【目的】小児の遺伝性球状赤血球症(HS)に対する脾臓摘出術は,6歳以上で行うことが推奨されているが,併発する合併症である胆石に対する治療方針が明記されたものはない.当科におけるHSに対する脾臓摘出術(脾摘)および胆囊摘出術(胆摘)について後方視的に検討し,特に胆石合併例に対する治療方針を明らかにすることを目的とした.
【方法】2000年1月~2023年12月までに当科で手術されたHS患児を対象とした.検討項目は男女比,診断時期,術前血液検査,手術時年齢,手術術式,術前合併症とした.胆石・胆泥を有するものを胆石合併例とし,胆石・胆泥の変化を後方視的に検討した.
【結果】対象は11例(男児2例,女児9例),診断時期は新生児期4例,0~3歳2例,4歳以上5例であった.胆石関連合併症として,胆石3例,胆泥2例,胆囊炎1例を認めた.胆石,胆泥の経時的変化が追跡できた症例が2例あった.1例は胆石が3 mm(10歳時)から7 mm(13歳時),10 mm(14歳時)と次第に増大し,総胆管への落下結石による閉塞性黄疸を発症した.手術時年齢は5歳2例,6歳以上9例(中央値10歳[6~14歳])であった.術式は腹腔鏡下脾摘6例,腹腔鏡下脾摘+腹腔鏡下胆摘3例,腹腔鏡下脾摘+開腹胆摘1例(胆囊管周囲の炎症が高度のため腹腔鏡下から開腹へ移行),腹腔鏡下脾摘+開腹胆摘+総胆管切開切石術1例(内視鏡的総胆管ドレナージ処置による減黄後に実施)であった.
【結論】胆石を有するHS症例は,胆石による有害事象を来す可能性があり,超音波検査によるフォローアップを経時的に行い,小児科と連携しながら脾摘,胆摘の適応および時期について決定する必要がある.
【目的】高度救命救急センターを有する地方大学病院における小児外傷に対する小児外科医の役割と課題を明らかにする.
【方法】12年間に高度救命救急センターに搬入され当科に入院した小児患者を対象とした.さらに小児外傷症例の経験について当科所属医師にアンケート調査を実施した.
【結果】小児外科に入院した患者は55名(4.58人/年),臓器損傷患者は25名(2.08人/年),外科手術症例は6例(10.9%)であった.医師へのアンケート調査では8割以上が外傷診療の経験を有していたが,手術経験には個人差があった.施設に搬入される症例が少ないことから,診療経験の情報共有や一般外科医との協力体制の確立,全国的な症例集積で日本独自の体制を確立すべきという意見が見られた.
【結論】外傷における小児外科医の役割として,全身管理は重要であるが,手術修練の機会が限られており,関連外科医との協力体制の構築が必要になると考えられた.
【目的】舌小帯短縮症の患児は,しばしば「舌が短い」ことを主訴に来院する.そこで舌小帯短縮症では「舌の発育不全」があるのではないかと考え,術後に舌の長さを測定して,重症度との関連を検討した.
【方法】2023年5月から2024年6月までに局所麻酔で舌小帯切開を行った乳児138例を対象とした.舌の長さの測定方法は,術後1か月のフォローアップ時に舌の裏に木製の舌圧子を付け根まで差し込み,舌先端の位置をマーキングして舌先端までの長さを測定した.重症度の評価には舌小帯評価スコア5項目のうち目視で客観的に評価できる4項目(肉眼スコア)を用いた.
【結果】病型別の舌の長さの平均は,舌先端型(n=23)11.6±2.0 mm,前方膜型(n=68)13.1±2.6 mm,タワー型(n=29)13.3±2.1 mm,後方(膜型・索状)型(n=18)13.7±3.5 mmで,舌先端型の舌の長さは前方膜型,タワー型,後方型に比べて有意(p<0.01)に短かった.肉眼スコア別の舌の長さは,0点(n=16)10.8±1.4 mm,1点(n=12)13.3±2.4 mm,2点(n=64)12.9±2.6 mm,3点(n=30)13.3±2.2 mm,4点(n=10)13.6±2.8 mm,5点(n=4)15.2±2.0 mm,6点(n=1)16 mm,7点(n=1)21 mmで,スコア0点の舌の長さはスコア1,2,3,4点に比べて有意(p<0.01)に短かった.
【結論】舌の可動域が著しく制限された舌先端型ないしスコア0点では舌の発育が障害されていると考えられた.舌小帯短縮症,特に舌先端型に対する舌小帯切開は早期に行うことが望ましい.
【目的】北海道初の試みである小児外科志望の医学生・初期臨床研修医(以下,研修医)を対象とした北海道小児外科サマーセミナー(以下,本セミナー)を実施し,その効果および実施前後における医学生・研修医の意識変化について検討した.
【方法】道内の小児外科志望の医学生・研修医を対象に,午前中は道内の小児外科認定施設・教育関連施設の紹介などの座学をし,午後は腹腔鏡下縫合・結紮手技(胆管空腸吻合モデル),腸管吻合,da Vinciシミュレータ,エコーガイド下内頸静脈穿刺といった実技実習を行った.本セミナー受講前の期待度と受講後の満足度をアンケートにより集計した.
【結果】医学生11名,研修医5名が参加し,アンケート回収率は100%(16/16)であった.小児外科施設紹介は受講前:「非常に期待」2名から受講後:「非常に満足」12名と増加した.腹腔鏡下縫合・結紮手技,腸管吻合は受講前:「非常に期待」11名から受講後:「非常に満足」16名であった.小児外科医になりたいかという問いでは受講前:「どちらともいえない」3名,「とてもなりたい」6名から,受講後:「どちらともいえない」0名,「とてもなりたい」10名であった.
【結論】本セミナーは,医学生・研修医の小児外科への興味・関心の向上のみならず,小児外科医の連携強化にも影響した.医学生・研修医が本セミナーを通して実際に小児外科を専攻するかどうか,長期の進路調査を行う予定である.
症例は0歳男児.在胎36週1日,1,856 gで出生した.出生時,会陰外表に肛門や瘻孔がなくレントゲンで腸管ガスを認めた.日齢1に倒立位撮影で高位鎖肛と診断し,右上腹部に横行結腸ループ式人工肛門造設術を施行した.術後ミルク摂取できていたが,日齢8に胆汁性嘔吐とレントゲンで胃十二指腸の拡張を認め,上部消化管造影検査で十二指腸狭窄症と診断し,日齢14に手術を施行した.人工肛門を仮閉鎖して,創部を延長して開腹した.狭窄疑いの部分を長軸方向に切開すると,Y字胆管を伴った十二指腸閉鎖症であった.切開部を短軸方向に縫合し,合併する腸回転異常症に対してLadd手術,横行結腸二連銃式人工肛門再造設術を施行した.Y字胆管による口側と肛門側に交通のある先天性十二指腸閉鎖症が一定数存在する.新生児において開腹手術術前に腸管ガスを認める場合でも十二指腸閉鎖症を合併している可能性があることを慎重に検討する必要がある.
症例は在胎35週に臍帯付着部から羊水腔への腸管脱出が指摘され腹壁破裂と出生前診断された.在胎36週4日,体重2,052 gで男児として出生.臍帯付着部の近傍に羊膜が残存しており腸管が外翻していた.生後4時間で手術を行い,外翻していた腸管を整復すると臍帯と交通する臍腸管瘻を認め,同部から肛門側腸管が外翻していたため臍腸管瘻を合併した臍帯ヘルニアと診断した.臍腸管瘻を含む腸管を部分切除して端々吻合した.腸管の浮腫を認めていたが腹腔内へ還納できたため一期的に腹壁閉鎖術を施行した.本症例の病態として,臍腸管瘻を通じて回腸が外翻して羊水腔へ脱出することで,腸管の通過障害が生じて口側腸管が拡張し,臍帯ヘルニアのヘルニア囊が破裂したと考えられた.出生前に診断することが難しい稀有な病態で,腹壁破裂と出生前に診断されたケースの中には,自験例のような臍帯ヘルニアのバリエーションがあることを念頭において臨むことが肝要と思われたため文献的考察を加えて報告した.
胆道閉鎖症術後長期生存例の外側区域に限局し発症した胆管炎症例を経験した.症例は24歳,女性,生後59日に葛西手術を受け,病型はII-b1-β型,再建術式はRoux-en Y原法で,術後の減黄は良好,胆管炎の発症既往なく成人されていた.SARS-CoV-2感染に続く発熱で来院,静脈血液培養でEscherichia coliが検出され,胆道系酵素の増加が著明であったが,逸脱酵素の増加及び黄疸は軽微であった.腹部CT検査では外側区域門脈域周囲の低吸収域の軽度拡大を認める程度であった.腹部MRI T2強調像では,外側区域と内側区域の一部の門脈域に広がる強い炎症所見を認めたが右葉側には見られなかった.炎症消退後のMRIで左葉内に連続,分岐する胆管と思われる数珠状高信号を認めた.この形態が限局した胆管炎発症の原因である可能性はあるが,葛西手術後に胆管と腸管の吻合が左右の分岐より末梢側で完成することが,肝全体に波及する胆管炎を防ぎ得るとも推測した.
症例は11歳女児.受診1か月前に嘔吐・下腹部痛で近医にて過敏性腸症候群として加療された.症状は一時的に改善したが再燃し,前医を受診した.前医のMRI検査で最大径11 cmの卵巣に連続する囊胞性病変を認め,卵巣腫瘍茎捻転疑いで当院紹介後に夜間緊急手術とした.Pfannenstiel切開で開腹し,S.A.N.D.バルーンで漿液性の囊胞内容液を病変部から吸引し,牽引した.病変部は右側卵巣に連続しており,卵管根部で720°反時計回りに捻転し,卵巣は暗赤色であった.卵管の走行は不明瞭で,卵巣間膜から連続する腫大した病変を認め,傍卵巣囊胞による捻転と診断した.捻転解除と囊胞上皮切除を行い,右卵巣は生検し,温存した.術後病理診断で切除部は卵管上皮であり,卵管水腫による子宮付属器捻転と診断した.現在外来でフォロー中であるが,右卵管水腫の再燃や右卵巣の萎縮は認めていない.小児の卵管水腫による付属器捻転の報告は少なく,文献的考察を含めて報告する.