報告を行うものである。
農村の居住集中地域では,市街地と同様に,雨水排除が重要である。その流路の中に浸透工法を導入することにより,コストを大きく削減できる。浸透によって流出量が削減され,調整池・調節池などの建設・メンテナンスコストが削減されることが一つの理由である。また汚濁物質が浸透部材に懸濁態で捕捉あるいは溶存態で吸着されることにより,流出が削減されるので,処理施設の建設・メンテナンスコストが削減されることがもう一つの理由である。前者については,Infoworksという現在最新鋭の水文モデルを用いて解析した。後者については,おもに研究例を紹介した。農村における居住地集中地域の具体例としては,大潟村の総合中心地をイメージした。
農業用水路トンネルの診断の現状を示すとともに,レーザー・レーダ技術による農業用水路トンネル計測診断システムおよびフロート型水路トンネル診断装置の現場への適用状況を示した。また,実際の現場における事例から,フロート型水路トンネル診断装置による点検コストを算定し,断水による外部コスト(供給できなかった原水コスト)を含めてコスト縮減効果を評価した。この結果,フロート型水路トンネル診断装置を用いることで約50%のコスト削減効果があることが確認された。
本技術は平成22~24年度の官民連携新技術研究開発事業における成果として開発された技術である。現場発泡硬質ウレタンフォーム(以下,「発泡ウレタン」という)を用いることにより,覆工背面に作用する圧力を制御して,空洞充填によるトンネル覆工の機能を補強または回復させる“改修工法”の開発をした。開発した工法は,覆工背面の空洞に充填用発泡ウレタンを注入後,加圧用発泡ウレタンを再注入して,トンネル内圧の均等化を図るものである。これにより,高価な従来の“改修工法”の適用が不要となり,ストックマネジメントに資すると考えられる。
近年世界各地で干ばつが頻発しているが,わが国においても,干ばつ発生状況がどのようになっているのか把握することは重要である。シミュレーションにより過去の土壌水分量の経年変化が推定できれば,干ばつの発生状況を知るための参考となる。今回の検討では北海道芽室地区のキャベツ畑を事例として,タンクモデル法を用いて過去49年間における土壌水分量の経年変化の推定を試みた。結果としては,土壌水分量の年最低値は2カ年を除くすべての年で成長阻害水分点を下回り,土壌水分量の低下が特に大きかった年は解析期間前半に分布していた。また土壌水分量が成長阻害水分点を連続して下回った最大連続日数の推定も行ったが,日数は解析期間の前半で多い傾向であったことが示された。
農地輪換利用保全工法は,多様な農業生産・経営に対応する際の機動的な区画整理による農地の利用,災害時や農業地域の公共工事における農地の一時的な転換利用を図るための工法であり,その転換利用後の土地を容易に,速やかに,確実に農地に回復するための工法である。本報では,この農地輪換利用保全工法について,試験施工後から復田までの間に実施した現地試験の結果を示し,試験施工で適用した路面材料,路面材料と水田土壌の間に敷いたジオテキスタイル,そして水田土壌について評価する。そして,復田作業までを終えた段階に至って,農地輪換利用保全工法の実用性について評価を加える。
本報では,近年における頭首工の魚道の状況を明らかにするため実施したアンケート調査の結果について報告する。頭首工の魚道は,魚類等が頭首工区間を容易・安全に移動するための施設であり,さまざまなタイプの魚道が各地で採用されている。多様化する魚道設計の現状や,近年の魚道の抱える課題などについて把握することは,より的確な魚道設計を行うための一助となると考えられる。アンケート調査により,近年における魚道の設置数,設計対象魚種,魚道構造,魚道附帯施設,維持管理およびモニタリングの現状を把握するとともに,多種多様な魚種への配慮,既設魚道の改修事例の増加,維持管理の重要性といった近年の魚道における特徴が明らかとなった。