以上のごとく, セラミックカッタの熱亀裂発生の原因を考察した結果を次の諸点にまとめることができる。
(1) 切れ刃部を1/8無限体の一部と考え, 熱解析の対象位置を切りくず接触面の中央の狭い部分に限定して, 表面から内部へのごく短時間の熱伝導を考えると, 結局半無限体について考えたと同じ結果を得た。そして, この方法により焼結アルミナの熱伝導率を
k=7.2kcal/m・h・℃にとり, 切削温度θ
w=1000℃を刃面に与えて温度分布を求めてみると, 加熱行程 (切削行程すなわち切削速度290m/minの場合で, 時間
t=0.024s) における熱影響部は表面下数μ以内であった。
(2) 上述の加熱行程の終りにおける温度分布をもつ工具の刃面に
h=400kcal/m
2・h・℃の熱伝達係数を適用して, 冷却行程 (非切削行程) における温度分布の時間的変化を図解法により求めた。その結果, 表面温度と内部の最高温度との差はほとんどみられず, 工具表面には破壊に関係する程度の引張熱応力は発生しないと考えられた。また熱伝達係数が小さい (空冷だから) ので加熱行程で蓄積された熱の一部は冷却中にも内部へ伝導し, その結果熱影響部はかえって一そう内部へ深くなった。
(3) そこで, 無限平板の曲率を無視した熱応力の式から, 加熱行程の終りから冷却行程にかけての熱応力を検討した。このとき工具表面の引張熱応力は無視し, 表層部の圧縮熱応力と内部の引張応力を求めたが, いずれも破壊応力以下であり, 表層部のせん断熱応力だけが破壊応力をはるかに越えることがわかった。そしてせん断熱応力分布の時間的変化を求め, 表面からせん断破壊応力 (20kg/mm
2) を越えるところまで亀裂が入るとして求めると, 切削実験で実測した亀裂深さとかなりよく一致した。
(4) 乾式切削における工具の熱衝撃は主として急速加熱にもとずくと解せられる。終りに, 本研究を行なうに当って, 格別の御指導と御鞭達を賜わった, 大阪大学, 上田太郎教授ならびに田中義信教授に心より感謝の意を表する次第であります。
抄録全体を表示