産学連携学
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2 巻, 2 号
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特集 産学連携プロジェクト成否の分水嶺(その1)
  • 田口 康
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_1-2_9
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    文部科学省が平成14年度から開始した「知的クラスター創成事業」は,既に事業開始後4年近くを経過した.この間,実施地域の選定や中間評価を経て,18地域でクラスター形成に向けた地域イノベーションシステムの構築のための取組が着実に進捗しているが未だ課題も多い.本事業はクラスター形成の初期段階のプロセスを加速することを目的として,当面5年間の事業実施期間が設定されており,多くの地域で間もなく事業の最終年度を迎えることとなる.このため,これまでに築き上げたクラスターの形成の流れを無駄にしないためにも,平成19年度以降の新たな施策の展開が望まれている.
    本稿では,クラスター形成に向けた地域の産学官連携の課題と今後の国の施策の方向性について論じる.
  • 能見 利彦
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_10-2_16
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    NEDO技術開発機構は,これまで多くの研究開発プロジェクトを実施し,多くのイノベーションを生み出してきた.しかし,その一方で,イノベーションに結びつかないプロジェクトも少なくない.その分水嶺となるのは何か,その要件を,90プロジェクトの評価報告書に基づき,定量的に分析した.その結果,プロジェクトの計画時点で,研究開発テーマが適切な実用化シナリオに基づいて設定されているか否かによって,成否がほぼ決まっていること,この「適切な」の具体的な要件は,(1)目的とする新規事業の明確化,(2)市場競争を踏まえた目標設定,(3)研究開発課題の明確化,(4)技術シーズや研究手法の目途の4項目のいずれにおいても重大な問題がないことであることが明らかとなった.産学連携プロジェクトにおいても,この結果を踏まえて研究開発テーマを立案すべきである.
論文
  • 丹野 和夫, 大島 修三, 阿部 四朗, 猪狩 征也, 小山 康文, 沼田 秀彦, 大矢 修, 吉田 啓一, 小笠原 康則, 佐々木 守衛
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_17-2_25
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    文部科学省,科学技術振興機構の産学連携コーディネート事業により実用化できた4課題――ワイヤー放電加工機用腐食防止システム,雑穀入りパン,考古遺物計測システム,維持管理不要な渓流魚道の各開発――について,その実用化達成要因を解析・考察した.採りあげる開発課題は明確なニーズを有するべきであるが,それは必ずしも顕在化していないので,開発品・技術が市場に受け入れられる手立てが必要である.学の独創性,熱意など,産の開発力,見通しなどが必要であるが,学が他を主導する場合がある.日本において新しい大学発ベンチャー2社の成り立ち,特徴についても考察した.大学等への経済的支援のほか,開発から製品化までを見通した課題設定・コーディネートが望まれる.
  • 神谷 芳樹, バーカー マイク, 松本 健一, 鳥居 宏次, 井上 克郎, 鶴保 征城
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_26-2_37
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    ソフトウェア工学の分野で計測に基づいて生産性や品質への貢献を目指すのがエンピリカルソフトウェア工学の立場である.そこでは研究対象としてのソフト開発現場の獲得が鍵となるがその実現は容易ではない.筆者らはこの立場から課題の解決を狙い,2003年からソフトウェア産業力強化を命題とする国の施策をトリガに新しい産学官連携の枠組みを構築した.本論ではこの試みの考え方と構成を示し,2年半余経過時の到達点,実現した産学での現場データ共有状況,明らかになった課題を報告する.そしてこの経験を一般化し,テクノロジー・アービトラージとマーケットメイクという金融界の概念に示唆を受けた産学の仲介者の役割に関する考察を示す.
  • 山口 佳和
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_38-2_50
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    公的研究機関は,大学とは異なる性格を持つ産学連携の重要なプレイヤーである.独立行政法人化により状況は近年大きく変化しており,特徴ある産学連携戦略の推進が求められている.本研究では,産総研を事例として共同研究を分析し,所在地,相手先,研究ユニット,研究者1人当たりから見た傾向を明らかにした.産学連携強化の課題として,a) 地域への浸透,b) プレゼンスの向上,c) 多様な研究ユニットに適応した産学連携,d) 共同研究の質の向上,の4項目を指摘する.産学連携戦略に対して,(1)地域センターを前線基地とする地域開拓,(2)社会ニーズに至る研究開発の全体を見通した包括的な提案活動,(3)組織的な外部資金獲得とプロジェクト運営,の3項目を提案する.
  • 泉 和雄, 倉田 健児
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_51-2_57
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    産総研が中小企業と連携して技術の製品化を目指して実施する「地域中小企業支援型研究開発制度」の下に連携した企業経営者に対し,フォローアップ調査を実施した.その結果,公的研究機関が技術の社会への還元を目指すために有効かつ効率的な連携を成功させるための要因として,以下の五項目が見出された.1) トップシェアを誇るなど高い技術を有する企業と連携し,企業の力を発揮させる.2) 将来の成長を目指す研究開発意欲の高い企業と連携し,企業からも刺激を受ける.3) あらかじめ市場を想定し,連携チーム全体で製品と顧客のイメージを共有する.4) 事業計画に追い風となる情勢の変化を積極的にビジネスチャンスに活かす.5) 課題ごとにどのような形態の連携が望ましいか検討し,必要な体制を構築する.
研究ノート
  • 桑江 良昇
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_58-2_63
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    米国ではFCRP(Focus Center Research Program.集中センター研究プログラム)が1998年に開始された.FCRPは半導体分野で学学連携を基本とした研究プログラムであり,産と官とによって資金的に支援されている.産側では米国半導体工業会および半導体装置等関連業界が参加しており,FCRPを管理運営する産側機関としてMARCO(The Microelectronics Advanced Research Corporation.半導体先端研究会社)が1997年に設立された.官側はDARPA(Defense Advanced Research Project Agency.国防総省高等研究計画局)および関連する2機関が参加している.現在,5つのFCRPがあり,それらは夫々中核大学および8~15のその他の大学から構成されたバーチャルな研究体で実施されている.最高の能力を発揮するため,最高の組み合せを実現しようとする姿勢を産学官で共有していることなど参考になる.
  • 宇都宮大学の産学連携事例を中心にして
    黒田 英一
    2006 年 2 巻 2 号 p. 2_64-2_70
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/09/20
    ジャーナル フリー
    M・ポーターのクラスター理論の提唱以来,大学は地域のクラスター形成の重要な役割を果たすことが期待されるようになってきた.本稿では,宇都宮大学の共同研究の追跡調査から,なぜ容易に産業クラスターが形成できないかその要因を整理することにした.その結果は次の通りである.1) 大学がいまだに力不足であり,地域内の企業との共同研究をはじめ大学発ベンチャーでもさしたる成果を生み出していないことがあげられる.2) 栃木県内に誘致された大企業と地元の中小企業との取引関係が希薄であり,大学とこれら県内大企業や中小企業との関係もうすいことがあげられる.3) 地元中小企業の経営マインドが現状維持的で,企業家精神に富んでいないことも指摘できる.数少ない成功事例のなかから考察すると,産業クラスター形成には時間がかかり,まずは企業家精神あふれる企業家と大学人とが出会い,この出会いの中から非連続的に新製品や新規事業が生れて小さなイノベーションをいくつも創出していくことが当面のスタートといえる.
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