農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
86 巻, 8 号
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  • 永渕 正夫, 岡田 祐也, 皆川 裕樹
    2018 年 86 巻 8 号 p. 679-682,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    循環灌漑が導入された印旛沼地域を対象に,循環灌漑の実施による水質保全効果について評価した。COD,T-N,T-P,SSを対象とした水質予測モデルを構築し,平成24~29年の6カ年において循環灌漑の適用「あり」・「なし」の両方の計算を,同一の気象条件で実施した。循環灌漑導入により,沼への排水量は減少するが,沼からの取水量も減少するため,沼からの取水負荷量から沼への排水負荷量を差し引いた負荷削減量によって効果を評価した。この結果,たとえばCODについて,循環灌漑導入により,負荷削減量が正値となる年が2年から4年に増加した。また,負荷削減量が100~200kg/d程度増加するなど,循環灌漑による水質改善効果が明らかになった。

  • 加藤 亮, 池田 周平, 直江 次男
    2018 年 86 巻 8 号 p. 683-686,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    湖沼の水環境の改善のためには,農業排水の対策が期待されており,水田地帯における循環灌漑は,その対策の一つと考えられている。循環灌漑を導入する際には,流出先の水質と同時に灌漑受益地内の水質にも気を配る必要がある。本研究では霞ヶ浦流域内の新利根川土地改良区を対象に,電気伝導度(EC)のモニタリングをもとに水収支とECフラックスの算定に基づき,循環灌漑を導入する際の霞ヶ浦へのECフラックスの削減量と受益地内のECの変化を予測した。その結果,排水ブロックから霞ヶ浦へ流出するECフラックスは約40%削減できるが,排水ブロック内では循環灌漑によりECは約1.5倍上昇することが示された。

  • 嶺田 拓也, 佐々木 亨, 市川 康之, 芝池 博幸, 高橋 修, 皆川 裕樹, 鈴木 広美, 山岡 賢
    2018 年 86 巻 8 号 p. 687-690,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    千葉県北西部に位置する印旛沼では,近年,南米原産の特定外来生物ナガエツルノゲイトウが侵入・定着し農業水利面に加え営農や治水に大きな影響を与えている。本種は水辺で大群落を形成し茎断片からの再生力も高く,乾燥にも強い。印旛沼では,沼や流入河川を取水源とする反復利用によって流域内に拡散し,通水障害や水稲収穫障害を引き起こしている。また排水機場にも大量に漂着し治水上も問題となっている。現在,産官学や市民団体との連携で除去を実施しているが,流域全体の削減には至っていない。水利システムを介して拡散するナガエツルノゲイトウに対し,早期対処や低密度管理に向けた関連諸組織間の情報共有やモニタリング体制の構築が求められる。

  • 原田 茂樹, 佐藤 清也, 越川 海
    2018 年 86 巻 8 号 p. 691-694,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    水草の繁茂が水質管理上の課題となっている湖沼が多い。本研究では仙台市のため池において,ヒシの繁茂・衰退の期間を含む約1年間,COD,TOC,透視度,水温,クロロフィルα,フェオ色素などの変動をモニタリングした。CODとTOCの変動は,ヒシ衰退時の増加,および雨水流入時の希釈の影響を受けていた。ヒシ衰退から5カ月経過後,CODとTOCはヒシ衰退前の値に戻るが,ヒシの草体破砕物は底質に沈降し存在し続けている可能性がある。水質管理のためには,ヒシ衰退前に刈り取りため池外に移送することが望ましい。浮遊生態系によるCODとTOCの供給,および細菌によるCODとTOCの消費の評価が今後の課題である。

  • 濵田 康治, 吉永 育生, 人見 忠良, 久保田 富次郎, 白谷 栄作
    2018 年 86 巻 8 号 p. 695-698,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    アオコ対策として分画フェンスが導入されている農業用ダム湖において水質調査を実施した。調査では,多波長励起蛍光光度計と多項目水質計を用いてダム湖内の複数地点で,珪藻,緑藻,藍藻,クリプト藻の4種類の藻類と水温,DOなどの深度分布を測定した。結果は,分画フェンスによる藍藻類の拡散抑制効果や,水温躍層付近に藻類が集積しDO消費が大きい傾向があることを示していた。新しいセンサーを活用することで湖内の水質環境をより詳細に把握し,現場導入・管理しやすいセンサー測定に基づく管理指標を活用しながら,効果的な農業用水の水質管理につなげる取組みが進むことが期待される。

  • 木村 延明, 桐 博英
    2018 年 86 巻 8 号 p. 699-703,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    湖沼の密度成層や流体運動に関する物理プロセスは,既往研究で多くが解明されてきた。しかし,水環境の変化が著しい,ため池などの小規模な湖沼における物理プロセスの研究事例は少ない。小規模ゆえに単純化された力学で,物理プロセスの多くが説明できると考えられてきたからである。本報では,大中規模の湖沼と同様に,夏季に強い密度成層が発達する小規模な湖沼について,物理プロセスの1つである内部波に着目し,その特性の理解のために,水温の時系列データを用いてスペクトル解析を行った。解析方法については,実用的で詳細な説明を行い,適応事例を通して,小規模な湖沼の内部波の特性と今後の課題を明らかにした。

  • 松野 裕, 貴志 容子, 中野 涼太, 北川 忠生, 八丁 信正
    2018 年 86 巻 8 号 p. 705-708,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    奈良県と地元大学が連携して実施してきた,大和平野のため池を対象とした水質調査結果と水環境保全についての取組み状況について報告する。県内ため池においては,CODなどを指標とする有機物由来の汚濁の進行が懸念され,これらはため池集水域土地利用やため池の規模や利用の特徴により影響を受けることが水質調査の結果から示された。また,ため池をすみかとする在来水生生物の生息環境が劣化していることも確認された。ため池水環境の保全には,地元住民も参加するかい掘りによって底泥を除去することなどの対策を一層推進していく必要がある。

  • 山崎 由理, 宗岡 寿美, 木村 賢人, 辻 修
    2018 年 86 巻 8 号 p. 709-712,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    1993~2013年の間,北海道東部の風蓮湖に流入する酪農小流域で河川水中の窒素濃度を調査した。その結果,単位草地面積当たりの乳用牛飼養頭数(飼養頭数密度)が大きい流域では,河川水中の全窒素(T-N)濃度およびT-N中の硝酸態窒素(NO3-N)の割合が高くなっていた。また,1990年代に1mg/lを超過していた酪農3流域の河川水中のT-N濃度は2000年代以降に低下していた。とくに,国営環境保全型かんがい排水事業「はまなか地区」で整備された肥培灌漑施設(大型スラリータンク)の新設率増加に伴う河川水中のT-N濃度の低下傾向は明らかであり,水質環境・地域資源に関する保全対策を通じて酪農流域河川の水質改善がはかられた。

  • 吉武 美孝, 小林 範之
    2018 年 86 巻 8 号 p. 715-720,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    ため池堤体盛土とコンクリート構造物との接合部では貯水浸透や雨水浸透により浸透・漏水問題が発生しやすい。これまで長年にわたり著者らが行った現地調査や思考実験に基づきこのような問題に対する有効な対策工について検討と提案を行った。まず,洪水吐周辺からの漏水と老朽化対策の試案としてフィルタ・ドレーンシステムを提案した。次に,底樋周辺での浸透・漏水対策に対する米国の開拓局と農務省土壌保全局の方針,および,フィルダム工学で著名なSherardの考え方を紹介した。さらに,わが国のフィルダム基準やため池整備指針,文献などを参考にしつつ,底樋周辺の浸透問題に対して検討と考察を行うとともに施工方法の提案も行った。

  • 佐藤 俊典, 桑本 巧
    2018 年 86 巻 8 号 p. 721-724,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    全国の約2,000地区の農林水産省農村振興局所管の地すべり防止区域で,現在,道府県により地すべり防止施設の機能点検・健全度評価とそれらの結果を踏まえた長寿命化のための個別施設計画の策定が進められている。これらの取組みの均質化・迅速化・効率化を支援するため,農村振興局では,「地すべり防止施設の機能保全の手引き」と「地すべり防止施設の個別施設計画(長寿命化計画)策定の手引き」を策定した。本報では,集水井工を事例として両手引きの内容の一部を紹介するとともに,手引き策定過程で全国のモデル地区で試行した地すべり防止施設の機能点検結果とその特徴およびそれらを踏まえた今後の取組みに向けた課題などについて報告する。

  • 松原 英治, 大平 正三, 原田 幸治, 佐古 眞三東, 八木 和彦, 榊 道彦
    2018 年 86 巻 8 号 p. 725-728,a3
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    近年はICT技術により,灌漑水管理向けテレメトリー(TM)機材の低コスト化,携帯電話通信網,クラウドサービスの利用などが大きく進展し,東南アジアへのわが国のTM技術導入の可能性が開けている。インドネシアでは1990年代からTMが導入されているが,故障などにより稼働率が低い。(一社)海外農業開発コンサルタンツ協会(ADCA)は,インドネシアで携帯電話通信網,クラウド利用の水位・雨量TM技術を2016年度からランプン州の灌漑事業に導入し,乾期作でのTM水位による水管理を試行した。この結果,計画に比べ11%の節水を達成した。2017年にはタイ,ベトナムにもTM機材を設置し,観測データが蓄積されつつあり,現地のTM水管理への期待は高まっている。

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