日本スポーツ栄養研究誌
Online ISSN : 2759-6141
Print ISSN : 2188-8922
15 巻, 1 号
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依頼総説
  • 井上 なぎさ, 飯塚 太郎
    2022 年 15 巻 1 号 p. 4-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

     国立スポーツ科学センターは、我が国におけるスポーツ医・科学の研究やサポートを担う中枢機関である。その中で、スポーツ栄養士である筆者は、2013年からバドミントン日本代表チームに対する栄養サポートに従事している。

     バドミントン日本代表選手においては、年間を通じて国内外の試合遠征に参加することから、コンディショニングが課題の一つとなっている。そのため、栄養サポートでは、選手たちのコンディションを効果的に維持・向上させることを目的に取り組みを行ってきた。選手たちのコンディショニングに関する課題をより明確にするために実態調査を行い、改善すべき課題が抽出された選手を中心に、「栄養評価→栄養教育」の過程を個別に繰り返し行ってきた。実態調査の項目は年々増加し、現在では8項目となっている。

     スポーツの現場に携わるスポーツ栄養士が国際競技力向上に貢献するためには、コンディショニングに関する課題を客観的なデータから評価・検証し、チームや選手に展開することが求められる。さらに、日本の一流競技選手を対象とした栄養サポートの報告が限られていることから、我が国のスポーツ栄養士は、客観的データを活用したサポート内容をエビデンスとして体系的に蓄積していく必要がある。

     本稿では、バドミントン日本代表チームへの栄養サポートの取り組みを紹介しながら、「国際競技力向上を見据えたスポーツ栄養士の役割」について、筆者なりの考えを述べる。

  • 髙橋 将記, 金 鉉基
    2022 年 15 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

     本稿では、体内時計と栄養・食生活の相互作用(時間栄養学)に着目し、運動・スポーツフォーマンスの向上に時間栄養学が活用できる可能性について概説する。まず体内時計と生体リズムについては、概日リズムを中心とした特徴を紹介し、体内時計の主観的および客観的評価法について述べる。次に、時間栄養学の2つの側面(体内時計作用栄養学と時間栄養学)について、これまでに報告されている機能性食品や飲料の知見を中心に紹介する。特に我々は、食後代謝を中心に検討を重ねており、朝食と夕食時における代謝応答や制御機構、またカテキン飲料や食物繊維を用いた介入試験からの知見を紹介する。近年では、時間栄養学と同様に運動・スポーツと体内時計の相互作用(時間運動学)に関する知見も示されており、体内時計に作用する運動条件あるいは運動時代謝を高める1日の運動実施タイミングについて報告する。最後に、これまでの体内時計のエビデンスがどのようにスポーツ現場で活用できるかについて運動パフォーマンスの日内変動や朝型・夜型といったクロノタイプに基づく知見から概説した。時間栄養学的視点に基づくスポーツ現場からの報告は十分ではないものの、ヒトレベルでの時間栄養学のエビデンスが蓄積されつつある今、今後のスポーツ現場における時間栄養学の活用が大いに期待される。

  • 寺田 新, 柄澤 拓也, 小池 温子, 深澤 歩
    2022 年 15 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

     競技選手における糖質と脂質の推奨摂取量として、それぞれエネルギー比で55~60%、25~30%という値が示されてきた。しかしながら、近年、この推奨範囲を大きく超えるような食事を摂取しているエリート選手の事例がいくつか報告されている。本総説では、1)超高脂質・低糖質食、2)超高糖質・低脂質食、3)中程度脂質食という極端な組成の食事が骨格筋の代謝機能に及ぼす影響について、我々の研究室で最近得た知見を紹介する。それぞれの食事にはメリットとデメリットがあり、全ての競技において有効となるような万能な摂取比率などは存在しない。試行錯誤を重ねながら、各競技の特性や個人個人の体質にあわせて、糖質と脂質の最適な摂取比率を選択する必要があると考えられる。

原著
  • 筒井 桃子, 小池 温子, 柄澤 拓也, 寺田 新
    2022 年 15 巻 1 号 p. 30-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     重度の怪我などにより手術・入院が余儀なくされた場合、不活動状態になることに加え、エネルギー摂取量が制限されることが多い。本研究では、そのように不活動状態とエネルギー摂取制限が組み合わさった場合、骨格筋にどの程度の萎縮が生じるのか、さらにその時の筋萎縮に対してエネルギー摂取制限による影響がどの程度寄与しているのかという点について、実験動物を用いて基礎的検討を行うこととした。

    【方法】

     20週齢のFischer344系雄性ラットを、飼料を自由に摂取するCon群、Con群よりも33%少ない飼料を摂取するER群、ER群と同程度に飼料を制限しながら、除神経手術により左後肢を不活動状態にしたDen-ER群の3群に分けた。2週間の介入期間終了後に左後肢からヒラメ筋(遅筋型)および足底筋(速筋型)を摘出し、筋重量を測定した。

    【結果】

     Den-ER群のヒラメ筋および足底筋の筋重量は、Con群に比べてそれぞれ40%、48%有意に低い値を示した。一方、Den-ER群と同程度のエネルギー摂取制限を行なったER群では、ヒラメ筋への影響は認められなかったものの、足底筋の筋重量がCon群に比べて7%有意に低い値を示した。

    【結論】

     不活動状態とエネルギー摂取制限が組み合わさることで骨格筋が大きく萎縮するが、エネルギー摂取制限による影響は主に速筋型の骨格筋で生じ、その寄与率は全萎縮量のうち〜15%程度と推察される。

  • 保井 智香子, 福田 典子, 中村 富予
    2022 年 15 巻 1 号 p. 42-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     女子ラクロス選手の競技力向上を図るため、身体組成、栄養素等摂取量と運動能力テストの成績との関連を探索することを目的とした。

    【方法】

     社会人女子ラクロスチームAの所属選手18名に身体組成(インピーダンス法を採用)、持久的運動能力(Yo-Yo TEST)、アジリティ能力(10 m×5シャトルラン)、瞬発力(垂直跳び)の測定を公式戦が始まる2か月前に実施した。食事調査は、全体練習日1日と自主練習日2日の秤量記録法を採用した(2013年5月実施)。

    【結果】

     対象者は体重56.7 kg、体脂肪率22.4%(いずれも中央値)であった。体脂肪率と10 m×5シャトルランの記録との間に正の相関(r = 0.56)、垂直跳びの記録との間に負の相関がみられた(r = -0.56)。3日間平均の摂取量はエネルギー2,072 kcal、たんぱく質72.5 g(体重あたり1.3 g/kg/日)、炭水化物300.3 g(体重あたり5.2 g/kg/日)(いずれも中央値)であった。自主練習日の炭水化物エネルギー比率とYo-Yo TESTの記録との間に正の相関が(r = 0.50)、シャトルランの記録との間に負の相関がみられた(r = -0.67)。

    【結論】

     女子ラクロス選手では、体脂肪率が低い、または炭水化物エネルギー比率が高いと運動能力が高い可能性が考えられた。しかし、因果関係の追及には、今後、縦断的な研究や介入研究の実施が望ましい。

  • 柄澤 拓也, 大家 千枝子, 岡村 信一, 中村 健太郎, 神田 淳, 寺田 新, 木村 典代
    2022 年 15 巻 1 号 p. 54-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     低体重・やせ体型の女性におけるサルコペニアおよびロコモティブシンドロームの発症を予防するためには、若年期から除脂肪量を高めておくことが重要となる。本研究では、レジスタンストレーニング(RT)期間中における継続的な乳たんぱく質の摂取が女子大学生の除脂肪量に及ぼす影響を検討した。

    【方法】

     健康な女子大学生30名に対して、1)乳たんぱく質を10 g配合したクッキー(MP群:15名)、もしくは2)乳たんぱく質の代わりに同エネルギー量の糖質を配合したクッキー(CON群:15名)のいずれかを12週間、毎日摂取させた。介入期間中はすべての被験者に対して、週に4回の頻度で自重およびゴムチューブを用いたRTを行わせた。介入前後に体組成および骨格筋厚の測定を行った。

    【結果】

     介入期間中における被験物の摂取率が80%以上、かつRTの実施率が80~120%であった21名(CON群:9名、MP群:12名)を解析対象とした。CON群では、除脂肪量および上肢と下肢の骨格筋量・骨格筋厚に有意な増加は認められなかった。一方、MP群では除脂肪量、下肢骨格筋量、および大腿前面骨格筋厚が12週間の介入後に有意に増加し、それらの介入前からの変化量はCON群と比較して有意に大きかった。

    【結論】

     RT期間中における継続的な乳たんぱく質の摂取は、若年女性の除脂肪量を増加させるための効果的な栄養戦略となる可能性が示唆された。

短報
  • 永澤 貴昭, 湊 久美子
    2022 年 15 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     女子大学生アスリートを対象に、食事調査、ビタミンB1とCの血中濃度や不定愁訴を含めた栄養アセスメントを実施してそれらの関連性を明らかにし、アスリートのビタミンB1・C栄養の評価法を検討することを目的とした。

    【方法】

     大学女子バスケットボール選手7名(アスリート群)と、一般女子大学生14名(一般学生群)を対象に、3日間の食事調査、ビタミンB1、C濃度を含む血液検査、不定愁訴調査を実施して項目間の関連性を検討し、特にビタミンB1、Cの摂取量とそれらの血中濃度、不定愁訴との関連性を検討した。

    【結果】

     アスリート群において血中ビタミンB1濃度は、食事によるビタミンB1摂取量(mg/1,000 kcal/日)と有意な正の相関関係を示した。一方で、一般学生群では、このような関係性は認められず、ビタミンCについては両群とも関連性は認められなかった。また、不定愁訴数と、食事調査結果ならびに血中指標との関連性は両群ともに認められなかったが、不定愁訴では「口内炎ができやすい」は一般学生に比較して有意に有訴率が高く、一般学生群に多い有訴内容と異なった。

    【結論】

     アスリートの栄養アセスメントにおいて、ビタミンB1栄養評価では、食事調査のほか、アスリートに特化した不定愁訴やビタミンB1血中濃度を合わせて評価する重要性が示唆された。ビタミンC栄養の評価法についてはさらなる検討が必要である。

実践活動報告
  • 相川 悠貴, 堀場 みのり, 阿部 稚里
    2022 年 15 巻 1 号 p. 78-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     全日本ラート競技大会で好成績を収めた競技者1名に対して行った65日間の減量の栄養サポート事例について報告する。

    【活動内容】

     約2ヶ月後に行われる試合に向け、筋量を維持しつつ、3 kgの減量を行うための栄養サポートの依頼を受けた。選手に毎日の体組成と食事摂取量の記録を依頼し、管理栄養士が解析と助言を行った。体組成、喫食状況を調査し、選手の感想、意見を聞いた。サポート当初はエネルギー摂取量の目標を1,950 kcalに設定し、30日目に1,800 kcalに変更した。

    【成果】

     競技成績は目標を達成した。65日間で体重は2.1 kg、除脂肪量は0.4 kg、脂肪量は1.7 kg、体脂肪率は2.7%ポイント減少した。総エネルギー摂取量は、3日目から減少し、増減を繰り返しながらも徐々に減少した。サポート期間中の総エネルギー摂取量は1,821±370 kcalであった。サポート後半に、助言の表現方法を変更した。サポート終了後に、サポートが身体づくり支援、練習支援、精神支援になっていた旨の感想を受けた。

    【今後の課題】

     本サポートの問題点は、選手が受け入れにくい表現による助言を行っていたこと、栄養価計算の負担が大きかったこと、菓子類摂取の内容に対して言及できていなかったことであった。今後の減量に対する栄養サポートは、これらの問題点を改善するよう努めていく。

  • 山﨑 香枝, 上田 啓輔, 三本木 千秋, 河端 恵子, 福田 志津可, 中田 由夫
    2022 年 15 巻 1 号 p. 86-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     大学陸上長距離部門に所属する選手を対象に、①安全かつ効率よくトレーニングできるような食生活についての食育活動、栄養学的視点での助言を実施すること、②試合期において選手が自身の最大パフォーマンスを発揮できるように選手の個々の問題点を明らかにし、具体的な改善策を指導することを目的としてサポート活動を実施した。

    【活動内容】

     身体組成および栄養摂取量を評価し、個人面談を実施する中で、選手1名から心理的な緊張によるエネルギー不足(低血糖)が推測される訴えがあった。この選手に対して、グルコースモニタリングシステムを用いてセンサーグルコース値(SG値)の測定を実施した。

    【成果】

     練習時に70 mg/dLを下回るSG値が確認されたことから、練習/試合開始時のSG値を100 mg/dL程度に維持して、練習/試合に臨むように提案した。記録会当日は、スタート時間の6時間前に昼食を摂取し、試合1時間前に補食を摂取させたところ、SG値は100 mg/dL以上に保たれていた。記録会では10,000 mの自己記録を約1年ぶりに更新した(29分13秒51→29分7秒48)。

    【今後の課題】

     センサーを装着するだけで手軽に測定できる機器を用いて、運動実施中の血糖動態を考慮し、個々人の特徴に合わせたパーソナルな栄養戦略の有用性を示していきたい。

  • 青木 萌, 村田 浩子, 高井 恵理, 田口 素子
    2022 年 15 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     トップレベルの競泳選手は日常的に長時間及び高強度のトレーニングを行うため、コンディショニングにおいて食事摂取が重要である。しかし、大学生アスリートは欠食が多く、授業及びトレーニングにより限られた生活時間の中で、適切な食事を準備し摂取することが難しいと考えられる。そこで、トップレベルの大学女子競泳選手を対象に良好なコンディションを維持させることを目的としてトレーニング日の朝食及び夕食の提供を試みた。

    【活動内容】

     約7か月間、トレーニング日の朝食及び夕食を提供した。提供した食事の喫食状況、体重及び主観的コンディションを把握し、選手のコンディションに応じて献立の調整を行った。

    【成果】

     提供した朝食及び夕食の喫食率は高く、トレーニング日の体重及び主観的コンディションは概ね良好に維持された。一方、食事提供を行っていない大会及び遠征後に体重減少や体調不良が発生する傾向がみられた。

    【今後の課題】

     朝食及び夕食の提供により高強度トレーニング中の選手のコンディションを良好に維持させることができたが、選手の食意識や自己管理能力は十分ではないことが示唆された。栄養サポートは食環境整備と栄養教育の両方を行うことが重要であり、食事提供を活かした栄養教育を強化して選手の自己管理能力を高めることが今後の課題である。

資料
  • 小池 温子, 寺田 新
    2022 年 15 巻 1 号 p. 99-105
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

     スポーツ栄養学の研究で得られた最新の知見は、研究者だけでなく、スポーツ現場に携わる管理栄養士・栄養士やトレーナーからも注目を集めている。本研究では、スポーツ栄養学に関する研究が世界中でどの程度増加しているのか、さらには、どのような栄養素や手法が注目を集めているかという近年の研究動向を把握するために、2016年から2020年の5年間に国際的な研究誌に報告されたスポーツ栄養学に関する研究論文を収集し、分析することとした。スポーツ栄養学、スポーツ科学、スポーツ医学、栄養学、運動生理学に関する代表的な学術雑誌(全26誌)において、論文タイトルに「栄養」と「運動」に関する語句がどちらも含まれている論文を分析対象として抽出した。さらに、それらのタイトルに含まれる語句を【栄養素】、【アウトカム】、【対象者】という観点から分類・分析し、どのような研究論文が最も多く報告されているか検討した。その結果、【栄養素】の中では、“Supplement”(特に“Caffeine”)に関する論文が、【アウトカム】の中では“Performance”に関する論文がそれぞれ最も多く報告されていた。さらに、【対象者】に関しては、競技選手を対象として行われた研究が、全体の30%に満たないことが明らかとなった。

  • 佐藤 愛, 町田 大輔, 首藤 由佳, 海老 久美子
    2022 年 15 巻 1 号 p. 106-111
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】

     私立高等学校の球技系スポーツ選手が受けている食生活におけるソーシャルサポートの特徴を把握することを目的とした。

    【方法】

     対象者は近畿圏内の私立高等学校の球技系スポーツ選手109名とした(回収率100%)。2018年5~7月に無記名自記式質問紙を用いて自由記述による調査を実施した。食生活におけるソーシャルサポ ートに関し、情緒的サポート、手段的サポート、情報的サポート、評価的サポートの4機能に基づき回答を得た。分析にはKJ法を使用し、類似した回答を集約しカテゴリー化した。

    【結果】

     食生活におけるソーシャルサポートについて445件の回答が得られ、31カテゴリーに集約された。ソーシャルサポートの4機能のうち、カテゴリー数が最も多かったのは情報的サポート(11カテゴリー)であった。情報的サポートの中でも、特に[自分に必要な食情報を学べる機会がある]というカテゴリーに集約される回答は23件と情報的サポートの中で最多であった。ソーシャルサポートの4機能のうち、回答件数が最も多かったのは手段的サポート(168件)であった。回答件数のうち約半数を占めるのは[栄養バランスのとれた食事や補食を準備してくれる](88件)というカテゴリーに集約される回答であった。

    【結論】

     私立高等学校の球技系スポーツ選手は、4機能のサポートのうち情報的サポート、手段的サポートを多く受けていることが明らかになった。

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