大学及び大学院又は専門職大学院等の高等教育機関において著作権や産業財産権を学ぶ知的財産教育を実施することに対し,産業界からのニーズが高まっている.大学での学部教育において,それぞれの大学の特性を生かし,弁理士など知的財産関連の資格取得等を目的とする実践的なカリキュラムが見られるようになった.今後,高等教育機関において知的財産に関する教育を更に効果的に実施するためには,教育者側が学習者の持つ知識や関心を把握し,それを反映したカリキュラムを作成することが重要である.特に,高等教育機関で知的財産に関して教育することで,学習者の職業選択等の可能性に深く影響を与えることが期待されるため,知的財産に関して,興味や関心のみならず,体系的実践的なカリキュラムを実施することが求められる.また,知的財産関連の知識については,産業界や経済社会と強い関わりがあるため,知的財産に関して体系的実践的な知識を得ることは学習者の利益にもつながっている.本研究では,高等教育機関初年次において知的財産に関する教育を実施することにより, 一般学生には認知度の低い知的財産に関連する職業について,学習者の意識に与える影響について調査に基づいて検証を行った.
2013年度・2014年度・2015年度の3年にわたり開講した授業の前後において,受講生に対して知的財産に関する認知度についてアンケート調査を実施した.2013年度の調査結果により,知的財産に関連する職業についての認知においては,人文系分野に所属する受講生では高い傾向が見られた.一方で,医学を含む生物系分野に所属する受講生においては,受講時点よりも更に早期(高校時など)での学習の必要性を認識したという結果となった.また,2014年度,2015年度の調査結果では,2013年度の調査時とは逆転現象が見られ,知的財産に関連する職業についての認知においては,理工系分野に所属する受講生では高く,人文系分野に所属する受講生では受講時点よりも更に早期(高校時など)での学習の必要性を認識したという結果が示された.さらに,知的財産に関連する職業認知と学習者の専門領域に基本的な相関性が見られなかったが,著作権教育については有意差が見られた.このことから,今後は,学習者それぞれの専門分野の特性を重視した知的財産に関する教育のためのカリキュラムを開発することが必要とされる.
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