材料としてのガラスの最大の欠点として,もろく割れやすいという性質があげられる。すなわち,実用ガラスの破壊強度は約10kg/mm
2,あるいはそれ以下のきわめて低い値を示すのが常であり,これは原子間の結合力から予想される理論強度の1/100以下に過ぎない。この原因について,Grif丘thはガラスの内部には外部からの応力を著しく集中させるような大小の欠陥いわゆるGriffith crack-が潜在しており,見かけの応力は小さくても,欠陥の先端には理論強度に'匹敵する応力がかかることによって,ガラスの破壊が低応力下で容易に起こると仮定した。これが有名なGriffithの仮説で,以来ガラスの破壊強度を取り扱う場合の基本的な考え方として,広く受入れられて来たが,Griffith crackの本質については,有力な手がかりが得られないまま,その存在が漠然と信ぜられていたに過ぎなかった。この間,結晶の分野では,転位論の急速な進展によって,機械的性質をミクロな立場から理解する道が広く開けてきたのであるが,ガラスはもともと規則的な原子配列を欠く非晶体であるから,転位のような欠陥の存在は構造的に考えることができない。ガラスの強度に対するわれわれの知識は長い間Griffithの段階に留っていた感がある。
ようやく最近に至って,
(1)Griffith crack発生の原因あるいはその性状がかなり明瞭に把握されるようになったこと,
(2)Griffith crackの全く存在しないガラス,いわゆる処女ガラス(pristine glass)の強度に対する知識が著しく増大したこと,
などにより,ガラスの強度に対する過去のイメージは大幅に修正され,この方面の研究もようやく軌道に乗ってきたと思われる。転位を含まないガラス構造が,高強度材料の特質として,にわかに注目されるようになったのも,この一面を表わしている。これらの問題に関しては,すでにHilligあるいはErnsberger によるすぐれた解説もあるが,以下,その後の実験結果をも含め,ガラス強度に関する最近の研究を概観し,将来の展望を述べてみたいと思う。
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