農業水利施設は,食料供給の基盤であるのみならず,地域排水などに寄与しているが,電気料金の値上げや施設の老朽化などによる維持管理費の増大により,施設の適正な管理が困難となってきている。農業用水路の落差などを活用した小水力等発電の導入により,農業水利施設で消費する電力の供給や売電収入による維持管理費の軽減が可能となり,さらに,CO2排出量の削減にもつながり,地球温暖化防止対策に有効な手段として期待されている。本報では,近年の小水力発電を巡る情勢,農業農村整備事業による小水力発電の導入状況,小水力発電の導入効果や国営事業により小水力発電を導入した具体的な事例を紹介する。
再生可能エネルギーによる電力供給量の増加を目的として,従来よりも高額な固定価格買取制度が導入され,小水力の分野が注目を集めている。再生可能エネルギー利用推進の本質は資源の有効利用であり,適材適所をベースとして無駄のない地域資源の有効利用の仕組みを地域が創出することにある。本報では,地域住民が主体となって導入した小水力発電システムの設置事例を紹介する。本事例で重要な点は,システム導入に当たり補助金などの公的資金を直接利用していない点である。集落単位で合意形成を図り,地域独自の財源で資金を賄ってきた。また,計画立案当初から売電を目標とせず,電力の地産地消を念頭に置いた直接消費型の電源システムを目標とした。
寒冷地の集中型バイオガスプラントでは夏期に余剰熱が発生するが,有効に利用されていない。北海道鹿追町では集中型バイオガスプラントの余剰熱をチョウザメ飼育施設の水温上昇に利用する試験を2014年から行っている。本報では,バイオガスプラントの運転シミュレーションによって20年分の余剰熱量を推定するとともに,チョウザメ飼育施設で実測した消費熱量との差を求めて,1年のうち,安定して水槽を加温できる期間が3月中旬から11月下旬であることを明らかにした。鹿追町では外部機関の助言を受けながら,生育のために最適な水温管理方法を調査しており,今後はその成果を反映させた余剰熱利用方法の検討が期待される。
北海道の人口は全国より速いペースで減少しており,札幌圏への人口集中も進むなか農山漁村での地方創生の取組みが急務である。一方,北海道では広大な土地や気象条件などから,バイオマスや雪氷冷熱などの再生可能エネルギーが豊富に賦存している。本報ではこれら再生可能エネルギーの近年の導入動向を報告するとともに,地方創生につながる活動事例を紹介する。そのうえで地域資源である「食と再生可能エネルギー」をい活かした地方創生への取組みをさらに推進するために,新たなフードバリューチェーンの導入を提案する。また,2018年9月に発生した北海道胆振東部地震によるブラックアウト時に再生可能エネルギーが自立運転できなかった反省から停電など緊急時にも有効活用できるマイクログリッドの必要性についても報告する。
メタン発酵によって発電された電力は,再生可能エネルギーの固定価格買取制度において39円/kWh(税抜き)と比較的高い価格が設定されている。メタン発酵は,多量の水分を含むバイオマスから乾燥を必要とせずエネルギーを取得できる利点が大きいが,エネルギーの生産効率は必ずしも高くない。しかし,消化液の液肥利用によってメタン発酵施設では,バイオマス→メタン→二酸化炭素→バイオマスの炭素の循環と,バイオマス→消化液(窒素,リンなど)→バイオマスという窒素などの循環の環を2つ同時に構築できる。特に窒素などの循環の環は,もともと農村が有する食料生産機能やそれ以外の多面的機能と連携し波及効果をもたらす。
経済発展が著しく灌漑面積が拡大している東南アジアの国々における灌漑施設の計画・設計に資するために,ライフサイクルコスト(以下,「LCC」という)を考慮して水路タイプを検討する計算プログラムを構築した。水路の標準断面および対象国の単価情報,維持管理シナリオなどを調査により設定し,水路タイプごとのLCCの計算および感度分析を実施した結果,LCCに与える影響が大きい変数は社会的割引率であった。現在公共事業で適用されている4%の社会的割引率では,実際の国債利率である0%とした場合と比較してランニングコストを半分以下に過小評価することなど,社会的割引率を適正に設定することの重要性が示唆された。
土地改良区における意思決定は,組合員一人につき一票を基本として行われてきた。ところが,農業・農村の構造の変化に伴い,意欲が減退した多数の小規模農家や土地持ち非農家により組織の総意が決定される可能性が懸念されるようになった。そこで,本報では,各組合員の土地面積の差により議決権数に差をつける「面積要件付加」が,地域農業を担う大規模経営体の意見を意思決定に反映させる方法の一つになる可能性があると考え,課題を分析した。その結果,面積要件付加の主な課題は,各組合員が妥協可能な程度に平等に扱われていると判断できる「土地面積から議決権数への換算方法」と「小規模農家の意見反映方法」の開発であることを示した。
青森県では,ため池の一斉点検を平成25年度から26年度にかけて1,273カ所で実施したが,このうち261カ所のため池で安全性を確認するためのより詳細な調査が必要となった。詳細調査や調査結果を踏まえた施設整備には,一定の期間を要するため,優先度の高いため池から順次実施していく必要がある。このため,「決壊時の被害」,「堤体の劣化状況」,「堤体の強度(安定性)」の3つを指標として災害リスクの評価を行い,優先度を決定した。本報では,青森県の防災・減災対策におけるため池の災害リスクの評価について報告する。