日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
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23 巻, 4 号
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総説
  • 廣瀬 宗孝, 助永 憲比古, 岡野 一郎, 岡野 紫, 中野 範, 恒遠 剛示, 棚田 大輔, 佐藤 和美, 乾 貴絵
    2016 年 23 巻 4 号 p. 507-515
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    [早期公開] 公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    慢性疼痛の発症とその持続には,中枢神経系の神経可塑性が重要であるが,血液における自然免疫の役割も注目されている.このため慢性疼痛の血液マーカーを見つける研究が行われており,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)もその候補の一つである.末梢神経が損傷されると,炎症誘発期では中枢神経系のBDNFは増加し,抗炎症期になると低下すると考えられている.中枢神経系のBDNFは血液中に漏出するため,このような中枢神経系におけるBDNFの変化は血液中のBDNF濃度に反映するとの考えがある.しかし,われわれが行った慢性腰痛症患者の臨床研究では,抗炎症反応が増加すると血液細胞のBDNF遺伝子におけるエピジェネティックな変化で血清BDNF値は低下することが明らかとなり,BDNF値の低下と痛み症状の数の増加に相関関係が認められた.慢性疼痛患者の血中BDNF濃度は,その時々の自然免疫状態など他の因子との関係も鑑みることで血液マーカーとなる可能性がある.
原著
  • 上原 圭司, 岩崎 昌平, 森本 昌宏, 松島 麻由佳, 南 奈穂子, 白井 達, 森本 悦司, 中尾 慎一
    2016 年 23 巻 4 号 p. 516-519
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    [早期公開] 公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    硬膜外ブロックの施行時には盲目的な穿刺が一般的となっており,針先と血管や神経との位置関係を十分に把握することは不可能である.これに対して,先端を鈍に加工したTuohy針(鈍針)では穿刺抵抗が大きいことから,靱帯を貫く感覚を把握しやすくなると考えられる.そこで,従来用いているTuohy針と鈍針を用いて腰部硬膜外ブロックを行い,穿刺時の靱帯を貫く感覚の有無,穿刺回数,出血の程度,刺入時痛の有無について比較検討した.この結果,靱帯を貫く感覚を確認しえたものは鈍針群で有意に多く,穿刺部からの出血も鈍針群で有意に少なかった.以上より,鈍針は使いやすく,硬膜外ブロック施行時の合併症頻度を低減する可能性のあることが示唆された.
  • 千葉 知史, 伊達 久, 滝口 規子, 渡邉 秀和, 石川 有平, 北村 知子, 千葉 聡子, 板倉 紗也子, 綿引 奈苗, 山城 晃
    2016 年 23 巻 4 号 p. 520-524
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    【目的】最近超音波(US)ガイド下星状神経節ブロック(SGB)が紹介され普及してきている.USガイド下SGBの有用性を検討するため,頬部・手掌の皮膚温変化を解析した.また,USガイド下SGB施行群でC6とC7の高さでの施行の有効性に差があるかを併せて検討した.【方法】2012年12月~2013年4月に4回以上SGBが行われた28例を,新規にSGBを施行したUSガイド下群13例計52回(US群),以前よりSGBを施行していた従来のランドマーク群15例計60回(LM群)として前向きかつ非盲目的に2群に分けた.またUS群をC6(C6群)・C7(C7群)の高さで亜群に分けた.SGB前後の両頬部,母指・小指球の皮膚温を測定,皮膚温変化を算出し解析した.【結果】皮膚温変化(℃)(平均値±標準偏差)は,US群の頬部,母指球,小指球で0.83±0.68,1.32±1.27,1.39±1.41,LM群では0.32±0.66,0.33±0.93,0.13±0.91と,有意にUS群の温度上昇が大きかった.ホルネル徴候に有意差はなかった.嗄声は有意にUS群で低かった.US群にはその他の合併症はなく,LM群で前胸部しびれが1例あった.また,C6群とC7群の比較では各部位で有意差はなかった.【結論】US群は,LM群より安全確実に施行可能である.またUS群では解剖学的理由によりC6-SGBが推奨される.
症例
  • 篠原 仁, 濱口 孝幸, 北原 雅樹
    2016 年 23 巻 4 号 p. 525-528
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    [早期公開] 公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    われわれは,脊髄くも膜下麻酔後の下肢痛に筋筋膜痛症候群の関与が考えられた症例を経験した.症例は77歳,男性.経尿道的手術が脊髄くも膜下麻酔下に切石位で行われた.翌日から離床するも,術後2日目(2POD)の歩行時に左足趾の痛みを自覚するようになった.経過とともに両下肢へと痛みの範囲が拡大し,歩行も困難となった.麻酔に難渋した経緯があったため4PODに整形外科医が診察を行ったが,有意な神経学的所見や画像所見はみられなかった.そのため5PODに痛みについてペインクリニックへ診察依頼となった.両下肢痛は歩行を主とする動作時にのみ生じ,両下肢には痛みを再現する多数のトリガーポイントがみられた.また,既往に変形性股関節症があり,ADLが著明に低下していたことが判明した.一方,麻酔関連の神経学的合併症,手術や体位に伴う神経障害は診察所見からは否定的であった.これらの臨床経過や各所見よりMPSを鑑別疾患として疑った.診断的治療として薬物療法と理学療法を開始したところ,症状は徐々に改善し10PODに退院となった.
  • 熱田 淳, 渡邉 恵介, 藤原 亜紀, 篠原 こずえ, 川口 昌彦, 橋爪 圭司
    2016 年 23 巻 4 号 p. 529-533
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    [早期公開] 公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    脳脊髄液漏出症の診断において,CT myelography(CTM)の硬膜外造影剤貯留像は精度が高く有用であるが,漏出点を特定することはできない.今回,dynamic myelography(DM)を用いてCTMを行い,漏出点の検出を試みた.脳脊髄液漏出症疑いの4症例に対し,計5回のDMを用いたCTMを行った結果,5回のDMのうち3回では,造影剤がくも膜下腔から硬膜外腔に流出し始める部位を確認することができ,漏出点を特定しえた.他の2回では漏出点は特定できなかったが,漏出点の範囲を限定することが可能であった.脳脊髄液漏出症の漏出点検出にdynamic myelographyが有用である可能性がある.
  • 谷口 奈美, 前田 愛子, 冨永 昌周
    2016 年 23 巻 4 号 p. 534-537
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    [早期公開] 公開日: 2016/09/06
    ジャーナル フリー
    電子付録
    原発性肢端紅痛症(primary erythromelalgia:PE)は,四肢末端の灼熱痛,発赤,皮膚温上昇を三徴とする難治性臨床症候群である.現状では確立した治療法はない.今回,PEの治療を経験したので報告する.症例は54歳,女性.10年前より温熱刺激による四肢末端の痛み,発赤,灼熱感を自覚するようになった.冷却により一時的に改善したが,痛み制御不良のため紹介受診となった.1日に20回程度の発作的な四肢末端の激しい痛みが出現し,睡眠障害を生じていた.自己免疫疾患,血液疾患は否定され,その症状からPEと診断した.治療は,星状神経節ブロックを施行し,症状の著明な改善がみられた.その後,α1アドレナリン受容体拮抗薬の内服を継続し,症状の改善を維持している.過去の文献から,PEは後根神経節,交感神経節やこれらの末梢神経のナトリウムチャネルの変異があると報告されている.この変異は痛みの感受性変化や血流障害を誘起し,また付随的な局所の発痛物質放出を招き,痛みを遷延化する可能性がある.本症例では交感神経遮断治療が奏効したことから,PEの病態に対する交感神経系の関与が示唆された.
  • 伊藤 恭史, 春原 啓一
    2016 年 23 巻 4 号 p. 538-541
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    がんによる痛みの管理は,世界保健機関(WHO)方式がん疼痛治療法を根拠に主に緩和医療の領域で発展してきた.しかし近年がんと診断された後,治療や治療後の観察が長期にわたる患者(がん長期生存者)が増加しており,それらの人々の痛みの管理の重要性が増している.今回当科で対応した3症例を紹介し,がん長期生存者の痛みの管理について考察した.これらの患者の痛みでとくに問題になったのは,化学療法に関連した神経障害痛,遷延性の術後痛,再発の不安や治療に関連した意思決定などの心理社会面の因子,オピオイド鎮痛薬の使用であった.がん長期生存者の有する痛みは慢性痛の要素が大きく,進行がんによるがん性痛と異なる対応が必要で,ペインクリニック医が積極的に介入するべき領域と考えられる.
  • 眞鍋 博明, 遠藤 佐緒里, 門田 奈実, 赤木 洋介, 馬場 三和, 小林 洋二
    2016 年 23 巻 4 号 p. 542-545
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    フェンタニルクエン酸塩経皮吸収型製剤(フェントス®テープ)が難治性慢性腰痛に対して奏効した症例を経験したので報告する.症例は44歳,女性.数年来の腰痛(NRSで9)でNSAIDsおよび物理療法などでは症状の改善が得られず当科外来を受診した.下肢症状は認めず,腰椎CT,MRIではL3/4椎間板の変性を認め,椎間板ブロックが著効したことから椎間板由来の腰痛と診断した.プレガバリン,トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェンでは十分な鎮痛効果が得られなかったため,フェントス®テープ1 mg/dayを開始した.腰痛はNRSで4と軽減し十分な鎮痛効果が得られたが,長期のオピオイド使用は仕事に支障が生じるとの理由で最終的に脊椎固定術を行いフェントス®テープから離脱した.腰痛に関してはNRSで2程度にコントロールできている.強オピオイドであるフェントス®テープは椎間板由来と思われる慢性腰痛に有用であった.他の鎮痛薬でコントロール困難な難治性腰痛に対するオプションの一つとなると考えられた.
  • 瀧澤 裕, 井上 莊一郎, 堀田 訓久, 五十嵐 孝, 丹波 嘉一郎
    2016 年 23 巻 4 号 p. 546-550
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    肺がんによる難治性胸部痛に対し,オピオイド,放射線治療にアルコールを用いた超音波ガイド下胸部傍脊椎ブロック(US-TPVB)を併用し,良好な除痛効果が得られた症例を経験した.症例は右下葉肺がんの61歳,女性.原発巣の増大,右肋骨転移,胸膜播種に伴う右胸部痛を認めた.オピオイドの増量,肋間神経ブロック,間欠的硬膜外ブロックでは対処困難であったため,アルコールを用いたUS-TPVBを行い,いったんは鎮痛が得られた.しかし,痛みが悪化し,病巣の拡大が判明したため,放射線照射と1回目より尾側でのアルコールによるUS-TPVBを行った.以後6カ月間,痛みとオピオイド投与量は減少し,患者の活動性は改善した.TPVBは,体幹片側を除痛でき,術後鎮痛では硬膜外ブロックと鎮痛効果が同等で,合併症が少ないことが示されている.これらの特徴を考慮すると,神経破壊薬を用いたUS-TPVBは適切な症例を選べば,がん性痛治療の選択肢になると考えられる.進行肺がんによる難治性がん性痛に対し,アルコールによるUS-TPVBを併用することで良好な除痛効果が得られた.
  • 清水 大喜, 紙谷 義孝, 鈴木 博子, 渡邉 美子, 馬場 洋
    2016 年 23 巻 4 号 p. 551-554
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    肛門痛,仙骨部痛を主訴に来院した患者に対して,陰部神経ブロックを行い陰部神経痛と診断し,パルス高周波法が奏効した症例を経験したので報告する.症例は70歳,女性.3カ月前から誘因なく仙骨部・肛門背側の自発痛が出現した.痛みは座位で増悪し,立位と仰臥位では消失した.直腸診により仙骨前面に圧痛を認めたことから陰部神経痛を疑い,陰部神経ブロックを試みたところ,痛みは一時的に消失した.再現性をもって陰部神経ブロックの効果を認めたため,陰部神経に42℃・180秒のパルス高周波法を行った.治療後から,痛みの軽減を認め,座位をとることが可能になった.その後,少量のプレガバリンとノルトリプチリンの内服のみを継続しているが,日常生活への支障はなくなった.
  • 金出 政人, 久芳 昭一, 吉田 省二, 本川 哲, 宮﨑 昌利, 菅 尚義
    2016 年 23 巻 4 号 p. 555-558
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    腰痛の原因の一つに,上殿皮神経(superior cluneal nerve:SCN)が腸骨稜近傍で胸腰筋膜を貫通する際に絞扼・牽引されて生じる上殿皮神経障害(disorder)(SCN-D)がある.今回,SCN-Dに対して超音波ガイド下にパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を施行し,良好な鎮痛効果が得られた症例を経験したので報告する.症例は76歳の女性.とくに誘因なく左臀部痛が出現し,数分間も座れず座位で食事ができない状態であった.整形外科でL5/S1左椎間孔部狭窄症と診断され,薬物療法,骨盤牽引,腰部硬膜外ブロック,左L5神経根ブロックが施行されたが,無効なため麻酔科・ペインクリニックに紹介となった.SCNの走行する左腸骨稜部に,左臀部外側へ放散痛を呈するトリガーポイント(TP)があり,TP注射後に座位時の痛みが消失したためSCN-Dと診断した.しかしTP注射の鎮痛効果は数時間しか持続せず,TP近傍の超音波検査を行ったところ,腫脹したSCNを確認したため,長期鎮痛効果を期待して,超音波ガイド下にPRFを施行した.PRFの鎮痛効果は1カ月以上持続し,座位での食事も可能であった.
  • 岩元 辰篤, 白井 達, 森本 昌宏, 岩崎 昌平, 南 奈穂子, 中尾 慎一
    2016 年 23 巻 4 号 p. 559-562
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    プレガバリン(PGB)を長期間継続投与中で,治療効果が不明瞭な症例において,投与中止が可能であるかにつき調査した.PGBを6カ月以上投与している11症例を対象とし,続行によってもさらなる改善がないと判断した場合,受診ごとに投与量を半減し,痛みが増強した場合には元の投与量に戻すこととして,25 mg/日まで減量が可能となった時点で中止とした.この結果,7例では減量後も痛みの程度に変化はなく中止が可能であったが,4例では減量あるいは中止により痛みが増強したために投与を継続した.以上,治療効果判定が不十分なままPGBを漫然と投与している症例があることが判明した.今後は,長期間投与を行っている症例では,漸減・中止を考慮すべきと考えられた.
  • 猪野 博史, 中楯 陽介, 浅野 伸将, 寺田 仁秀, 内田 昌子, 松川 隆
    2016 年 23 巻 4 号 p. 563-567
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー
    幻肢痛・断端痛に,末梢神経高周波熱凝固法が著効した症例を経験した.症例は70歳代の女性.X-1年,仕事中に左前腕1/2より末梢を切断した.X年,失った手指の電撃痛と拳を固く握るような痛みを訴え,断端部にアロディニアを認めた.幻肢痛・断端痛と診断し,漢方薬や神経ブロックなどで治療した.X+1年6カ月,拳を握るような痛みは軽快したが,電撃痛と断端痛が残存した.超音波ガイド下正中神経高周波熱凝固法(80℃・180秒)を施行した.X+2年,幻肢電撃痛が激減し断端痛は消失した.幻肢痛に対する末梢神経高周波熱凝固法は神経腫由来の異常インパルスを遮断すると考えられる.本症例は,皮膚受容感覚に関連した痛み(電撃痛)を伴う幻肢痛・断端痛に対する,末梢神経高周波熱凝固法の有用性を示唆する興味深い1例である.
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