農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
88 巻, 9 号
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  • 李 相潤, 竹村 武士, 小嶋 創, 吉迫 宏
    2020 年 88 巻 9 号 p. 717-720,a1
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    ため池の防災対策上,日常管理の実施は重要であり,今後は市町村などが定期的に調査することも想定される。多数の調査には迅速性・効率性が求められるため,現地調査に先立つ,管理放棄が疑われるため池のスクリーニング技術は有効となる。本報では管理状態の指標として堤体の草刈り有無に着目し,一般に入手可能な空間データを用いたGIS解析による堤体草刈り状況推定モデルの開発例を報告する。草刈り有無を応答変数,地形・環境要因を説明変数としたロジスティック回帰モデルによる分析の結果,3変数(水田面積率,傾斜,道路からの距離)モデルを得た。モデルは予測力,信頼性とも良好で,小規模ため池が多く分布する中山間地域でのモデルの適用可能性が示唆された。

  • 近田 昌樹
    2020 年 88 巻 9 号 p. 721-724,a1
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    ため池の保全には,維持管理団体による継続的な草刈りなどの維持管理作業,施設点検,補修が必要である。しかし,管理団体の多くを占める集落や水利組合では,構成農家の高齢化・兼業化や非農家の増加により,維持管理作業の粗放化が懸念されている。また,ため池点検には現地調査方法の技術と,調査結果を理解し危険度や補修の有無を判断する知識が必要であるが,経験者からの世代間移転も進んでいない。本報では,この技術・知識をため池管理団体に移転して良好な管理を継続するために,高齢農業土木技術者の活用による保全活動を推奨するとともに,愛媛県での先行事例から長所と課題を抽出し,今後の活動方法や支援方法を提案する。

  • 谷口 智之, 河野 幸正, 岡崎 恭知, 凌 祥之
    2020 年 88 巻 9 号 p. 725-728,a1
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    近年,豪雨にともなうため池災害が各地で発生しており,今後は既存ため池の改修や廃止の議論が加速することが予想される。一方で,ため池は全国に約16万カ所存在しており,個別に検討するには膨大な時間と費用を要する。そこで,簡易な評価手法で将来リスクの地域性を大まかに把握し,対策優先度が高い地域を選定するアプローチが重要であると考えた。本報では簡易なため池水収支モデルを構築し,全国5kmメッシュGCMデータの現在気候値と将来気候値を入力値として与えることで,現在と将来における日本全国の渇水リスクと豪雨リスクの地域性を評価する手法を検討した。

  • 吉迫 宏, 正田 大輔, 小嶋 創, 竹村 武士
    2020 年 88 巻 9 号 p. 729-732,a1
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    ため池の豪雨に対する空き容量確保による被災抑止の減災対策効果の評価手法を提案するとともに,事例ため池に適用した。提案手法では,減災対策効果の評価指標をピーク水位と基準水位の超過時間とし,指標値の出現頻度の超過確率と指標値の関係を指標ごとに散布図で把握する。指標値は,評価する確率年分の年最大ピーク水位が生じる一連降雨データを洪水流出モデルに与えて求める。検討事例では,降雨中の放流を行わない取水施設の操作による事前放流の減災対策効果はわずかであるのに対し,降雨中も放流を継続する洪水吐スリットでの事前放流は降雨ピーク直前の空き容量が確保されるため,超過確率にかかわらず一定の減災対策効果が認められた。

  • 田中丸 治哉, 鎗本 賢太, 多田 明夫
    2020 年 88 巻 9 号 p. 733-736,a1
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    本報では,兵庫県・淡路地区のため池1,902カ所を対象として,ため池事前放流で確保できる雨水貯留容量を推定した。事前放流には,台風期の9,10月に限定してため池水位を下げ,11月~翌年3月の水位回復期にため池を満水状態に戻す方法を採用した。事前放流期の雨水貯留容量(空き容量)は,水位回復期に期待できる総流入量とため池総貯水量のいずれか小さい方とする。長期流出解析に基づいて水位回復期の確率流入量を求め,全ため池の雨水貯留容量を計算した後,重ね池の存在を考慮して地区全体の雨水貯留容量を推定した。その結果,全対象ため池で新たに確保できる雨水貯留容量は,淡路地区全体の水田貯水容量に近いことが示された。

  • 田中丸 治哉, 立林 信人, 森 怜菜, 板倉 慎一郎, 多田 明夫
    2020 年 88 巻 9 号 p. 737-740,a1
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    ため池の洪水軽減効果は,洪水前の空き容量による雨水貯留と,ため池水位が洪水吐敷高(常時満水位)を超えたときの一時的な雨水貯留によって発現する。本報では,前者の効果をピーク低減率で,後者の効果をピークカット率で表現した。兵庫県の淡路地区と丹波篠山地区のため池を対象として,洪水流出解析とため池貯留計算でピーク低減率とピークカット率を求めた後,空き容量からピーク低減率を推定する二次式,ため池諸元からピークカット率を推定する対数式を近似式として提示した。さらに,これらの近似式でピーク低減率,ピークカット率,ため池からのピーク流出量がそれぞれ精度良く推定できることを示した。

  • 堀川 洋子
    2020 年 88 巻 9 号 p. 741-744,a2
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    ため池の持続的参加型保全管理に向けては,多様な人々の参加を促す魅力あるため池像の再構築およびその社会的共有化が必要である。本報では,豊稔池(香川県)を例に,技術映像アンケートとテキストマイニングを組み合わせた農業用ため池の魅力調査法を検討し,本手法の活用と意義について5つの結論を得た。①地域のため池としての魅力発見,②地域防災のハード面とソフト面への貢献,③持続的参加型保全管理計画における新たな手法,④持続的参加型のため池文化保全と継承,⑤土地改良施設全般と農村への適用可能性,である。本手法は,さまざまな主体が相互理解を行いながら持続的に参画する地域の将来像構築のための参加型手法への発展が期待できる。

  • 井上 恵美, 吉田 智一, 島村 博, 長利 洋
    2020 年 88 巻 9 号 p. 747-750,a2
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    稲作において水管理作業は作業計画や実施時期の決定に関わる重要な業務であり,高いスキルと経験が求められる。稲作経営体における規模拡大の過程では,水管理作業に関わる人材のリソース不足が課題になる。本報では,水管理作業に水管理省力化システムを活用することによる稲作大規模経営体への経営効果を分析した。その結果,水管理省力化システムは導入すれば省力効果が期待できるだけではなく,人材成長や経営力向上効果も期待できることも分かった。また,効果的な機器の配置や運用により,省力化効果を高める可能性も示唆された。

  • 西野 徳康, 川俣 克也, 川口 智和
    2020 年 88 巻 9 号 p. 751-754,a2
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    大野川上流農業水利事業の受益地域は,熊本県と大分県の県境,阿蘇外輪山東麓に位置し,阿蘇火山の溶岩台地と,河川により侵食された谷地形からなる農業地帯である。高冷地の夏季冷涼な自然立地条件を活かし,水稲,露地野菜,施設園芸,肉用牛を組み合わせた営農が展開されている。水田用水は,県営大谷ダムのほか,小河川などで引水しているものの,古くから絶えず水不足に悩ませられてきた。また,畑地の多くは用水手当がなく,天水に頼っているために不安定な営農となっており,農業用水の安定供給が本地域の悲願であった。本報は,令和元年度の事業完了に当たり,事業実施に至る経緯,事業内容および実施経過とともに,地域農業の取組みと展望を報告する。

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