日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
最新号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
レビュー
  • 伊勢 一哉
    2023 年 59 巻 3 号 p. 294-303
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     腸回転異常症は,胎生期に腸管が腹腔内へ収まる際の腸管の回転異常と腸間膜の固定異常に起因する.新生児期に胆汁性嘔吐で発症することが多く,中腸軸捻転を来たし広範囲腸管壊死を併発した場合,大量小腸切除から短腸症候群に陥る可能性がある.中には無症候性で偶然発見されることや,慢性症状の経過を長期に観察されていることもあり,正確な診断と適確な治療が求められる.

     総論では,腸回転異常症の発生とこれまで報告された病型分類,年齢別に異なる特徴を示す症状,診断の中心となる画像検査所見,外科治療と合併症について解説する.各論では,日本小児外科学会より発刊された診療ガイドラインで取り上げられている内容に沿って,診断率からみた画像検査の優位性,無症候性症例に対する手術適応,中腸軸捻転がない症例の手術時期,施設により方針に違いがみられる腸管固定,予防的虫垂切除,癒着防止処置,腹腔鏡下手術,second look operationについて概説する.

原著
  • 小山 亮太, 高澤 慎也, 木暮 さやか, 小泉 亜矢, 京谷 琢治, 丸山 憲一, 西 明
    2023 年 59 巻 3 号 p. 304-310
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     当院で卵巣嚢胞にて診療した新生児〜乳児につき後方視的に調査し,自然退縮群と手術群での嚢胞径変化の特徴と治療方針について検討した.

     胎児期最大嚢胞径は自然退縮群で3.3±1.1cm,治療介入群で5.0±1.3cm,出生時の嚢胞径はそれぞれ,1.6±1.2cm,5.2±1.6cmで,いずれも有意に治療介入群が大きく,胎児期嚢胞径が最大の時点から出生直後までの径変化率はそれぞれ,-42±36%,+5.1±27%で有意差を認めた.胎児期に嚢胞径が最大であった妊娠週数はそれぞれ32±3.2週,37±2.1週と自然退縮群の方が有意に早く,手術時に捻転を起こしていた症例に着目した場合も同様の結果であった.以上解析し,嚢胞径に加え胎児期嚢胞径のピーク時期が38週以降の症例,出生時までの変化率が-5%以上の症例はすでに捻転,あるいは捻転する可能性が高いと考えて治療方針を検討すべきと考えられた.

  • 堀川 翔太, 渡邉 憲和, 出井 麗, 深瀬 実加, 仙道 可菜子, 山内 敬子, 堤 誠司, 永瀬 智
    2023 年 59 巻 3 号 p. 311-316
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     【目的】潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)合併妊娠では周産期合併症が増えるとされるが,全大腸切除術(Total Proctocolectomy:TP)後の周産期予後に関連する研究は少ない.当院で管理したTP既往妊婦の周産期予後について検討した.

     【方法】1999年1月から2018年12月までに当院で分娩した4,025妊娠のうち,UC合併の23妊娠(UC群)の周産期予後を,TP群とnon-TP群に分け後方視的に比較検討した.また,年齢と妊娠歴で傾向スコアマッチングを行い抽出した,UCを含む内科学的合併症のない115妊娠(control群)との比較検討も行った.

     【結果】TP群は7妊娠,non-TP群は16妊娠であった.両群で分娩週数,分娩様式,出生体重,周産期死亡に有意差はなかった.

     【結論】UC合併妊娠ではTP施行の有無で周産期予後に差がないことが示唆された.

  • 江頭 智子, 冨野 広通, 荻原 俊, 七條 了宣, 江頭 政和, 水上 朋子, 高柳 俊光
    2023 年 59 巻 3 号 p. 317-322
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     極低出生体重児 206例(男児121例,平均在胎週数29.4±3.2週,平均出生体重1, 066±297g)の,直接ビリルビン(direct bilirubin;以下DB)値の各症例における最大値(頂値)の経時的推移と,高DB血症(DBの頂値≧2.0mg/dL)発症に寄与する周産期因子の検討を行った.その結果,DB頂値の日齢は42.2±26.5日,DB頂値の修正週数は35.3±4.0週であった.高DB血症を206例中10例(4.9%)に認めた.多変量解析を用いて高DB血症の発症に寄与する周産期因子を検索し,出生体重zスコア(p=0.001,OR 0.345)と経腸栄養確立日齢(p=0.012,OR 1.663)が選択された.DB処理能の成熟は生後日齢より受胎後週齢に影響を受けやすいこと,高DB血症発症の危険因子としてより高度な胎児発育不全と経腸栄養確立の遅れが寄与する可能性が示唆された.

  • 羽布津 碧, 菊池 春樹
    2023 年 59 巻 3 号 p. 323-329
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     近年の早産児医療においては,Family-Centered Careを中心に,家族の存在が重視されつつあるが,従来の研究に家族の声が反映されてこなかった.そこで早産児の母である自らが,早産児家族会のオンライン交流会へ非参与観察者として参加し,心理学的視点から家族の感情および語られる主題を抽出した.家族は様々な主題に対し,ネガティブ感情やポジティブ感情を抱き,それらは非言語的にも表出されていた.自助・共助・公助の枠組みで捉え直すと,家族交流会は自助を補う共助の場であり,公助として不足している行政や医療サービスを主題とした情報交換の場であると考えられた.一方で,家族交流会内でも,「生の感情」を抑制し,防衛を行いながら語る家族の姿もみられ,心理学的観点からは共助機能の限界も示された.今後は,早産児の誕生や養育に伴う家族の傷つきに配慮しつつ,家族にとっての心理的回復像を明らかにすることが求められる.

  • 大津 生利衣, 木下 正啓, 嶽間澤 昌史, 七種 護, 海野 光昭, 原田 英明, 前野 泰樹
    2023 年 59 巻 3 号 p. 330-335
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     【目的】呼吸障害による新生児搬送において症状出現から依頼までの時間と呼吸管理を要した期間との関連を明らかにする.【方法】2020年1月から2022年2月に呼吸障害を主訴に聖マリア病院新生児科へ搬送された症例について後方視的に検討した.人工呼吸管理を要した期間が3日未満の症例を短期呼吸管理群,3日以上の症例を長期呼吸管理群とした.【結果】全89例で短期呼吸管理群は67例,長期呼吸管理群は22例であった.症状出現から依頼までの時間は中央値が短期呼吸管理群の1時間59分に対し,長期呼吸管理群は9時間27分と有意に長かった(p=0.007).依頼までの時間が8時間以上と長い症例は29例あり,そのうち日勤帯での依頼は24例(82.8%)と大部分を占めていた.【結論】呼吸障害により長期呼吸管理を要した新生児は症状出現から搬送依頼までの時間が長い症例が多く,その要因として勤務帯との関連が示唆された.

  • 長澤 友紀, 藁谷 深洋子, 志村 光揮, 田中 佑輝子, 森 泰輔
    2023 年 59 巻 3 号 p. 336-342
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     切迫早産に対して我々が考案した管理法,“modified short-term tocolysis”の有用性を評価することを目的とし,2017年から2022年の切迫早産症例について後方視的研究を行った.患者をlong-term tocolysis(long)群とmodified short-term tocolysis(modified)群に分け,周産期・新生児転帰について比較した.long群は61例,modified群は35例であった.母体背景は初産率のみに差を認めた.妊娠34週未満の早産頻度は両群間に差はなく,母体副作用や新生児集中治療室入院率も同様であった.リトドリン塩酸塩静注日数および使用量は,modified群でそれぞれ有意に短縮,減少した.これらの結果は初産率の差を調整しても同様であった.Modified short-term tocolysisは有用であると考える.

  • 中山 栗太, 萩元 慎二, 岩谷 壮太, 平久 進也, 船越 徹, 芳本 誠司
    2023 年 59 巻 3 号 p. 343-348
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     不妊治療の増加や医療の集約化を背景にして,周産期母子医療センターで管理される多胎妊娠が増加している.一方,新生児医療の側面から各センターで出生した多胎児の頻度や変遷を調査した報告は少ない.本研究では,NICUにおける多胎児診療の占める割合を明らかにすることを目的とした.神戸市内における最大の新生児病床数を有する当センターにおいて,過去26年間で分娩された新生児9,559例,およびその母体8,245例について調査した.1995年から2020年にかけて,35歳以上の母体数の割合は10.4から34.2%に上昇,不妊治療(一般不妊治療,生殖補助医療)の頻度は2.3%から26.3%まで増加していた.多胎妊娠の頻度は7.7から22.3%,出生した新生児のうち多胎児の占める割合は15.3から37.2%までそれぞれ増加していた.

  • 扇谷 綾子, 山田 裕也, 高木 久美子, 小林 遼平, 桐村 章大, 中川 隆志, 安原 肇, 恵美須 礼子, 箕輪 秀樹
    2023 年 59 巻 3 号 p. 349-353
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     当センターの新生児搬送の現状は,平日日勤帯はNICUの医師と看護師が新生児搬送ドクターカーに同乗し搬送を行っているが,時間外は依頼元分娩施設のスタッフによる地域救急車を利用した搬送である.2018年1月から2021年12月の間にNICUに新生児搬送入院となった238例を対象とし,出生から依頼までの時間や主訴,周産期情報,NICUでの治療内容を,依頼時間で平日日勤帯と時間外に分けて比較検討した.依頼時間が生後12時間未満の新生児搬送の主訴は,依頼時間帯によらず仮死と呼吸障害が8割を占め,重症度が高いにも関わらず,平日日勤帯よりも時間外の方が入院数は多く,ドクターカーで対応できていないケースが多いことが明らかとなった.ドクターカーによる新生児搬送は,早期に児の治療を開始し安全に児を搬送できる.24時間体制のドクターカーによる新生児搬送システムの整備が急がれる.

  • 佐藤 亜理奈, 長船 綾子, 木下 照常, 井上 美香子, 竹中 実咲, 秋田 寛文, 黒田 啓太, 服部 惠, 鈴木 祐子, 永井 孝, ...
    2023 年 59 巻 3 号 p. 354-359
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     肥満妊婦では母体合併症のリスクが高く妊娠管理や分娩方法の検討が重要であるが,肥満の程度による周産期合併症の発症リスクへの影響はわかっていない.そこで本研究は,2017年1月〜2022年12月に医療法人豊田会刈谷豊田総合病院において妊娠,分娩管理を行った妊婦を対象とし,妊娠30週時点でのBMIを用いて肥満群(30 ≦ BMI < 35)と高度肥満群(35 ≦ BMI)で周産期合併症と患者背景を比較した.高度肥満群では高血圧合併,HDP合併が有意に多く,MSW介入率も高かった.帝王切開症例においては,高度肥満群で麻酔導入時間,手術時間は有意に長く,全身麻酔例,坐位での区域麻酔例は有意に多かった.児の転帰においてはNICU入院率に有意差はなかった.本結果より,肥満妊婦の妊娠・分娩管理では産科的だけでなく社会的,内科的,麻酔科的リスクを考慮した管理が肝要と考えられる.

  • 横山 美奈子, 大石 舞香, 飯野 香理, 伊東 麻美, 田中 幹二, 尾崎 浩士
    2023 年 59 巻 3 号 p. 360-365
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     目的:青森県における帝王切開後試験分娩(TOLAC)の現状と合併症を検証し,TOLACの適応基準を再検討すること.

     方法:青森県内の周産期母子医療センター 5施設のうちTOLACを行っている2施設において単胎を分娩した妊婦を対象としTOLAC希望の有無,最終的な分娩方法,帝王切開後経腟分娩(VBAC)母体の有害事象,児の予後等を明らかにした.さらにVBAC群と帝王切開群で母児の情報を比較した.

     結果:対象者441人中159人(36.1%)がTOLACを希望し,TOLAC成功者は87人(TOLAC成功率:92.6%)であった.TOLAC施行者に周産期死亡や子宮破裂等はなく,VBAC群と帝王切開群の比較では,分娩週数,出生時体重はVBAC群の数値が有意に高かった.さらにTOLACが関与していると考えられる新生児死亡や集学的治療を要した児はいなかった.

     考察:反復帝王切開例では,前置胎盤や癒着胎盤のみならず,子宮摘出,腸管や膀胱損傷,母体死亡などのリスクも増加することから今回このような検討を行った.今回解析対象としたTOLACを実施している2施設では成功率も高く,今後もこの取り組みを継続する方針である.

  • 熊澤 一真, 甲斐 憲治, 大岡 尚実, 吉田 瑞穂, 塚原 紗耶, 沖本 直輝, 多田 克彦
    2023 年 59 巻 3 号 p. 366-371
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     目的:子宮頸管長25mm以下の子宮頸管短縮症例においてペッサリーが子宮頸管長に及ぼす効果を検討すること.方法:2018年11月から2022年1月までの,妊娠30週未満で治療開始となった胎胞形成のなかった単胎のペッサリー使用群のペッサリー装着後の子宮頸管長の推移を,ペッサリーを使用せず入院管理した単胎の対照群と検討した.統計解析にはMann-Whitney検定を用いP < 0.05を有意とした.結果:対象のペッサリー使用群は9例で,このうち入院管理を行った群は6例,対照群は31例だった.入院管理を行ったペッサリー使用群における頸管長は,対照群の頸管長と比べて入院直後から延長傾向を示し,入院2,3,4週後の頸管長は有意(P < 0.05)に延長していた.結論:今回の検討では,ペッサリー挿入による早産率の改善は示されず,早産率の改善効果に関しては今後の検討を待たねばならないが,ペッサリーには一時的な子宮頸管長の延長効果がある可能性が示された.

  • 甘利 昭一郎, 伊藤 裕司
    2023 年 59 巻 3 号 p. 372-380
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     本邦の新生児医療におけるシミュレーション教育の現状とニーズとを,指導者側と学習者側との双方の視点から調査した.全国の新生児認定施設の教育担当者への質問紙調査と卒後10年目以下の医師へのWebアンケート調査とを行い,それぞれ206施設(回収率44%),101名からの有効回答を得た.指導者側と学習者側のそれぞれ95%,84%が,総合的に考えてシミュレーション教育は「非常に有益」または「やや有益」と回答した.しかし,実際に広く行われているシミュレーション教育は気管挿管,人工呼吸,胸骨圧迫,NCPRなどの一部のテーマに限られており,シミュレーション教育を幅広く行えない要因としてシミュレーターの不足や,時間・人手・資金といったコストの問題があることが分かった.本調査を踏まえ,新生児医療におけるシミュレーション教育の体制やプログラムを整備し,持続可能な形で普及させていくことが重要である.

  • 衣斐 恭介, 髙橋 尚人
    2023 年 59 巻 3 号 p. 381-386
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     【目的】当院は病棟改築を機にNICUとPICUが隣接する病棟構造に移行した.改築前後での先天性心疾患児の周術期管理・予後の変化について後方視的に比較した.

     【対象と方法】東京大学医学部附属病院NICUに入院し,先天性心疾患に対する手術を受けた児を改築前後に分けて比較した.

     【結果】背景情報に差はなく,生存退院率や1歳時の死亡率に有意差はなかった(p=0.73,1.00).併存疾患を有する児や非心臓外科手術を要した児が増え(p=0.006),NICU/PICU間の患者移動が増加していた(p<0.001).

     【考察】病状に応じてNICU/PICU間を安全に移動できていた.複雑な治療を要する児の管理には有用であったが,NICU長期滞在例が増えるなどの課題も生じた.

     【結論】NICU/PICUの病棟構造によって先天性心疾患を有する児の周術期管理病床は変化しうる.

症例報告
  • 山本 萌子, 山中 美智子
    2023 年 59 巻 3 号 p. 387-391
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     [目的]完全大血管転位症(TGA)修復術後妊娠例で,周産期管理に重要な点を明らかにする.[対象と方法]2019年から2022年に当院で周産期管理を行ったTGA修復術後妊娠4例5妊娠の経過を,診療録から後方視的に検討.[結果]TGA修復術式は,心房位転換手術2例,動脈位変換術1例,Rastelli術1例2妊娠.妊娠前NYHAはII度が1妊娠,I度が4妊娠,妊娠前から薬物治療を要したのは3妊娠.4妊娠が正期産で分娩,NYHA II度の例は母体不整脈のため34週の早産となった.周産期合併症は1,800mLの分娩時異常出血2妊娠(同一症例)と,-1.5SDのSGAが1妊娠.体心室が右室の例は妊娠中期での管理入院と,集学的治療を要し,左室の例は心機能は保たれた.[結語]術後の体心室の違いにより周産期の心機能や合併症が異なる.各診療科との連携が重要で,特に体心室が右室の例はより慎重な管理が必要である.

  • 梶山 くるみ, 吉田 司, 山中 美智子
    2023 年 59 巻 3 号 p. 392-396
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     妊娠中のリステリア感染症は10万人に3人と稀ではあるが,流早産や新生児死亡をきたしうる重篤な疾患である.当院の19年間の分娩数は23,618例で,リステリア感染症は5例あり,発生頻度は0.02%であった(妊婦10万人に20人).COVID-19感染が蔓延した2020年から2022年は毎年発生した.児の転帰は2例が子宮内胎児死亡(妊娠20週,23週),3例が胎児機能不全のため緊急帝王切開による出生(29週,33週,39週)であった.現時点で児の遠隔予後に異常はない.母体は発熱や腹痛などの症状を呈しており,診断は細菌培養検査でリステリアが検出されることで確定した.細菌培養結果判明後からAmpicillinを含む抗菌薬で治療を行い,母体は全例で軽快した.原因と推定される食品は,1例は未殺菌乳と考えられたが,その他は特定困難であった.妊娠中の食事に関する注意喚起を行うとともに,発熱や腹痛などの症状があれば早急に受診するよう伝えておくことが重要である.

  • 衛藤 恵理子, 井上 真紀, 関口 和人, 前田 知己, 井原 健二
    2023 年 59 巻 3 号 p. 397-402
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     タナトフォリック骨異形成症は重篤な骨系統疾患であるが,近年では積極的な呼吸管理により長期生存例も報告され,必ずしも周産期致死性ではないと認識されている.しかし,本疾患の診療に関わるコンセンサスガイドラインはなく,各施設で症例の重症度や社会的背景を考慮した医療が提供されている.今回,我々は多職種のスタッフが家族との関係性を築きながら,胎児期から亡くなる生後5カ月まで診療したタナトフォリック骨異形成症症例を経験した.日本における本疾患の症例報告を調査した結果,遺伝学的知識や経験を有する臨床遺伝専門医が関与した症例では,出生後に積極的治療が実施される割合が高くなる傾向があることがわかった.また,積極的治療が実施された症例では少なくとも3カ月以上の生存期間が確認された.標準的な診療指針がないタナトフォリック骨異形成症では,患者とその家族に対して正確な医学的情報の提供と精神面のサポート体制が重要と思われた.

  • 細川 満由, 末光 徳匡, 竹沢 亜美, 三谷 尚弘, 門岡 みずほ, 古澤 嘉明, 土肥 聡, 川瀧 元良
    2023 年 59 巻 3 号 p. 403-409
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     無下顎耳頭症は一般的に致死的であるが,Isolatedタイプでは長期生存例が報告される.急性期の気道確保が重要であり娩出時臍帯非切断下気道確保(EXIT)の適応例が報告されるが,母体への侵襲性から適応は慎重に判断する必要がある.

     症例:37歳,未産,妊娠27週に同疾患と診断した.正常下限程度の肺成熟が期待されたことから,EXIT実施の方針とした.出生前診断・治療方針検討・手技計画について,院内の各部署連携に加え,他施設からの指導やオンラインコンサルテーションにより診療体制を整えた.妊娠35週で臨床的絨毛膜羊膜炎を発症し,緊急でEXITを実施した.児は出生後12時間で死亡し,剖検結果より死因は肺低形成による呼吸不全と考えられた.

     EXITの適応に関しては,胎児の肺形成の出生前評価方法は確立されておらず,さらなる症例の蓄積が必要である.本邦では実施経験豊富な施設は限られ,チーム医療連携構築は容易ではない.当院でも経験者が限られる中で,他施設を含めた連携によりEXITが実現した.

  • 多賀 悠希子, 北村 幸子, 中村 彩加, 星本 泰文, 多賀 敦子, 藤田 浩平
    2023 年 59 巻 3 号 p. 410-415
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     ミトコンドリア病はミトコンドリア機能が障害され,多様な臨床症状を呈する病態の総称である.本症例は母体合併症にミトコンドリア病があり,MELASが強く疑われていた.妊娠23週に切迫早産に対し硫酸マグネシウムの投与を開始,妊娠29週に周期的有痛性子宮収縮を認め,ベタメタゾン,リトドリン塩酸塩を投与後,腹痛増悪し最下点80bpmの遷延徐脈を認め,緊急帝王切開術を実施した.体重1,452gの女児をAp3/6点,臍帯動脈血pH6.873で娩出した.胎児機能不全の原因となりうる術中所見を認めず,術後の母体の血液検査で乳酸高値,高血糖とアシドーシスを認めた.母体はのちにMELASと診断され,MELASを背景に乳酸アシドーシスに糖尿病ケトアシドーシスを併発した可能性が考えられた.MELAS合併妊娠において,突然のアシドーシス発症を考慮した上で診療にあたるべきである.

  • 尾山 貴章, 田村 賢太郎, 長岡 貢秀, 杉田 翔太郎, 中村 健太郎, 猪又 智実, 川﨑 裕香子, 平野 勝久, 米田 哲, 吉田 丈 ...
    2023 年 59 巻 3 号 p. 416-420
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     腹壁破裂のうち,腸管の閉鎖や穿孔を伴う複雑型は依然として予後不良である.複雑型腹壁破裂では,早期娩出が腸管予後改善に寄与する可能性があるが,娩出時期に関するコンセンサスはない.症例は複雑型腹壁破裂の男児.母体は妊娠16週に胎児腹壁破裂を指摘され,妊娠28週に脱出腸管の拡張と壁肥厚を指摘された.妊娠30週に脱出腸管が一塊の高輝度腫瘤影を呈した.妊娠32週3日に陣痛のため緊急帝王切開で出生した.出生体重1,824g.腸管は厚い被膜で塊状に癒着し,腸穿孔を伴っていた.術中所見は,多発性小腸閉鎖・穿孔であった.その後,短腸症候群を発症し,生後1歳2カ月で体重2.4kg,有効な経腸栄養はできず中心静脈栄養に依存している.腹壁破裂において,胎児超音波検査で脱出腸管が一塊の高輝度腫瘤を呈することは腸管合併症を示唆する所見と考えられ,妊娠週数や胎児well-beingを鑑みて娩出時期を検討すべきである.

  • 杉浦 多佳子, 藤原 ありさ, 古賀 万里子, 田浦 裕三子, 蓮尾 泰之
    2023 年 59 巻 3 号 p. 421-425
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     抗凝固療法の変更後に短期間で増悪した静脈血栓症合併妊娠を報告する.32歳,4妊1産.2回目までの妊娠分娩歴に異常はなかった.30歳の妊娠時に下大静脈と両側総腸骨静脈の深部静脈血栓症を発症し,7週で中絶した.血栓性素因はなく,残存する下大静脈の病変に対しエドキサバントシル塩酸塩水和物の内服を継続し,今回は妊娠10週より抗凝固療法をヘパリンカルシウム10,000単位/日の皮下注射へ変更した.妊娠12週時のDダイマーが9.6μg/mLと高値で,造影CT検査で下大静脈血栓の増大と肺血栓塞栓を認め,ヘパリンナトリウム持続静脈内投与による治療を開始した.血小板数が5.4万/μLと低値でヘパリン起因性血小板減少症を要因として疑い,抗凝固療法をエドキサバントシル塩酸塩水和物に変更した.妊娠は15週で中絶した.非妊時より抗凝固療法を継続する場合,妊娠許可と継続時の抗凝固療法の選択には十分な検討が必要である.

  • 山岸 賢也, 小竹 悠子, 今西 利之, 川畑 建, 清水 正樹, 中澤 温子
    2023 年 59 巻 3 号 p. 426-431
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/11
    ジャーナル フリー

     新生児ヘモクロマトーシス(NH)は同種免疫学的機序により,肝臓および,膵臓などの網内系以外の諸臓器への鉄沈着を特徴とし,結果として重篤な肝障害を引き起こす予後不良な疾患である.診断基準は提唱されているが,診断することの難しい疾患である.今回我々の経験した症例は,在胎25週6日,出生体重1,056gの早産・極低出生体重児であり,生直後からの代謝性アシドーシス,高乳酸血症,貧血,播種性血管内凝固をきたし,治療に反応せず,生後43時間で多臓器不全により死亡した.死亡した病因が不明であったため,剖検を行ったところ,病理組織において肝細胞の広範な壊死と鉄の沈着を認め,母体血中の抗胎児肝IgG抗体により活性化されるC5b-9が,免疫組織染色にて肝細胞に陽性を示したため,NHと診断しえた.未熟性の強い早産児ではNH診断のための検査も限られるため,生前に診断することは容易ではない.原因不明の多臓器不全死亡症例ではNHも鑑別にあがるため,剖検が重要である.

feedback
Top