静脈経腸栄養
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26 巻, 5 号
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特集:がん治療と栄養療法~最近の話題から~
  • 吉川 貴己, 三箇山 洋, 桑原 寛, 青山 徹, 林 勉, 尾形 高士, 長 晴彦, 円谷 彰
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1205-1210
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    がんは、S字曲線を描いて増殖する。腫瘍細胞数が109個で約2cmとなり、臨床検出段階となる。直径が0.5mmを超えると、腫瘍中心部が低酸素状態となる。腫瘍は、血管新生因子や糖輸送蛋白、解糖系酵素を誘導し、低酸素環境に適応する。腫瘍内では、糖取り込みが亢進し、解糖系が亢進する結果、乳酸が蓄積する。肝臓では、腫瘍により生成される乳酸、末梢組織における蛋白質の崩壊により生成される糖原性アミノ酸、脂肪の崩壊により生成されるグリセロールを基質とした糖新生が亢進する。これらの代謝変動は、免疫細胞や腫瘍より産生されるサイトカインやペプチドによっても誘導される。代謝変動に加え、食欲低下、末梢組織のインスリン抵抗性などにより、癌悪液質が発症する。現在のところ、がん悪液質を改善できる有効な治療法は開発されていないが、n-3脂肪酸 (EPA) を高濃度に含む高濃度カロリー栄養剤の有用性が期待されている。
  • ―ポリアミン、脂肪酸、ポリフェノールについて―
    早田 邦康
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1211-1220
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    食物中に含まれる食成分であるポリアミン、脂肪酸、ポリフェノールについて、これまでに報告されている検討結果を概説した。近年の研究において、これらの食成分が多くの生理活性を有することがわかってきた。しかし、とくにヒトにおけるがん病態への影響や健康への効果に関しては不明なことが多い。食成分における一般的な問題としては、疫学調査や試験管内および動物実験によって得られた食成分に関する検討結果を拡大解釈する傾向があることである。これまでに得られた食成分の生理活性を応用してがん患者の病態治療の一助にするために、慎重に検討する必要がある。
  • 春田 いづみ, 浅川 明弘, 乾 明夫
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1221-1225
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    がん患者は、しばしば食欲不振、体重減少、全身倦怠感などの症状を呈し、悪液質 (cachexia) という状態に至る。悪液質における体重減少は、飢餓時とは異なり、脂肪組織のみならず骨格筋の多大な喪失を呈する。悪液質の要因として、食欲低下とエネルギー消費の増大だけでなくサイトカインや腫瘍由来物質の産生が関与している。近年、がん患者の食欲不振の原因として注目されているのが、脳内視床下部に存在するneuropeptide Y (NPY) などの食欲促進ペプチドとproopiomelanocortin (POMC) などの食欲抑制物質との不均衡である。グレリンは、胃から分泌され、迷走神経や視床下部に存在する受容体GHSR 1aを活性化し、NPYやAgRPの発現と遊離を増加させ、摂食促進および消費エネルギー抑制に作用する。また、消化管にも液性、神経性に作用し、胃酸分泌促進作用や蠕動運動亢進による胃排出促進作用を有する。
  • 宮田 博志, 日浦 祐一郎, 瀧口 修司, 高橋 剛, 黒川 幸典, 山崎 誠, 中島 清一, 森 正樹, 土岐 祐一郎
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1227-1232
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    グレリンは主に胃で分泌・産生され、中枢投与でも末梢投与でもその効果を発揮する唯一の摂食促進物質である。上部消化管術後では血中グレリン値が低下し、血中グレリン値低下と体重減少が相関することから、われわれは上部消化管術後にグレリン投与を行うことで、上部消化管術後に特徴的な経口摂取量の低下や体重減少が抑制できるかどうかランダム化比較試験を施行して検討した。胃全摘術後および食道亜全摘+胃管再建術後にグレリンを投与することで食欲が亢進し、経口摂取量が増加し、その結果、術後早期の体重減少が抑制された。またシスプラチンを含む化学療法施行例では早期に血中グレリン値が低下し、血中グレリン値の低下と化学療法に伴う食欲低下・経口摂取量の減少は相関した。このように消化器がん、特に上部消化管がん治療においてはグレリンの機能を十分に解明し、それを臨床応用につなげることが患者QOL向上のために重要である。
  • ―消化管毒性を中心に―
    細見 誠, 倉地 果純, 後藤 愛実, 西原 雅美, 瀧内 比呂也
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1233-1239
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    がん化学療法を施行する際、患者個々によりさまざまな有害事象に遭遇することが多く、その有害事象により患者のquality of life (QOL) の低下を招くだけでなく、がん化学療法の継続治療を困難にし、ときには生命に関わる重篤な状態になる場合もある。がん化学療法による消化管毒性とそれに伴う栄養障害は、多職種によるNutrition Support Team (NST) を介した栄養評価と栄養管理を行うことで改善できる可能性があり、入院患者だけではなく、外来患者においても十分なNSTの介入が行われるような工夫が必要である。
  • 峯 真司, 比企 直樹
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1241-1246
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    上部消化管がん術後には胃機能の低下喪失、食餌通路変更等により栄養障害が引き起こされる。近年欧米で広まっている肥満手術における術後合併症においても同様の障害が起こる。古くから知られているダンピング症候群や、カルシウム、鉄、ビタミンB12、葉酸の欠乏症だけでなく、高インシュリン性低血糖やビタミンE欠乏症など最近明らかになってきた合併症も熟知する必要がある。手術による栄養障害を予防し、症状が起きた場合には適切に対処することが、術後QoL低下を防ぐことにつながる。
原著
  • 山賀 華奈子, 合田 文則, 河本 彩, 土屋 奈穂子, 小川 紗扶里, 河野 友美, 山縣 誉志江, 栢下 淳
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1247-1253
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    【目的】下痢や胃食道逆流などの胃瘻栄養に伴う合併症の予防法のひとつに、経腸栄養剤半固形化の有用性が散見される。しかし、これらの物性の測定方法は統一されておらず、現時点では製品間の比較評価が困難である。そこで本研究では、半固形化経腸栄養剤の物性評価方法を検討した。
    【方法】試料に市販の半固形化経腸栄養剤を用い、それぞれの粘度とかたさを測定した。粘度測定にはスピンドル型回転粘度計およびコーン・プレート型回転粘度計を、かたさの測定にはクリープメータを用いた。また、併せて官能評価を行い、測定計で得られた物性値が人の感覚を反映しているかを検討した。
    【結果】半固形化経腸栄養剤の粘度は、同一栄養剤でも測定条件により異なる値を示した。また、粘度とかたさの間に相関関係を認めたが、回帰直線上から外れている製品も存在した。
    【結論】半固形化経腸栄養剤の物性評価は、かたさとスピンドル型回転粘度計60rpmでの粘度の2つの測定指標による評価が望ましいことが示唆された。
  • 竹村 有美, 山下 智省, 清木 雅一, 山本 多加世, 福田 裕子
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1255-1264
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    【目的】経管栄養法における合併症対策に有用である半固形化栄養材が胃内でも物性を保持できているか明らかにする。
    【対象及び方法】キサンタンガムを主成分とした増粘剤添加液体栄養剤7種および市販半固形化栄養剤9種を人工胃液に添加、B型粘度計を用い粘度測定した。
    【結果】加水により全ての半固形化栄養材の粘度は低下した。キサンタンガムに比し寒天による半固形化栄養材がより粘度は低下した。人工胃液添加後の物性変化は一定ではなく、組成蛋白質の等電点が製剤のpHより低い栄養剤には粘度上昇がみられ、逆に組成蛋白質の等電点が製剤のpHより高い栄養剤は粘度が低下する傾向を認めた。また、食物繊維を含む栄養剤において、人工胃液中での粘度上昇の程度が大きかった。
    【結論】半固形化栄養材の使用にあたっては、製品の特徴を理解し、その物性が胃内においても保持されているとは限らないことを認識しておく必要がある。
  • 葛谷 雅文, 榎 裕美, 井澤 幸子, 広瀬 貴久, 長谷川 潤
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1265-1270
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    目的 : 在宅ならびに特別養護老人ホーム (以下、特養と略) に入所中の要介護高齢者を対象に経口摂取困難者の実態ならびに、経口摂取困難者の背景を明らかにすることを目的とした。
    対象及び方法 : 名古屋市在住の在宅要介護高齢者 (n=1,112, 81.3±8.1(SD)歳)、ならびに特養入所者 (n=655, 85.2±7.9(SD)歳) を対象とした。
    結果 : 在宅要介護高齢者のうち、栄養摂取ルートは経口94.7%、経管栄養4.9%、経静脈栄養0.4%であった。特養入所者では経口摂取は91.8%、経管栄養は8.2%で、経静脈栄養利用者はいなかった。経口摂取者のうち、嚥下障害を有する割合は在宅33.7%、特養で38.6%と高率であった。経管栄養利用者ならびに嚥下障害者では栄養不良の割合が正常者に比較し高率であった。経管栄養利用者ならびに嚥下障害者に関連する因子として日常生活障害、認知症、神経変性疾患などが抽出された。
    結論 : 在宅ならびに特養における要介護高齢者には多くの経口摂取困難者が存在し、正常に経口摂取できる対象者と比較し栄養不良が多く存在していた。
  • 槇枝 亮子, 遠藤 陽子, 寺本 房子, 岡 保夫, 松本 英男, 平井 敏弘
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1271-1275
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    食道癌の手術は侵襲が大きく、縫合不全や術後肺炎などの術後合併症が多いことが知られている。術後合併症を予防するためには適切な術前栄養管理が必要であるが、どのくらいの栄養投与が適切なのか、進行度による差はあるのかという知見は少ない。そこで、食道癌患者39例を対象に間接熱量測定を行い、病期や癌治療によるエネルギー代謝の違いについて検討した。食道癌の進行度別に%BEEを検討したところI期 (6例) ; -10~-8%、II期 (7例) ; -8~-1%、III期 (14例) ; -19~+15%、IV期 (12例) ; -11~+37%で、進行度が進む程代謝亢進が見られ、癌病巣切除後や化学療法施行後ではエネルギー代謝の亢進はみられなかった。このことから、食道癌患者のエネルギー量決定にあたってはH-B式を用いて算出する方法では、治療前のストレス係数はI、II期は1.0、III、IV期では1.1~1.3と進行度を考慮してストレス係数を乗じることが適切と思われた。
  • 菅沼 理江, 土岐 彰, 白澤 貴子, 戸井 博子
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1277-1284
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    【目的】日本人の新身体計測基準値JARD2001に準じた小児の基準値を作成する. 小児用身長・体重予測式を構築する.
    【対象及び方法】2005年から3年間, 栄養障害のない0~15歳の小児を対象に上腕周囲長, 上腕三頭筋部皮下脂肪厚, 膝高を計測し, 上腕筋囲長と上腕筋面積と合わせて性別・年齢区分別基準値を作成する. 基準値としての妥当性を年齢, 身長, 体重との相関関係から検討する. 身長・体重予測式は年齢と各計測項目から重回帰分析により求める.
    【結果】475例の測定値は全項目で男女とも年齢との有意な相関を認めた. 身長予測式は膝高と年齢から式が得られ, 年齢係数は正となった. 体重予測式は男女とも年齢と上腕周囲長を含む3変数を独立変数とする回帰式が構築された.
    【結論】栄養評価の指標として有用な小児の身体計測基準値を作成した. 小児期の成長を反映した身長・体重予測式を構築した.
臨床経験
  • 八木 仁史, 千葉 正博, 岩野 倫明, 日高 直美, 菅野 丈夫, 添野 民江, 佐藤 千秋, 岩久 建志, 真田 裕
    2011 年 26 巻 5 号 p. 1285-1290
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル フリー
    【目的】免疫賦活経腸栄養剤 (IED) の有用性については多数報告されているが、安全性については不明な点が多い。IEDを安全に使用するため、IEDを使用中に問題となる血中尿素窒素 (BUN) の上昇について危険因子を解析した。
    【方法】インパクト®を投与された36例を対象に、BUN上昇群、非上昇群に分け、年齢、男女比、投与開始前のBUN、血清クレアチニン値、推定糸球体濾過量 (eGFR)、投与カロリー、投与蛋白量、投与期間、腎機能障害の有無を比較した。
    【結果】インパクト®投与期間はBUN非上昇群で7.0日 (n=17) であったが、上昇群では15.2日 (n=19) と有意に長く、また開始前に腎機能障害を有する患者でBUN上昇発現が有意に多かった。
    【考察】BUN上昇の危険因子として、A) 1週間以上にわたる投与、B) 開始前のeGFR60mL/min/1.73m2未満の腎機能障害の存在が重要と考えられた。
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