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則内 友博, 高見 尚平, 尾花 和子, 中尾 厚, 米田 立, 藤代 準
2024 年 60 巻 2 号 p.
197-204
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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国内の新生児外科における周術期予防的抗菌薬の使用方法についてのエビデンスは乏しい.本研究は総合病院内で周産期センターを有する当院の新生児およびNICU・GCUに入院中の外科疾患の患児への周術期予防的抗菌薬の投与内容や投与期間の現状を明らかにすることを目的とした.対象は小児外科で手術を行った新生児,もしくは周術期にNICU・GCUに入院中の患児とし,診療録の記載から後方視的に調査した.2013年1月から2022年12月までの10年間,169例について解析した.手術部位感染(Surgical Site Infection;SSI)は15例(8.9%)に発症した.投与内容については成人や海外のガイドラインと比較し異なるスペクトラムの抗菌薬が選択されることが多かった.多くの術式で長期投与の傾向にあったが,投与日数別でSSI発症率を比較すると長期投与が必ずしもSSI予防に寄与しない可能性が示唆された.
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折田 有史, 橋本 崇史, 前田 隆嗣, 内藤 喜樹, 濵田 朋紀, 谷口 博子, 切原 奈美, 太崎 友紀子, 上塘 正人
2024 年 60 巻 2 号 p.
205-212
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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目的:鹿児島県では2018年から日本母体救命システム協議会ベーシックコース講習会の受講を推奨してきた.取り組み開始前後3年ずつの母体搬送症例の予後を比較しその効果を検討した.
方法:2015年1月〜2020年12月に鹿児島市立病院と鹿児島大学病院に1,000g以上の産後異常出血のために搬送となった症例を講習会導入前の前期(2015年〜2017年)と導入後の後期(2018年〜2020年)にわけ背景と転帰の比較を行った.
結果:前期63症例,後期105症例,後期で約1.7倍に増加していた.大量輸血を要する症例は46.0%から29.5%に減少した.多変量解析では,大量輸血に有意に関連する因子は講習会受講の有無,帝王切開分娩,2,200g以上の出血,凝固異常であり,J-CIMELS講習会受講は大量輸血のリスクを減少させるために有効であることが示唆された.
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松井 風香, 佐世 正勝, 西本 裕喜, 三輪 一知郎, 讃井 裕美, 太田 直樹, 木村 献, 長谷川 恵子
2024 年 60 巻 2 号 p.
213-219
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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〔目的〕てんかん合併妊娠の管理の変遷ならびに周産期予後を明らかにする.〔方法〕2007年から2022年までの16年間に当院で管理したてんかん合併妊婦を後方視的に検討した.〔結果〕てんかん合併妊婦はのべ104例で,分娩数に占める割合は2007年0.85%に対し2022年1.25%と増加傾向であった.妊娠診断時に抗てんかん発作薬を使用していたのは64.4%であり,近年は形成異常誘発性の少ない薬剤の使用が増加していた.妊娠前からの葉酸併用例について,最近4年間の服用率は80%以上であった.胎児死亡を除く96例が生存した.形成異常は3例でコントロール群と比較して差はなかった.分娩時に抗てんかん発作薬を使用していた母親から出生した新生児10例(15.6%)が薬物離脱症候群のための管理を要した.〔結論〕妊娠前からの抗てんかん発作薬の選択や葉酸の服用,妊娠・分娩・産褥期の適切な管理,新生児管理が可能な環境での分娩が望ましい.
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芝田 恵, 赤石 理奈, 山口 晃史, 谷垣 伸治, 小澤 伸晃, 左合 治彦
2024 年 60 巻 2 号 p.
220-224
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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1995年以前の複雑な風疹ワクチン接種スケジュールにより本邦では低抗体価の年齢層が混在し,妊婦中の風疹感染や先天性風疹症候群の一因となっている.2015年1月から2021年8月に分娩した妊婦を対象に,妊娠中の風疹感染を疑った際の血清学的変化とその転帰を解析した.感染を疑った345例をI群:風疹HI(Hemag-glutinin Inhibition)比<4倍,IgM抗体陰性,II群:HI比<4倍,IgM抗体陽性,III群:HI比≧4倍,IgM抗体陰性,IV群:HI比≧4倍,IgM抗体陽性または陽性化に分類した.I群の297例は感染を否定,II群の43例はpersistent IgM,III群の2例とIV群の3例は感染を否定できなかった.IIからIV群の中の母体感染を否定できなかった7例中4例に侵襲的検査を実施し,3例はPCR陰性でブースター効果による高抗体価,1例はPCR陽性で先天性風疹症候群と診断した.
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岡木 啓, 武藤 はる香, 久林 侑美, 栗谷 佳宏, 加藤 愛理, 海野 ひかり, 笹野 恵, 島津 由紀子, 田口 貴子, 竹村 昌彦
2024 年 60 巻 2 号 p.
225-228
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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分娩時の胎盤用手剝離のリスク因子を明らかにすることを目的として,2017年から6年間に妊娠22週以降の経腟分娩に至った経産婦を対象に後方視的検討を行った.主要評価項目は分娩時の胎盤用手剝離とした.関連因子は分娩時年齢,Assisted Reproductive Technology(以下ART)妊娠,前回胎盤用手剝離,人工妊娠中絶の既往とした.解析対象2, 488例中,胎盤用手剝離を要したのは30例(1.21%)で,単変量解析で前回胎盤用手剝離,ART妊娠,分娩時年齢≧ 35歳で有意な関連を認めた.多変量解析では前回胎盤用手剝離(aOR 14.72,95% CI 2.69-61.57)とART妊娠(aOR 8.19,95% CI 3.20-19.49)が独立した関連因子に抽出された.この結果から胎盤用手剝離の既往症例やART妊娠はハイリスク分娩として管理する必要があると考えられた.
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窪田 詩乃, 松本 培世, 金子 めぐみ, 荻野 美智, 平久 進也, 船越 徹
2024 年 60 巻 2 号 p.
229-233
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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【目的】マイコプラズマ・ホミニス(以下,MH)の妊娠母体への影響を評価する.【方法】2017年2月から2020年4月に単胎602妊娠に対し,子宮頸管粘液中のMH核酸を同定し,陽性率,母体背景,MHの有無と早産,早産期前期破水(以下,pPROM),絨毛膜羊膜炎(以下,CAM)との関連を検討した.【結果】陽性率は3.4%,母体背景ではMH(+)群で年齢中央値が低く,Bacterial Vaginosis(以下,BV)スコア≧4点が有意に多かった.妊娠帰結が判明している454妊娠について,MH(+)群で切迫早産症例を多く認めたが,MHの有無と早産,pPROM,CAMとの関連の有無を調べたが有意差を認めなかった.【結語】MHの有無と早産,pPROM,CAMの間には関連を認めなかった.MH(+)群にBVスコア≧4点が多くみられ,MHと他細菌の混合感染によって周産期予後に影響を与えている可能性も考えられる.今後も症例を重ねて検討を進める必要がある.
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野村 好平, 鈴村 宏, 宮本 学, 加藤 正也, 渡部 功之, 吉原 重美
2024 年 60 巻 2 号 p.
234-239
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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未熟児動脈管開存症(PDA)の治療におけるイブプロフェン(IBU)の標準的初回投与量は10mg/kgであるが,それを5mg以下にした場合の治療効果,副作用について検討した報告はみられない.
我々は,IBUの初回投与量が10mg/kgの標準用量群と3-5mg/kgに減量した低用量群において,初回投与前後の尿量,血清クレアチニン値,3回投与までの治療効果などについて比較を行った.結果として,IBU投与後の尿量は標準用量群では投与前と比べて有意な減少を認めたが,低用量群では投与前後で尿量の変化を認めなかった.血清クレアチニン値は両群とも軽度の上昇であった.3回投与までの治療有効率は標準用量群で66.7%,低用量群で81.5%であり,有意差は認めなかった.
IBU低用量初回投与は尿量の減少をきたさず,標準用量と同等の治療効果があったことから,PDA治療において有用であると考えられる.
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若松 宏昌, 閑野 将行, 清水 正樹
2024 年 60 巻 2 号 p.
240-244
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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羊膜索症候群は,胎児期に羊膜が破綻し形成される羊膜索により,四肢,頭蓋,顔面,体幹などに多発奇形を来す症候群である.羊膜が破綻する時期により発生する奇形が異なり,破綻が早期に起こるほど頭蓋や顔面,胸腹壁欠損などの重篤な症状を呈する.本症例は胎児診断で髄膜瘤と脊柱側弯が指摘されていた.出生後,髄膜瘤に隣接した広範囲な体壁欠損を認め,腹膜様の膜から肝臓や脾臓,肺が透見可能であった.露出臓器の損傷や感染リスクを考慮し,緊急で皮弁形成術・被覆術を施行した.足趾の絞扼輪や内反足などの合併所見を認め,体壁欠損は羊膜索症候群の一症状と判断した.点状軟骨異形成症末節骨短縮型を示唆する所見の合併があり,羊膜索症候群との関連性は明らかではないが,母体に使用した抗TNFα抗体製剤の影響が推測された.多彩な奇形を呈する症例で絞扼輪形成など特徴的な所見を認める場合は,羊膜索症候群を考慮する必要がある.
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牧野 博朗, 神谷 亮雄, 吉田 彩, 森川 守, 岡田 英孝
2024 年 60 巻 2 号 p.
245-249
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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妊娠期の卵巣子宮内膜症性囊胞は,囊胞破裂や捻転に加え,早産などの周産期合併症や帝王切開術の周術期合併症リスクが高い.直腸子宮窩にある巨大な囊胞は,分娩時の児頭下降を妨げるため帝王切開術の適応となることが多い.一方,帝王切開術の回避を目的とした妊娠期の囊胞縮小術の妥当性に関する報告は少ない.我々は,妊娠期に巨大な直腸子宮窩卵巣子宮内膜症性囊胞を有する4例に対して,経腟超音波ガイド下穿刺を検討した.うち1例は患者が穿刺を希望せず,2例は妊娠14-16週に穿刺し,残り1例は児の成熟度や囊胞が再増大する可能性を考慮し妊娠35週で穿刺した.合併症なく終了し,平均囊胞径は6.1cmから3.1cmに縮小し,穿刺した3例とも経腟分娩で出生し周産期予後は良好であった.経腟超音波ガイド下穿刺は,直腸子宮窩卵巣子宮内膜症性囊胞を安全かつ低侵襲に縮小させ,帝王切開術を回避するための有効な治療戦略のひとつである.
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林 佳奈, 加藤 雄一郎, 髙辻 典子, 反中 志緒理, 荒堀 憲二
2024 年 60 巻 2 号 p.
250-255
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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30歳女性,1妊0産.妊娠前より6cm大の子宮筋腫を指摘され,経過観察となっていた.胚移植で妊娠成立し妊娠7週で当院紹介受診となった.妊娠13週3日に悪阻症状のため入院となり,血液検査で血中Ca 16.0mg/dLと異常高値を認めた.インタクト-parathyroid hormone(PTH)低値,Parathyroid hormone-related peptide(PTHrP)および1, 25-ジヒドロキシビタミンD高値より,PTHrP産生腫瘍を疑った.画像検索を行ったが,悪性のPTHrP産生腫瘍を疑う所見は認めなかった.補液にて一時的に血中Caは改善傾向であったが,再度上昇し軽度腎機能障害も来した.子宮筋腫がPTHrP産生腫瘍であることを疑い,妊娠15週5日に腹式子宮筋腫核出術を行った.術後1日目にCaは低下,PTHrPは低下しており症状も改善し退院とした.病理組織学的検査結果は液状変性を伴った子宮平滑筋腫であり,免疫染色により子宮筋腫がPTHrP産生腫瘍であったと診断した.
子宮筋腫がPTHrP産生腫瘍となることは稀であり,文献的考察を踏まえて報告する.
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今田 綾香, 渡邉 憲和, 阿部 夏未, 佐藤 藍, 中井 奈々子, 山内 敬子, 永瀬 智
2024 年 60 巻 2 号 p.
256-260
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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妊娠中の肝機能障害では様々な原因を鑑別する必要がある.今回,妊娠中の肝機能障害を契機に紹介され,母体の腸回転異常症による腸閉塞と診断した症例を経験した.症例は27歳,1妊0産.自然妊娠し,前医で妊娠管理されていた.妊娠30週から嘔気と食思不振を認め,妊娠31週から33週の間に体重が5kg減少した.肝機能異常を指摘され,妊娠33週5日に当院へ紹介された.母体の超音波検査で上部消化管の拡張を認め,造影CTを行った.肝臓に異常はなく,母体の腸回転異常症,腸管捻転と腸閉塞を認めた.腸管の絞扼は認めず,経静脈栄養と経鼻胃管で症状と肝機能障害は改善したが,本人の苦痛が強くなり妊娠35週3日に帝王切開術を行った.本症例は母体の腸回転異常症を背景とし,妊娠子宮による腸管圧排を契機として中腸軸捻転を来した結果,低栄養状態が持続し肝機能障害を生じたと考えられた.
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上田 江里子, 井出 早苗, 鈴木 研資, 藤岡 泰生, 天方 秀輔, 中尾 厚, 与田 仁志, 笠井 靖代, 山田 学, 宮内 彰人
2024 年 60 巻 2 号 p.
261-265
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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Ebstein病の中でもcircular shunt(CS)合併例は胎児水腫や子宮内胎児死亡のリスクが高い.近年,重症Ebstein病に対する母体非ステロイド性抗炎症薬(Non-steroidal anti-inflammatory drugs:以下NSAIDs)投与の有効性が報告されている.症例:29歳,3妊2産.23週に三尖弁逆流,右房拡大を指摘され,28週4日に当院紹介受診,CS合併のEbstein病と診断.32週1日に心拡大が増悪し,32週3日に母体NSAIDs投与を開始.胎児水腫への進行はなく,37週3日に帝王切開術にて出生(2,963g,Apgar score:8(1分)/8(5分)).日齢15に修正Starnes手術,月齢8にGlenn手術を施行した.母体NSAIDs投与は重症Ebstein病の心不全進行を抑え,予後の改善につながる可能性がある.
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田口 朋子, 伊東 麻美, 竹ノ子 健一, 横山 美奈子, 大石 舞香, 田中 幹二
2024 年 60 巻 2 号 p.
266-270
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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青森県は地形的特徴や気候条件などにより周産期センターへの搬送に時間を要する分娩施設も存在し,産科危機的出血時には特に適切な対応が必要となる.今回,適切な連携により救命し得た産科危機的出血例を経験した.クリニックAでの鉗子分娩により腟壁裂傷を生じ,2,000mL超の出血にてSI>2.0の状態で当院へ搬送依頼があった.当院への搬送時間を考慮すると生命危機に瀕する可能性が極めて高く,まずAから15分程度の総合病院Bでの応急処置後の搬送を指示.B病院でガーゼ圧迫止血と輸血処置が施された後当院搬送となった.ガーゼを抜去すると腟壁より多量の動脈性出血あり再びSI>2.0に陥ったが,動脈塞栓術にて止血し救命できた.SI>2.0の遠隔施設からの産科危機的出血搬送依頼であったが,適切な連携により救命し得た.本県のような周産期環境に置かれた地域では,母体救命のため状況によりこうした病診連携も考慮すべきである.
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山形 知央, 小松 摩耶, 千草 義継, 川村 洋介, 松坂 直, 山口 綾香, 髙倉 賢人, 上田 優輔, 最上 晴太, 万代 昌紀
2024 年 60 巻 2 号 p.
271-275
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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新生児同種免疫性血小板減少症(NAIT)は母体で産生された血小板抗体によって生じる血小板減少症で,児に頭蓋内出血をきたすこともある.次回妊娠時にもNAITの発症リスクが存在するが有効な周産期管理指針は存在しない.症例は38歳,4妊2産.第2子は出生直後に点状出血があり,血小板数30×103/μLであった.母体から抗ヒト血小板特異抗原(HPA)-4b抗体が検出され,NAITが疑われた.第3子を妊娠し,羊水検査で児がHPA-4a/bを保持していることが判明した.児にNAIT発症が危惧されたことから,妊娠30週から免疫グロブリンを1週間ごとに投与し,妊娠39週に経腟分娩した.児の血小板数最低値は60×103/μL(日齢1)であったが自然回復し,合併症をきたさなかった.同胞にNAITが疑われた際には,羊水検査でHPAタイピングを行い,免疫グロブリン療法を行うことで,児の良好な周産期予後が得られる可能性がある.
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佐久間 良一, 藤原 信, 福原 里恵, 古川 亮, 藤村 清香, 古森 遼太, 市場 啓嗣
2024 年 60 巻 2 号 p.
276-282
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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出生前診断された巨大仙尾部奇形腫3症例を経験した.うち1症例では腫瘍切除中に,失血と高カリウム血症によると考えられる心停止を生じ,心肺蘇生術を要した.巨大仙尾部奇形腫症例では出生後24時間以内に手術を受けた新生児の死亡率は24%と高く,主に出血に対し慎重な管理を要する.大量出血時には輸血の急速静注を要するため,それに適した口径の大きい静脈ラインを確保することがより安全である.当院では症例1の経験を踏まえ,以降,上肢に24G,可能であれば22Gの末梢静脈路を2本確保することを第一選択とし,確保困難な場合には小児外科医によるカットダウン法で外頸静脈路を確保する方針とし,症例2および3では輸血の急速静注に対応できた.また過不足のない適切な輸血投与量の調節のためには,術中の血圧,心拍数以外の循環管理のモニタリングの確立が望まれる.
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上田 真菜, 濵崎 咲也子, 大城 誠, 中山 淳, 手塚 敦子, 伊藤 由美子, 津田 弘之, 脇本 寛子
2024 年 60 巻 2 号 p.
283-286
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
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母児共にB群レンサ球菌(GBS)菌血症を発症した症例を経験した.母体は妊娠36週の腟分泌物培養検査でGBSを認めた.妊娠40週6日に臨床的絨毛膜羊膜炎と診断し,受診4時間後に緊急帝王切開となった.母体の血液培養からGBS菌血症と診断し,14日間の抗菌薬治療を経て後障害なく退院した.児は出生時に徐脈で啼泣を認めず,マスク下人工換気療法で蘇生し,努力呼吸が持続したため酸素吸入下でNICUに入院となった.入院時の血液培養結果から早発型GBS感染症と診断した.呼吸障害は速やかに改善し,合計10日間の抗菌薬治療を行い,後障害なく退院した.母児から検出されたGBSの血清型は比較的少ないIV型であった.
本症例では母児ともに菌血症を発症したことから,血清型IV型のGBSは侵襲性が高い可能性があり,今後のGBSワクチンの標的血清型として含まれることを期待する.
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大野 友香子, 吉本 順子, 秋山 麻里, 鷲尾 洋介, 岡村 朋香, 渡邉 宏和, 森本 大作, 佐藤 剛史, 塚原 宏一, 小林 勝弘
2024 年 60 巻 2 号 p.
287-291
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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13番染色体長腕部分トリソミー(以下,13q部分トリソミー)に全前脳胞症(holoprosencephaly:HPE)が合併した1例を経験した.小頭,眼間狭小,鼻中隔欠損,右唇顎口蓋裂など顔面正中部の低形成を認め,頭部単純MRI検査でlobar型のHPEと診断した.生後3カ月でWest症候群を発症し,急性呼吸不全のため4歳2カ月で死亡した.染色体核型は46,XX,rec(13)dup(13q)inv(13)(p12q14.1)matで,母の腕間逆位に由来していた.13q部分トリソミーの表現型は,13トリソミーに比べ軽症例が多く,生命予後も良好と考えられてきた.本症例は,これまでの報告例には共通しない表現型としてHPEを合併したために重篤な経過を示した.13q部分トリソミーの表現型と重複部位の関連を明らかにするためには,さらなる症例の集積が必要と考えられる.
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藤井 彩乃, 末光 徳匡, 三谷 尚弘, 門岡 みずほ, 水上 暁, 古澤 嘉明
2024 年 60 巻 2 号 p.
292-297
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
ジャーナル
フリー
不整脈は妊娠中の心血管イベントで最も頻度が高く,妊娠に伴い増悪しやすい.よって妊娠前の治療介入が重要であり,妊娠中でも心室頻拍などの致死性不整脈や,症候性,薬剤抵抗性の場合は高い成功率と根治性のあるアブレーションが検討される.
通常アブレーションは透視下で行われるため,妊婦では胎児放射線暴露の点で制限される.放射線を使用しない3Dマッピングシステム(3DMS)は,磁場や電流による位置情報の把握により不整脈の起源・回路を可視化できる装置だが,3DMSを使用した妊婦の心室頻拍に対する治療報告は限られる.
本例では心室頻拍に対し妊娠前にアブレーションを行うも,妊娠を契機に再発し,妊娠35週で3DMSを用いた無透視下でのアブレーションを実施した.胎児放射線暴露を回避し合併症なく不整脈治療を完遂し,その後再発なく良好な分娩転帰となった.母児ともに侵襲が低く,有効な不整脈治療と考えられた.
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山根 沙綾, 佐久間 彩子, 長ヶ原 玖美, 松原 千春, 内田 晃, 本田 茜, 前野 誓子, 隅 誠司, 木原 裕貴, 寺田 佳子, 西 ...
2024 年 60 巻 2 号 p.
298-303
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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18pテトラソミーは精神遅滞,摂食障害,特徴的顔貌等を呈する染色体異常である.またPeters奇形は,角膜中央に混濁を生じる先天性前眼部形成異常の疾患群であり,60%に先天性心疾患,口唇口蓋裂などの合併症を認める.Peters奇形を合併した18pテトラソミーの症例を経験したため報告する.症例は在胎37週5日,出生体重2,212g,身長44.0cmと在胎不当過小で経腟分娩にて出生した女児.呼吸障害,低血糖を認め,入院管理となった.左角膜混濁,特徴的顔貌,高口蓋,両母指内旋,MRIで脳梁低形成を認め,Peters奇形を伴う先天異常症候群が疑われた.染色体検査では47,XX,+i(18)(p10)と18pテトラソミーの所見であった.18pテトラソミーの眼科所見として斜視の報告はあるが,前眼部病変をもつ症例は報告されておらず,極めて稀な合併例と考えられた.
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長澤 亜希子, 尾本 暁子, 廣岡 千草, 山本 敬介, 篠原 佳子, 廣澤 聡子, 佐藤 美香, 岡山 潤, 中田 恵美里, 甲賀 かをり
2024 年 60 巻 2 号 p.
304-309
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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臍帯血栓は周産期予後不良に関連する.今回,腹水を伴った後部総排泄腔遺残症の管理中に臍帯血栓により胎児死亡となった症例を経験したので報告する.母体は妊娠25週の健診で胎児腹水を指摘された.当院初診時超音波で膀胱背側の嚢胞を認め総排泄腔遺残症を疑った.妊娠30週頃より胎児腹水,嚢胞の拡大,羊水過少が徐々に増悪した.胸腔圧排による呼吸障害を予防するため,妊娠34週0日に胎児腹水320mLを除去した.妊娠35週5日の健診で胎児死亡が確認され,妊娠36週0日2,430g女児を死産した.病理解剖で後部総排泄腔遺残症,子宮留水症,肺低形成,片側腎萎縮,食道閉鎖症(Gross C型)を確認,胎盤病理検査で拡張した臍帯血管の血栓が指摘され今回の胎児死亡の主因と考えられた.著明な腹水,子宮留水症に加え羊水過少を伴う総排泄腔遺残症は血栓形成をきたし胎児死亡の可能性があるため,慎重な経過観察が必要である.
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柳 絢子, 岩田 亜貴子, 赤松 千加, 近藤 真哉, 倉澤 健太郎, 宮城 悦子
2024 年 60 巻 2 号 p.
310-316
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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ファロー四徴症(TOF)は大動脈騎乗,右室流出路狭窄,心室中隔欠損,右室肥大を生じる先天性心疾患である.本邦でも修復術後の妊娠出産例の報告はあるが,未治療での報告はない.今回,妊娠を契機に母体TOFと診断され,未治療のまま妊娠を継続,妊娠37週で分娩に至った一例を経験したので報告する.症例は26歳女性,1妊0産,国外で出生した.妊娠初期に心雑音を指摘されTOFと診断された.妊娠継続の希望あり妊娠21週2日に当院へ受診した.Levine分類第III度,NYHA分類I度で,チアノーゼやばち指は認めなかった.心機能を慎重にみつつ妊娠を継続した.妊娠36週3日より右心不全兆候が出現,妊娠37週4日に緊急帝王切開術を施行した.産後1年でTOF修復術を施行した.未治療TOF合併妊娠でも本症例のように正産期まで妊娠継続できる症例もあるが,心不全等の急な状態悪化が生じうるため慎重な対応が必要である.
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佐々木 瑶, 楠田 剛, 芹田 陽一郎, 野口 雄史, 島 貴史, 漢 伸彦, 金城 唯宗
2024 年 60 巻 2 号 p.
317-322
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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VACTERL連合は椎体異常(V),鎖肛(A),心形態異常(C),気管食道瘻(TE),腎形態異常もしくは橈骨形成異常(R),ならびに四肢の異常(L)の頭文字を合わせた疾患名であり,これら多系統の形態異常を同時に認める.頻度は1-4万出生に1人とされ,診断は3項目以上の所見を認めるものとされる.他にも様々な形態異常を合併するが,中枢神経系の異常は稀である.今回,Chiari奇形2型を合併したVACTERL連合の2例を経験した.
症例は在胎38週と35週の女児で,2例とも胎内診断され,高度の椎体異常,鎖肛,腎形態異常,内反足に加えChiari奇形2型を合併していた.生後は脊髄髄膜瘤根治術,脳室腹腔シャント術施行,鎖肛に対し外科的介入を行った.
VACTERL連合の各形態異常は主に胎生3週頃より形成されるものであり,Chiari奇形2型の形成時期と類似している.今回,両疾患の関連に対する考察を含め報告する.
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白倉 知香, 伊藤 由美子, 告野 絵里, 中村 侑実, 荒木 甫, 黒柳 雅文, 鈴木 美帆, 手塚 敦子, 齋藤 愛, 坂堂 美央子, ...
2024 年 60 巻 2 号 p.
323-329
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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症例は29歳女性,1妊0産.関節リウマチの診断で当院整形外科通院中に自然妊娠成立,妊娠19週当科受診した.妊娠26週4日,呼吸苦症状あり整形外科受診したが改善なく,妊娠27週2日に当科紹介.頻脈と頻呼吸,起坐呼吸を認め同日入院した.早期娩出の可能性を考慮し,胎児肺成熟目的にベタメタゾンを投与したところ,呼吸数が減少し起坐呼吸は消失した.後日全身性エリテマトーデスと診断確定され,全身状態悪化はその胸膜炎・心膜炎によるものと考えられた.治療により全身状態が改善し妊娠継続可能となり,妊娠30週に退院,妊娠37週に経腟分娩で生児を得た.
全身性エリテマトーデスは生殖可能年齢の女性に好発し,妊娠中の発症や再燃は既報がある.今回我々は,早期妊娠終結を検討するほどの全身状態悪化をきたしたが,全身性エリテマトーデスの診断に至り,免疫抑制療法により妊娠継続可能となった症例を経験したので報告する.
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藤代 賢亮, 久保 雄一, 大塚 博樹, 木部 匡哉, 大橋 宏史, 平川 英司, 鳥飼 源史, 武内 俊樹, 徳久 琢也
2024 年 60 巻 2 号 p.
330-334
発行日: 2024年
公開日: 2024/09/06
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先天性Glycosylphosphatidylinositol(GPI)欠損症は,様々なタンパク質を細胞膜に繋ぎとめるGPIアンカーの合成等に関係する遺伝子の変異により発症する疾患であり,知的障害,運動発達遅滞,てんかん等を示す.国内で患者数は約50人と稀な疾患であり,家族歴がない場合は診断に難渋する.主症状として知的障害・運動発達障害等が挙げられているが,周産期異常を伴わないとされる.今回重症新生児仮死としてNICUへ搬送され,その後も傾眠傾向,筋緊張低下,嚥下障害等の症状が持続し,出生時より症状を示したと考えられる先天性GPI欠損症の一例を経験したため報告する.
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