近年,夏季の高温による玄米品質の低下(高温登熟障害)が問題となっている。本研究では,パイプライン用水路は低温かつ温度変化の少ない用水を圃場に供給できる機能を有し,品質向上に寄与することを検証した。パイプライン用水路の水温は,起点となる河川取水口とほとんど同じで標準偏差も小さいことが示された。一方,河川取水口やパイプライン用水路と比較して,開水路の水温は総じて高く,標準偏差も大きくなった。玄米外観品質に及ぼす影響は,パイプライン用水路が未整備の集落では気温の上昇により1等米比率が低下するのに対し,整備済みの集落では気温によらず1等米比率が高くなり,温度の低い用水が供給されたことが要因と考えられる。
水田への暗渠整備による排水改良がメタン排出へ与える影響を明らかにするため,疎水材暗渠が整備された北海道月形町の水田圃場内において,暗渠埋設位置からの距離とメタン排出量,土壌の還元程度との関係について調査を行った。メタンフラックスは暗渠から4m離れた渠間の地点に比べ,暗渠直上および近傍の1m地点でおおむね低く推移した。暗渠直上近傍では,暗渠から4m離れた地点に比べて作土や耕盤の土壌還元が弱く,透水性が高かったことから,暗渠近傍の透水性が高まることで作土や耕盤の土壌還元が弱まり,メタン発生量が低下したと考える。暗渠整備圃場のメタン発生量は,暗渠未整備圃場と比較すると2011年に50.6%,2012年に31.7%と明らかに減少しており,疎水材暗渠の整備は水田からのメタン発生を大幅に削減できると結論した。
環境影響評価法の対象施設であるダム,堰,干拓については,一定規模以上の施設を建設する際,同法で定めた手続きに沿って環境影響評価を行う必要があるが,平成23年4月の法改正に伴い,事業計画段階において位置,規模等複数の計画案により,環境に与える影響について調査する手続きが加わった。本報では,改正法の手続きに定められた評価項目の1つである温室効果ガスについて,土地改良事業の計画段階で把握可能な基礎的な諸元から,主要施設ごとに,建設・供用・廃棄の各段階における温室効果ガス排出・削減量およびストックマネジメントによる補修・補強の代表的な工法の温室効果ガス排出量を簡易に算定する手法について報告する。
国際農林水産業研究センターは,途上国において,地域資源の有効活用を通じた,温室効果ガスの排出削減(または吸収増加)および生計向上に資する農村開発モデルを確立するための実証的な調査・研究を行っている。ベトナム・メコンデルタでは,①カントー市において,豚のふん尿を嫌気的に発酵させることで発生するバイオガスで,調理用の燃料を代替することによる温室効果ガスの排出削減,②アンジャン省において,水田の水管理の改善(節水灌漑の導入)を通じた温室効果ガスの排出削減という2つのテーマに取り組んでいる。本報では,これまでに得られた成果をもとに,途上国の農村開発における地球温暖化対策の有効性について述べる。
地球温暖化緩和策となる有機質疎水材を用いた暗渠による農地下層への炭素貯留技術について評価した。整備後11年経過までの木材チップともみ殻暗渠の炭素残存量から15年経過時の炭素残存量を推定した。また,有機質疎水材暗渠の整備時に排出されるCO2排出量を算定した。これらから,有機質疎水材暗渠による炭素貯留量は,暗渠の耐用年数を15年とした場合に耐久性の高い木材チップで6.7t-CO2/haが見込めた。もみ殻では炭素貯留効果が見込めず,資材の選択が重要であった。炭素残存率は,もみ殻<バーク堆肥<木材チップ<木炭で,南北の地域差が大きい。日本の暗渠整備による15年経過時の炭素貯留量はもみ殻4千t-CO2,木材チップ22万t-CO2と試算された。
用水路に泥水を流下させて農地を改良する流水客土の技術は有史以来のものである。東日本大震災で大規模な農地復旧工法が検討される今日,流水客土について国内外の事績を概括し,特に富山県の成功事例に焦点を当てる。富山県の水田は多くが扇状地に展開し,砂質浅耕土で日減水深は数十mmと大きい。灌漑取水温も8月平均13~20℃ときわめて低く低収量であった。そこで扇頂部近くの採土地で粘性土を微粒化し,急勾配農業用水路網を流下させて厚さ15~50mmの客土を行った。富山県では5流域の13,648haで実施され,減水深が20~50%抑制され,田面水温が1℃以上上昇し,米の収量が11~45%増産した。北海道の泥炭地および勾配の緩い内地の扇状地6地区ではポンプと送泥管の組合せによるポンプ送泥客土が6流域の7,630haで実施された。
本報では,エチオピアでの水利施設へライニング材を使った建設事例をもとに,ライニング材に生じた問題と農民や水利組合による維持・管理について検討した。そして,事例で得られた経験から,水利施設へライニング材を使う際の課題について考察した。その結果,エチオピアで水利施設にライニング材を使う際には,現地の営農環境では大型動物の侵入を前提にすること,技術レベルの低い農民にも維持・管理できる構造が必要なこと,維持・管理のための簡単なルール作りや補助教材の整備が必要なことが示唆された。