農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
86 巻, 9 号
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  • 野々村 圭造
    2018 年 86 巻 9 号 p. 777-782,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    明治近代化の時代には産業育成を図るために農業部門の近代化が求められ,農業生産性の向上が図られていった。肥料の多投と耐肥・多収性の品種を特徴とする明治農法は乾田馬耕を必要とし,区画整理を進めるために耕地整理法が明治32年に制定された。しかし,区画整理は当初の目途どおり進まず,高まる食料増産圧力のもと,耕地整理法は明治42年には全面改訂され灌漑排水事業が主内容となった。農業水利についても明治29年制定の河川法により慣行水利権が設定され,土地と水に関する近代的制度が制定された。近代的制度成立の一方,分散錯圃を基礎にした小農生産に大きな変化はなかった。今後,高齢化による農家数の減少により小農生産関係が解体されていくが,農地集積を図り生産関係の近代化を図らないと農業生産の持続的な継続が失われることとなる。

  • ―明治用水開削まで―
    竹内 清晴
    2018 年 86 巻 9 号 p. 783-787,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    愛知県の台地上の碧海地域を潤す明治用水を最初に計画した人物は,土地の豪商豪農であった都築弥厚である。時は江戸の末期,封建社会の閉塞性が増していた時代である。碧海地域はきわめて水利事情が悪く,松林が一面に広がる小松生(ばえ)と草地であった。また,村々は多くの大名,旗本の所領に細分化され,「水」に関する「掟」も数多く存在していた。江戸時代には弥厚の計画は実現しなかったが,明治に入り,その意志を岡本兵松と伊豫田与八郎が引き継いだ。その後,どのように問題を解決し明治用水を誕生させたのか,本報では,明治用水誕生までの過程を紹介する。

  • 長澤 徹明
    2018 年 86 巻 9 号 p. 789-792,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    明治150年に当たる北海道の農業農村は,地政学的条件,気象的環境,国内外の相克などが複雑に絡んだ歴史を刻みつつ,食料生産基地として揺るぎない地位を占めている。また,本州府県とはことなる基盤環境整備が独特の景観を形成し,現在では地産農産物とあいまって地域振興の重要な資源と認識されている。このような北海道の農業農村にかかる価値創出は,地域に根ざした農業土木がおおきく貢献した。本報は,開拓当初の状況からひもとき,現在に至るまでの苦闘の歴史を通覧して先人に敬意を表したものである。

  • 門松 經久
    2018 年 86 巻 9 号 p. 793-796,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    明治維新政府の最高責任者である大久保利通が近代農業土木・農業施策の基盤づくりに果たした役割を,大久保の人間的魅力を軸に,安積疏水事業の立ち上がりの顛末や殖産興業の端緒をなした近代農業展開施策をたどることにする。とくに,近代農業土木の嚆矢である安積疏水事業においては,官(士族)と民(開成社)の相補的関係に焦点を当てるほか,事業を担った士族たちの高い精神性に注目することにする。また,農業施策については,在来農法にも着眼して老農を登用するなどして殖産興業としての近代化を図った。こうした大久保をはじめとする先人の取組みをとおして現代の農業農村整備事業の進め方や技術者としての姿勢に対する示唆が得られるものと考える。

  • 近藤 文男, 野場 嘉輝, 逵 志保
    2018 年 86 巻 9 号 p. 797-800,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    枝下用水は,愛知県中央部にある豊田市を中心とした地域の農地を灌漑している。この用水は,明治16年に着工され,明治27年に竣工したが,水路建設に当たり,地形条件や自然災害などのため,多くの難題があり,明治期の企業人による各種の技術的な工夫により,これを克服していった。また,工事費が増高したことにより,資金面や用水経営の苦労も多かった。それゆえに地域の農家から用水を熱望する気持ちが強く,現在までも,開削者への感謝の思いが地域に受け継がれている。130年以上にわたる激動の時代に,農業生産への貢献はもとより,地域の発展を支えた灌漑施設であり,この地域の重要な財産である。

  • 芦田 敏文
    2018 年 86 巻 9 号 p. 801-804,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    明治初期の代表的土地改良事業である安積疎水事業,明治用水事業を対象に,事業における官と民の役割に関する考察を行った。両事業はともに大規模な新田開発を目的とした用水開削事業であり,明治維新後,民間から粘り強く官に事業の必要性を働きかけ,官がこれに応えて事業実現に大きな役割を果たした。現代においては,民の発意による事業構想はきわめて限定的であり,官が,受益地域にとって適切な事業構想を企画する,あるいは受益地域の発意による事業構想の企画を支援するなど,事業コーディネータとしての役割を果たすことの重要性が高まっている。また,事業の合意形成,予算の獲得,事業後の管理体制の構築への支援については,現代でも当時と変わらぬ重要な官の役割といえる。

  • 藤本 直也, 小山 知昭, 松田 彩花
    2018 年 86 巻 9 号 p. 805-808,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    明治時代に訪日した米国の農学者キングは,整備された水田写真を掲載した著書の中で,明治38年以降に日本政府が大日本農会や東京帝国大学農科大学などに有能な専門家を配置し,耕地整理の計画と管理に関する講習を行わせた結果,今ではこの業務を着実に履行できる技術者が育成されていると述べ,上野英三郎を中心とした耕地整理講習の教育効果を称賛している。田区改正・耕地整理への変遷を経て確立された日本の圃場整備は,その規模の拡大や農道・用排水施設などの新たな技術発展を取り込みながら現制度へと継続されている。近年東南アジアで日本の協力により開始された圃場整備においても現地の実態と要請に適合した整備を推進すべきであろう。

  • 元杉 昭男, 田澤 伸一
    2018 年 86 巻 9 号 p. 809-812,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    政治・経済・社会に強く影響を受ける農業土木投資を山形県の最上川土地改良区を例に明らかにする。明治政府が地租改正後に農業投資しない中で篤農家による田区改正や耕地整理が行われた。明治期は米価上昇や地租固定化で地主や実業家にも農業土木投資が有利だったが,大正期の工業化後には農外投資が有利になり,政府が本格的助成を開始した。戦後の農地改革で生まれた自作農は投資意欲が強かったが,経済成長で農業労働力が他産業に吸収され,労働生産性向上を目指す農業基本法が制定された。兼業化した農家は圃場整備に意欲的であったが,1985年のプラザ合意後には農産物価格が下落し,投資意欲は大規模経営農業者に移った。2000年以降は膨大な施設の老朽化に対しストックマネジメントが推進されている。

  • 内川 義行, 工藤 空
    2018 年 86 巻 9 号 p. 813-816,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    明治用水土地改良区は,発足直後から「水を使うものは自ら水をつくれ」との理念から,受益地上流部の水源林(長野県内を含む約542ha)を各所に入手し,運営管理してきた。本研究は,水谷(1986年)の既往研究を踏まえつつ,その後の運営の変遷を明らかにするとともにその意義について検討した。変遷は,I.一般会計からの繰入金による「造林初期段階期(明治41~昭和25年度)」,II.伐採開始と,「木材収入財産造成期(昭和26~50年度)」,III.木材収入が激減し,再び「一般会計依存移行期(昭和51~平成7年度)」,IV.水源かん養林補助金・基金の開始による「基金形成・啓発活動強化移行期(平成8~27年度)」に時代区分し,その特徴を示した。また近年の運営活動から,土地改良区による農林一体的な新たな地域資源管理の可能性を示唆した。

  • 友正 達美, 辛島 光彦
    2018 年 86 巻 9 号 p. 817-820,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    2013年にFAOの世界農業遺産に認定された大分県北東部には,主に明治・大正期に築造された連携ため池による水田灌漑がある。このため池灌漑の特徴の一つである,流域を越えた連携,流域変更に着目し,4地区の事例からその形成要因を考察した。流域変更の形成要因としては,地区内の水配分の公平化,水利用の地区内完結志向,水利用に関する当時の権利意識が挙げられ,こうした流域変更を伴うため池灌漑は近代の洗練された技術と,前近代的な地区間の水利用を巡る直接的な対抗関係から形成された独特な水利システムと考えられた。

  • 松本 精一, 濱井 和博
    2018 年 86 巻 9 号 p. 821-824,a3
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    山梨県北杜市の八ヶ岳南麓地域は,北杜市の高根町,大泉町,長坂町および小淵沢町の町域で構成されている。この町域の集落と農地は標高600~1,000m地帯に広がっており,市全体が中山間地域に当たっている。本報では,南麓4町において,明治維新後から今日までの150年間に,農業農村に対して行われた勧業政策としての養蚕,耕地整理,農業水利事業,緊急開拓,農地改革,圃場整備などの状況と,米麦雑穀農業から米麦・養蚕農業,養蚕衰退後は米・高原野菜農業に変貌し,今日の姿がどのように形成されてきたのかを述べ,さらに今後の展望にも言及している。

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