2022年1月1日に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発効される.ICD-11には,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられる.この分類コードは国際疼痛学会(IASP)のタスクフォースによって開発された慢性疼痛の体系的な分類に基づいている.分類の特徴は慢性疼痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分けたことである.慢性一次性疼痛には基礎疾患や組織障害が明らかでない線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群などの慢性疼痛症候群が含まれる.一方,慢性二次性疼痛は基礎疾患や組織障害による二次的な疼痛で,病態や身体部位によってさらに6つのカテゴリーに分類されている.IASPの分類には慢性疼痛に関する最近の新しい科学的知見をもとにした疼痛概念が反映されており,今後の慢性疼痛の診療に大きな進歩をもたらすと考えられる.また公開されたWHOのICD-11ブラウザは,慢性疼痛の診療用ツールとしても有用である.
【目的】中等度から高度の非がん性慢性疼痛患者を対象にオキシコドン塩酸塩徐放錠(OXC)からOXCの新剤型であるS-8117OTR(OTR)への切替え前後の有効性と安全性,薬物動態を評価する.【方法】国内27施設において,多施設共同,非無作為化オープンラベル試験を実施した.試験は,用量調節期(14~29日間,OXCを投与して切替え移行基準を満たすまで用量調節を行う),切替え治療期(14日間,OTRに切替えて用量を維持し評価を行う),漸減期(7日間),後観察期(7日間)で構成した.OXCからOTRへの切替え前後の有効性と安全性,薬物動態を評価した.【結果】81名が登録され,そのうち61名が切替え治療期に移行し44名が完遂した.主要評価項目の切替え治療期の疼痛コントロール維持率[95%信頼区間]は80.3%[68.2,89.4]であった.有害事象は81例中65例(80.2%)に発現した.主な副作用は,便秘,悪心,傾眠,嘔吐であった.薬物依存と評価された症例はなかった.【結論】OXCからOTRへの切替え前後において有効性と安全性,薬物動態に大きな差はなかった.
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は,脊髄前角の運動ニューロンの変性による四肢および体幹の随意筋の萎縮をきたす疾患であり,成長とともに関節拘縮や側弯症を伴うことがある.わが国でもSMA治療としてヌシネルセン髄注療法が適応となった.SMA患者では脊椎の変形や側弯,回旋に伴い脊髄くも膜下穿刺が困難な症例や,経過中に脊柱変形が進行性に悪化し,脊髄くも膜下穿刺がさらに困難となることもある.今回われわれは,経椎間孔アプローチによる脊髄くも膜下穿刺を安全に行い,ヌシネルセン投与を行うことができた症例を2例経験した.
会陰部痛の原因疾患はさまざまで治療は確立していない.今回,S状結腸切除術後の会陰部痛患者に対し不対神経節ブロックを行ったところ,会陰部痛が消失し,虚血性腸炎様変化が改善した症例を経験した.症例は48歳男性で,S状結腸切除術7カ月後から排便時に増悪する会陰部痛が出現し,下部内視鏡検査で吻合部から肛門側の虚血性腸炎様変化を認めた.透視下不対神経節ブロック(無水エタノール注入,高周波熱凝固)を施行したところ,治療後徐々に痛みが軽減し,5カ月後に痛みが消失した.痛み消失後の下部内視鏡検査で,虚血性腸炎様粘膜の改善を認めた.不対神経節ブロックによる血流改善効果は過去に報告がないが,本症例では会陰部痛が改善し,ブロック5カ月後時点で腸管血流が改善している可能性が考えられた.
虚血肢をきたす疾患には,重症血管病変(critical vascular disease)とレイノー症候群がある.また,これらの虚血肢に対し脊髄刺激療法(SCS)は有効とされている.しかし,その報告のほとんどは重症血管病変による虚血肢に対する治療でありレイノー症候群に対するSCSの報告は散見される程度である.今回われわれはレイノー症候群に対するSCSによる治療が有効であった2症例を経験した.また,その際の効果判定に経皮酸素分圧(TcpO2)が有用であった.