平成30年7月豪雨により甚大な被害を受けた愛媛県宇和島市の被災状況を報告するとともに,宇和島市が実施した農業関連の復旧復興事業および農業用ため池が上水道の代替水源として活用された事例について紹介する。農地の被害は,約600ha,17億円に達し,ほとんどが農地と農産物(柑橘)関連の被害である。また,吉田町と三間町では浄水場が被災し,1カ月間の断水を強いられた。被災後は,宇和島市の幅広いさまざまな支援事業により早急な復旧が行われた。また,農業用ため池を利用することで早期の断水解消が実現された。未曾有の災害に備えるために,幅広く継続的な支援事業の整備や,地域の水源としてのため池の価値について詳細に検討しなければならない。
豪雨に対するため池の減災対策においては,被災リスクや対策効果の評価において,ピーク水位や下流水路への洪水吐放流量を求める必要がある。このため山口県防府市内のため池3カ所において,流域面積と流出率を補正する係数を組み込んだ計算モデルを作成し,計算結果の検証を行った。補正係数を設定しない場合には,検証を行ったすべての一連降雨において誤差が大きく,妥当な計算値が得られなかった。これに対して補正係数を設定した場合には,観測値と計算値における貯水位上昇量の差,ならびに貯水位ハイドログラフの波形とも,おおむね妥当な結果が得られた。なお,補正係数は年1回程度出現する降雨強度の一連降雨で設定すれば良いと考えられる。
豪雨に伴う土石流により,下流に位置するため池が被災する事例がある。本報では,土石流の流入した被災ため池を対象に,流入土砂量を推定することを目的として,ため池上流域において現地調査と空中写真判読により,被災の状況把握を行った。また,航空レーザ計測データを用いた標高差分により,土砂の堆積量および侵食量からため池への流入土砂量について算出を行った。さらに,流入土砂量を推定する観点から,砂防基本計画策定指針により,ため池の流域界での降雨による運搬土砂量について算出し,この算出値と標高差分による流入土砂量との比較検討を行った。
本報では,中山間地域にしばしばみられる道路盛土下のアンダーパスをため池決壊氾濫解析上に簡便に反映する手法として,①アンダーパス部分の標高を水路底の値に修正する,②解析領域をアンダーパスの上下流で2つに分割しそれぞれに流量境界条件を与える,という2通りの方法を試行した。どちらにおいても道路盛土より下流の水田の浸水を再現でき,両者の浸水域はほぼ一致した。水田の最大浸水深には数cmの差異が生じたが,本事例では浸水深分布の実測値が得られず,どちらがより実際の状況に近いかまでは判断できない。それぞれ適用性をより詳細に検討するには,より多くの決壊ため池の事例を収集し,解析例を蓄積する必要がある。
近年,大規模災害が常態化するなかで,大規模地震や豪雨により斜面崩壊が頻発している。厚真川流域では,平成30年北海道胆振東部地震により斜面崩壊が発生し,河川における濁水発生に伴う農業用水への影響が懸念された。そのため,本研究では出水時および平水時の採水調査と河川における連続観測を実施することで濁水発生状況を把握した。さらに,農業用水への影響を緩和させる取水操作手法を検討し,取水操作の目安となる時間を算出した。取水操作の目安となる時間を地点ごとに整理した。濁水の影響が長期化する場合,取水を暫定的に許容することやダム放流水による希釈などの他の対応策と組み合わせることによる取水対応が選択肢として考えられた。
都市化・混住化が進んだ地域では,農業用排水機場が農地排水と併せて都市排水を一体的に担っている事例が多くみられる。一方で,近年,台風等による豪雨が頻発し各地で甚大な被害が発生している。大規模な浸水発生時に排水機場が運転を継続できれば,浸水範囲や浸水継続時間の大幅な減少が見込まれ,浸水被害の軽減,早期の復旧・復興活動に貢献しうることから,農業用排水機場において,想定しうる最大レベルの浸水に対応しうる耐水化対策を行うことが重要となってきている。本報ではこれまでに大規模浸水により排水機場が被災した経験などを契機として,耐水化対策を行った排水機場の事例について紹介する。
自然災害後の避難生活や集団移転は災害以前のコミュニティや自治組織の再編の必要性を高めている。本報では,今後予想される自然災害後のコミュニティ創出・維持へ向けた長期的な計画や活動の一助となることを目的とし,新潟県小千谷市S集落で活動する震災を契機に設立された地域交流団体の事例調査を行った。S集落は2004年に発生した新潟県中越地震で甚大な被害を受け,世帯数が半減した。地域交流団体は設立から13年にわたりさまざまな活動を通じて,集落住民,元集落住民,外部支援者によるコミュニティを継続してきた。地域交流団体が長期的活動を継続する要因として,①外部支援者の長期にわたる関与,②開放型の交流施設の設置,③多岐に及ぶ柔軟な活動が挙げられた。
2017年7月5~6日に九州北部地方で記録的な豪雨が観測され,河川の氾濫や土砂崩壊が発生し甚大な被害を与えた。福岡県朝倉市では200年超過確率の確率雨量を大幅に超えた豪雨が観測され,市内のため池においては豪雨による洪水流が貯水池に流入し被害を受けた。さらに,ため池上流山腹の土砂崩壊によって土砂や流木がため池貯水池に流入した。本報では,今回の豪雨に対する農研機構農村工学研究部門の対応と豪雨によって被災したため池のうち,山の神ため池,鎌塚ため池,梅ヶ谷1ため池の被災状況について報告する。また,今回の被災事例から想定外の豪雨に対するため池の被害を軽減するために必要な対策を提案する。