農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
85 巻, 9 号
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  • 野々村 圭造
    2017 年 85 巻 9 号 p. 819-824,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    土地改良法では事業参加資格者を原則として耕作者としている一方,利用権設定農地では土地所有者を事業参加資格者とする運用が行われている。担い手への農地集積は利用権設定により進められている中,土地持ち非農家の増加により土地所有者を事業参加者として基盤整備事業を実施することが困難になっていく。基盤整備事業は農業生産に欠かせない水と土を確保するために行われる事業であり,農地の所有と利用の分離が進む中,土地改良事業も建設事業と管理事業を分けて扱い,建設事業は農業者の申請と負担を求めずに実施されるべきである。これは食料・農業・農村基本法が理念とする食料の安定供給の確保に資するものであり,そのためにも,土地改良法は食料・農業・農村基本法との整合制を図っていく必要がある。

  • 石井 敦
    2017 年 85 巻 9 号 p. 825-828,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    改正土地改良法によって創出されることになった,農地中間管理機構に貸し出された農地を対象とする新たな圃場整備の効果と留意点について,国際競争力をもった真の低コスト稲作実現の視点から論じた。農地の貸し手である零細土地所有者は,農地の利用・処分の自由度確保のため,長期の農地貸借や農地の巨大区画化には消極的であること,新たな事業の負担金ゼロの整備は土地所有者にとってメリットとなり利用集積の進展にプラスの効果は見込めるが,地域内のすべての零細農家が農地を貸し出すわけではなく,利用集積地を団地として確保できるかが懸念されることから,対象区域を広くとって分散する集積地を集団化する必要があることなどを論じた。

  • 進藤 惣治, 樽屋 啓之, 中矢 哲郎, 若杉 晃介
    2017 年 85 巻 9 号 p. 829-832,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    大規模経営体への農地の集積など農業構造の変化が進む中,経営体の体質の強化が求められており,その中の課題の一つが,水田水管理作業の省力化である。農研機構農村工学研究部門は,水田水管理の軽労化と節電を目的に「圃場水管理の自動化」と「圃場ブロック配水管理の自動化」の2つのシステムを開発した。本報では,これら新技術を紹介するとともに,新技術適用に向け,①多様な水管理を可能にする用水の確保,②水需給調整のあり方,③経営農地の連担化,④土地改良事業への参加資格者の定義といった法や制度上の課題について,各地の経営体や土地改良区などの調査事例をもとに考察を行った。

  • 木下 幸雄
    2017 年 85 巻 9 号 p. 833-836,a1
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    土地改良区の役割と持続性に主眼を置き,経営・経済学の立場で諸論点を提示する。まず,土地改良区の統合整備に関連して規模の経済について考察したところ,その発現要因をさらに検討する余地は大きいといえる。次に複式簿記会計に関連して,財務情報にもとづく持続的で健全なマネジメントについて考察した。施設の状態をめぐって,工学的情報と財務会計情報を統合した手法を開発することは,土地改良区本来のサービス向上に貢献するであろう。また,土地改良区の付加的・創造的役割についても検討した。現行制度の範囲内で,組合員や地域存立のために,付加的・創造的なサービスを提供できるかは,今後の土地改良区にとって重要な課題である。

  • 荘林 幹太郎, 岡島 正明
    2017 年 85 巻 9 号 p. 837-841,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    貿易自由化に伴う市場の不確実性の増加や人口減少に伴う需要の低下などの農業農村を巡る環境変化に伴い,基幹的水利施設に関する長期的な投資判断を土地改良法3条資格者が適切に行えるという前提条件が大きく変化することとなった。たとえば,土地所有者が農地としての土地に大きな関心を寄せない場合,基幹的水利施設の保全を望まないケースもあろう。このことは,更新事業に対する同意取得を困難にし,それに対して農家負担金の軽減で対応してきた。本報では,農家負担金のこれ以上の軽減対策は効率性,公平性に大きな課題を抱えており,むしろ更新事業に対して同意取得を必要としない制度に転換したうえで,更新事業費に係る減価償却費を「料金」として耕作者から徴収すべきとする提案を行ったものである。

  • 西原 是良
    2017 年 85 巻 9 号 p. 843-847,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    農家数の減少が5年で2割減という速度で進展する中,農地の集約化と農業者の減少が土地改良区の維持管理体制に与えた影響について,事例研究を通じて分析した。紹介した土地改良区では,配水の計画や更新投資を司(つかさど)る理事・総代として担い手農家を取り込む一方,日常的な管理業務に即応するため,報酬を得て働く水管理のプロを各集落に置こうとしている。農業農村整備政策には,将来的なICT技術の進展が農業用水管理業務を軽減する可能性を想定しつつも,こうした急激な農家戸数の減少が土地改良区の下部組織に改革を迫っている点を直視し,合意形成や農業者以外を土地改良区の組合員に引き止められるような制度面での支援を行う必要がある。

  • 金森 秀行
    2017 年 85 巻 9 号 p. 849-854,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    PD法とは,写真を使った特定テーマの作業過程記述による技術マニュアル・視聴覚教材の作製を通じて日本人専門家が開発途上国の技術者に技術移転する手法である。「普及」を農民への技術移転としてPD法を活用すれば,ポスター・リーフレット・ビデオの作製によって技術の普及ができる。これまで16案件の技術協力事業での活用実績と内容から,PD法は,普及に役立つ・習得が容易・活用分野が広い・現地語教材の作製が簡単という特長を持ち,普及に係る事業の協力効果を増すことがいえた。本報では,より広範な事業にPD法が活用されて技術者・農業改良普及員・農民の人材育成に寄与することを目的に,同法の普及への活用法と事業効果への貢献を解説する。

  • 永井 茂, 田中 勉, 笠松 晃次, 前田 直人
    2017 年 85 巻 9 号 p. 855-858,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    締切り地盤内に土粒子の移動や土塊の上昇など,浸透破壊に関するトラブルが発生したときに取られる地盤改良工法について考察した。ここでは,二次元地盤について,矢板の根入れ深さを延伸した場合と比較することにより,地盤改良の幅や深さ,または,透水係数が,流量や限界水頭差に及ぼす影響について明らかにした。そして,地盤改良の幅や深さの増加によって,流量が減少し,限界水頭差が大きくなることがわかった。その効果は,改良幅が2mのとき原地盤と改良地盤の透水係数比が1/100より小さくなると,矢板の根入れ深さを延伸した場合とほぼ同等となる。また,地盤改良は,水平方向より鉛直方向に行うことがより効果的であることがわかった。

  • 鈴木 純, 五味 義弘, 城取 信久
    2017 年 85 巻 9 号 p. 859-864,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    2016年8月2日に,長野県安曇野市穂高地籍の農業用水路がとびとびに欠損する被害が生じた。そしてほとんどの欠損では鉄筋の露出が認められた。水路はベンチフリュームⅡ型400mm(BF)が使用されているが,水路の欠損は,侵入した雷電流が,有(鉄)筋部と無筋部の不連続な電気抵抗率により,「絶縁破壊」を伴いながら通電した結果生じた,雷害に特徴的な現象であることを説明した。また,災害査定において雷害と認定されるためには雷電流の侵入の経路が明らかにされる必要があるが,これが困難な場合も想定できる。そこで,雷電流の侵入経路が確認できない場合などでも,「雷害」と判定するためのマニュアルを提示した。

  • 齋藤 晴美, 橋本 晃
    2017 年 85 巻 9 号 p. 865-870,a2
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    インドネシアのバリ島では,スバックと呼ばれる伝統的灌漑組織が9世紀には存在していたと言われ,今もスバックにより持続的な農業が営まれている。スバックは,アウィグ・アウィグという慣習法を持ち,灌漑水利組織であるとともに,農村の自治組織の機能も有し,また,ヒンズーの教えによる農耕儀礼の祭祀(さいし)を執り行う集団でもある。本報では,バリ島における農業および灌漑事業を概観した後,スバックの法や制度などの仕組み,灌漑施設の計画設計および農耕儀礼について報告する。さらに,組織,法律,制度などについてスバックと日本の土地改良区との比較検討を行った結果,スバックは日本のかつての水利組織にきわめて類似していることが明らかになった。

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