農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
85 巻, 3 号
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  • 黒田 清一郎, 北谷 康典, 田頭 秀和, 中村 康明, 吉野 英和, 増川 晋
    2017 年 85 巻 3 号 p. 221-224,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    大規模地震時の強震動観測記録は,ダムの安全管理と,耐震設計の高度化に必要不可欠なものである。国営事業によって造成した農業用ダムの地震計については,更新・設置に関する事業も近年行われ,現在ほぼすべてに地震計が設置されてきた。このような地震計を常時健全な状態に保ち,大規模地震発生時にその強震動記録を確実に保存するためにも,蓄積されたダム地震観測記録について適切な,整理や図化および一定の評価解析が行われることが望ましい。そのような観点から,地震観測記録の整理を進めるとともにその解析を行うシステムの整備を図ってきた。その概要と方法について紹介を行うとともに,解析結果の事例を示す。

  • 田頭 秀和, 三木 秀一, 川邊 昭弘, 黒田 清一郎, 林田 洋一
    2017 年 85 巻 3 号 p. 225-228,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    ダム堤体の変位量の観測方法のひとつにGNSS(全球測位衛星システム)を用いた観測がある。この方法には,観測機設置後の観測労力がきわめて少ないこと,高頻度での計測が可能であることなどの利点がある。一部のダムで試験的な導入が始まっているが,比較的大規模なダムが主体であり,小規模ダムへの適用性の検証は十分ではない。小規模ダムは大規模ダムに比べて堤体の変位量が小さいうえに堤体での上空視界が悪い場合が多く,GNSS観測の有用性を確保できなくなることが懸念される。本報では,GNSSを用いた堤体変位観測を小規模ダムに適用した事例として,試験湛水中のフィルダム(ため池)と供用開始後の複合ダムの2つを紹介し,その有用性を検証した。

  • 小林 晃
    2017 年 85 巻 3 号 p. 229-232,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    能登半島,新潟県中越沖,岩手・宮城内陸,東北地方太平洋沖地震で被害を生じたダムのデータを用いて損傷事例の分析を行った。それによるとダム天端の上下流および堤軸方向亀裂,天端高覧の損傷,堤体沈下,上流および下流法面の変形,洪水吐の損傷が堤体損傷として観測されている。それら損傷をダムの特性を用いて判別分析を試みたが分析できたのは堤軸方向亀裂と高覧損傷だけであった。判別分析が困難な損傷に対しては損傷が生じたダムと検討したダムの平均値と比較して傾向を把握した。また,福島県大柿ダムで観測された余震記録を分析したところ,天端での最大加速度は最大断面で発生するとは限らないことがわかった。

  • 林田 洋一, 増川 晋, 田頭 秀和
    2017 年 85 巻 3 号 p. 233-236,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    地震時にフィルダム堤体に大きな変状を引き起こす要因の一つと考えられる堤体基礎地盤の液状化に着目し,傾斜コア型ゾーニング堤体の変形および破壊挙動に関する基礎的な知見を得る目的で,遠心載荷試験装置を用いた振動模型実験により液状化地盤堤体貯水の相互作用に伴う堤体の破壊メカニズムを検証した。傾斜コア型ゾーニングを対象とした遠心模型実験の結果より,基礎地盤の液状化による傾斜コア型堤体の破壊は,液状化地盤堤体貯水の相互作用により連鎖的に進行することが明らかとなった。また,対策により堤体変形を抑制することで,ある程度の損傷は生じるが,越流を防ぐことが可能なことが示唆された。

  • 田中丸 治哉
    2017 年 85 巻 3 号 p. 237-240,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    ダム貯水池の流水管理では,気象・水象の観測とともに,高水管理および利水管理が求められる。本報では,ダム貯水池の高水管理について説明した後,高水管理に利用する洪水流出予測法のこれまでの進展について述べる。次いで,利水管理と同管理のための長期流出予測法の進展についても述べる。洪水流出予測法については,流出モデル,洪水流出予測に関わる誤差要因,カルマンフィルタ,粒子フィルタについて述べ,流出モデルによらない方法としてNearest-Neighbor法を紹介する。一方,長期流出予測法については,既往水文資料の統計的分析に基づく予測,長期流出モデルに基づく予測,アンサンブル予報の利用について述べる。

  • 石田 聡, 白旗 克志, 土原 健雄, 吉本 周平
    2017 年 85 巻 3 号 p. 241-244,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    1993年に完成した沖縄県宮古島の砂川地下ダムの地下水貯留域において,1989年から2015年に行った地下水質のモニタリング結果を報告する。地下水中の硝酸性窒素濃度は地下ダム建設前後で大きな変化は見られなかった。また近年の硝酸性窒素濃度は降水量の影響を受けている。2009年に測定した窒素安定同位体比は1995年の値より低く,自治体が実施している畜産廃棄物の堆肥化施設の効果が示唆された。不活性ガスによる地下水年代測定からは,貯留域内に年代の異なる地下水が存在し,帯水層の透水性の不均一性の影響と考えられた。以上の結果を踏まえ,地下ダム水質保全に係る留意点をとりまとめた。

  • 河合 義則
    2017 年 85 巻 3 号 p. 245-248,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    富山県では,昭和54年度より公害防除特別土地改良事業に着手した。全国初の公害病に認定された「イタイイタイ病」の発生地域であり,その原因が農業用水による土壌汚染を引き起こした「神通川流域地区」と精錬所からのカドミウムが降下煤塵として農地に降り注いだことが原因で土壌汚染が確認された「黒部地区」の2地区が農用地土壌汚染対策地域として指定され,復元事業が始まったものである。この2地区も平成27年度を持って繰越工事も完成し,富山県からカドミウム汚染米が産出されることはなくなり,安全・安心でおいしい富山米の全量一般流通が始まった。目視確認できないカドミウムを相手に,徹底した施工管理によりカドミウム汚染土壌を封じ込めるこの事業について,これまでの取組みや今後のフォローアップについて紹介する。

  • 成岡 道男, 宮本 輝仁, 岩田 幸良, 亀山 幸司, 中村 俊治
    2017 年 85 巻 3 号 p. 249-254,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    本報では,新潟県のユリ畑で実測した気象,土壌,灌漑および作物などのデータをもとにHYDRUS-1Dで土壌水分移動を解析し,降水,灌漑,地下水位および根群域などが上向き補給水量へ与える影響について考察した。その結果,上向き補給水量は,干天かつ無灌漑の継続や降水量および灌漑水量の減少に伴って減少すること,地下水位の上昇に伴って増加すること,根群域の伸張に伴って減少することなどが判明した。これらのことから,上向き補給水量の決定に降水,灌漑,地下水位および根群域を考慮することの重要性が示された。

  • 濱 武英, 甲斐 聡史, 永田 稔
    2017 年 85 巻 3 号 p. 255-258,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    国内食料供給能力に対する国民の不安の高まりを背景として,2015年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では,従来の食料自給率に加えて,わが国の農林水産業が有する食料の潜在的な生産能力を示す「食料自給力指標」が初めて公表された。本報では,熊本県内で有数の農業水利施設を誇る八代平野を事例に,水稲栽培における農業水利施設の寄与を評価した。地域の気象条件を考慮した水稲収量の推定モデルを用いて,八代平野の水稲生産を評価した結果,農業水利施設は平均的に水稲収量のおよそ60%を支えることが示された。特に,灌漑期間の日照時間が多い場合,水稲単収の増加とともに水稲収量の増加が期待されるが,同時に農業水利施設による灌漑の必要性も増加することが示された。

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