農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
86 巻, 12 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 小川 真如
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1111-1115,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,田の水田利用と畑的利用の差異に着目しながら,人口減少社会の本格化を想定した場合の水田フル活用の展望を明らかにした。日本の農業・農村の多面的機能の評価では,水稲作に対する評価が大きいほか,水田フル活用のための技術普及が食料安全保障に果たす役割が大きい。しかし,人口減少下では,稲作割合の減少が無視できなくなるほか,食料安全保障という論拠の希薄化,農業・農村の多面的機能の発揮を支える国民の税負担の増加などが展望されるため,農業・農村の多面的機能を,田の利用形態や人口減少を踏まえて再評価して,将来に向けてより確固とした政策的論拠に基づいた水田フル活用を推進していく必要性を指摘した。

  • 栗田 英治
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1117-1120,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本報では,中山間地域の代表的な農地である傾斜地水田を対象に,傾斜地水田の耕作・管理に関わる知識の共有やノウハウの継承のあり方について検討した。具体的には,新潟県十日町市の山間地域で,棚田オーナー制度などを核に傾斜地水田保全に取り組むNPO法人(移住者など地域外の主体を中心に活動,十日町市内の傾斜地水田159筆,9.7haの耕作を担当:2017年現在)を対象に,当該法人における詳細な圃場マップの作成を通じた耕作・管理に関わる知識の記録と共有の試みと,筆者が実施した当該地域の傾斜地水田における耕作・管理に関わる知識やノウハウの整理と,GISデータの作成,小型UAV空撮・三次元化技術を用いた圃場の「見える化」による支援の試みについて報告する。

  • 冠 秀昭, 林 貴峰, 関矢 博幸, 長坂 善禎, 齋藤 秀文
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1121-1124,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    2ha標準区画を拡張した5.8ha水田において,省力的な栽培技術である乾田直播栽培の適用可能性や問題点を明らかにするため,水稲乾田直播栽培の実証試験を2年間行った。両年ともおよそ540kg/10aの収量が得られ,地域の慣行的な栽培に劣らない収量が得られた。巨大な区画では一筆内の土壌の相違による生育むらが問題となるが,生育のセンシング技術と可変施肥技術によりそれらの問題を解消し高収量につなげた。作業性については,播種床造成が1.06h/ha,播種が0.76h/ha,鎮圧が0.63h/haで行われ,それぞれ1日以内で全体を仕上げることが可能であた。標準区画を6ha規模に拡張した圃場は,乾田直播栽培に十分対応できることが明らかになった。

  • 鈴木 翔, 若杉 晃介
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1125-1128,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    近年の水田農業は高収益作物を取り入れた体系への転換が求められているが,水稲の日常的な水管理が大きな負担となり,その転換は容易ではない。また,農地集積などにより分散圃場が増加し,水管理労力がより大きくなりつつある。その解決策として,圃場水管理システムが上げられるが,省力効果や収量・品質への影響は十分に評価されていない。そこで,全国各地に圃場水管理システムを導入した実証圃場を設け,実際の農家の使用状況から水管理労力の削減率,収量・品質への影響に対して検討を行った。その結果,各地で水管理労力の削減が確認でき,収量・品質への影響は見られず,使用した農家からはより効果的な使い方や安全面での効果などを聞くことができた。

  • 坂田 賢, 細野 達夫, 野坂 浩司
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1129-1132,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    稲作における気候変動適応策および寒冷地の低温回避などの手段の一つとして水管理が挙げられる。本報では地下灌漑による影響を評価することを目的に,地下灌漑が可能なシステムの一つである地下水位制御システムFOEASが整備された圃場において,地下灌漑による灌水試験を実施した。その結果,地表灌漑を行った圃場では取水口に近いほど温度が低く場所による不均衡が生じる一方,地下灌漑を行った圃場では地下灌漑時の地温が均一に変化する傾向を捉えることができた。また,場所による収量の相違も同様の傾向が示され,地下灌漑を行うことで圃場内の収量を安定化させられる効果が示唆された。

  • 新村 麻実, 谷口 智之, 石井 敦
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1133-1136,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,水田地域からの排水の還元の有無が河川水温に与える影響を把握するため,水田地域を多く含む河川と水田地域からの排水還元が少ない河川を対象に水温観測を実施した。その結果,水田からの排水が多く含まれる河川では,水稲植被の生育に伴う水田内の水温変化に関する既往報告と同様に,灌漑期を通じて日中の水温上昇が抑制されること,また,それに伴って日較差が逓減する傾向が確認された。一方,こうした傾向は水田からの排水還元が少ない河川では確認されなかった。以上から,灌漑期後半において水稲植被の増加による水田内水温の上昇抑制効果は河川水温にも影響を与えると考えられる。

  • 大西 純也, 奥田 幸夫
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1139-1142,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    農林水産分野では,生産現場で広く活用される研究開発の成果が求められており,農林水産研究基本計画においても研究開発を生産現場に近づける必要性が強調されている。自主技術の開発や国際機関での活動に積極的なインド共和国のパンジャブ州では,パンジャブ農業大学を中心に「専門的・総合的評価」と「生産現場からのフィードバック」を繰り返す研究開発と速やかな情報共有および的確な課題抽出を行う普及体制が構築されており,インド農業の発展に大きく貢献している。本報では,2013年に実施したインド共和国での調査をもとに,パンジャブ農業大学が実践している生産現場に近い研究開発と普及体制について紹介する。

  • 原田 亘
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1143-1146,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    土地改良事業は,事業の妥当性を検証し有効性を確認すると定められ,費用対効果が分析されている。この分析では,公益的な効果を含め定量化可能なすべての経済効果が算定されている。この中には,国民の立場から見た食料供給に関する効果があるが,全国レベルに発現する効果とされている。ここでは,個別地区の算定として,地産地消促進効果をコンジョイント分析の手法で評価した。これは,近年の地産地消への関心の高まりに着目し,事業による農産物増産が,地域消費者の地場農産物の入手機会を増やし消費者満足度を向上させる効果である。分析の結果,消費者は農産物購入時に地場農産物を高く評価しており,事業の実施が地産地消促進効果を高めることがわかった。

  • 宮﨑 且, 鵜沢 和弘, 垂井 保典
    2018 年 86 巻 12 号 p. 1147-1152,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    戦後の水資源開発の手本ともいえる十津川・紀の川総合開発事業は,紀伊水道に流れ込む紀の川の水を奈良県大和平野へ導水する一方,熊野灘へ流れ込む十津川の水を紀の川へ流し和歌山県紀伊平野も広く潤すという2つの流域変更を伴う歴史的な大事業であった。この事業により両平野の水不足が解消し,近畿でも有数な穀倉地帯が形成された。本報では,前歴事業により建設された農業水利施設を改修する二期事業について,その実施に至る経緯および事業内容について整理するとともに,地域に対する国営事業の今日的評価を行い,事業の実施によりさらなる展開が期待される地域農業の将来展望について水利用の観点から考察するものである。

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