木材産業が盛んな埼玉県の中山間地域であるときがわ町は,木工業を目的とした里山利用であったが,木材の価格低下により間伐材が森林内部に切り捨てられて活用されていなかった。未利用の間伐材を有効活用した原木きのこ栽培方法を開発し,町の特産品とすることとした。広葉樹間伐材を使った原木マイタケ,針葉樹間伐材を使ったナメコの栽培方法を確立し技術普及に成功することで,現在ではときがわ町の秋の味覚として特産品化に成功した。本報では,地域資源の特産化の事例として報告する。
宮崎県日南市の酒谷地区では,酒谷地区むらおこし推進協議会により坂元棚田を活用した地域づくりが実施されている。平成25年に重要文化的景観の認定を受け,整備事業等により,営農環境が整い観光客も増えたが,米収量が少なく生産意欲は高くなかった。そこで,宮崎大学,道の駅酒谷,坂元棚田保存会が連携し,ICTを活用した気象情報の提供,米品質情報の提供とそれによる表彰制度の実施,オリジナル米袋の製作とそれによる棚田米の商品化などの取組みを継続的に実施した。その結果,道の駅での棚田米の販売額が増加したほか,さまざまな機関から表彰され,農家の生産意欲を向上させることができた。
食料・農業・農村白書では,担い手が少ない地域における農地等の受け皿として農業生産を行っている集落営農を担い手として位置付けている。2020年度に実施した新潟県長岡市山古志地区の三ヶ地区の調査から,農地保全に集落営農が貢献していることが明らかになった。また,本事例では集落営農の活動継続に農地災害関連区画整備事業と中山間地域等直接支払制度の2点が寄与していると考えられることから,中山間地域の農地保全のためには,多角的な支援が必要であることが示された。さらに,農地保全には外部の力を借りるよりも集落住民主体の集落営農が適していると考えられることから,集落営農に対する体制整備支援を強化することが望ましい。
鳥獣害対策として捕獲したシカやイノシシを食肉(ジビエ)等に利用して地域振興を図る取組みが行われているが,実態や効果には不明な点が多い。そこで行政による事業推進や企業の参入等から現状分析したところ,全国で約700のジビエ処理施設が設置され,肉を増産し,都市でもジビエが一般化しつつあることがわかった。しかし,CSF(豚熱)発生や担い手不足,残渣の処分経費など,ジビエ等利用による地域振興には多くの課題が存在することが明らかとなった。今後はICTなどの新技術を導入して鳥獣害対策の省力化や効率化を進めるとともに,農村と都市の交流による関係人口を増やしながら人材を確保・育成することが課題解決に有効と考えられる。
本報は人口減少,高齢化に直面している農村地域において「農村福祉」を支える仕組みづくりと,取組みを継続的に実施できる地域経済活動としての「農村企業連携」の実証について三重県多気町勢和地域の取組みを示した。獣害対策,独居老人の見守りサポートや地域防災は,継続的な農業の実施,また地域住民の生活を支える上で重要なものであることが示されたが,継続的な実施のための労力軽減や地域内への普及が課題として残った。これらの課題と地域経済発展として農村企業連携を関連させることで,経費削減や人材交流による地域活性化が図れる可能性を示した。また,新型コロナウイルス感染症対策としてWeb会議システムの可能性についても示した。
(一社)海外農業開発コンサルタンツ協会は2018,2019年の2年間,ミャンマーにおいて,灌漑水利用管理局の灌漑技術者に対して灌漑施設のストックマネジメントに係る実務研修(OJT)を実施した。このOJTは,日本のマニュアルをベースとしながら,現地調査様式の簡素化,機能診断結果のQGISによる図化,スマートフォンの有効活用,安価な計測機材の使用を特徴としている。OJT結果はミャンマー側から高く評価され,灌漑水利用管理局長は全国14州・地域にモデル地区を設定し,同様のOJTを実施すると表明した。この方式は,わが国のストックマネジメントにも適用可能であり,現地調査の簡素化,低価格化および視覚化等の効果が期待できる。
差し迫った巨大台風の想定外豪雨による洪水には,ダム,河川改修などの従来の治水対策だけでは対応しきれない。埼玉県中川・荒川流域を例に,農業人口の減少に伴って流動化する広大な低平地域の農地から遊水地や遊水田域を創出するとともに,水土里資源が持つ「水田-水路系の反復水利用の仕組み」を活用して,洪水を創出した遊水田域に氾濫・貯留させて洪水の流出抑制を図ることにより,東京首都圏の大水害のリスクを軽減させる私案を示した。
農業水利施設を活用した小水力発電は,1983年度に土地改良事業における附帯施設として位置づけられ,2011年度までの29年間に全国26カ所で導入された。その後,小水力発電の導入を促進するための見直しが行われ,さらに2012年には再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が開始されたことから導入箇所数が飛躍的に増大し,2012~2018年度の7年間に全国109カ所で導入されている。本報では,①小水力発電の導入促進対策の概要を振り返った上で,②FIT導入前後の施設ごとの有効落差・流量や地域別箇所数等の実績・傾向を分析し,③今後の新設に向けての留意事項について検討した結果を報告する。