【目的】小児鼠径ヘルニアの腹腔鏡下修復術において,国外では様々な方法が報告されているが,本邦では嵩原らにより発表された腹腔鏡下経皮的腹膜外閉鎖術(LPEC)が多くの施設で採用されている.当院では2018年より小児腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術において,ヘルニア囊の切離及び腹膜の連続縫合閉鎖(本法)を行っている.本研究ではその技術的な詳細と手術成績について報告する.
【方法】2018年4月から2023年3月までの5年間に本法を施行した107例(男児27人,女児80人)を後方視的に検討した.手術はすべて3 portで行い,全周性にヘルニア囊を切離し,腹膜を連続縫合で閉鎖した.カメラは3 mm直視鏡を用い,working portには3.5 mm portを使用した.
【結果】手術時月齢は9~192か月(中央値67.5か月)で,片側症例が39例(36.5%),両側症例が68例(63.5%)であった.鼠経ヘルニアが100例,6例が陰囊水腫,1例がヌック管水腫であった.平均手術時間(気腹操作時間)は片側症例で47分,両側で67分であった.全例,術中合併症なく腹腔鏡下で完遂した.術前診断が片側鼠径ヘルニアであった97症例において対側の腹膜鞘状突起(PPV)の開存は58.7%(57/97例)に認められた.現時点で同側再発,対側発症は認めていない.術後合併症は1例に術後臍炎を認めた.
【結論】本法においては,ヘルニア囊完全切離による根治性,腹膜閉鎖時に精管・精巣動静脈が剥離されているため巻き込みの心配がない安全性といった利点がある.症例数はまだ少なく,手術時間も改善の余地があるが,根治性と安全性から理に適った術式であると考えており,今後さらなる手技の成熟と症例の蓄積が望まれる.
症例は1生日,男児.在胎41週0日に自然分娩で出生した.出生19時間後から吐血し,H2ブロッカーとビタミンK2が投与されたが改善なく当院NICUへ搬送された.顔色蒼白で上腹部膨満による呼吸障害があり,気管挿管し人工呼吸管理を開始した.経鼻胃管から約15 mlの新鮮血が吸引された.血液検査では貧血とPT活性の低下を認め,上部消化管造影検査の所見から胃内大量血腫による切迫胃破裂を疑い,緊急手術を施行した.開腹すると胃壁の色調不良や漿膜損傷はなかったが,胃は大量の凝血塊で緊満していた.凝血塊を除去して胃瘻造設し手術を終了した.臨床経過と術中所見,術後に判明した入院時のPIVKA-II高値を総合し,新生児ビタミンK欠乏性出血症(本症)による新生児メレナと診断した.術後経過は良好で17日目に退院した.本症は一般的に保存的治療で改善するが,本症例のように胃内巨大血腫を伴う場合でも,胃破裂に至る可能性は低いため,全身状態を繰り返し評価し,慎重に治療方針を検討する必要がある.
メッケル憩室穿孔(以下,本症)は比較的稀で,術前診断は困難である.今回,術前診断し得た本症の1例を経験した.症例は8か月,男児.血便を主訴に当科を紹介受診した.腹部造影CT検査にて,小腸に連続して盲端となる管腔構造と周囲の微小な腸間膜内ガス像を認め,メッケル憩室出血・腸間膜内穿通の診断で保存的加療を開始した.しかし,発熱が改善せず腹部膨満や炎症反応の上昇がみられるようになったため,穿孔性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した.臍縦切開で開腹し,腹腔鏡下に観察したが穿孔部位の同定が困難で,皮膚切開を20 mm延長して開腹手術に移行した.バウヒン弁から口側30 cmの回腸腸間膜対側に憩室を認め,中央部が穿孔していた.憩室を含めた病変部腸管を切除し,端々吻合した.病理組織学的検査では憩室内腔に小腸粘膜とともに胃粘膜組織を認めた.術後経過は良好であった.本症を術前診断し得たことにより,低侵襲な術式で良好な転帰を得ることができた.
ラプンツェル症候群は,経口摂取した毛髪が一塊となることで形成された毛髪胃石が十二指腸以遠に伸長する病態で,しばしば若年女性に見られ,ときに腸閉塞をきたす.今回,多発毛髪胃石による腸閉塞を伴ったラプンツェル症候群を経験し報告する.症例は11歳女児.腹痛・嘔吐を主訴に来院した.腹部造影CTで,胃から十二指腸にかけ内部不均一な網目状の構造物を認め,同時に小腸に同様の構造物による腸閉塞を認めた.1年前から抜毛・異食があり,毛髪塊による腸閉塞とラプンツェル症候群と診断した.上腹部正中切開後,胃壁を切開し,ウーンドリトラクターを挿入した.胃内の毛髪塊を摘出後,胃切開部を一旦閉鎖し,閉鎖部からバルーンカテーテルを十二指腸側へ挿入し,小腸内の2か所の毛髪塊を十二指腸側へ用手的に移動させバルーンカテーテルを引き抜くことで摘出した.毛髪胃石はまれに腸閉塞を引き起こすことがあるため,小腸内の毛髪塊の有無を検索することが重要である.
症例はCornelia de Lange症候群(CdLS)の23歳,女性.総腸間膜症を有し,これまでにS状結腸捻転を繰り返していた.来院前日より嘔吐と軟便が出現し,夜間に多量の下血を認めた.画像上は結腸全体の浮腫を認め,結腸捻転に伴う絞扼性腸閉塞の疑いで手術を施行した.術前のClostridium difficile(CD)トキシンが陽性であり,同時に治療を開始した.術中所見では横行結腸に相当する腸間膜に腸間膜囊胞と周囲結腸及び腸間膜の発赤を認め,囊胞を起点とした結腸捻転と診断した.腸間膜囊胞切除と,再捻転予防のため短縮した横行結腸間膜を十分に広げて手術を終了した.術後経過良好で,14日目に退院となった.CdLSでは消化器系の合併症を多く有するが,今回は腸間膜囊胞を起点とする横行結腸捻転であった.結腸捻転を繰り返す中で重篤化し手術に至った症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
腎芽腫術後の難治性リンパ漏に対してリピオドールによる治療的リンパ管造影が有効であった1例を経験した.症例は2歳女児.腎芽腫に対して腎摘出術を施行後,乳糜様のリンパ漏を認めた.MCTフォーミュラミルクやオクトレオチドによる保存的治療を行うも改善に乏しく,術後44日目に治療的リンパ管造影を施行した.両側鼠径部リンパ節よりリピオドールを注入し,明らかな合併症なく施行し得た.施行翌日より排液量は著明に減少し,その後再燃を認めていない.小児の腹部固形腫瘍術後の難治性リンパ漏に対してリピオドールによる治療的リンパ管造影は,安全かつ有効な治療選択肢の一つとなり得ることが示唆された.
症例は生後10か月男児.近医で腹部腫瘤を指摘されて当院を受診し,腹部CTと注腸造影の所見から,横行結腸に入口部があり直腸S状結腸部で盲端に終わる管状型結腸重複症が疑われた.腹腔鏡補助下で手術を開始したところ,入口部と判断したものは途中の共通壁に形成された瘻孔であり,重複腸管はさらに回腸末端から15 cm口側まで連続していることが判明し,家族とも相談して全重複腸管を含む結腸全摘,回腸直腸端々吻合再建術を施行した.重複腸管の治療の基本は完全切除とされているが,結腸全摘の本邦における小児報告は検索しえた限り自験例が最初であった.術後1年現在,止痢剤は必要であるものの経過は順調であり,短期的な結果については十分満足できるものであるが,今後の中長期にわたる経過観察のもとでその妥当性を判断する必要がある.
症例は3歳男児.在胎26週926 gで出生.生後3か月時,鼠径ヘルニアが疑われ,超音波検査にて鼠径部へ膀胱の脱出を認め,左側膀胱ヘルニアと診断した.1歳3か月以降,鼠径部に小鶏卵大の膨隆を認めたが,超音波検査にて膀胱の脱出は消失し腸管脱出のみとなった.膀胱ヘルニアであったという経過と超音波検査所見で腹膜鞘状突起の開存や精索の肥厚を伴わないということより術前から内鼠径ヘルニアを疑った.3歳10か月時,腹腔鏡検査にて左側内鼠径ヘルニアと診断,鼠径部アプローチにてiliopubic tract repair法で内鼠径ヘルニア修復術を行った.小児の鼠径ヘルニアはほとんどが外鼠径ヘルニアであり,内鼠径ヘルニアは非常に稀である.膀胱ヘルニアで発症し,術前より内鼠経ヘルニアを疑い,腹腔鏡にて診断し,治療を行えた小児内鼠経ヘルニアの1例を経験したので報告する.
急性胃軸捻転症は併発する病態により発症早期に胃穿孔を合併し急激な経過をたどる場合がある.今回,急性胃軸捻転症により胃穿孔,ショックを呈したが緊急手術により救命し得た1例を経験した.症例は3歳,女児.3日前からの発熱,腹痛,嘔吐を主訴に受診した.腹部は膨満・硬で全体に圧痛を認め,腹部単純X線写真で著明な胃泡の拡大と二重鏡面像,腹部造影CT検査で胃噴門・幽門部,脾臓の偏位,および腹腔内遊離ガス像を認めた.検査直後にショックとなり,急性胃軸捻転症による胃穿孔の診断で緊急手術を行った.術中,胃軸捻転は解除されており,胃穹窿部後壁大弯側に5 mm大の穿孔を認め,単純縫合閉鎖と胃の腹壁への前方固定を行った.術後経過は良好で,術後23日目に退院した.急性胃軸捻転症は,非特異的症状で発症することが多く,初期診断が困難な場合があるが,胃穿孔を発症したとしても,集学的治療と迅速な外科的介入により救命可能である.
副脾は剖検例の10~30%で認められ通常は無症状であるが,捻転による梗塞が生じた場合には急性腹症の原因となる.今回我々は,腹痛を主訴に来院した13歳の男児に対し腹腔鏡補助下に腫瘤摘出を行い有茎性大網副脾捻転の診断に至った1例を経験した.術前画像検査では,T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示す境界明瞭な腫瘤を認めた.病理所見では,脾柱構造を有する脾組織と器質化血栓を伴う動脈を確認し,副脾捻転と診断した.術後経過は良好であり,再発や合併症なく経過観察を終了した.副脾捻転の術前診断は困難であるが,臨床的に疑われる場合は診断的意義を兼ねた審査腹腔鏡の実施を積極的に考慮するべきである.本症例の報告により,副脾捻転の診断と治療の一助となることを期待する.
症例は7歳男児.歩行中に軽四自動車に轢過され受傷し,ドクターカーで搬送された.米国外傷外科学会肝損傷分類Grade Vの肝損傷と診断し,ダメージコントロール手術を施行した.初回手術では肝周囲パッキングおよび経カテーテル的動脈塞栓術を行ったが止血困難であり,局所止血剤追加により止血を得た.2nd look operationでは損傷部に肝壊死と胆汁漏を認めたが,肝切除は行わずドレナージを選択した.さらに内視鏡的経鼻胆道ドレナージを行い,後遺症なく術後第59病日に退院となった.肝臓は鈍的腹部外傷において最も損傷を受けやすい臓器であり,Grade Vは死亡率が高く,緊急手術を要する重症外傷であるが,小児例は稀である.肝周囲パッキング,経カテーテル的動脈塞栓術,局所止血剤の併用の有効性,および術後胆汁瘻に対する保存療法の有効性が示唆された.
重症心身障碍児に対する胃瘻造設術は幅広く普及している.一方で胃瘻管理には合併症も多く注意が必要である.我々は,幽門近傍に造設された胃瘻の管理に難渋し,様々な工夫で改善を得られた症例を経験したので報告する.症例は,10歳女児で,生後10か月で経口摂取困難に対して噴門形成術,胃瘻造設術を施行された.8歳頃より嘔吐症状,腸閉塞を繰り返し9歳で横行結腸人工肛門造設術を施行した.その後,胃瘻の管理に難渋し嘔気症状や胃の拡張,ball valve syndromeやバンパー埋没症候群などの合併症を発症し,栄養剤やデバイスの調整を行った.最終的に10歳6か月で人工肛門閉鎖術の際に胃瘻再造設を行い,以降良好な経過をたどっている.本症例を通じて,栄養調整や成長に応じたデバイス選択の重要性が示唆された.