日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
43 巻 , 2 号
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第43回学術大会 特別講演
  • - 層化アプローチと非薬物療法の重要性 -
    松平 浩, 吉本 隆彦
    原稿種別: 特別講演
    2018 年 43 巻 2 号 p. 1-9
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     腰痛は、再発・慢性化する者が一定数存在するため、慢性化の要因を理解し、早期にスクリーニングして適切に対応することが望まれる。人間工学的要因に加えて、心理社会的要因の重要性が明らかになってきたこともあり、慢性腰痛の診療において適切な介入手段を提供するためにkey となる概念が“層化アプローチ”である。治療では、エクササイズと心理社会面へのアプローチが主軸であり、セルフマネジメントの強化が重要である。本稿では、上記を中心に診療ガイドラインおよびエビデンスを踏まえて整理したい。
会長講演
  • 2018 年 43 巻 2 号 p. 11-16
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     腰痛は、鍼灸治療で最もよく扱う疾患の一つである。筑波大学で鍼治療をしたスポーツ選手の 半数が腰痛で受診している。スポーツ選手の腰痛は、どの競技でも受傷部位の上位を占める。診 断名は、発育期の脊椎分離症、青壮年期の腰椎椎間板ヘルニア、高齢期の脊柱管狭窄症など年齢 による特徴がある。しかし、最も多いのが非特異的腰痛で、筑波大学で鍼治療をした選手の約半 数を占めている。非特異的腰痛は、一般に85%であることを考えるとスポーツ選手では、脊椎分 離症、腰椎椎間板ヘルニアの占める割合が高い。
     私は、1980 年に筑波大学理療科教員養成施設の臨床専攻課程に入学したが、研究テーマは腰痛 に対する鍼灸治療の文献研究であった。「医学中央雑誌」と「Index Medicus」から1970 年代の腰 痛と鍼灸に関する文献を集めた。和文献は21 誌63 文献、外国語文献は10 誌13 文献に掲載され ていた。様々な診方や治療法があったが、腎兪、志室、大腸兪、委中に刺鍼している論文が多かった。
     1984 年より陸上競技選手の鍼治療に取り組み、1988 年からは筑波大学スポーツクリニックが 創設され、全競技の選手の鍼治療をすることになった。その主たるテーマは腰痛の鍼治療効果を、 医学、体育科学、鍼灸学の立場から検討することであった。そのため、診断名に基づく腰痛の治 療法を決めて、治療効果を検討した。
     最近私は、1)診断名による治療に加えて、2)脊柱、骨盤、股関節などの動きやスポーツ動 作を機能面から捉えた腰痛治療を行っている。また、組織を選択的に治療できる鍼治療の利点を 活かして、表層の脊柱起立筋や深層の体幹筋などを鍼先で捉えて治療している。
     しかし、腰痛治療で最も重要なことは、1)年齢、性別、アライメントなどの選手自身の要因、2) 練習の量・質・頻度などの要因、3)環境やスポーツ用具からくる要因を分析し、鍼治療ででき ることと選手自身ができることを整理することである。
     本稿では、スポーツ選手の腰痛に対する私の治療法について紹介する。
教育講演
  • - 非特異的腰痛と伝統医療の特質 -
    山口 智
    2018 年 43 巻 2 号 p. 17-25
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     腰痛は、日常の臨床でよく遭遇する症状の1 つである。平成28 年に厚生労働省より発表された 国民の有訴者率で、腰痛は男性の第1 位、女性の第2 位と極めて高頻度であることが示されている。
     近年、腰痛の概念は、脊椎に由来するものから、「身体」、「精神」、「社会生活」といったグロー バルな原因により発症することが示されており、菊池らは、生物・心理・社会的疼痛症候群と位 置付けている。また、腰痛の診断には、従来、X 線やCT・MRI などの画像診断が重要視されてい たが、最近は患者の臨床所見が最も重要であり、画像診断はその所見と一致することが必要不可 欠であると言われている。
     腰痛の中で最も発症頻度が高いのは非特異的腰痛であり、国内外を問わず腰痛の約85%を占め ると報告されている。非特異的腰痛は重篤な疾患(炎症・腫瘍・外傷等)がなく、下肢の神経症 状を呈さないものとされている。こうした非特異的腰痛の病態や治療については、整形外科の領 域でも多くの課題が山積しており、鍼灸や手技療法に対する期待が大きいと言っても過言ではな い。
     筆者らは、非特異的腰痛に対する鍼治療の効果について、整形外科脊椎専門医と連携し基礎・ 臨床研究を推進した成果を、国際腰椎学会を始め専門医学会に報告してきた。その結果、鍼治療 は非特異的腰痛患者の疼痛を改善するとともに、腰痛特異的QOL(RDQ)や包括的QOL(SF-36) が向上することが示唆された。特に包括的QOL では、身体及び精神のそれぞれ2 つの項目が上昇 することもわかった。また、JOABPEQ を用いた検討でも、概ね同様の結果が得られた。
     これらのことから、伝統医療である鍼治療は非特異的腰痛に対し有効性が高く、現代医療にお いて有用性の高い治療法と考える。さらに、包括的QOL の評価で、身体・精神の2 つの項目に関 与したことは、腰痛の新しい概念と古典の概念(心身一如)を客観的に裏付け、伝統医療の特質 を明らかにしたものと考える。
シンポジウム 「腰痛に対する治療の実際」
  • - 筋パルス・椎間関節部パルスの応用 -
    徳竹 忠司
    2018 年 43 巻 2 号 p. 27-35
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     鍼通電療法には、患者が訴える症状の原因と思われる病態に対して、その目的からおよそ5 パター ンの通電方法がある。そのうち「筋パルス」は面接と身体診察により得られた情報から、骨格筋 の異常が症状を作り出していると判断した場合に、筋内循環の促進・柔軟性の回復・鎮痛などを 目的とし、患者が不快を訴えない範囲で連続した大きな単収縮が得られるように通電を行う技術 であり、同様の判断手順で「椎間関節部パルス」も実施されるが、筋パルスと異なり椎間関節部 パルスは、通電の結果を動きとして判断できるものがなく、刺激に対する患者の感覚を頼りにし ている部分が大きいため、純粋に椎間関節を刺激しているか否かは明確ではない。その理由の一 つに椎間関節を支配している神経は、脊髄神経後枝内側枝であるが、本神経は多裂筋も支配して いるためである。つまり、椎間関節を目指して刺鍼をしても経過途中の多裂筋中で後枝内側枝に 刺激が入力されると椎間関節性の疼痛の再現と同様の反応を患者が示すことがあるということで ある。しかし、筋パルス・椎間関節部パルスのいずれを用いるかは、骨格筋依存の症状であるか、 椎間関節依存の症状であるか、または混在しているかは、収集した情報から責任部位として最も 可能性の高い組織から施術対象とすることが重要である。「筋パルス」「椎間関節部パルス」とい う手技は第43回学術大会のテーマである「腰痛」に特化したものではないが、非特異的腰痛の 一因として骨格筋はあげられ、椎間関節も腰痛の一因として考えられている。筋パルス・椎間関 節部パルスのいずれを用いることが第一選択として賢明であるかは、筋由来の症状であるか、関 節由来の症状であるかを面接によってある程度の目処をつけ、その援護情報としてベッドサイド で行う身体診察で症状の再現情報を得ることである。たまに原因を無理矢理一つに決定しようと する傾向を感じることがあるが、原因部位は複数にわたっていても当然である。本文では紙面上 で出来る範囲で筋パルス、椎間関節部パルスの実際について解説を試みる。
  • 内田 真弘
    2018 年 43 巻 2 号 p. 37-43
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     非特異性腰痛。構造的には特に問題なく発症起点もわからない。そして痛みも常時感じるわけ ではなく痛みを強く感じる時もあれば、さほど気にならないときもある。これを「ただの気のせ いですね」としてしまうのは「質量のある物質」に全ての原因を求める時にありがちな発言と言 えるのではないでしょうか?その逆に構造的に異常が見られても特に腰痛を訴えないという方も いるという事実。しかし生きている生身の人間とは質量のある物質と質量のないエネルギーから 成るものです。そして痛みとは主観であり、実際にその人の痛みはその人にしか理解できません。 客観的には痛みはないはずなのに痛みを感じたり、客観的には痛みがあるはずなのに痛みを感じ なかったりとするのも人間という動物の特徴であるとも言えます。
     腰痛という病気をどうとらえるか?器質という質量のある物質から考えるのか?それとも気質 という質量のないエネルギーから考えるのか?ただこの器質と気質は相生相克であり、それぞれ が単独で存在するものではありません。
     腰痛には他人に感染する腰痛と感染しない腰痛があるのです。そこには「気とは息のことである」 ということを大脳新皮質の前頭葉で理解するのではなく腑に落とすことにより、感染する腰痛こ そ、我々東洋医学を生業とするものの関わる腰痛と言えます。
     気が合わない人、息が合わない人と一緒にいることは自律神経が乱れやすくなり、そこから免 疫システムに不具合が生じることは誰にでも経験があることではないでしょうか?  それは機嫌が悪い人の横にいれば普通の心理状態の人ならば精神的、肉体的に不快感を覚える というのは理屈ではなく空気を感じ取る本能ともいえる低次レベルでの自己防衛システムがなす 業でもあるのです。
     東洋医学では気の巡りを改善することにより自己治癒力を高めることで様々な病気を治癒させ る医学と言えます。その気、つまりは息を整えるためにマッサージを用いるのです。
  • 山口 正貴
    2018 年 43 巻 2 号 p. 45-52
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     国民生活基礎調査によると、腰痛は有訴者率1 位という状況が10 年以上も続いており、腰痛保 有者は約2800 万人とも言われている。この原因の一つには、約85%は原因不明で特異的な身体所 見に乏しく、画像所見と必ずしも一致しない非特異的腰痛であることが考えられる。しかし、そ の疼痛源は、椎間板や椎体、椎間関節、靭帯、筋・筋膜など複数の脊椎構成要素に存在すると考 えられている。近年では心理社会的要因の関与も示唆されており、より複雑化している。このよ うに非特異的腰痛患者は要因が多様なため、有効な治療法の確立が難しく慢性化している患者が 少なくない。そこで、筆者らは理学療法士の視点から有効な治療法の確立を目指し研究を進めて いる。本稿では、筆者らが行っている研究の一部を紹介する。
     6 か月以上持続している慢性の非特異的腰痛患者に対する4 種のストレッチングの介入効果を、 初回評価におけるdirectional preference(DP)の有無で比較した。
     初回評価でDP を認めた症例41 名、DP を認めなかった症例32 名に分類し、週1 回の介入と4 週間のセルフエクササイズを指導した。介入前後でVAS、ROM、SF-36、JOABPEQ、ODI を評価した。
     その結果、いずれの項目も群間には有意差を認めず、2 群とも介入前後で疼痛・身体機能・精神 機能すべての項目で有意な改善を認めた。
     以上のことから、本ストレッチングはDP の有無に関わらず、慢性の非特異的腰痛患者全般に有 効である可能性が示唆された。
特別寄稿(解説)
  • 池田 ゆかり, 山口 智, 小林 信満, 鳥尾 哲矢
    2018 年 43 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     腰椎部(lumbar spine)は、5 つの椎体、椎間板、椎間関節と軟部組織により構成され、体幹運 動の大部分がこの部で行われている。椎体、椎間板の主な役割は荷重に耐えることであり、特に 椎間板は力学的荷重にさらされている。それに対して椎間関節と軟部組織は椎間の動きを制限す ることが主な役割である。同時に、体幹の安定性が要求されることから、日常生活動作や運動に おいて常に機械的負荷が加わっている。こうしたことから、腰椎部は比較的若年時から退行変性 を含めた様々な障害をきたしやすい部分といえる。
     腰痛診療ガイドライン2012 における腰痛の概念は、触知可能な肋骨下縁から殿溝までで、期間 別では急性腰痛(発症から4 週間未満)、亜急性腰痛(4 週間以上3 か月未満)、慢性腰痛(3 か 月以上)と定義されている。また、急性腰痛のトリアージでは原因の明らかな腰痛(特異的腰痛) は15%程度で、原因が明らかでない腰痛(非特異的腰痛)は85%を占めると報告されている。
     腰痛及び腰下肢痛は、鍼灸手技療法の臨床で取り扱う頻度の高い症状の1つであるため、病態 を詳細に把握するとともにyellow flags(心理・社会的因子)を常に念頭に置き、red flags(腫瘍や 炎症、骨折、馬尾症状等)を見逃さないよう、診療に当たらなければならない。
     日常の診療でおこなっている理学検査は、病態把握や予後の推測、またred flags を見極める一 つの手段となるだけではなく、鍼灸手技療法における治療部位を選択するための基準となること から、極めて重要な所見である。また、専門医や地域の医療機関と連携するための共通言語とし ても理学検査を十分習得することが不可欠である。
原 著
  • 近藤 宏, 西村 博志, 尾野 彰, 小川 眞悟
    2018 年 43 巻 2 号 p. 59-65
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【はじめに】虚弱高齢者の増加に伴い、国の介護予防支援事業の施策が進められ、介護予防・日常 生活支援総合事業(以下、総合事業)の展開が期待されている。あん摩マッサージ指圧・はり・きゅ う(以下、あはき)施術所における高齢者の介護予防支援に対する取り組みについては把握され ていない。そこで介護予防支援事業を発展させるための基礎資料を資するため、総合事業の実態 や取り組みに対する意識に着目して調査を行った。
    【方法】公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会の協力により、あはき施術所に対して無記名自記 式によるアンケート調査を実施した。主な調査項目は、施術所の事業状況、総合事業等に関する 理解と意識とした。回答が得られた568 件について単純集計を行った。各項目の結果は、計数ま たは割合(%)で示した。また総合事業の実施の有無による施術所の特徴についてクロス集計お よび統計分析を行った。有意水準は5%未満とした。
    【結果】あはき施術所以外に運営している事業は、通所介護42 件(7%)が最も多く、次いで居宅 介護支援事業所27 件(5%)、総合事業16 件(3%)であった。総合事業の実施している施術所は、 実施していない事業所と比較して、有資格者数が0.5 人、高齢者の利用が2 割程多かった。77%が 介護予防支援の取り組みの必要性を感じていたが、総合事業に関する興味は、必要性よりも低かっ た。
    【考察】総合事業を運営している施術所が少ないため、具体的な事例も少ない。介護予防支援の取 り組みの必要性を感じてはいるが、実態が把握できない状況では、興味が高まらなかったと考える。 今後、総合事業を運営している施術所の好事例報告が増えることにより、総合事業の運営に対し て興味が高まることが期待される。
    【結語】あはき施術所における高齢者の介護予防支援に対する取り組みの実態や意識について把握 し、事業の発展に必要な基礎資料を得ることができた。
  • 近藤 宏, 功刀 峻, 三原 健朗, 藤本 英樹, 堀田 直哉, 白石 一博
    2018 年 43 巻 2 号 p. 67-72
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】あん摩やマッサージは、スポーツ選手の運動後の疲労回復などに有効であることが示され ている。一方で、運動直前のマッサージは、最大筋出力の減少や、走行パフォーマンスに必ずし も好影響を与えないことが報告されている。本研究では、あん摩施術が動的バランス能力に与え る影響について検討した。
    【方法】対象は、大学男性サッカー選手24 人。選手24 人をあん摩施術群とコントロール群にラン ダムに割り付け、動的バランス能力について介入後の変化を観察した。Setting: 大学附属医療セン ター内研究室。アウトカム:重心動揺計(アニマ社製 GS-10 type C)を用いて、姿勢安定度評価 指標(index of postural stability:以下、IPS)を介入前、介入直後、介入10 分後に測定した。測定 は、開眼で検査台を硬面にした条件(IPS)と、閉眼で検査台を軟面にした条件(Modified IPS; 以 下、MIPS)で行った。直立姿勢および、身体を前方・後方・右方・左方に傾けた姿勢での重心動 揺を測定した。分析方法:IPS を「log〔(安定性限界面積 + 重心動揺面積)/ 重心動揺面積〕」とし て算出した。安定性限界面積は「前後の重心移動距離×左右の重心移動距離」の矩形面積として 算出した。重心動揺面積は、「前方・後方・右方・左方・中央の 5 条件下の平均値」として算出した。 介入:腰部および両下肢の軟部組織に対するあん摩施術を10 分間実施した。統計処理は、ANOVA を用い、有意水準は5%とした。
    【結果】IPS およびMIPS は群内および群間で有意差はみられなかった(P > 0.05 )。
    【考察・結語】ハイパフォーマンスなスポーツでは、運動中に生じる身体重心や支持基底面の変動 に対して適切に姿勢を制御する動的バランス能力が高い精度で必要となる。運動前の腰下肢への 10 分間のあん摩施術は、重心動揺計を用いた姿勢安定度評価指標(IPS、MIPS)による動的バラ ンス能力に影響を及ぼさない。
  • 古田 高征
    2018 年 43 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】あん摩マッサージ指圧の施術は組織の軟らかさを増すとされている。そこで押圧刺激の前 後における組織硬度・下腿周径の測定、被験者及び施術者の自覚的感覚の評価から刺激の影響を 検討した。
    【方法】対象は研究についてインフォームドコンセントを行い同意が得られた健康な成人男性9 名 とした。測定は、施術前後の組織硬度、下腿周径、被験者の自覚的動作感覚、施術者による施術 部位の軟らかさ感とした。組織硬度は筋硬度計を用いて測定し、測定部位は下腿最大周径部を基 準に12 か所とした。下腿周径は、施術前の最大周径部を測定した。被験者の自覚的動作感覚「下 肢の動かしやすさ感」、施術者が感覚する施術部位の「軟らかさ感」は、施術前後を7 段階にて評 価させ記録した。施術は、あん摩マッサージ指圧師有資格者が行い、被験者を腹臥位にて下腿後 側に5 ~ 10kg で快圧相当の強さで1 点圧3 秒、下腿後面に対して5 分間の施術を行った。  統計処理はStatView5.0 を用い、2 元配置分散分析およびFisher's PLSD の多重比較を行い、危険 率5%未満にて有意として施術前後を比較した。またスピアマン順位相関を用いて危険率5%未満 にて相関関係の有意とした。
    【結果】施術の前後にて組織硬度は29.5 から26.4、下腿周径は39.5cm から38.9cm に低下がみられ た。被験者の自覚的動作感覚「下肢の動かしやすさ感」は0.7 から-0.4 に低下し下肢の動かしやす さ感が増した。施術者の柔軟感覚「軟らかさ」は0.6 から-1.7 低下し柔軟化がうかがわれた。また 被験者の自覚的動作感覚「下肢の動かしやすさ感」と組織硬度に相関がみられたが、被験者の「下 肢の動かしやすさ感」と施術者による施術部位の「軟らかさ感」には有意な相関がみられなかった。
    【考察】組織硬度や下腿周径の低下がみられ、組織の柔軟化や組織液還流の促進が示唆されたと思 われた。また、被験者と施術者の自覚的感覚に相関がみられず、増悪例もみられたことから施術 中に患者の状態を評価把握できる指標の必要性を感じた。
    【結語】施術前後の組織硬度、下腿周径に低下する傾向がみられた。組織硬度と被験者の自覚的感 覚の相関がみられた。
  • - JOABPEQ を用いた検討 -
    小林 信満, 山口 智, 高橋 啓介
    2018 年 43 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】腰部脊柱管狭窄症(LSS)は日常の鍼灸臨床で取り扱う頻度が高い。整形外科領域では LSS に対する評価法として日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)が広く活用されている。 今回、整形外科的保存治療等で期待すべき効果が認められなかった慢性のLSS 患者に6 ヵ月間鍼 治療を継続し、JOABPEQ を用いて1 ヵ月間と6 ヵ月間での治療効果の差異を検討した。
    【方法】研究デザインは過去起点コホート研究、非盲検前後比較試験とし、セッティングは本学2 施設で行った。選択基準は他院・本院整形外科でLSS の診断を受け、薬物療法や運動療法等(整 形外科的保存治療等)で期待すべき効果が認められなかった者、罹病期間3 ヵ月以上、治療期間 は6 ヵ月間とした。評価はJOABPEQ 及び付属のVAS で初診時治療前と1 ヵ月、6 ヵ月後の治療 前に評価した。
    【結果】抽出された患者は9 例(男性5 例、女性4 例)、年齢は中央値(最小値- 最大値)で72(68-81) 歳であった。腰痛、殿部・下肢痛、殿部・下肢しびれのVAS は、それぞれ有意な変化が認められなかっ た。鍼治療によるJOABPEQ の有効率は1 ヵ月後→ 6 ヵ月後で疼痛関連障害50 → 100%、腰椎機 能障害11 → 44%、歩行機能障害25 → 25%、社会生活障害0 → 22%、心理的障害11 → 44%であっ た。初診時と6 ヵ月後の疼痛関連障害で有意差が認められた。
    【考察・結語】6 ヵ月間の鍼治療により、疼痛関連障害は顕著に改善し、1 ヵ月間より有意に向上 した。また、腰椎機能障害、心理的障害も概ね改善したが、腰痛や殿部・下肢痛、しびれについ ては期待すべき効果が得られなかった。これらのことから、疼痛は残存しているものの、睡眠の 質や日常生活における身体の動きが向上したため疼痛関連障害等が改善したものと考える。以上 より、整形外科的保存治療等で期待すべき効果が認められないLSS に対する鍼治療は1 ヵ月間よ りも6 ヵ月間のほうがQOL に及ぼす影響は大きいことが示唆された。
  • - 自覚指標とエネルギー代謝による検討 -
    矢澤 宏樹, 池宗 佐知子, 古田 健祐, 大坂 拓哉, 中村 有沙, 眞壁 珠希, 市川 大起, 豊島 遼真
    2018 年 43 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】スポーツ現場において、コンディション調整の一つとして鍼灸施術が用いられている。しかし、研究報告の多くは鍼刺激による効果であり、灸刺激の効果を検討したものは少ない。本研究では、運動3 日前からの温灸刺激が筋痛、筋疲労に及ぼす影響について自覚指標の変化を検討することを目的とした。さらに、運動前からの温灸刺激が運動継続におけるエネルギー代謝の動態について血中乳酸濃度および血糖値を指標に検討した。

    【方法】対象者は本学の男子大学生29 名をランダムに無刺激群(Con 群、n=15)、温灸刺激群(Mox 群、n=14)に分けた。Mox 群は、運動負荷3 日前より対象者自身で利き足の腓腹筋内側最大膨隆部、外側最大膨隆部および承山穴部の3 か所に、温灸刺激を実施した。温灸刺激は、せんねん灸(竹生島、セネファ社製)を用いた。温灸刺激は1 カ所に最大3 壮行い、熱さに耐えられなくなった場合、その時点で温灸刺激を中止させた。筋痛・筋疲労の運動モデルは、効き足の片脚カーフレイズ(カーフレイズ)とした。対象者はカーフレイズをオールアウトまで実施することを1 セットとし、3 セット繰り返した。実験前後での血中乳酸濃度および血糖値を測定した。また、自覚指標として実験側の下腿の痛み・疲労感を実験前後および実験後7 日目まで測定した。自覚指標の測定は、Google のアンケートフォームを使用し、1(痛み・疲労感なし)~10(これまで感じた最大の痛み・疲労感)の10 段階の数値を毎日入力させた。また、実験前後での血中乳酸濃度および血糖値も測定した。

    【結果】運動後の血中乳酸濃度は両群とも有意に上昇した(p<0.05)ものの、血糖値の変化はなかった。痛み、疲労感は実験前と比べ両群とも実験直後に値の上昇が認められた。また、Mox 群では、実験1 日後にCon 群と比べ疲労感が低値を示した(p<0.05)。

    【考察・結語】カーフレイズによる運動後の筋痛、筋疲労について検討したところ、運動3 日前からの温灸刺激は、運動翌日の自覚的な疲労感を軽減させた。しかしながら、カーフレイズ運動におけるエネルギー代謝の変動に影響しなかった。運動数日前からの温灸刺激は、カーフレイズによる筋損傷の程度を軽減させ、自覚指標に影響を与えた可能性がある。

  • - 筋硬度と筋力の変化を指標として -
    阿部 葉月, 池宗 佐和子, 山本 寛, 狩野 知大, 長邉 亮太, 加藤 尚也, 北條 友基
    2018 年 43 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】運動実験3 日前からセルフケアにて温灸刺激を実施し、運動後に発生する筋痛や筋疲労の 抑制効果を検討した。
    【方法】本研究に同意を得られた男子大学生24 名を対象とし、ランダムに無刺激群(Con 群、 n=12)、温灸刺激群(Mox 群、n=12)に分けた。Mox 群は、運動負荷3 日前より対象者自身で利 き足の腓腹筋内側最大膨隆部、外側最大膨隆部および承山穴部の3 か所に、せんねん灸(竹生島、 セネファ社製)を介入させた。筋痛・筋疲労の運動モデルは、利き足の片脚カーフレイズとした。 これをオールアウトまで遂行させ、1 分間の休憩を挟み3 セット実施した。評価は、カーフレイズ の回数および実験前後での利き足の筋力、筋硬度、自覚指標とした。自覚指標はGoogle フォーム のアンケート機能を用い、1を痛みもしくは疲労感なし、10 をこれまで感じた最大の痛みもしく は疲労感とし、10 段階で評価した。
    【結果】運動回数および運動回数減少率は群間で差はなかった。下腿三頭筋の筋硬度はどの部位に おいても実験後に上昇した(p<0.05 )が、群間での差はなかった。筋力はMox 群で実験後に低下 した(p<0.05 )。実験後の自覚的な痛みの変化量に群間差はなかったが、疲労感の変化量はMox 群で有意に減少した(p<0.05 )。
    【考察・結語】運動3 日前よりセルフケアとして温灸介入を行った。その結果、Mox 群はCon 群と 比べ運動後の下腿三頭筋の筋力を有意に低下させたものの、自覚的な疲労感はCon 群と比べ抑制 させた。これらのことから、運動前の局所への温灸刺激は運動後の筋力を低下させる可能性があ るものの、局所血流の増加や炎症メディエータを早期より活性させることで、疲労感の軽減につ ながる可能性がある。
報 告
  • - 評価チェックシート試案作成及び臨床指導実践での活用を通して -
    郡 拓也, 緒方 昭広
    2018 年 43 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】あん摩マッサージ指圧臨床実習評価の標準化に向けた「あん摩マッサージ指圧臨床実習評 価チェックシート」パイロット版を作成する。
    【方法】1. 文献を基にあん摩マッサージ指圧臨床実習評価チェックシート試案(以下、チェックシー ト試案)を作成し、あん摩マッサージ指圧師養成学校45 施設の臨床実習担当教員に対しアンケー トによる意見の聴取・集約を行った。2. 意見を反映したあん摩マッサージ指圧臨床実習評価チェッ クシート(以下、評価チェックシート)(全27 問)を12 施設の協力校に紙媒体・点字データ等で 送付し、臨床でのモニター調査と事後アンケートを実施し、課題点について検討した。
    【結果】1. 評価チェックシート試案に関する調査 回収率:45 施設中35 施設78%(盲学校27 施設、 専門学校4 施設、視障センター3 施設、大学1 施設) 意見として、身だしなみについて集約すべき、 口臭・体臭管理は学生の体質に配慮した表現にすべき、刺激強度の評価が困難であること、物理 療法器具の使用について簡便なものに限定すべき等意見があった。2. 評価チェックシートのモニ ター調査 回収数12(11 施設より12 名分の回答)。評価チェックシート使用時の補助: 単独で使 用10(83%)、助手と使用2(17%)評価チェックシートは指導に役立つか: 役立つ10(83%)チェッ ク項目の数: ちょうどよい10(83%)、多い2(17%)使いやすさ: 使いやすい6(50%)、どちら でもない5(42%)適切な使用場面(複数回答可): 臨床実習前試験8(67%)、定期試験6(50%) 平常臨床実習5(42%)ストレスなく使える使用頻度: 各学期1 回7(58%)、1 ヵ月1 回・1 週間 1 回各2(各17%)使用感・課題点等: 肯定的意見として、形成的評価に役立つとの意見、課題点 として、使用場面の明確化、部門別割合の再考の必要性、レイアウトの改善等が挙げられた。
    【考察】評価チェックシートのモニター調査では、83%が教員単独で使用している。視覚障害を有 する教員も単独で使用した可能性があるが、点字等複数媒体を配布したことで単独使用の障壁が 減少したと考える。実用・普及に向け、指導者間の共通理解を促すマニュアル整備等が必要である。
    【結語】あん摩マッサージ指圧臨床実習評価の標準化に活用可能な評価チェックシートのパイロッ ト版を作成することができた。
  • - 医中誌Web を用いた和文献の検討 -
    林 健太朗, 粕谷 大智
    2018 年 43 巻 2 号 p. 105-113
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】末梢性顔面神経麻痺(以下 麻痺)患者の後遺症は、患者のQuality of Life(以下 QOL)を 著しく低下させる。そのため、後遺症の出現が予想される患者に対してはその予防や軽減を目的 に発症早期からリハビリテーション(以下 リハ)が行われている。リハの介入の中で表情筋に対 するマッサージは日々の臨床で多用されている。そこで、本研究では我が国の麻痺患者に対する マッサージの文献レビューを行い、目的・方法・効果に焦点を当て、現状と意義および課題につ いて検討した。
    【方法】データベースは、医中誌Web Ver.5 を使用し、検索語はその統制語である「顔面麻痺」、 「Bell 麻痺」、「帯状疱疹- 耳性」の同義語のうち関連する検索語と「マッサージ」とした。調査日 は2018 年6 月20 日、調査対象期間は限定せずに行った。同時に、ハンドサーチも行った。対象 論文は、包含基準・除外基準に基づき選定した。
    【結果】検索の結果、医中誌Web23 件、ハンドサーチ3 件、合計26 件が抽出された。そのうち対 象論文の条件を満たす11 件について検討した。マッサージの目的は、後遺症出現前は予防、出現 後は軽減を目的に行われていた。方法は、主に前頭筋・眼輪筋・頬骨筋・口輪筋・広頸筋などの表 情筋に対して、頻回の筋を伸張するマッサージが行われていた。マッサージは他の治療法と併用 されていた。評価は、柳原法、Sunnybrook 法、House-Brackmann 法、Facial Clinimetric Evaluation Scale などが用いられており、マッサージを含めたリハの効果として、後遺症の軽減、QOL の向上 が報告されていた。
    【考察・結語】麻痺患者に対するマッサージは、病期に応じて後遺症の予防や軽減を目的に、他の 治療法と併用することにより後遺症の軽減、その結果としてQOL の向上に寄与できる可能性が示 唆された。特に麻痺患者のQOL を著しく低下させる要因である顔面のこわばり感などの違和感に 対してマッサージを行い一定の効果を挙げていることは、この領域における手技療法の意義が考 えられた。一方で、マッサージの方法、効果の検討に関する課題も明らかとなった。
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