以上のように,流れの可視化により被削材表面における流れの状態を把握できた.この結果と壁圧や熱伝達率の分布結果を総合して,熱と流れの挙動について考察を加える.
砥石車周辺ではつれ回り流や吹出し流が生じ,多孔質性に起因する吹出し流は粒度が粗くなると増大する.これらの流れは,被削材表面では岐点(衝突点)が
X=100m搬付近の衝突噴流になる.この衝突噴流は吹出し流が大きい場合,すなわち粒度が粗い場合ほど顕著になるが,このことは流れの性質から説明できる.つれ回り流は砥石車の外周面に対し接線方向の流れであるのに対して,吹出し流は遠心力に誘発される法線方向の流れである.表面にある角度で衝突するためには,接線方向の流れだけでは説明しにくく,吹出し流が衝突噴流の挙動を大きく左右すると考えられる.
ところで,衝突噴流による熱伝達率に関する研究は伝熱工学の分野で数多く行われている.それらと本実験結果を比較すると,岐点の外側で熱伝達率が極大値を示す傾向など,類似した点が認められる.このことから,粒度が粗い砥石車では局所熱伝達率が
X=60mm付近で極大値を示すが,その理由は衝突噴流により熱伝達率が向上したためと思われる.
衝突噴流は,研削点を通過する後方流と砥石幅の外側に広がる側方流の三つに分岐する流れと密接に関連している.これらの流れは多孔質性に起因した砥石車周辺の流れと呼応すると考えられる.壁圧分布において
X=30mm付近で正圧を示す領域が砥石幅より広がる原因は,側方流の方向がこれに対応することから理解できる. 後方流に関しては正圧の極大値が高いことから,研削点近傍のC領域で吹出し流とは反対に空気が砥石内部に浸入し,研削点を通過した後再び吹き出す,という現象が予想される.この現象を仮定することで実験結果を無理なく説明できるが,今回の実験結果だけでこの現象の存在を証明することは困難であり,この点に関しては今後の課題と考えている.
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