農村地域における洪水対策として,水田の雨水貯留機能を活用する取組みが注目されている。本報では実際に豪雨が発生した福岡県宝満川流域を対象に,田んぼダムの導入が河川流量に及ぼす影響を検討した。その結果,田んぼダム導入による雨水貯留機能は降雨当初で効果が確認できた一方で,特に後方集中型の豪雨では降雨ピーク時に水田空き容量を確保できないため,その効果が減衰することが示唆された。また,水田畦畔を超えて水田域一帯が冠水した地域における,連続撮影画像と水位連続記録を分析した。その結果,平成30年7月豪雨時には約25haの水田地域に約50万m3を超える雨水が貯留されていたことが明らかになった。
自然災害に伴う断水と生活用水の不足が頻発する現在,地域資源を活用した農村地域独自の用水供給の代替手段を準備・検討することが重要である。本報では,過去の断水で実際に農業・農村関連施設が活用された愛媛県宇和島市,ならびに,将来の断水に備えた対策事業を推進している愛知県と香川県を対象に聞取り調査を実施した。その結果,災害時に速やかに用水を供給するためには,災害前の活用可能な水源の把握,水源施設の防災対策,関係機関との協力体制の構築が重要であることを示した。さらに,農業・農村関連施設を農業以外にも積極的に活用することが,結果として農業施設の維持・管理負担の軽減につながることを論じた。
「農業農村整備の新たなフロンティア」で「多様な主体が住み続けられる農村」を構築するための事例として集落営農が挙げられている。集落営農は農業生産の担い手として支援が整えられているが,地域生活の担い手としての支援は設けられていない。集落営農が地域生活面で役割を果たしているのかを明らかにするため,2019年度に新潟県長岡市山古志地区の集落営農の組合員などに聞取りを行った結果,組合員による集落行事や住環境の維持での働きがみられ,地域生活面での役割が存在した。本事例では,集落営農の設立には乾燥施設の造成,運営継続には米コンテストへの出品のような組合員の意欲を向上させる環境の形成が有効であったと考えられ,地域生活面での役割を加味した支援も必要ではないかという提案を行った。
担い手への農地集積の進展により,耕作者の減少,土地持ち非農家の増加が進んでいる。用排水施設や農道などの維持管理体制の弱体化が懸念されていることから,非農家も含めた地域住民と連携した地域農業の維持体制を構築すべく,土地改良区が中心となり,地域の農業関係団体から構成される地域活動組織が新たに設立された。この組織の活動として,地域住民の意向調査を行った。初年度は5集落の446人に対してアンケート調査を行った(回収率約7割)。調査結果から,農作業や施設の維持管理作業への参加意向などを把握した。今後は地域全体に対象を拡大していき,地域農業ビジョンの検討に役立てていく予定である。
多様な主体が住み続けられる農村社会構築において,主体がもつ多様なニーズの把握が必須である。宮城県丸森町が実施した中高生,一般町民,職員に対する41の指標に対する重要度と満足度の調査から,主体のニーズの多様さが明らかとなった。そのような多様なニーズをくみ取るため,キャッチフレーズを用いた「住みたい町指標セット」を試作しWebアンケートを行った。主体が違うと因子構造にも違いが見られた。この指標セットは大学生によるブレーンストーミングを通じて試作したものだが,既往文献にある解析や丸森町で進行している冬期湛水水田の取組み事例と照らし合わせることにより,指標セットが多様なニーズをくみ取り農村振興を推進する可能性が示唆された。
宮崎県西諸県地域において,平成8年度から進めてきた国営かんがい排水事業「西諸地区」は,畑地灌漑の水利システムが完成し,令和2年度をもって完了した。今後は,この水利システムを活用した,新たな農業の展開が期待される一方,農業出荷額が74%を占める畜産業との連携や,農業労働力の確保が課題である。本報では,畑地灌漑用水の畜産用水への暫定利用や災害などの非常時での利用について言及するとともに,本地区の将来展望として,ICT,AI,IoTなどの先端技術を活用したスマート農業への挑戦,地元の農産物や肉牛を使った6次産業化の推進,また,都市との共生・対流に向けた,地元食材を使った食育・加工体験や各種農作業体験を行う農家民泊等に関する情報発信の必要性などを述べる。