板状材料の切断に実用されている各種のせん断加工法のうち,精密加工に適用できる複刄によるせん断加工法について,そのせん断現象を理論的に考察を行い,剛塑性材料のせん断を平面ひずみ問題として解析し,更に,複刄の両刄先を結ぶ面を含む薄い層でせん断変形するという「せん断模型」を提案し,各種せん断特性に説明を与え,せん断抵抗の算出を行った.次に,この研究の内容と成果とを要約する.
1)複刄によるせん断においては,多くの材料では,せん断荷重の最大点で工具刄先から材料内にクラックが入り,これが成長して切断を完了する.このことは,クリアラソス部分の材料の顕微鏡写真で確かめられている.このクラックの発生場所は,応力分布の関係で刄先から僅かに工具側面に入つた所であるために,せん断製品には必らずかえりが残つてくる.
2)剛塑性材料について,せん断加工の初期のすべり線の構成を調べ,2,3のモデルですべり変形を開始する時のせん断荷重(せん断抵抗)を計算し,これがクリアラソスの増大と共に小さくなることを示した.
3)加工硬化のある実在の材料のせん断現象については,工具軸方向の単純せん断変形に続いて工具刄先を結ぶ薄い層でせん断変形が起るという「せん断模型」を想定すると,せん断特性の多くの事柄に説明がつくほか材料の塑性曲線からせん断抵抗を計算で出すことができ,各種の材料やクリアランスについて,実測値の大約10%以内の誤差で一致した.
4)両刄先を結ぶ薄い層でのせん断変形に要する せん断荷重はポソチ・ストロークの増大と共に低下するが,その関係曲線は,クリアラソスの極く大きい場合を除くと,クリアランスの大きさに殆んど無関係である.しかし,最初の単純せん断変形の関係曲線は,クリアランスが大きくなると,次第に低下している.従って,両関係曲線の交点として与えられるせん断抵抗は,クリアランスの増大と共に逆に低下する.また,クリアランスが大きくなると共に,最大せん断荷重点までのポンチストロークも増大するという事実も簡単に説明できる.
5)直線せん断の揚合,クリアラソスが同一ならばダイス上で材料を固定した時のせん断抵抗が,材料支持の時のせん断抵抗より大きいという実験的事実があるが,これも最初の単純せん断変形に対するせん断荷重とポンチストロークの関係曲線が,材料支持のものの方が材料固定のものより低いことにより説明することが出来る.
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