農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
85 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • 細川 直樹, 廣川 正英, 田村 敏明, 萬年 浩二, 蒲地 紀幸
    2017 年 85 巻 1 号 p. 3-6,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    新たな土地改良長期計画は,食料・農業・農村基本計画,国土強靱化基本計画といった政府の上位計画が策定されたことから,1年前倒し,計画期間を平成28年度から平成32年度までとして策定した。本計画の基本理念として「社会資本の継承・新たな価値の創出・農村協働力の深化」を掲げ,「個性と活力のある豊かな農業・農村」の実現を目指すこととしており,この実現に向けて3つの政策課題(豊かで競争力ある農業,美しく活力ある農村,強くてしなやかな農業・農村)を定め,その達成に向けて取り組む。併せて,多様な地域特性を活かした地域の取組の参考となるよう,地域の取組や発展のプロセスに着目した「農村振興プロセス事例集」を作成した。

  • 荘林 幹太郎, 竹田 麻里
    2017 年 85 巻 1 号 p. 7-10,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    土地改良長期計画をめぐる農業情勢は急変している。最も激しく変化しているのは,水田経営規模である。それに伴い,大規模農家への農地の面的集積(連坦化)が進むと,土地改良事業が多年にわたり前提とした条件に大きな変化を与えることとなる。そしてそのことが土地改良長期計画の推進における「適切な技術」の定義や選択にも影響をあたえる可能性がある。本報では,全国的に見ても個別大規模経営体への集積が著しく進んでいる地域を事例に,これらの事項を論ずるものである。

  • 若杉 晃介, 鈴木 翔
    2017 年 85 巻 1 号 p. 11-14,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    大規模土地利用型営農における水稲作時の水管理は多筆・分散農地の増加によって,大きな負担になっている。加えて複数の品種,作期,栽培方法などを組み合わせるため,水管理の複雑化も懸念される。そこで,本研究ではICTを活用し,遠隔で水管理状況をモニタリングし,それに基づいて灌漑・排水を遠隔かつ自動で制御し,水管理の省力化と最適化を同時に実現する圃場水管理システムを開発した。本システムは水位センサーが付属した自動給水バルブと自動落水口,通信用の基地局,サーバソフトで構成されており,さまざまな状況に対応した水管理が可能である。実証試験では,設定した水位で問題なく管理され,用水量や水管理労力の削減効果が確認された。

  • 進藤 惣治, 芦田 敏文, 福本 昌人
    2017 年 85 巻 1 号 p. 15-18,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    土地改良長期計画では,取り組むべき施策として「担い手への農地の集積・集約化の加速化」,「農村協働力を活かした地域資源の保全管理体制の強化」が示されている。この2つの施策を進める上で,地域の合意形成を図ることが重要と思われる。そこで,茨城県が耕作放棄地対策として実施した「いばらきの畑地再生事業」を事例に農地集積を評価し,続いて,農村工学研究部門が取り組んでいるワークショップによる合意形成手法を紹介する。ワークショップ手法は,農地集積を進めるばかりではなく,地域の活動を誘発し,地域協働力を引き出すことにもつながることから,土地改良長期計画を遂行する上でも重要な手法となる一方,ワークショップを運営する人材を育成することが必要である。

  • 木下 幸雄
    2017 年 85 巻 1 号 p. 19-22,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    土地改良制度の検証・検討を深めるため,土地改良区のマネジメントのあり方を独自に追求・実践してきた事例(胆沢平野土地改良区)に着目し,その組織マネジメントの特徴と成果,そして土地改良長期計画に照らした意義について検討した。土地改良区理事長のリーダーシップが推進力となって,長期経営計画を策定し,効率的・効果的にサービスを提供する業務運営手法を開発・実践している。財政シミュレーションを羅針盤としながら,財政状態の改善,賦課金水準の値下げの見通し,将来的にも有効に機能する維持管理の仕組みづくりなど,成果を挙げている。土地改良事業における基本問題の1つは持続的で健全な土地改良区のマネジメントであり,示唆に富んでいる。

  • 坂田 寧代
    2017 年 85 巻 1 号 p. 23-26,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    本報では,2004年新潟県中越地震によって急速な世帯数の減少と高齢化に直面した集落に設立された都市農村交流団体「山古志木籠ふるさと会」の持続要因を明らかにすることを目的とし,参与調査と名簿分析をもとに,会員の獲得と定着の面から検討した。その結果,創設期の中心グループを母体としながら,多様な方法で会員の獲得が進められていた。会員の定着率を高める上では,会員知人を獲得するほか,交流施設に直売所を設けて出品者を交流団体の会員にする仕組みをつくり,出品者を確保することが有効であることが示唆された。交流施設を直売所とすることで行事がないときでも会員が常時集える空間となり,物理的にも心理的にも会員の拠り所とすることができる。交流団体が持続する上では,行事開催による散発的交流だけでなく,直売所活動を通した日常的交流が鍵を握っている。

  • 櫻井 伸治, 木山 由希, 堀野 治彦, 中桐 貴生, 中村 公人
    2017 年 85 巻 1 号 p. 27-31,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    琵琶湖の水を利用した逆水灌漑が行われている地域では,農地排水を再利用する循環灌漑が導入されつつある。本報では,循環灌漑に関する水の利用実態と水質状況を把握するとともに,アンケート調査を行うことで,同灌漑システムの受益者の意識を水の量的,質的状況と関連づけて検討した。その結果,循環灌漑に対して農家の前向きな姿勢が少なからず見られ,一方で,用水が水稲に被害をもたらすレベルではないにもかかわらず,循環灌漑に対して過度な懸念を示す傾向が見られるなど,循環灌漑に関する適正な情報が農家まで周知されていないことが示唆された。循環灌漑の普及には,施策者ならびに管理者と農家の間に意見交換の場を作り出す必要があると思われる。

  • 森 丈久, 伊納 昭彦
    2017 年 85 巻 1 号 p. 33-36,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    農業水利施設に設置されている受変電,運転操作,通信などのための電気設備は,落雷による損傷(雷害)を受けることがある。既存の揚水機場における雷害対策の機能診断を行ったところ,接地線からの雷サージの侵入,新JIS未対応のSPD使用,接地抵抗の規格値超過,建物間電位差の発生,機器の多点接地,架空配線での電磁誘導などにより雷害が発生したと推定された。電気設備を有する農業水利施設の雷害対策の有効性を確認するためには,複数の雷害リスクを前提にして,雷害履歴の確認,SPDなど避雷器の新JIS規格への対応状況の確認,等電位ボンディングや建物間の電気的接合の有無の確認,接地抵抗や大地抵抗率の測定を診断項目に設定する必要がある。

  • 福田 祐樹, 清水 克之, 吉岡 有美, 木下 治, 津村 佳英, 山内 康二
    2017 年 85 巻 1 号 p. 37-40,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    平成25〜26年度鳥取県「とっとり発ため池安全向上対策モデル事業」において実施された豪雨によるため池の防災・減災対策事例を紹介する。本事業において,鳥取市の小規模ため池である湯谷池を対象地として,サイホン管による操作・維持管理が容易な緊急放流装置と,注意水位・危険水位の2段階水位警報システムを設置した。特に,水位警報装置はため池の水収支に基づき,各確率年降雨時におけるため池の水位上昇を秒単位で計算した結果を踏まえて注意水位から危険水位までの水位上昇時間で避難の要否・タイミングが判断できるように工夫をした。本来であれば,適切な規模の洪水吐に改修するべきであるが,早急に整備できない場合の次善策として緊急放流装置,水位警報装置,およびハザードマップを組み合わせた低コスト防災・減災対策を提案する。

  • 坂田 寧代, 藤中 千愛, 落合 基継
    2017 年 85 巻 1 号 p. 43-46,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    本報では,新潟県中越地震後の伝統行事「牛の角突き」の復活に伴って地域外者と地域との関係を新たに構築できるようになった長岡市山古志地区の取組みを報告し,それらを下支えした伝統行事に対する事業支援の重要性についても言及する。人口減少などに直面している地域において,地域外者を招き入れ地域活動に参画してもらったり,地域住民が誇りを取り戻したりする上で,伝統行事は有効に作用すると考えられるため,伝統行事に対する施設整備と活動支援に関して,復興支援時に限らず平常時での事業の創設が望まれる。

  • 千原 英司, 千家 正照, 西山 竜朗
    2017 年 85 巻 1 号 p. 47-51,a3
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    1970年代初頭,わが国ではアルカリシリカ骨材反応(ASR)によるコンクリートの問題はまれとされていた。しかし,1980年代中期にはこの問題がクローズアップされ,1989年にはJIS規格変更により,以後ASR抑制対策が実施された。2013年11月,完成後約30年でこの規制前に建設されたフィルダム洪水吐で擁壁の倒壊事故が発生した。当該施設は倒壊前にカナダ法による調査ではASRとの判定はなされていなかった。倒壊後,SEM-EDS試験,粗骨材から抽出した細骨材を用いた化学法,モルタルバー法による試験の結果,粗骨材に大きな膨張性が認められた。報文は,これらの一連の調査をとりまとめ,規制前のコンクリート構造物に対するASR評価対策の一助となればと考え報告する。

feedback
Top