日本東洋医学系物理療法学会誌
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第44回学術大会 特別講演
  • - 新たな治療への期待も含め -
    2019 年 44 巻 2 号 p. 1-7
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     人体最大の蝶番関節である膝関節の安定性には、前・後十字靭帯と内・外側側副靭帯、さらに 線維軟骨である半月板が寄与している。変形性膝関節症は半月板の変性・断裂および関節外への 脱臼を機に発症し、引き続き生じる軟骨の摩耗・消失、さらに軟骨下骨の硬化や局所的な骨折、 辺縁の骨棘の形成により病期が進行する。荷重関節である膝関節の疼痛を伴う変形の進行は、高 齢者の生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性がある。
     変形性膝関節症は罹患率の高い疾患でもあり、この疾患による高齢者の日常生活動作(ADL) の低下は社会全体に対しても多大な影響を及ぼす。医療従事者が、より良い解決策を見出すべき 重大な課題であり、保存的治療によって、疼痛を制御するのみでなく、病期の進行を防止するこ とが求められる。近年、注目されている多血小板血漿(PRP)療法や、幹細胞移植は疼痛の除去と 同時に機能回復、さらに軟骨の再生の可能性についても期待されているが、観血的な治療介入ま でのtime saving として十分な効果があるか否かは明らかではない。
     人工膝関節置換術の普及は変形性膝関節症治療のbreak through であったといえる。患者のADL は著しく回復する優れた治療法であるが、それでもなお、正常な膝の機能には及ばず、再手術の 危険性も孕んでいる。
     変形性膝関節症の程度は個人差があり、発症要因をさらに詳細に検討することも必要であるが、 発症後は、①的確に病期の進行を防止すること、②患者の求めるADL を鑑みて保存的治療の限界 を受け入れること、③観血的治療においては、年齢や病期を考慮し最適な方法を選択する必要が ある。
教育講演
  • 山口 智
    2019 年 44 巻 2 号 p. 9-16
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     日常の鍼灸臨床で膝関節痛を有する患者を取り扱う頻度は高く、その大半が退行性病変である 変形性膝関節症(膝OA)やoveruse syndrome であるスポーツ障害が大半を占めている。膝OA の 疫学では有症状患者数は約800 万人と言われ、超高齢化社会において年々増加している。
     膝OA の病態は、軟骨の変性に起因し、関節周囲の筋緊張や筋腱付着部の循環障害が疼痛の原因 とされている。患者の症状の経過や理学検査を十分実施し、病態の把握や適応の有無などを鑑別 し必要に応じて専門医に診療を依頼することを忘れてはならない。
     当科における膝OA の鍼灸治療は、膝関節周囲の筋腱付着部や靭帯、神経、関節裂隙などの圧痛 部位などを基本とする病態に基づく組織選択性であり、こうした部位への鍼灸治療で疼痛の改善 やQOL の向上を期待する。圧痛や筋緊張の改善と鍼治療の効果は正の相関を示し、関節の変形の 程度により、その効果に差異が認められた。また、軽度膝OA に対する鍼治療効果は疼痛の軽減と QOL の向上に寄与することも示唆された。
     膝OA に対する鍼灸治療の効果については、海外から優れた論文が報告されていることから、 OARSI にてその有効性が示された。しかし、最近国内外において、こうした有効性が疑問視され ており、整形外科専門医との共同研究など、質の高い臨床研究を推進しなければならない。
スキルアップ講座
  • 長澤 康弘, 柴田 愛, 岡 浩一朗
    2019 年 44 巻 2 号 p. 17-25
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     超高齢社会に伴い、我が国では運動器に障害を呈して疼痛を訴える高齢者が増加している。高 齢者の運動器疼痛は、加齢による退行変性によって疼痛が慢性化しやすく、身体活動量を減少させ、 体重増加や筋力低下、さらには外出頻度の低下による閉じこもり等、精神面への悪影響も懸念さ れている。このような慢性疼痛に関して、疼痛への不適切な対処方略(願望思考、破滅思考、医 薬行動)が活動制限を引き起こすことが報告されている。疼痛への不適切な対処方略は、活動制 限以外にも疼痛の増悪、機能障害、生活水準(家事や社会的活動)の低下に影響を及ぼす。その ため、高齢者の運動器慢性疼痛対策では、高齢者自身が疼痛を自己管理する能力を高めることが 重要である。
     近年、運動器慢性疼痛対策において、認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy、以下CBT) が重要な役割を果たすことが示されている。運動器慢性疼痛対策におけるCBT は、患者の疼痛に 対するネガティブな考えや行動に着目して、それらを修正することを目的としている。特に、こ れまでの運動器慢性疼痛対策には、CBT を日常の疼痛体験に応用する「痛み対処スキルトレーニ ング(Pain Coping Skill Training、以下PCST)」が多く活用されている。
     本稿では、まず初めに高齢者の運動器慢性疼痛に関する先行研究から疼痛の自己管理能力を高 めることの重要性を述べ、我々が膝痛高齢者に対して使用したPCST の技法(認知再構成、リラ クセーション、活動量調整、目標設定、快活動計画、サポート資源の活用、逆戻り予防)につい て解説する。次に、運動器慢性疼痛対策への応用が期待されている第三世代の認知行動療法であ る「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy:以下、 ACT)」を紹介する。ACT は、疼痛などの不快な事情が存在する状態こそが人間にとって正常な状 態であることに気づき、患者が願う人生を支援することを目的としている。先行研究でも、ACT は高齢者の運動器慢性疼痛対策に適した治療であることが報告されおり、今後も研究成果の蓄積 が期待されている。特に本稿では、先行研究とワークブックを参考に我々が運動器慢性疼痛対策 のために作成したACT のプログラムを紹介する。
シンポジウム 「変形性膝関節症に対する治療の最前線」
  • - 解剖学と運動連鎖からの情報収集に基づいて -
    徳竹 忠司
    2019 年 44 巻 2 号 p. 27-36
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     鍼治療に効果を期待して来院する変形性膝関節症を有する患者は多い。その主訴の中心をなす ものは“痛み”であるが、その痛みに対する主観的データは歩行時痛・階段昇降時痛といった動 作時痛、または正座時痛・就寝時痛などの静止時痛と様々である。鍼治療は中枢性・末梢性など種々 の鎮痛機構を有していることから、変形性膝関節症患者の“痛み”には効果が期待できる。しか し施術の結果、鎮痛機構の発現により侵害刺激の伝導が一時的に遮断されたのみでは根本の解決 にならないことは明らかである。退行性変化に対し鍼治療が効果を上げられるか否かは不明であ るが、関節構成体に負荷が加わった結果の痛みであれば、その負荷の軽減をはかることは一時的 な鎮痛ではなく持続可能な効果につながると考える。この場合の“負荷”の責任部位・病態は可 逆的な変化によるものが、より効果的であると考える。鍼通電療法の対象別分類の一つである筋 パルスには、筋内循環の促進と伸張性向上が期待できる。膝関節の動きに係わる周囲筋が、生活 習慣の影響を受け短縮した状態になっていると、膝関節の可動性が制限を受け、可動域の最終段 階で伸張性の低い関節構成体に過度の負荷が加えられることが推測できる。このような場合に短 縮した骨格筋が特定でき、主訴との関わりが明らかであれば施術対象とする。近年、大腿の伸筋 に新しい筋肉が発見されたとの報告があり筋パルスのバリエーションが増える可能性がある。膝 関節周辺の圧痛情報を収集する際にも、骨格筋の圧痛であるか否かも詳細に観察をする。膝関節 内側面の圧痛であれば、屈曲位と伸展位では筋の存在位置が変化をするため比較を行う必要があ る。そして膝関節は足関節・股関節に挟まれていることから、両関節の可動性の影響も受けるこ とになる。またHip-Spine-Knee syndrome といった観念があることから、膝痛であっても観察範囲 を拡大することが重要であると考える。鍼通電療法の中の神経パルスの可能性であるが、変形性 膝関節症の痛みについて侵害受容性疼痛以外に神経障害性疼痛による痛みの存在が証明されてい ることから、今後は神経パルスの膝痛に対する影響の検討も必要となると考える。本稿ではタイ トルの通り、解剖学的知識などを鍼通電に応用するための基礎的な解説を試みる。
  • 藤井 亮輔
    2019 年 44 巻 2 号 p. 37-44
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability)プロジェクトの報告によれば、変形性膝関 節症(膝OA)の2009 年時点における推定患者数(40 歳以上)は2,530 万人、有症状患者数は約 800 万人だった。膝痛は生活の質を著しく下げることが指摘されており医療・介護財政に及ぼす影 響も甚大である。ゆえに、超高齢化が進むわが国において、その予防ないし悪化防止プログラム の確立は喫緊の課題となっているが、少なくとも、膝OA に対して伝統的に行われてきた関節マッ サージが介入法として推奨(標準化)されているガイドラインは見当たらない。そこで、本稿では、 内側型膝OA の病態を運動学的視点から論じた上で、その理論に則ったマッサージ療法(運動法を 含む)の術式と有用性を提示した。
     まず、荷重耐性と可動性(自由度)という力学的に相反する要求に応えるのに有利な膝関節の 構造上の特徴を概説した上で、大腿骨脛骨角(FTA)と下肢加重線の関係性を中心とした下肢アラ イメントの機能的重要性に触れた。次に、正常な膝関節でみられる終末強制回旋運動がFTA の正 常化と膝の安定機構に重要な意味を持つこと、関節軟骨の変性・摩耗と滑膜炎が相互に関与しな がら併進する内側型膝OA の病態的リスク因子に、FTA の増大に伴って増加する膝関節内転モー メント(膝関節を内転方向に回転させる力の量)が深く関わることに言及した。
     次に、上記理論の帰結として、内側型膝OA 治療の基本方針は膝関節内転モーメントの減少を目 的とした終末強制回旋運動の回復(=膝関節屈曲拘縮の改善)と下肢アライメントの正常化に置 かれるべきことを述べ、その具体的介入法としてのマッサージ療法の術式を、①膝関節周囲のオ イルを使用した組織選択的マッサージ、②内側広筋の筋力強化(筋神経再教育)、③膝関節屈筋群 のリラクゼーション、④膝関節モビライゼーションの構成で提示した。
     この術式が、膝OA に対する手技療法のスタンダード化の検討と臨床研究活性化の一助になれば 幸いである。
  • - 関節包内運動(joint play)による滑り運動を中心に -
    譲矢 正二
    2019 年 44 巻 2 号 p. 45-48
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

     変形性膝関節症とは、軟骨の退行変性であり、疼痛と可動域制限が主症状である。整形外科疾 患の中でも頻度の高い疾患であり、我々理学療法分野においても度々遭遇する疾患である。  変形性膝関節症治療の目的は、いかに疼痛の軽減を図るか、それに可動域の維持・改善が要求 される。
     治療法としてはまずは、触診や動作にて関節の動きをよく観察することであり、またその疼痛 がどの部位でどの程度の痛みが出現するかを確認することが大切である。その時、可動域の制限 が関節の軟部組織によるものか、それとも関節そのもの、いわゆる関節包内によるものかを確認 することが、理学療法を進める上で極めて重要であり、軟部組織の緊張であれば、軽いストレッ チ運動や膝の屈伸運動いわゆる骨運動を数回繰り返し行うことで改善することがある。しかし、 関節包内による拘縮の場合は、関節包内運動いわゆる関節の遊び運動が重要であり、関節面に対 する引き離しや滑り運動を中心に行う。
     そこで今回、変形性膝関節症に対する関節包内運動を中心に実技を加えその一部を紹介する。
原 著
  • 近藤 宏, 藤井 亮輔, 矢野 忠, 福島 正也
    2019 年 44 巻 2 号 p. 49-55
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師がその技術を活かし、ヘルス キーパーとして企業に雇用されている。しかし、企業内に開設された施術所の状況、ヘルスキー パーの正確な人数や業務の詳細について全体を網羅した基礎的資料はみられない。本研究の目的 は、全国の保健所に登録された施術所情報から企業内に開設された施術所の所在地等を明らかす ることである。
    【方法】全国の保健所から収集されたあはき業に係る都道府県ごとの施術所名簿データ(76,505 件) から名称、所在地、業務の種類を抽出し、データベースを作成した。データベースから法人企業 のみをスクリーニングした。さらにWeb 検索エンジンを用いて当該企業を照合し、企業内に開設 された施術所を有する企業名と産業分類を特定した。集計は、届出施術所数、企業数、都道府県 別数、企業の産業分類、業務の種類について行った。
    【結果】届出された施術所数は、282 件であった。その内、53 件が異なる所在地で複数の届出をし ていた。そのため企業数は200 件であった。届出をした業務の種類は、あん摩マッサージ指圧の み135 件(47.9%)が最も多かった。都道府県別での所在地では、東京都147 件(52.1%)が最も 多く、次いで、大阪府48 件(17.0%)であった。産業分類別では、情報通信業92 件(32.6%)が 最も多く、次いで製造業19.1%であった。
    【考察】大企業の本社が多い都道府県は東京都と大阪府である。大企業の本社数が多いために、企 業内に開設された施術所が大都市に集中しているのではないかと考える。
    【結語】全国の保健所に登録されている施術所情報から、企業内に開設されたあん摩マッサージ指 圧・はり・きゅう施術所の開設数、所在地、企業の産業分類、業務の種類を明らかにし、基礎的 資料を資することができた。
  • ― ATP 測定法を用いたクリップの形状の違いに関する検討 ―
    御子神 光, 菅原 正秋
    2019 年 44 巻 2 号 p. 57-61
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】実験環境下において、血液に汚染された鍼に接触した通電用クリップ(以下、クリップ) がどの程度汚染されるかをadenosine tri-phosphate(以下、ATP)測定法を用いて検証した。また、 クリップの形状の違いによる汚染度の違いも併せて比較した。
    【方法】滅菌したワニ口クリップと平口クリップ各25 個をヒツジ血液に浸漬した鍼に10 秒間接触 させ、その後、クリップの鍼と接触した部分を試薬キットの綿棒で拭き取り、迅速にルミノメー タにてATP 量(Relative Light Unit:RLU)を測定した。また、鍼については汚染部分より上方を 切断し、試薬キットに投入後、迅速にルミノメータにてATP 量を測定した。鍼からクリップへの ATP 量の移行率を算出し、2 群の移行率を比較した。
    【結果】ワニ口クリップから検出されたATP 量の中央値(四分位範囲)は3(0-17)RLU、ワニ口 クリップに接触後の鍼から検出されたATP 量は268(187-370)RLU であった。一方、平口クリッ プから検出されたATP 量は38(12-102)RLU、平口クリップに接触後の鍼から検出されたATP 量 は395(204-684)RLU であった。このことから、ワニ口クリップへのATP 量の移行率は1.3(0-5.5)% であり、同様に平口クリップでは7.2(1.2-21.8)%であった。二群間の移行率を比較したところ、p < 0.05 で有意な差がみられた。
    【考察】平口クリップはワニ口クリップよりも血液に汚染されやすい可能性が示唆された。しかし、 ワニ口クリップも移行率は0%ではないことから一度クリップに鍼を接触した後、強さの調整のた めに鍼の刺入深度を変えるなどすれば、交差感染を引き起こす可能性も否定できないと考えられ る。
    【結語】ヒツジ保存血で疑似汚染した鍼にクリップを接触させた場合、クリップからは血液由来の ATP が検出された。平口クリップから検出されたATP 量は、ワニ口クリップから検出されたそれ より有意に多かった。
  • ノライニ アズリン, 成島 朋美, 野口 栄太郎
    2019 年 44 巻 2 号 p. 63-71
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】足底を対象とするマッサージは、「足裏マッサージ」「リフレクソロジー」や「足ゾーンセ ラピー」等様々な名称で呼ばれ世界各国で行われている。研究領域では、E.Ernst による臨床研究 を対象としたSystematic review(以下SR)が報告されており、我が国では看護領域での研究が数 多くある。しかし、これらの報告から足裏マッサージの特徴である、ゾーンの存在を客観的に確 認することが出来なかった。そこで今回は、ゾーンの実在を確認することを目的に検討を行った。
    【対象と方法】対象は同意を得た健常成人6 名(27 ~ 63 歳)に対し、平成30 年9 ~ 12 月に室温 25.0 ~ 26.5 度、湿度50 ~ 60%の室内で、生理機能測定として左第5 足趾皮膚血流、左下腹部腸音、 胸部で心電図を測定した。足裏マッサージ(以下FM)は、1 回目左FM、2 回目右FM とし各人2 回行った。生理機能測定は、安静15 分間・FM15 分間・FM 後30 分間の連続測定を行った。また 1 週間後の同時間帯に1 回目と同部位で生理機能測定を行いながら、右FM を左FM と同様の術式 で施術を行った。
    【結果と考察】左第5 足趾皮膚血流の反応は、左右FM 中には減弱し、その後、左FM 側は増加、 右FM 側は減少と左右で異なる反応を示した。このことから、FM 側では交感神経緊張による末 梢血流の一時的な減少に続き増加を示し、FM 刺激反対側では全身反応としての血流増加反応が 起こった可能性があると考えられた。腸音は左FM により増加し右FM で減少する傾向を示した、 腸音は一律に増加・減少するのではなく個体差や体調の相違で反応が異なる事が推察された。心 臓のゾーンのある左足底のFM でHigh Frequency/Low Frequency(以下HF/LF)の有意な増加を 認めた。その結果から心臓に対応するゾーンの実在が示唆された。
報 告
  • 福島 正也
    2019 年 44 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】2017 年9 月10 日から11 日にかけて、プロ野球投手が鍼治療のミスにより長胸神経麻痺に なった可能性があり、球団側が投手に謝罪したとの報道があった。この報道は、鍼治療と長胸神 経麻痺の因果関係が明らかにされないままに行われており、鍼治療のイメージに対する悪影響が 懸念される。Twitter は代表的なソーシャル・ネットワーキング・サービスで、そのコンテンツで あるツイートの分析は、社会心理学における感情反応の調査等に応用されている。本研究は、ツイー トの分析により、報道内容が鍼治療のイメージに与えた影響を調査することを目的に実施した。
    【方法】調査は2017 年12 月に実施した。調査対象は、報道日と、その前後1 週間時点および前後 1 ヶ月時点のツイートとした。検索方法は、“鍼”or“針治療”or“はり治療”or“はりきゅう”or “針灸”を検索語とする掛け合わせ検索とし、日本語でのツイートを抽出した。抽出されたツイー トは、ツイート数の比較、およびKH Coder(Ver. 2.00f)を用いたテキストマイニングによる、頻 出語、コロケーション統計(“鍼”のコンコーダンス検索)、報道日の共起ネットワークの分析を行っ た。
    【主な結果】報道日のツイートは、ツイート数が約4.4 倍に増加し、報道内容と関連した語が多く 抽出され、“怖い”“ 酷い”という語が共起していた。
    【考察】調査結果から、報道内容は、一定の注目を集め、相応の社会的インパクトをもつものだっ たと考える。また、報道内容にネガティブな感情を抱いた者が多かったことが示唆された。本調 査結果は、報道内容に対する短期的な感情が反映された可能性が高いと考える。今後、報道の長 期的な影響の調査や、高度情報社会に対応した鍼治療のイメージブランディングが求められる。
  • 徳竹 忠司, 佐々木 皓平
    2019 年 44 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【はじめに】鍼治療における、治療計画の立案には様々な道程がある。POS 的思考に基づいた臨床 推論を行い、愁訴の責任部位の病態を把握し、刺激方法を検討する行為もその中の一つであると 考える。身体診察による情報収集に加えて既存の知識を活用し、患者の抱える問題の解決に当たる。 今回Travell らによって体系化された筋筋膜性疼痛症候群とトリガーポイントの概念が愁訴改善に 有用であった症例を体験したので報告する。【症例】59 歳 女性 【主訴】右膝関節周囲の痛み 【現 病歴】50 歳代前半から歩行時・階段昇時に右膝関節周辺に時々違和感が出現していた。痛みでは なく、日常生活や仕事に際し支障もなかったため放置していた。58 歳時に深くしゃがむことが多 くなった頃から膝関節周辺の違和感が強くなり、痛みとして認識するようになった。歩行時には 時間や距離が長くなると膝関節周辺の痛みは必発していた。当科初診の1 ヵ月程前から座業時に も膝周辺に痛みが出現するようになり、歩行時痛も以前より短時間・短距離でも出現するように なったため、受診歴のある整形外科を受診した。X 線検査の結果、膝関節に特別な問題はないが 股関節の変形が以前より進んでいるとのコメントで、パップ剤を処方された。1 週間ほど前から右 大腿下部後面外側・膝関節外側面・下腿外側上部に疼痛が発生しパップ剤にても寛解しないため 同僚の紹介で当科受診となった。【理学的所見抜粋】右膝関節に関する痛みの誘発試験は全て陰性 であり、大腿部・下腿部の筋圧痛はなし。右股関節の回旋制限がみられ、小殿筋前部・後部線維 の抵抗負荷にて膝周辺に違和感の再現。小殿筋の圧迫による膝関節部の違和感の再現。【評価】小 殿筋トリガーポイントからの連関痛 【治療】右小殿筋 鍼通電 1Hz 15 分 【結果】初回の治療で膝 周辺の痛みは寛解し、以降同様の治療にて主訴は消失した。
  • 古田 高征
    2019 年 44 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】慢性の腰痛を持つ被検者に鍼施術を行い、施術前後の腰痛症状の変化と自律神経活動の関 連性を検討したので報告する。
    【方法】研究は、実験についてインフォームドコンセントを行い、同意が得られ慢性的な腰痛を持 つ成人男子11 名を対象に行った。実験は、施術前後に腰痛をVAS 値、自律神経活動を心拍数・心 拍変動係数・血圧にて測定した。さらに指先から圧脈波を導出し、実験開始から終了まで記録した。 圧脈波は積分処理し測定値とした。また施術前後の波形から心拍変動の周波数解析を行い、LF成分、 HF 成分、LF/HF 値を求めた。鍼施術は、ディスポ鍼20 号40㎜を使用し、被験者を腹臥位として肝兪、 脾兪、腎兪、大腸兪、殿点の左右10 ヶ所に単刺術にて2㎝刺入を行った。
    【結果】鍼施術により腰痛VAS 値は、施術前58.1 ± 20.1 から施術後32.0 ± 20.0 に有意な低下がみ られた。心拍数は、施術前71.4 ± 7.7 拍/ 分から施術後69.1 ± 7.8 拍/ 分、心拍変動係数は施術前4.77 ± 1.18 から施術後5.21 ± 1.79 と有意差がみられた。施術前後の腰痛VAS 値と自律神経活動の指 標の相関を比較すると、心拍変動のHF 成分、圧脈波積分値において有意な負の相関関係がうかが われた。
    【考察】一般に鍼灸施術は副交感神経活動を高め、自然治癒力を高めると言われる。今回、症状が 軽減されるほど、心拍変動のHF 成分や圧脈波積分値の増大傾向がみられた。したがって、副交感 神経活動の増大が症状の軽減に関与していると思われ、これらの指標を確認しながら施術をする ことで、より適切な刺激量で施術を行えることが示唆された。
    【結語】慢性の腰痛を持つ被検者に鍼施術を行い、①施術前後の腰痛VAS 値は有意に低下した。② 腰痛VAS と心拍変動のHF 成分、および圧脈波に有意な相関がみられた。
  • 佐藤 美和, 福島 正也
    2019 年 44 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】起立性調節障害(OD)は、思春期に好発する循環系を中心とした自律神経機能不全とされ、 不登校等の原因になることも多い。本稿は、薬物療法の効果が十分に得られなかったOD 患児に 鍼灸治療を行い、改善がみられた症例を報告する。
    【症例】14 歳、男性、中学生[主訴]起床困難、入眠困難[現病歴]X-1 年1 月頃から食欲不振、 入眠障害、起床困難を生じ、登校が困難になった。近医小児科でOD の診断を受け、薬物治療を 行うも改善しないため、X 年1 月に鍼灸治療を開始した。[現症]起床困難、午前中の体調不良が みられ、学校は遅刻・欠席が続いている。その他に、四肢の冷え、腹痛、食欲不振等がある。生 理機能検査では、OD テスト:陽性、体位変換負荷サーモグラム(立位、臥位):陽性、24 時間ホ ルター心電図パワースペクトル解析:LF<HF(副交感神経優位)で異常が認められた。[服用薬物] ミドドリン塩酸塩(2㎎ )・3 錠、スボレキサント(20㎎ )・1 錠等。[治療]自律神経機能の調整を目 的に、1 ~ 2 週間に1 回、計16 回の鍼灸治療を行った。1 ~ 5 診目は、頭頂部・四肢・腹部への 置鍼術(10 分、16 号40㎜、刺鍼深度5 ~ 15㎜)、手指・足趾爪甲角部への棒灸を行った。6 診目 以降は、頭頂部・背部への鍼通電療法(50Hz 間欠波、10 分、 20 号40㎜、刺鍼深度5 ~ 15㎜)を 追加した。効果判定のため、2 診目以降のOD 症状、登校状況、3 診目以降の起床時血圧の記録を 依頼した。
    【結果】2 ~ 4 診目(21 日間)は、遅刻・欠席が93%、起床困難が67%、腹痛が67%、食欲不振 が24%の日に認められた。13 ~ 16 診目(30 日間)は、遅刻・欠席が0%、起床困難が0%、腹痛 が3%、食欲不振が0%の日に認められた。OD 症状および自律神経機能の改善が認められたため、 16 診で治療を終了した。
    【考察】藤原ら(1997)の報告同様に、鍼灸治療は自律神経機能を調整し、OD を改善したと考える。
文献レビュー
  • 古瀬 暢達, 山下 仁
    2019 年 44 巻 2 号 p. 97-106
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】鍼臨床における皮膚疾患有害事象に関する文献を調査し、鍼治療の安全性向上のための方 策を検討した。
    【方法】医中誌Web およびPubMed を用いて、国内鍼臨床における皮膚疾患の有害事象(因果関係 を問わず治療中または治療後に発生した好ましくない医学的事象)症例報告を検索した(2019 年 6 月検索)。対象期間は1980 年以降とした。
    【結果】33 文献44 症例が収集された。埋没鍼が原因のものは、局所性銀皮症17 文献22 症例、亜 急性痒疹1 文献1 症例、色素沈着1 文献1 症例であった。患者の体質(基礎疾患や金属アレルギー 等)が原因と考えられるものは10 文献12 症例であった。その他、直流鍼通電による色素沈着、 悪性黒色腫、不適切な治療(医師による注射針を用いた刺絡療法)によるアトピー性皮膚炎の悪 化、有棘細胞癌があった。年代別では、1980 年代が9 文献11 症例、1990 年代が12 文献18 症例、 2000 年代が10 文献13 症例、2010 年代が2 文献2 症例であった。
    【考察】今日では禁止されているが、過去に行われた埋没鍼が原因の局所性銀皮症が約半数と大き な割合を占めていた。重篤な症例として、皮膚癌が2 例報告されていたが、常識の範囲外の長期間・ 過剰な治療によるものと、時系列の一致のみで因果関係に関する記載のないものであった。また、 患者の体質に由来する皮膚病変が少なからず報告されていた。金属を体内に刺入するという鍼治 療の性質上、金属アレルギー等の副作用を引き起こす可能性を完全に排除することはできない。 事前に皮膚疾患の既往がないかを確認するとともに、患者に皮膚症状が現れた場合は治療を中止 し専門医への受診を勧めるべきである。年代別では、2010 年代の症例報告数が特に少なかった。
    【結語】近年、鍼治療後に発症した皮膚疾患の報告は減少していた。これらの症例から学び、卒前・ 卒後の安全教育に反映していくことが重要である。
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