日本ペインクリニック学会誌
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17 巻, 1 号
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総説
  • 住谷 昌彦, 宮内 哲, 前田 倫, 四津 有人, 大竹 祐子, 山田 芳嗣
    2010 年 17 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2010/01/25
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    電子付録
    四肢切断後に現れる幻肢痛をはじめとする神経障害性疼痛の発症には末梢神経系と脊髄での神経系の異常興奮とその可塑性に加え,大脳を中心とした中枢神経系の可塑性が関与していることが,最近の脳機能画像研究から確立しつつある.本稿では,幻肢痛を含む病的疼痛全般は脊髄よりも上位の中枢神経系に由来するというわれわれの持論から,まず幻肢の感覚表象について概説し,続いて幻肢の随意運動の中枢神経系における制御機構から「幻肢が中枢神経系にとって健常肢として存在すれば幻肢痛が寛解する」という仮説を提案する.この仮説を,われわれが行っている鏡を用いて幻肢の随意運動を獲得させることによる臨床治療(鏡療法)から検証し,鏡療法の有効性と限界,そして今後の幻肢痛および神経障害性疼痛に対する新規神経リハビリテーション治療の可能性について概説する.
原著
  • 高雄 由美子, 村川 和重, 森山 萬秀, 柳本 富士雄, 中野 範, 福永 智栄, 上嶋 江利, 真田 かなえ, 佐藤 仁昭, 前川 信博
    2010 年 17 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2010/01/25
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    ボツリヌス毒素療法は痙性斜頸に対しての有効性が報告されているが,痙性斜頸には明らかな頭位偏奇がなく慢性的な頸肩部の疼痛や随意運動障害が症状の主体である,いわゆる重度の肩こり症例も含まれる.今回われわれは,このような患者に対するボツリヌス毒素療法を施行し効果と安全性を検討した.症例は26症例(男性12症例,女性14症例),平均年齢58.6歳であった.ボツリヌス毒素(BTX-A)100 単位を肩から頸部にかけての持続性緊張状態にある筋群の筋腹に10~20単位/カ所で施注し,4週ごとに12週まで追跡調査をした.痛みとこわばりは視覚アナログスケールで評価し,SF-36によるアンケートを実施し,副作用を問診した.頸肩の痛みやこわばりはボツリヌス毒素投与によりすべての観察期において治療前と比較して有意に軽減した.SF-36のアンケートの結果からは,治療に伴うQOLの改善があまりみられなかった.副作用は4例で頸部の不安定性が出現したが,いずれも短期間で消失し重篤な副作用は認めなかった.ボツリヌス毒素療法は重度の肩こりの症状の軽減に対して効果的な治療である.
症例
  • 黒川 博己, 竹崎 亨, 川口 稜示, 中尾 三和子, 佐藤 暢芳, 采谷 英男, 宮崎 明子, 蜂須賀 瑠美子
    2010 年 17 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2010/01/25
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    First bite syndrome (FBS) は耳下腺部に痛みを生じるもので,その痛みは食事の1口目が強く,食事を進めるに従い低下する.星状神経節ブロック(SGB)で特発性 FBSの痛みが完全に消失した症例を報告する.症例は30歳代の男性で,主訴は食事ごとの右耳前部痛であった.右の副咽頭間隙の手術を受けたことはなかった.半年前から右耳前部痛が出現し,数種類の薬剤を服薬したが,痛みは軽減せず,痛みのために食事が不可能となり,経腸栄養剤とジクロフェナクを処方されていた.初診時に,痛みは視覚アナログスケールで,食事の1口目が80 mm,食後痛は100 mmであった.SGBを5回施行した時点で痛みは変化しなかったが,SGBを6 回施行後から食後痛が軽減し,1口目の痛みは遅れて軽減し.16回施行後には,無痛となった.治療終了2年半の現時点で,痛みは再発していない.
  • 境 徹也, 澄川 耕二
    2010 年 17 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2010/01/25
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    電子付録
    虚偽性障害は,身体的・心理的症状または徴候を意図的に作り出す疾患であり,特に身体的症状と徴候の優勢なものはミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる.われわれは複合性局所疼痛症候群(CRPS)様症状をきたしたミュンヒハウゼン症候群患者を報告する.患者は47歳の男性であった.腰椎椎間板術後の腰下肢痛と歩行不能を訴え,車椅子で当科へ紹介受診となった.腰椎のMRIで,明らかな異常はなく,院外では普通に歩行していた.その後,咽喉頭部違和感,腹部不快感,上顎痛,発熱など多彩な身体症状を次から次へと訴えていたが,検査で異常はなかった.8カ月後に,右肘部管症候群に対する尺骨神経移行術後に,右腕の腫脹が出現し,CRPSが疑われた.13カ月後に,腹部不快感を訴え,腹部CTにて腸管内に金属異物が発見された.40カ月後に,右腕の腫脹が著明になり,右上腕がバンドで強く締め付けられているのが発見された.医療スタッフは早期にこの病態を認識し,この病的行動により混乱させられないことが重要である.
  • 川股 知之, 並木 昭義
    2010 年 17 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2010/01/25
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    頸部神経根ブロックに使用した懸濁性メチルプレドニゾロンによると思われる小脳・脳幹部梗塞を経験した.症例,57歳女性.頸椎椎間板ヘルニアによるC6,C7の根性痛が増強したため,近医より神経根ブロック目的で当科に紹介された.X線透視下で神経根ブロックを試み,造影剤にて血管陰影を認めずC6神経根鞘が描出されたため,0.75%ロピバカイン1 mlと懸濁性メチルプレドニゾロン1 mlの混合液を1 ml注入したが異常なく,さらに0.5 ml注入した30秒後に意識が消失し,呼吸も停止した.7時間後のMRIで小脳・脳幹部梗塞と切迫ヘルニアがあったため,内・外減圧術および脳室ドレナージが施行された.術中所見と術後CTから解離性動脈瘤は否定された.本症例では,懸濁性メチルプレドニゾロンが神経根動脈を介して左椎骨動脈領域へ逆行性に流入した結果の合併症と考えられた.頸部神経根ブロックに懸濁性ステロイド剤を使用することは避けるべきであると考えられる.
  • 天野 玉記, 精山 明敏, 十一 元三
    2010 年 17 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2010/01/25
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    治療に難渋しやすい慢性痛の1つに幻肢痛があり,その機序には痛みに関する記憶が関与すると推測されている.心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)に対する治療法の1つとして精神医療で用いられるようになった眼球運動による脱感作および再処理法(eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)は,トラウマ体験の記憶と感情の処理により症状を寛解させると考えられている.同様の技法が幻肢痛の治療(幻肢痛プロトコル)に試みられている.今回,腰椎椎間板ヘルニア手術時の事故で左下肢の麻痺が起こり,8年間激しい慢性痛があった70歳の女性にEMDRを実施し,痛みが著明に軽減した症例を報告する.本症例では,事故に関連した場面等を想起させた状態で,左右交互の眼球運動を繰り返しながら想起場面と関連した感情を鎮静化しつつ認知の修正を試みた.その結果,治療セッション中に痛みが軽減し,ほぼ消失した.治療から3カ月後にも痛みは再発していなかった.心因性の機序が関与した慢性痛に,EMDRの幻肢痛プロトコルが治療法の1つになりうることが示唆された.
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