本研究の目的は,中学校第3 学年の生徒の文字式利用の様相を,原題を解決した後の速算可能な数の条件の探究場面を中心に明らかにすることである.授業は,速算可能な数の条件の探究を見据え,原題の解決において事象である筆算とのかかわりを重視した展開が構想された.この授業展開は,Sfard(1991)の数学的概念の二面性理論の視点から特徴づけられた.分析の結果,速算可能な数の条件の探究場面において,速算を構造的,操作的にみるかによって文字式利用の過程が異なるという様相がみられた.また,それに伴って文字式利用の仕方も異なり,数の条件を見出すために文字式を利用する「探索型」と,筆算から帰納的に見出した数の条件を証明するために文字式を利用する「証明型」がみられた.この様相は,文字式利用が事象の理解に基づくことを示しており,文字式利用の授業構想において,事象をどのように理解させるかという視点の重要性を示唆する.また,生徒の実態から文字式利用の学習指導への示唆も得た.