日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
58 巻, 3 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
レビュー
  • 米倉 竹夫
    2022 年 58 巻 3 号 p. 420-443
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     先天性水腎症(congenital hydronephrosis)は尿路の発生異常により腎盂・腎杯および尿管を含む尿路が先天性に拡張した病態である.近年は胎児期や新生児期の超音波によるスクリーニング検査により無症候性の症例が多く発見されるようになった.先天性水腎症は,自然治癒するものから逆に腎障害が進行するものまでと,幅広いスペクトラムを有しており,それぞれの疾患や病態に即した診療を行う必要がある.そこでまず総論として,日本小児泌尿器科学会が発刊した小児先天性水腎症に対する診療手引の診療アルゴリズムに沿い,胎児期から乳幼児期を中心に病態や症状,画像診断,診療の要点について述べる.さらに各論として,先天性水腎症例の中で頻度が高く臨床的に問題となる腎盂尿管移行部通過障害,膀胱尿管逆流,尿管膀胱移行部通過障害,尿管瘤,異所性尿管,後部尿道弁などの閉塞性下部尿路疾患について,疾患の病態,定義・分類・診断・内科的および外科的治療,長期経過と管理について概説する.

原著
  • 齋藤 光里, 野呂 歩, 水島 正人, 内田 雅也, 塩野 展子, 里見 達郎, 本庄 遼太, 木下 貴正
    2022 年 58 巻 3 号 p. 444-452
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     当院超低出生体重児(2004〜2019年出生)381例を対象に,ROP治療(94人181眼)の危険因子解析を抗VEGF療法導入(2012年出生児以後)も因子に含め行った.ROP治療率は抗VEGF療法導入前の30%から導入後は18%で有意に減少した(p<0.01).抗VEGF療法導入前後で最大病期,網膜剥離率,再治療率に有意差はなく,国際分類stage2,stage3でのROP治療率は導入前対導入後でそれぞれ21%対0%(p<0.01),90%対65%(p=0.01)で,導入後で有意に減少した.ROP治療を従属変数,周産期因子,臨床経過,治療因子を独立変数とした多変量ロジスティック解析で抗VEGF療法導入(オッズ比0.42:95%信頼区間0.15–1.10;p=0.08)が抑制傾向のある因子に選択された.抗VEGF療法導入とROP治療率に関する多施設共同での検討を行う価値がある.

  • 西本 裕喜, 佐世 正勝, 三輪 一知郎, 讃井 裕美, 森岡 均, 藤野 俊夫
    2022 年 58 巻 3 号 p. 453-457
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンの接種には躊躇もあるが,有効な治療薬がいまだ開発されておらず身を守るための唯一の方法といえる.一方,わが国の妊産婦の接種状況に関する報告は乏しい.今回,妊産婦における新型コロナウイルスワクチンの接種状況や副反応の出現状況,接種をためらう理由を明らかにすることを目的にアンケート調査を実施した.637名の妊産婦からアンケート回収が行われた(回収率87.5%).ワクチン接種率は76%であった.ワクチン接種時期は,大部分が1st〜2nd trimesterの時期であった.ワクチン接種者の緊急帝王切開率は7.9%であった.局所以外の副反応は初回接種時37%,二回目接種時54%であった.初回接種後に痙攣発作を来した症例が1例あった.未接種の理由として最も多かったのは「胎児への影響を懸念」であった.ワクチン接種にあたって,妊婦や家族に丁寧に説明し理解を求めていく必要がある.

  • 朝田 裕貴, 田邉 裕章, 菅 彩子, 岩見 裕子, 松村 寿子, 原田 明佳, 田中 裕子, 市場 博幸
    2022 年 58 巻 3 号 p. 458-463
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     胎便関連性腸閉塞(meconium related ileus,以下,MRI)は極低出生体重児における発症頻度が高い疾患であるが,その発症におけるリスク因子について検討した研究は少ない.今回当院で出生した極低出生体重児に発症したMRIの発症に関連したリスク因子を検討した.2010年1月から2020年10月に当院で出生し,NICUに入院した在胎32週未満かつ出生体重1,500g未満で出生した440症例のうち,院外出生症例,先天性心疾患,多発奇形例,生後1カ月以内に死亡した症例を除く319症例を対象とした.MRIに対して,当院ではグリセリン浣腸に反応が乏しく腹部所見が悪化する場合には,ガストログラフィンの胃内ないし注腸投与をまず試みている.本検討ではガストログラフィンの胃内投与や注腸投与を行った症例,あるいは胎児期から腸閉鎖を疑い出生直後の試験開腹術で診断した症例をMRI発症群として,非MRI発症群とを後方視的に比較検討した.MRI発症率は26%(83/319症例)であった.周産期因子や母体背景について両群間を比較したところ,出生体重,small-for-date児(以下,SFD)の割合について両群間に有意差が生じた(ともにp<0.005).母体背景については妊娠高血圧症候群(以下,HDP)例においてMRIの発症率が有意に高かった(p<0.005).MRIの発症に関連するリスク因子について多変量解析を行ったところ,SFD(OR:2.390,95%信頼区間:1.391-4.107)が独立したリスク因子であった.結論として本検討からSFDであることはMRIのリスク因子であると考えられた.

  • 萩元 慎二, 岩谷 壮太, 平山 健太郎, 泉 絢子, 大山 正平, 芳本 誠司
    2022 年 58 巻 3 号 p. 464-471
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     超早産児の救命率向上に伴い,早産児ビリルビン脳症の存在が顕在化している.遷延する黄疸がその発症に関連すると考えられるが,新生児期を超えて遷延する黄疸をどのように管理すべきなのかは十分にわかっていない.今回,2017-2020年度に出生し,神戸大学の新基準で管理した超早産児を対象に,生後8週間における総ビリルビンおよびアンバウンドビリルビン(UB)値の推移,さらに光療法の頻度とその適応理由を調査した.対象となった76例のうち26例(34%)において,日齢28以降もUBのみを適応理由として光療法が施行され,うち7例は日齢28以降にUB値として0.8μg/dL(ビリルビン脳症の発症予測カットオフ値)以上を呈していた.ビリルビン脳症のハイリスクである超早産児では,生後28日以降の高UB血症を念頭においた黄疸管理を行うべきである.

  • 兼次 洋介, 仲西 正憲
    2022 年 58 巻 3 号 p. 472-478
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     子ども虐待予防において,妊娠(胎児)期から子ども虐待リスクを把握することは重要である.当院で作成した周産期支援チェックリストを用いて社会的ハイリスク妊婦を抽出し,子ども虐待リスク因子を検討した.2016年からの5年間に当院で出生した児のうち,母が周産期支援チェックリスト5点以上の児を社会的ハイリスク児と定義し,これらの児を子ども虐待群と非子ども虐待群に分けて妊娠期の子ども虐待リスク因子を検討した.社会的ハイリスク妊婦の割合は7.8%であり,そのうち子ども虐待は6.8%で確認された.周産期要対協開催はオッズ比9.56,周産期支援チェックリスト総得点12点以上はオッズ比4.93で子ども虐待と強く関連した.子ども虐待を予測するリスク因子として,「母体年齢22歳以下」「妊婦の被虐待経験」「妊婦の身なりが不衛生」が抽出された.周産期支援チェックリストは子ども虐待の予測・支援の構築に有用であった.

  • 鳥谷 由貴子, 松本 敦, 角掛 和音, 鈴木 幸之介, 阿部 志津香, 土屋 繁国, 高清水 奈央, 小西 雄, 外舘 玄一朗, 赤坂 真 ...
    2022 年 58 巻 3 号 p. 479-485
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     【目的】日本における新生児医療の進歩の一方,新生児死亡率には地域格差がある.岩手県の中心的施設である当院の周産期医療の実態を調査し,岩手県としての課題を明らかにする.

     【方法】2008年1月から2017年12月までに当院新生児集中治療室に入院し死亡退院した児を,極低出生体重児,染色体異常,先天性心疾患,その他の先天異常,その他の先天異常に先天性心疾患を伴う群に分類し,臨床経過を診療録から後方視的に検討した.

     【結果】各群の入院全体に占める割合に一定の傾向はなく,2010年を境に死亡率は低下した.極低出生体重児の割合は大幅に減少し,染色体異常とその他の先天異常が死亡症例に占める割合が増加した.2012年以降の死亡率は全国平均と同等で,医師数が増加した時期と一致した.

     【考察】新生児医療の進歩のほか,医療提供体制の改善と死亡率低下の関連が示唆された.安定した医療資源と医療的ケア児の円滑な在宅医療移行が課題と考えた.

  • 渡邉 憲和, 山内 敬子, 伊藤 友理, 渡邉 真理子, 出井 麗, 深瀬 実加, 永瀬 智
    2022 年 58 巻 3 号 p. 486-491
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     【目的】分娩前の最適な自己血貯血量を決定することを目的とした.【方法】2015年1月から2019年3月に当院で自己血貯血と分娩を行った症例の診療録を後方視的に調査した.貯血プロトコルのモデルによるシミュレーションを行い,最適な貯血量を検討した.【結果】対象の55例の自己血貯血の適応は,前置胎盤(51%),稀な血液型や不規則抗体陽性(27%),癒着胎盤(11%)が多かった.貯血量は平均757mL,自己血輸血量は平均486mLで,6例で同種血輸血を実施した.シミュレーションでは,稀な血液型などでは自己血貯血量は400mL,低置胎盤,前置胎盤,癒着胎盤疑いは800mLとし,超音波検査で胎盤ラクナを認めた症例で400mLを追加するモデルで,最も自己血廃棄量と同種血使用量を低減できると推測された.【考察】適応と超音波検査から自己血貯血量を最適化できる可能性が示唆された.

  • 松本 賢典, 関塚 智之, 山脇 芳, 生野 寿史, 田中 雅人, 楡井 淳, 小林 玲, 西島 浩二
    2022 年 58 巻 3 号 p. 492-497
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     在胎36–38週での新生児呼吸状態について,羊水中のLamellar body count:LBCを指標として検討した.LBCの中央値は新生児呼吸障害症例群2.7×104/μL,対照群6.0×104/μLであり,呼吸障害群で有意に低値であった(p < 0.001).ROC解析より新生児呼吸障害症例を鑑別するLBCのcut off値は4.4×104/μL(曲線下面積0.833,95%信頼区間0.702–0.963)であり,感度91.7%,特異度69.6%,陽性的中率26.2%,陰性的中率94.1%であった.分娩様式別では,LBCの中央値は経腟群8.0×104/μL,帝王切開群5.3×104/μLであり,経腟群で有意に高値であった(p=0.036).LBCは簡便,迅速,客観的であり,新生児呼吸障害症例を検出する精度が高い,有用な検査方法である.

  • 登内 恵里子, 山脇 芳, 生野 寿史, 西島 浩二
    2022 年 58 巻 3 号 p. 498-503
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     子宮頸管熟化不全症例に対する初回治療としてのジノプロストン腟用剤と器械的熟化法の臨床成績を後方視的に比較検討した.患者背景,新生児予後は両群で差を認めず,分娩および退院までの所要時間はともに腟用剤群で有意に短縮していた.さらに,腟用剤群は使用後の陣痛促進剤使用率が低く,24時間以内に分娩となった割合が有意に多かった.母体合併症などの理由で妊娠37週もしくは38週台で分娩誘発を施行した症例では,両群とも合併症の増悪により使用中止となった症例はなく,退院までの所要日数は腟用剤群で有意に短縮していた.以上より,ジノプロストン腟用剤は器械法よりも分娩,退院までの時間を短縮することができ,母体合併症を有する頸管熟化不全症例に対しても有用な薬剤であることが明らかとなった.一方,ジノプロストン腟用剤使用中に子宮頻収縮や胎児機能不全を生じることがあるため,使用法を遵守した慎重な管理が必要である.

  • 佐藤 真梨子, 髙橋 健, 小林 ゆかり, 永江 世佳, 近藤 息吹, 舟木 哲, 小西 晶子, 伊藤 由紀, 上出 泰山, 佐村 修, 岡 ...
    2022 年 58 巻 3 号 p. 504-509
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     2020年1月から本国でCoronavirus disease 2019(以下COVID-19)患者が報告されている.COVID-19は,妊婦の身体面だけでなく精神面へも悪影響を及ぼす可能性がある.COVID-19罹患が妊婦の心理面に与える影響を調査し,精神面にも配慮した医療介入の方法や環境を整えることを目的とした.2020年4月から2021年3月まで,当院に入院したCOVID-19罹患妊婦にアンケート調査を行った.Whooleyの包括的2項目質問票,エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:以下EPDS),Generalized Anxiety Disorder-2(以下GAD-2)を用い,自由記載欄も設けた.調査期間中に対象となった22例中18例から結果を得た.Whooleyの包括的2項目質問票は10例(55.6%)陽性,EPDSは5例(27.8%)陽性,GAD-2は7例(38.9%)陽性であった.自由記載欄では,COVID-19罹患による胎児への影響を心配する妊婦が多く,妊娠に与える影響に関して正確な情報を提供する必要がある.また,隔離により孤独感を感じる妊婦も多く,感染対策を行った上で訪室を行うなど日々の診療の中で孤立させない体制を構築することが必要である.

  • 今井 諭, 山脇 芳, 生野 寿史, 西島 浩二
    2022 年 58 巻 3 号 p. 510-515
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     当院で過去28年間に周産期管理を行った52症例の胎児先天性消化管閉鎖症症例について,食道,十二指腸,小腸閉鎖の3群に分け,臨床背景と成績について後方視的に比較検討を行った.羊水過多の割合は小腸閉鎖で有意に低かったが,切迫早産率,早産率に差はなかった.周産期死亡率は食道閉鎖が最も高く予後不良であった.一方,小腸閉鎖は染色体疾患の合併が1例もなく予後良好であった.出生前診断率は全体の77%であり,超音波検査での羊水過多,胃胞消失や腸管拡張像,胎児MRI検査が診断に寄与していた.食道閉鎖の病型によっては出生前診断が困難な症例があるものの,超音波検査と胎児MRI検査は先天性消化管閉鎖症の出生前診断に有用であった.先天性消化管閉鎖症は閉塞部位により周産期および新生児予後が異なるため,出生前診断に基づく適切な情報提供と妊娠管理を行い,出生後の新生児治療に円滑に結びつけることは産科医の重要な役割である.

  • 江頭 智子, 冨野 広道, 荻原 俊, 七條 了宣, 江頭 政和, 水上 朋子, 高栁 俊光
    2022 年 58 巻 3 号 p. 516-522
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     在胎30週以下VLBWI 305名の予定日の身体発育に影響を及ぼす周産期因子,特に経腸栄養を注視して後方視的検討を行った.性別,在胎週数,出生時体重・頭囲・身長それぞれのzスコア,デキサメサゾン総投与量,人工換気日数,ヒドロコルチゾン総静脈内投与量と総経口投与量,35週までの1日体重あたり母乳量(前期母乳量),35週までの1日体重あたりの人工乳量(前期人工乳量),36週から予定日までの1日体重あたり母乳量,36週から予定日までの1日体重あたり人工乳量を独立変数とし多変量解析を行った.結果は,体重EUGRでは出生体重zスコアと人工換気日数,前期母乳量が,頭囲EUGRでは人工換気日数と前期母乳量,身長EUGRでは在胎週数,出生身長zスコア,前期母乳量,前期人工乳量が選択された.できるだけ短い人工換気日数,ならびに前期経腸栄養量,特に母乳栄養が,予定日近くのよりよい身体発達に影響を及ぼす可能性が示唆された.

  • 伊藤 花菜, 深間 英輔, 野村 智章, 畠中 大輔, 草苅 倫子, 髙橋 秀弘, 中村 利彦
    2022 年 58 巻 3 号 p. 523-528
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     目的:臍帯血血糖値の出生後の低血糖予測に対する有用性と,リスク要因や分娩様式による血糖値の違いについて検討した.

     対象と方法:2021年4月から2022年3月の1年間に当院で出生した児のうち,低血糖のハイリスク児として血糖測定を目的に入院した230人を対象とした.生後1時間および臍帯血血糖値を比較し,低血糖予測の臍帯血のcut off値を求めた.また,リスク要因および分娩様式別の生後1時間値と臍帯血の血糖値の検討をした.

     結果:生後1時間値が50mg/dL未満である低血糖群では,正常血糖群と比較し臍帯血でも有意に低値であり,低血糖群に対する臍帯血のcut off値は症例全体で71mg/dLであった.早産児・低出生体重児および帝王切開術で出生した児において,生後1時間値と臍帯血ともに血糖値が低い傾向にあった.

     結論:臍帯血血糖値は生後低血糖の予測に有用であり,早期介入への一助となり得る.

  • 清水 文香, 奥山 亜由美, 瀬尾 晃平, イズデプスキ 龍也, 市塚 清健, 長塚 正晃
    2022 年 58 巻 3 号 p. 529-532
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     【目的】固着胎盤(Adherent placenta)のリスク因子を抽出することを目的とした.【方法】昭和大学横浜市北部病院で単胎経腟分娩を行った3,733例を対象とした.胎盤娩出時に用手剥離を要し,臨床的に固着胎盤(Adherent placenta)と診断した34例をcase群とし,速やかに胎盤娩出に至った群から無作為に選んだ68例をcontrol群として,2群間の母体背景と分娩経過を比較した.case群の胎盤病理についても検討した.【結果】case群においてART妊娠と前期破水が独立した関連因子であった.またcase群は50%に絨毛膜羊膜炎を認めた.【考察】ART妊娠に加え,前期破水は新たにAdherent placentaのリスク因子である可能性が示唆された.

症例報告
  • 清水 悠仁, 井手上 隆史, 吉松 かなえ, 宮崎 聖子, 中村 菫, 堀 新平, 荒金 太, 福松 之敦
    2022 年 58 巻 3 号 p. 533-537
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     遺伝性出血性末梢血管拡張症は常染色体優性遺伝の疾患で,①遺伝的発生,②皮膚・粘膜および内蔵の多発性末梢血管拡張,③それらの部位からの反復する出血,を3主徴とする疾患であり,本症を合併した妊婦で,妊娠経過中に脳出血を発症した症例の報告は少ない.症例は28歳2妊0産,脳動静脈奇形合併妊娠のため周産期管理目的に当科紹介受診した.妊娠31週より尿蛋白が出現したが,血圧の上昇はなかった.妊娠37週3日に頭痛と嘔吐が出現し来院した.MRI検査で脳出血を認め,意識障害が出現したため,緊急帝王切開術と脳室ドレナージ術を施行した.術後のCT検査で新規の脳動脈瘤破裂と診断されコイル塞栓術を施行した.後遺障害はなかった.術後にクモ状血管腫と鼻出血の既往を確認し,本症の診断に至った.本症患者は,妊娠中に脳出血を起こすことがあり,妊娠前から管理が必要であり,脳出血発症時は他科と協力し迅速な対応が必要である.

  • 大月 美輝, 安田 枝里子, 川﨑 薫, 松坂 優, 猪早 阿紗子, 上田 優輔, 山口 綾香, 佐藤 麻衣, 千草 義継, 最上 晴太, ...
    2022 年 58 巻 3 号 p. 538-543
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     大脳皮質形成異常(Malformations of cortical development;MCD)は発達遅延,脳性麻痺,てんかんなどを呈する稀な疾患で生命予後が不良な場合もある.

     症例1:妊娠29週に超音波断層法にて脳室拡大・小脳低形成を認めた.妊娠35週と日齢4のMRIでは大槽の拡大のほか,特異的な所見はなかった.生後2カ月に哺乳不良を認めMRIで脳回の発達が乏しくMCDと診断した.

     症例2:妊娠27週の超音波検査にて羊水過多と膀胱拡張を認めたが,耐糖能異常や胎児消化管閉鎖などを疑う所見は伴わなかった.日齢0の超音波検査と日齢7のMRIで厚脳回を認めMCDと診断した.

     MCDの早期診断は難しいが,脳溝などの脳表面に着目して超音波検査を実施すること,妊娠末期や出生後に顕在化する神経学的異常があることを認識し,小児科と連携してフォローアップを継続することで早期診断につながると考える.

  • 諌山 瑞紀, 西田 恵子, 木村 友沢, 阿部 春奈, 眞弓 みゆき, 野口 里枝, 大原 玲奈, 小畠 真奈, 濱田 洋実, 佐藤 豊実
    2022 年 58 巻 3 号 p. 544-549
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     妊婦は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化のハイリスクであり,早産リスクも指摘されている.一方,因果関係は明らかではないものの,COVID-19では急性膵炎を合併した症例が報告されている.今回,COVID-19肺炎治療後に重症急性膵炎を発症し,妊娠31週で帝王切開分娩となった一例を経験した.症例は37歳初産婦で,妊娠29週にCOVID-19肺炎のため前医入院となった.酸素投与にて肺炎は改善したものの,発症後9日に強い上腹部痛,血中アミラーゼ値の上昇を認め,重症急性膵炎と診断された.膵炎治療中,妊娠31週4日に陣痛発来したため当院搬送となり,同日COVID-19および低置胎盤を適応に緊急帝王切開術を行った.母体に胆石やアルコール摂取習慣はなく,その他の膵炎リスク因子も認めなかった.COVID-19妊婦においても,呼吸器疾患以外の合併症が発生する可能性も念頭に管理する必要がある.

  • 大谷 麻由, 小西 晴久, 平井 雄一郎, 平野 章世, 藤本 英夫
    2022 年 58 巻 3 号 p. 550-554
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     微小血管症性溶血性貧血,消費性血小板減少,微小血管内血小板血栓による臓器障害を特徴とした血栓性微小血管症の病態を示す疾患の1つに非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)がある.産褥期HELLP症候群発症後に腎機能障害が遷延したaHUSの1例を経験したため文献的考察を加えて報告する.症例は36歳,3妊2産.妊娠39週0日に陣痛発来,入院後32分で経腟分娩した.分娩後に高血圧が持続し,心窩部痛出現,血液検査にて肝逸脱酵素およびLDHの著明な上昇,血小板減少を認めHELLP症候群と診断した.産後2日目より腎機能障害の増悪を認めた.臨床的にaHUSと診断し産後7・8日目に血漿交換療法,産後10日目に血液透析療法を施行した.その後は順調に腎機能改善し,それに伴い全身状態も改善し産後17日目に退院した.産後12カ月現在,腎機能障害の再発なく経過している.

  • 安心院 千裕, 赤松 智久, 兼重 昌夫, 関 純子, 水上 愛弓, 五石 圭司, 七野 浩之
    2022 年 58 巻 3 号 p. 555-560
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
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     動脈管動脈瘤(DAA)はほとんどが自然消退するが,稀に血栓症や破裂などの致命的な合併症を引き起こす.合併症を引き起こすDAAの特徴や侵襲的検査の適用基準,フォローアップ基準などはいまだ不明確である.我々は14例のDAAを経験し,疾患特徴をまとめた.新生児科に入院となった成熟児204例中14例(6.9%)にDAAを認めた.14例中13例において消退過程を観察し,消退過程には血栓無形性型,部分的血栓形成型,全長血栓形成型の3通りがあった.心臓超音波検査(UCG)にて肺動脈の圧排を疑った7例で造影CTを撮像したが,いずれもCTにおいて圧排所見を認めなかった.全例が無症状で経過し,経過を追えた13例でDAAは自然消退した.消退過程に関係なく,無症状のDAAでは侵襲的な検査は不要と考えるが,致命的な合併症や成人期DAAへの進展を考慮し,完全に消退するまではUCGによる経過観察が必要と考えられた.

  • 吉馴 亮子, 武藤 はる香, 楠本 裕紀, 新堂 真利子, 石田 絵美, 島田 勝子, 山枡 誠一
    2022 年 58 巻 3 号 p. 561-566
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     梅毒合併妊婦にペニシリン(PC)治療を行うことで先天梅毒を防止する.世界的にはPC筋肉注射治療だが,日本では1950年代にPC筋肉注射による死亡事例を機にPC製剤の筋肉注射が難しく,経口PC薬のアモキシシリン(AMPC)を治療薬として使用している.このAMPC治療母体から出生した児に関する報告は少ない.

     今回,2016〜2020年まで当院妊婦健診中にAMPC治療を受けた梅毒合併妊婦とその出生児6例を検討した.5例は妊娠15週までに,1例は妊娠22週からAMPC治療が開始された.全例AMPC1,500mg内服,内服期間の中央値は7.5週(6-12週).全例分娩1カ月以上前に内服を終了した.母治療前後の非特異的トレポネーマ(RPR)は5例で,1/4以上低減したが1例だけ低減せず児へPCG治療を行った.先天梅毒と診断された児はおらず梅毒合併妊婦へのAMPC治療は先天梅毒を防ぐ可能性が示された.

  • 山下 優, 渡邉 亜矢, 菅原 拓也, 黒星 晴夫
    2022 年 58 巻 3 号 p. 567-573
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     Body-stalk anomaly(BSA)は胚外体腔への臓器脱出等を認めるきわめて稀な致死的疾患であるが,多胎妊娠に合併した際は方針に苦慮する.今回,二絨毛膜二羊膜双胎(DD twin)の1児にBSAを合併した例を経験したので報告する.

     症例は33歳.排卵誘発で妊娠し,当院受診しDD twinと診断した.妊娠13週の超音波検査で1児に胚外体腔への臓器脱出を認めBSAと診断した.両親と多職種とで協議を重ねた結果,妊娠継続の方針となった.切迫早産のため妊娠30週から入院とし,妊娠36週6日に帝王切開術を行った.患児は体重1,656gで生後23分に死亡した.健児は体重2,096gの男児で10日目に退院した.

     多胎妊娠にBSAを認めた場合,切迫早産等の産科合併症に対して厳重な管理を行うことで生児を得られる可能性があり,多職種チームと両親とで胎児にとって「何が最善か」を話し合うことが肝要である.

  • 佐々 真梨子, 有馬 香織, 立石 真子, 宮内 彰人
    2022 年 58 巻 3 号 p. 574-578
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     美容医療の発展により,乳房増大術がより手軽に行われるようになっている一方,乳房増大術が授乳に与える影響についての知見は少ない.また,非吸収性充填剤は,体内移動や感染などの術後合併症の報告から,乳房増大術で使用すべきでないとされている.両側乳房に非吸収性充填剤を注入後3年目に分娩,産褥7日頃より産褥期乳腺炎を発症し,ドレナージ,非ステロイド性抗炎症薬を投与するも治療に難渋し断乳に至った一例を経験したので報告する.

  • 角掛 和音, 鳥谷 由貴子, 松本 敦, 赤坂 真奈美
    2022 年 58 巻 3 号 p. 579-582
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     Obstructive hemivagina and ipsilateral renal anomaly syndrome(OHVIRA症候群)はWolff管およびMüller管の異常により重複子宮,片側腟閉鎖,同側腎形成異常を呈する.症例は生後0日の女児.胎児超音波で右の多発腎嚢胞を指摘された.出生時,尿道口直下に啼泣で増大する表面平滑な1cm大の嚢胞状腫瘤を認めた.超音波で右腎は多嚢胞状低エコー域を示し,99mTc-DMSA腎シンチグラフィで無機能腎,MRウログラフィで右拡張尿管は外陰部腫瘤へ連続していた.生後15日に腹腔鏡下右腎尿管摘出術を施行し,術中膀胱鏡検査で尿道・膀胱内に右尿管開口部の同定はできなかった.術後,外陰部腫瘤は消退,超音波で双頸双角子宮が疑われ,OHVIRA症候群と診断した.片側腎尿路異常のある女児では子宮・腟異常を合併することがあるため注意深い精査が重要である.

  • 野村 真也, 中田 裕生, 土本 啓嗣, 金澤 亜錦, 佐々木 潔
    2022 年 58 巻 3 号 p. 583-587
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/09
    ジャーナル フリー

     色素失調症はNEMO遺伝子変異が原因で発症するX連鎖性顕性遺伝の母斑症だが,皮膚だけでなく中枢神経や眼などの神経外胚葉組織に合併症を呈することがある.しかし腸管奇形を合併することは稀である.今回,色素失調症に小腸閉鎖症を合併した女児の一例を経験した.在胎38週4日,身長48.0cm,体重2,436g,Apgar score7点/8点(1分/5分)で出生した.出生時より皮膚にびらん,一部疣状化を認め,先天性皮膚疾患の疑いで入院となった.その後行った皮膚生検で色素失調症の病理診断となった.一方で経腸栄養が進まず,試験開腹にて小腸閉鎖症を認め,端々吻合を行ったが術後も拡張腸管が残存し,最終的に拡張腸管切除,小腸小腸吻合術を行った.その後経過良好で日齢80に退院した.遺伝子検査ではNEMO遺伝子exon4-10欠失型が同定された.色素失調症と小腸閉鎖症の合併は過去に報告がなく,偶発的に合併した可能性を考えた.

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