自身の博士課程までの進学理由,研究の中で感じたこと,昨年参加した土地改良長期計画座談会と農業農村工学会サマーセミナーについて触れながら,一学生から見た農業農村工学が持つ魅力について述べた。農業農村工学は土壌物理学や水文学など多様な専門分野を持ち,その分多くの可能性を持ち,必要とされる現場も多くある学問であると考えられる。また,現場で周囲の農家などの人々を巻き込みながら仕事や研究ができることや,モノづくりを通じてコミュニティの創造を図り,人づくりができることも農業農村工学の魅力である。外で体を動かすのが好きな人や自然が好きな人,農業や自然に興味のある人だけでなく,人と接することが好きな人,さまざまな研究を通して自己表現をしてみたい人は是非農業農村工学やそれに携わる仕事についていただければと思う。
筆者が感じている農業農村工学分野の魅力について,若い読者への発信という視点で整理した。また,当該分野においては産学官による連携が求められており,その連携を確実なものにするには,信頼関係の上に成り立つ人的ネットワークが有効かつ重要であるが,人的ネットワークの構築は,それが比較的容易である若いうちから意識的に始めるのが良く,分野としても長期的視点でその支援を行っていくべきであると述べた。さらに,将来,実際に活用できる人的ネットワークの構築に役に立ちそうな活動事例として,大会講演会時の若手懇親会,学生自主企画サマーセミナー,日本ICID協会が開催しているかんがい排水勉強会の3つについて紹介した。
卒論で取り組んだ水田地帯でのフィールドワークが楽しかったことから,農地をフィールドに活動できる仕事がしたいと考え,農業農村工学の研究者・技術者を目指した。研究者として現場で活動する責任も伴う中で悩みはつきないが,一方で一筋縄ではいかない複雑な現場にどう向き合うかとやりがいを感じる。私の研究者人生はまだまだ道半ばであるが,将来を考える学生のみなさんが農業農村工学の研究者・技術者を選択肢の一つとして考えるきっかけになればと思い,これまでの自身の歩みと現在の仕事内容について紹介する。また,「女性技術者」をキーワードに職場の様子を少し紹介する。
筆者は,土地改良区に技師として十数年勤務し,3年前に研究所の研究員へ転職した。現在所属する研究所では,土地改良区で得た経験を生かし,現地調査から研究成果の普及の段階に至るまで,地域に既存のネットワークを活用しながら,効果的に調査・研究を進めたいと考えている。また,社会人経験の年数を重ねていくと,職場内の自分の位置やライフステージにも変化が生じる。このため,新人の頃と同じような働き方はできなくなることから,「仕事と生活との調和」にむけた働き方が必要となる。本報では,これまで筆者が経験した業務の概要と,仕事と生活との調和の実践状況について紹介する。
時代の変化に伴い,私たち農業農村工学に携わる人材に求められる能力は多様化している。加えて,共働き世帯の増加などに伴い,働き方も多様化している。そのような中,ワークライフバランスに配慮した働き方や,新たな時代にあった魅力ある職場環境とは何かについて,子育てをしながら働いている現状の紹介と提案を行う。
農業農村工学を学ぶ学生諸氏にとって参考に資するため,農業土木コンサルタントに勤務する女性技術者である筆者らの経験を通じて,農業農村工学にかかる仕事はどういう特色をもっているか,仕事を行う中でどういった点でやりがいを覚えるか,今後,コンサルタント技術者としてどういう視点を持って理想の技術者像を目指していくか,などについて述べる。
学生時代に農業土木分野を専攻したのち,建設会社に入社し約3年が経過する。その間に河川の水門の新設工事,樋門・樋管の改築工事,高速道路のリニューアル工事を経験した。これら3つの現場の工事概要と特徴や,自らが担当した現場施工管理や品質管理などの業務内容について紹介するとともに,若手女性技術者として感じた土木工事の魅力,仕事のやりがいや責任の大きさについて述べる。さらに,各現場で行われた女性が働きやすい環境づくりへの取組みとして,女性職員パトロールや女性事務社員を対象とした「けんせつ小町」が働く現場の見学会,建設業を目指す女子学生のインターンシップ受入れについて紹介する。
東北農政局農村振興部設計課では毎年8月6日から8日までの仙台七夕まつり期間に合わせ,宮城県,水土里ネットみやぎとの共催により,「仙台七夕まつり農業農村整備広報活動」を実施している。この広報活動において,東北農政局,宮城県,水土里ネットみやぎで構成する事務局スタッフが,共に従来の広報活動を見直し,実行した改善事例を紹介する。また,広報活動をとおして「東日本大震災からの教訓」と「農業農村整備が担う復興の役割」を一般(特に若手)に広めたい,さらに農業農村整備の必要性を伝えるためにも「土地改良」の背景,歴史について自分自身も学び「農業農村整備の魅力」を情報発信していきたいと考え,効果的な広報について述べる。
農林水産省の職員として農業用施設の整備に携わってきたが,その中で施設を見るだけでなく,施設管理者との調整,施設管理者の意識の醸成,周辺住民への工事説明や事業のPRなど,「人との関わり」が重要であり,不可欠であると感じている。このような「人との関わり」があることで,今まで気付かなかったことに気付いたり,仕事のモチベーションにもつながっている。本報では,特にそれを実感する機会の多かった,新濃尾農地防災事業所での経験を中心に書く。
食料アクセスは,フードセキュリティの重要な一側面である。本報では,フードセキュリティの問題が深刻であるラオス中部の農山村を対象に,農家の食料入手の現状を明らかにし,食料アクセスの課題を検討した。コメは,農地面積を拡大することで,自給生産により賄われていた。植物性食材は,雨季は主に生産と採集により,乾季は主に採集と購入により入手されていた。動物性食材は,雨季も乾季も主に採集と購入により入手されていた。季節別,食材の種類別を問わず,採集の入手割合が相対的に高かった。採集は外部要因の影響を受けやすいため,中型家畜の飼育や水田養魚による食材の確保や,採集物から作られた保存食の利用を検討することが,食料アクセスの課題を解決するための有効な手段となりうる。
本報では,福岡県沿岸域の水田地帯における水路環境と水生動物(魚類・水生昆虫類・甲殻類・水生巻貝類)の多様性との関係について報告する。調査は2016年の夏に,福岡県二丈市の24地点の排水路で行い,33種を確認した。解析によるおもな結果として,魚類の種数は,水深の標準偏差が大きい水路で高かった。また甲殻類の種数や全体の種数は,流速の標準偏差が大きい水路で高かった。水路の物理環境の多様性が水生動物の多様性をもたらしていると考えられる。本報は一地域における事例研究であり,必ずしも一般化できるものではないが,このような地域に即した調査を積み重ねることが,水田生態系保全への近道となると考える。
ガーナ国において,コメはメイズに次ぐ二番目に重要な穀物として扱われている。人口の増加,都市化の進行,および消費者の嗜好変化に伴い,コメの生産量の増加が消費の伸びに追いついていない状況にある。灌漑稲作を実現するためには,用排水路や畦畔といった水田水利施設が重要な役割を果たすが,日常的に生じる激しい降雨や維持管理不足などの理由により,水利施設が機能を満足に発揮していない。このため,現地に自生する植物を活用し,水利施設に施す植生工による補強対策を目的とした共同研究を現地大学と実施している。本報では,農家自らが実施可能な施工工程および維持管理計画について基本的な考え方とともに紹介する。
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