静脈経腸栄養
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25 巻, 4 号
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特集:シンバイオティクス、プロバイオティクスの臨床効果
  • 諸富 正己
    2010 年 25 巻 4 号 p. 911-916
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    腸内フローラの研究からプロバイオティクスという新しい概念が生まれ、これが形となって実際に健康維持や病気の予防、治療に使われるようになった。プロバイオティクスとは、「腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義され、その代表的なものは乳酸菌やビフィズス菌である。抗生物質(アンチバイオティクス)に対比される言葉で、「共生」を意味する「プロバイオシス」から派生した言葉である。プロバイオティクスが最近注目されるのは、近代医療が抱える様々な問題–抗生物質と耐性菌の問題など–を考えると当然かつ自然の成り行きで、現代の農業にたとえてみると、農薬や化学肥料への依存から自然の生態系を積極的に利用しようという有機農法への回帰に例えることができる。ここでは最近の腸内フローラ研究の進展について、明らかにされつつある共生のメカニズムを中心に解説してみたい。
  • 清水 健太郎, 小倉 裕司, 朝原 崇, 野本 康二, 諸富 正己, 中堀 泰賢, 山野 修平, 田崎 修, 鍬方 安行
    2010 年 25 巻 4 号 p. 917-922
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    腸管は、敗血症、重症感染、外傷、熱傷など重度侵襲時の重要な標的臓器であり、“the motor of critical illness”として注目されている。シンバイオティクス療法は、生菌のプロバイティクスだけでなく、増殖因子であるプレバイオティクスを併用する療法のことであり、腸内環境を整える治療として重症病態における報告が近年注目されている。重症SIRS患者にシンバイオティクス(ビフィズス菌、乳酸菌、オリゴ糖)を投与した結果、非投与群に比べて腸内細菌叢と腸内環境が保持され、経過中の感染合併率も有意に低下した(p<0.05)。本稿では、重症SIRS患者の腸内細菌叢・腸内環境に関する一連の研究結果をまとめ、腸管内治療の効果と限界を示す。
  • 金森 豊
    2010 年 25 巻 4 号 p. 923-928
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    我々はプロバイオティクスとプレバイオティクスを併用するシンバイオティクス療法を1997年から重症小児外科疾患患児に応用してきた。これは、Bifidobacterium breve Yakult 株とLactobacillus casei Shirota 株の二種類のプロバイオティクスとガラクトオリゴ糖を用いる方法で、この治療により異常な腸内細菌叢を有した患児の腸内細菌叢を改善し、腸炎の頻度を低下させて患児の栄養状態を改善することが可能であった。最近では、重症患児において早期から上記二種類のプロバイオティクスと母乳を併用する予防的シンバイオティクス療法をおこなって、患児の腸内細菌叢をいち早く正常に誘導し、成長を促す試みをおこない、良好な結果を得ている。本稿では、予防的プロバイオティクス療法の実際を症例で提示し、その効果をもたらす理論的背景について解説する。
  • 田附 裕子, 前田 貢作, 和佐 勝史, 飯干 泰彦, 藤元 治朗
    2010 年 25 巻 4 号 p. 929-934
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    小児外科外来では、ヒルシュスプルング病・類縁疾患などとの鑑別を含め慢性便秘症の症例に多く遭遇する。基礎疾患が除外された慢性便秘症の多くは生活習慣による機能性便秘であり、排便習慣が確立するまでの根気強いフォローが必要となる。近年、予防医学の観点からプロバイオティクスの効果が報告されている。小児の慢性便秘に対してもプロバイオティクスの臨床的な投与効果が期待される。
  • 清原 由起, 中長 摩利子, 高橋 琢也, 位田 忍, 窪田 昭男
    2010 年 25 巻 4 号 p. 935-939
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    Hirschsprung 病(H病)類縁疾患、特に新生児期より症状をきたし、長期間の静脈栄養を要する症例は、静脈栄養による肝障害とうっ滞性腸炎に起因する敗血症とが相まって致命的な肝不全あるいはIntestinal failureをきたす極めて予後不良な疾患である。われわれは、予後不良の最大の要因はうっ滞性腸炎、すなわちbacterial overgrowth syndromeと考え、H病類縁疾患症例には積極的にシンバイオティクスを投与している。ここでは糞便中の細菌学的解析を行った3症例について報告する。何れもうっ滞性腸炎、イレウスの発症頻度は低下した。H病類縁疾患の病態は複雑であり腸内細菌叢の異常のみが要因ではないが、これを是正することで臨床症状の改善が期待できる可能性が示唆された。
  • 内田 恵一, 井上 幹大, 大竹 耕平, 松下 航平, 橋本 清, 荒木 俊光, 田中 光司, 三木 誓雄, 楠 正人, 小池 勇樹, 中澤 ...
    2010 年 25 巻 4 号 p. 941-944
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    短腸症候群に対する絶対的根治治療としては、小腸移植手術しかないが、治療成績や保険未適応などの問題もある。近年、内科的治療として、シンバイオティクス療法が注目され、自検例を含めて、腸管内細菌叢バランスの改善や、bacterial translocationの抑制、そして、栄養状態の改善など、免疫系、栄養、代謝への有用性が多く報告されている。しかし、免疫系を低下させるという研究報告はないものの、投与菌種により敗血症を発症したという報告は認められ、その有用性のエビデンスレベルは、未だ低い。短腸症候群に対する内科的治療は、ESPENでは、潰瘍性大腸炎やクローン病とともに、エビデンスの評価とそれに基づいたガイドラインが作成されているものの、シンバイオティクス療法に関する記載は認められない。その有用性を明確にするためには、多施設共同によるエビデンス作りが必要である。
  • 菅原 元, 江畑 智希, 横山 幸浩, 伊神 剛, 國料 俊男, 角田 伸行, 深谷 昌秀, 板津 慶太, 上原 圭介, 石黒 成治, 梛野 ...
    2010 年 25 巻 4 号 p. 945-950
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    胆道癌術後に生じうる感染性合併症の原因のひとつに,腸内細菌のbacterial translocation (BT)が挙げられる.腸管内での細菌の異常増殖や細菌叢の変化によりBTは発症しやすい.当科ではこの予防を目的として,(1)周術期の外瘻胆汁の返還,(2)周術期のシンバイオティクス投与,(3)術後早期より経腸栄養の開始,を胆道癌手術症例に対する栄養管理対策として,手術症例に施行している.シンバイオティクスには(1)免疫力を増強する効果,(2)炎症反応を軽減する効果,(3)閉塞性黄疸および手術により乱れた腸内環境を改善する効果,が認められる.術前にはシンバイオティクスを食品として内服してもらい,術後は経腸栄養ルートより投与している.上述の栄養管理対策が確立した後の,胆道癌に対する肝切除例の術後感染性合併症発生は減少している.
臨床経験
症例報告
  • 小茂田 昌代, 倉橋 祥子, 小熊 麗子, 杉山 奈津子, 赤坂 裕子
    2010 年 25 巻 4 号 p. 957-961
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    胃瘻造設後6年を経過した患者において、瘻孔からの漏出液による皮膚炎がみられるようになった。洗浄やティッシュこよりの使用を試みたが改善せず、徐々に悪化し発赤部分の拡大が見られるようになった。皮膚炎の主な原因は漏出してくる胃液と考えられたため、胃液に含まれる胃酸を中和するため、アルカリ化剤として重曹を用い、漏出液を吸収し線維芽細胞の活性化作用のある白糖を加えた重曹シュガー軟膏を調製し使用した。観察期間において、体重や血清Alb値に変化がなく、常に酸性漏出が見られ、他に発赤改善につながる因子は考えられなかった。胃瘻長期管理において酸性漏出液により瘻孔周囲発赤を呈した患者に置いて重曹シュガー軟膏が有効であった一症例を経験したので報告する。
  • 平光 高久
    2010 年 25 巻 4 号 p. 963-967
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の男性.2007年7月,他院にて脾門部リンパ節転移による脾静脈閉塞を伴う胃癌の診断で,噴門側胃切除術(空腸間置再建),膵体尾部切除術,脾臓摘出術が施行された.8月上旬の退院後,吐血を認め腹部CTで腹腔内血腫,腹腔内膿瘍を認め,他院に再入院となり開腹止血,ドレナージ術が施行された.8月下旬に再びドレーンより生臭い褐色の排液,吐血,発熱を認めたため,当院に転院となった.腹部造影CTで造影剤の血管外漏出と膿瘍腔を認めたため,動脈塞栓術にて止血した.その後は,ドレーン管理,経鼻的に縫合不全部より肛門側に留置した経管栄養チューブからの経腸栄養で治療した.入院後29日目には血清タンパク値7.3g/dL,アルブミン値3.2g⁄dLにまで改善を認めた.入院後62日目にleakを認めず,瘻孔が閉鎖していることを確認後,経口摂取開始し,入院後68日目に退院となった.
  • 静間 徹, 福山 直人
    2010 年 25 巻 4 号 p. 969-972
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    症例は65歳女性。非代償性肝硬変にて、高アンモニア血症を認めており、2009年4月より、亜鉛含有薬であるPolaprezinc150mg⁄日の投与を開始した。投与前のヘモグロビン(Hb)値は11g⁄dL台、血小板(Plt)値は8×104⁄μL程度で推移していたが、投与23日後には、RBC 686×104⁄μL, Hb 23.1g⁄dL, Ht 63.9%,Plt 2.6×104⁄μLと、多血症・血小板減少症が認められた。同薬剤の中止から1週間後には、Hb•Plt値は、Polaprezincの投与前と同程度の値となった。Polaprezincの投与による、肝硬変患者の多血症の報告は、これまでにみられていないが、本例では、亜鉛の補充によるインスリン様成長因子I(IGF-I)の造血作用の亢進が、多血症の発症機序である可能性が推測された。
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