農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
85 巻, 10 号
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  • 芦田 敏文, 福本 昌人, 小林 宏康
    2017 年 85 巻 10 号 p. 915-918,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    中山間地域における整備事例を対象に,整備計画の調整過程から,水田の畑地化整備が成立した条件を抽出した。本事例では,借り手がつかない農地がまとまって発生した地区において,水田の畑地化整備と外部主体の参入あっせんをセットで行政が提案することで,担い手が望む経営農地の面的集積と,地区の農地所有者が望む農地保全を同時に実現している。同様の状況に直面する地区は,条件不利農地を多く抱える中山間地域により多く存在すると考えられ,水田の畑地化整備は,中山間地域の農地の面的集積と農地保全を推進する有効な施策となりうる。その推進のためには,新たな担い手の確保,地区との調整などあらゆる面で,行政が重要な役割を積極的に担う必要がある。

  • 栗田 徹
    2017 年 85 巻 10 号 p. 919-922,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    滋賀県東近江市は近畿一の耕地面積(約8,500ha)を誇る水田率96%の水田地帯である。平成29年産をもって米の直接支払交付金が終了する中,水田地帯では,米,麦,大豆を中心とした作付体系から野菜等高収益作物への転換が求められている。本市ではJAなどと組織した協議会が中心となって加工業務用野菜の作付け・出荷を行っており,この枠組みと併せ地下水位制御システムなどの基盤整備を契機として,野菜生産に取り組む集落営農法人が出てきている。本報ではこれら事例を紹介するとともに,これをさらに発展させた市の新たな取組みである地域商社(ソフト)と大規模圃場整備(ハード)が一体となった野菜産地創出への動きを報告する。

  • 若杉 晃介, 小野寺 恒雄, 兼城 浩之, 上原 浩, 鈴木 翔
    2017 年 85 巻 10 号 p. 923-926,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    労働力や水資源が乏しい地域では既存の灌漑施設の導入が困難な場合があり,より省力で節水が可能な灌漑技術が求められている。そこで,地下40~50cmに遮水シートと灌漑用パイプを埋設した畑地用地下灌漑システムOPSISとICTによる遠隔・自動制御技術を活用したシステムを開発し,沖縄県内の2地区の現地圃場において実証試験を行った。その結果,夏季に用いる1回の灌漑水量は2mm/d程度(散水灌漑の約1/2)となり,高いサトウキビ収量が得られた。その要因として,本システムは遠隔・自動制御によって少量頻繁灌漑が容易に実現でき,OPSISの特徴である損失流量を抑えることで節水が可能になると考えられる。

  • 甲斐 貴光, アディカリディネシュ , 久保幹
    2017 年 85 巻 10 号 p. 927-930,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    政府のTPPへの参加表明に伴って,関税撤廃による農業分野への影響が懸念される中,日本の農業には,世界と戦える安全安心で,しかも質の高い農作物を安定的に生産する農業システムの構築が重要となっている。農作物の収量と品質を向上させるには,従来の化学農法ではなく,有機農法による「土づくり」が最も重要な要素のひとつである。本報では,土壌微生物を使った正確で迅速な環境評価技術の確立を目指し,土壌微生物を指標とした土壌肥沃度(SOFIX)の研究について紹介するとともに,トマト栽培,リンゴ栽培を事例としてSOFIX解析の有効性について紹介する。

  • 衛藤 彬史, 吉良 佳晃
    2017 年 85 巻 10 号 p. 931-934,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    本報では,先進的な出荷・販売方法により小さい面積でも高い収益性を実現する吉良有機農園を事例に,高収益を可能にする独特の出荷方法,販売方法に注目し,傾斜地農地の割合が多く農業生産条件や労働生産性の面で不利な中山間地でも成り立つ農業経営の一つのモデルを示す。品種改良や新品種の開発ではなく,既存の農産物の捉え方を変えることで新たな価値を生み出す農業として,主にホウレンソウの栽培および出荷方法を例に,大規模集約型農業にみられるような規模の経済とは別の視点を取り入れることで,中山間地域の農業が一方的に不利というわけではなく,むしろ地価の安さという点で優位性があることを農業経営学的視点から議論する。

  • 森澤 健作, 山下 良平
    2017 年 85 巻 10 号 p. 935-938,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    基盤整備が作物生産などの直接効果のみならず高付加価値農業の促進要因として影響を与えているならば,今後の農地整備のあり方や事業の推進に示唆を与えることができる。本報では,基盤整備を契機に農業の高付加価値化の取組みに着手した担い手を対象とし経営体属性や経営展開が収益に与える影響を評価するほか,基盤整備が高付加価値化の取組みによる収益につながる可能性について考察した。この結果,大区画化率と野菜などの作付け率(麦・大豆を除く)は高付加価値化の取組みによる収益に正の影響を示し間接的な効果を有する可能性を指摘できた。一方,耕地利用率や法人化は負の影響を示し,これらの課題については,単に水田フル活用や法人格取得を推進するだけではなく収益性を高める取組みや体制整備が重要と考える。

  • 辻 修, 米山 真結, 木村 賢人, 宗岡 寿美
    2017 年 85 巻 10 号 p. 939-942,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    採草地圃場の雑草群落の範囲推定を安価で容易に活用できる小型UAVを用い行うことにより,採草地圃場の簡易更新に役立てることを目的としてこの研究を行った。その結果,小型UAVの空撮画像によって雑草を判別することは可能であることが分かった。また,その空撮撮影時期に関しては,目視で判別を行う場合は,3番草の刈取り直前が,そして画像解析において判別を行う場合は,1番草を刈り取って後,約6~7週間後が最適であることが分かった。次に撮影高度に関しては,小型UAVの画像解像度と飛行時間を考慮した結果,今回の研究で設定した飛行高度25,50,75m中,最も高い75mが最適であることが分かった。この結果は,小型UAVが今後の採草地管理に役立つことを示唆している。

  • 山口 康晴
    2017 年 85 巻 10 号 p. 945-948,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    農業用管水路について,施設監視や機能保全対策などを講じつつあるところであるが,近年,突発事故の発生件数が増加しつつあり,施設管理者などは,施設に不具合が生ずるたびに対症療法的な事後対策に追われているのが実情である。このような事故事例などの情報を収集・分析し,今後の保全対策やリスク管理対策などに活用していくことは有益である。本報においては,農業用管水路(国営造成施設)の全国的な整備状況と管種別の供用年数の経過状況を整理するとともに,これまでの事故事例の分析などを参考にしつつ,リスク管理対策の視点・方向性および更新整備における留意点について考察した。

  • 山下 正, 川合規史
    2017 年 85 巻 10 号 p. 949-952,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    農林水産物輸出は近年着実に伸びている。その背景には,優れた農産物の生産や戦略的販路の拡大が大きく貢献していると考えられるが,さらに,生産の低コスト化を下支えする農業基盤整備が貢献していると推察される。しかしながら,このことを定量的に分析した事例は見当たらない。そのため,コメを輸出している32道県における道県別のコメ輸出率と水田の圃場整備率,ミカン主産県における県別のミカン輸出率と畑地灌漑施設整備率,茶を輸出している県の畑地灌漑施設整備率について分析した。その結果,道県別のコメの輸出率の向上などに圃場整備が関与している可能性があり,また,畑地灌漑整備率が比較的に高い都道府県では,ミカンや茶の輸出が促進されているとの傾向がみられた。

  • 池浦 弘, 北村 義信, 藤巻 晴行
    2017 年 85 巻 10 号 p. 953-958,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    ヨルダンでは降水量が少ないことに加え,国際河川からの取水量の制限,さらに近年の人口の急増による水需要の増加などにより水資源が逼(ひっ)迫している。ヨルダンの農業はヨルダン渓谷および比較的降水量が多い北部の高地などを中心に行われているが,農業分野は水配分の優先順位が最も低く,限られた水資源で農業生産の増加を達成することが求められている。このような水資源の需給状況と,2015年に国連の持続的開発目標が定められたことを背景に,ヨルダンでは2025年に向けた水戦略の改定が行われた。本報では,ヨルダンの水資源と水戦略について灌漑に関する事項を中心に紹介する。また,著者らが同国で調査した灌漑農業の現状と課題を述べる。

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