泌尿器科領域では旧来,膀胱鏡など硬性鏡による診断が行われてきた.その後,内視鏡機器の開発により経尿道的手術が発達した.小児泌尿器科でも膀胱腫瘍,膀胱結石,尿管瘤,後部尿道弁などの治療として経尿道的手術が行われることが多くなった.膀胱尿管逆流防止術は,長らく開放手術が中心であったが,内視鏡的注入療法や気膀胱手術の登場により治療の選択肢が広がった.令和6年に膀胱外アプローチの腹腔鏡手術が保険収載になった.近い将来にロボット手術が保険収載されると,膀胱尿管逆流防止術が様変わりすることが考えられ,気膀胱手術の使命も変わっていくことが推測される.巨大尿管を呈する尿管膀胱移行部通過障害,尿管瘤,異所性尿管などは膀胱内操作や膀胱経由での膀胱後面へのアプローチが有効で安全と思われるので,気膀胱手術の存在価値は持続すると考えられる.
【目的】小児慢性便秘症に対するマクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム(以下,モビコール®)を投与した際の長期の有効性及び安全性を検討した.
【方法】2018年12月1日~2022年12月31日までに杏林大学医学部付属病院小児外科(以下,当科)にてモビコール®が新たに投与され4週間以上投与継続した2歳以上14歳以下の慢性便秘症患者について,観察・検査項目を診療記録及び患者問診票より取得し,後方視的検討を行った.評価項目はモビコール®投与前後の排便回数と便形状及び有害事象と副作用とした.また,年齢層及び前便秘治療薬と浣腸の有無別の層別解析も行った.
【結果】適格性に合致した研究対象者は98例で,モビコール®の平均投与期間は116.0±78.4週であった.モビコール®投与により,排便回数は投与開始前1.2±1.0回/週が4週後には5.4±4.7回/週(P<0.001)と増加し,便形状の改善も認められ60週以上効果は継続した.浣腸使用例において浣腸回数は有意に減少した.層別解析の結果,モビコール®の効果は年齢及び前便秘治療薬や浣腸の影響を受けないことが認められた.平均投与期間は2年以上であったが重篤な有害事象はなく,副作用も認められなかった.
【結論】モビコール®の小児への長期投与は有効かつ安全な治療法で,第一選択となりえる.
【目的】胆道閉鎖症診療ガイドライン(以下,CPG)の改訂にあたり,CPG公開前後の診療実態を調査し,CPGが診療の標準化にもたらす影響を検討した.
【方法】日本胆道閉鎖症研究会会員施設を対象に,診療実態とCPG活用状況・評価に関してCPG公開前後にアンケート調査を行い比較した.
【結果】公開前127施設中76施設(59.8%),公開後144施設中84施設(58.3%)より回答を得た.過去5年間の手術経験は,経験がないが24%,1~4例が43%,5~14例が27%であった.CPG利用状況は,回答施設の8割以上で活用され,CQ数,適合度,分かりやすさ,アルゴリズムの有用性はいずれも8割以上で一定の満足が得られていた.CPGで「行うことを提案する」とした便色カードは「有効である」との回答が増加していた.術前診断として「行わないことを提案する」とした肝生検は施行施設が増加していた.手術時期は30日以内の手術について,公開前調査で「必要」との回答が37%であったのに対し,公開後調査で「早いほどよい」が41%,「生後30日以内」が19%と早期手術の重要性がより認知されていた.腹腔鏡手術は「全例を対象としている」3%,「症例に応じて施行している」5%,「施行していない」92%であった.CPGで「推奨なし」とした術後ステロイドは「投与する」が公開前89%に対し公開後82%とやや減少していた.CPGで「推奨を提示すべきではない」とした一次肝移植要件のPELDスコアは考慮する施設が減少していた.
【結論】本CPGは活用されており,改訂での新規エビデンスの追加でより診療の標準化と治療成績向上が期待される.
症例は2歳男児.1歳時に頸部正中の腫瘤に気付き,CTで舌骨尾側に囊胞を認め単発性の甲状舌管囊胞(本症)と診断した.2歳時に超音波検査で3つの小さな低エコー領域(後述参照)を描出し,MRIで舌骨尾側の囊胞と舌骨頭側に近接する小囊胞を2つ認めた.2歳2か月時に手術を施行した.舌骨を切離後,舌骨に付着する主囊胞と小囊胞1つを確認したが,通常の瘻管切離ラインまで剥離しても残る1つの囊胞は視認できなかった.術中超音波検査によって,舌筋内の囊胞を確認し,core outを進め囊胞を完全摘出した.本症の多くは舌骨尾側に生じる単発性の囊胞であり,多発性は極めて稀である.多発性の内,特に舌筋内に小囊胞を有する本症では,手術操作によって舌骨と囊胞の位置関係に変化が生じる場合があり,通常の切離ラインでは囊胞遺残が生じる可能性がある.このような症例において,舌筋内の囊胞および瘻管の同定には術中超音波検査が有用である.
高位鎖肛の患者では便禁制に必要な恥骨直腸筋や肛門括約筋が未発達とされ,術後便失禁のリスクは高い.肛門管形成術は高齢者における特発性便失禁を対象に報告された術式で,我々はヒルシュスプルング病根治術後に肛門が持続的に開大し便失禁を呈する症例に応用し,便失禁が改善したことを以前本誌で報告した.その経験を踏まえ,本術式を高位鎖肛術後の便失禁を呈する症例に応用したので報告する.症例は3例で男性1例および女性2例で原疾患は高位鎖肛(無瘻孔,直腸前立腺瘻,総排泄腔遺残),肛門管形成術時の年齢は11歳から24歳であった.肛門管形成術前の直腸肛門奇形研究会排便スコアは0~1点であり.術前透視では全症例で肛門管の開大を認め造影剤の保持は不可能であった.肛門管形成術後,排便スコアは5~7点に改善し,術後透視では全例で肛門管の開大が改善し,造影剤の保持が可能となった.本術式は高位鎖肛術後の便失禁に対しても一定の効果を認めた.
胎児期に腹腔内囊胞を指摘される症例は多いが,左上腹部を占拠する病変は稀である.術前鑑別診断に苦慮したが有症状で新生児期に手術を行った先天性脾囊胞の1例を経験したので報告する.症例は女児で,胎児超音波検査で腹腔内囊胞を指摘された.胎児MRI検査や出生後の超音波検査で左上腹部に囊胞を認めたが,発生臓器は同定できなかった.経過中に少量嘔吐が持続したため,日齢8に手術を行い,術中所見で脾囊胞と診断した.切除断端を最小にするように天蓋切除術を行い,脾容積を温存しつつ術中術後の出血などの合併症なく手術を行うことができた.術後の血液検査で血小板数上昇を認めたが,術後6か月時点で正常化し,重篤な感染症や囊胞の再発なく経過している.新生児期に治療介入を要する脾囊胞の症例は少ないが,症候性の腹腔内囊胞に対しては年齢に関わらず早期介入を考慮すべきである.
症例は10歳の女児.自転車の単独事故で,ハンドル外傷により腹部を受傷した.造影CTで肝臓の巨大血腫と造影剤の漏出を認めたため,血管造影を施行した.肝動脈から出血を認めたため,経カテーテル動脈塞栓術により止血を行った.第3病日に貧血の進行と肝逸脱酵素の上昇があり,エコーで血腫の増大と腹水を認めた.再度造影CTを施行したが,造影剤の漏出はなく,肝実質の造影効果は保たれていた.そのため,再出血および肝コンパートメント症候群の可能性は低いと考えた.輸血と保存的加療により状態は改善し,第32病日に退院した.入院中はエコーと造影CTで血腫の評価を行った.血腫は増大が止まった後,血漿成分が吸収され,次第に血球成分が溶解して縮小していった.巨大血腫の経時的な画像変化を観察できたことは,侵襲的治療が必要になった際の適切なタイミングを計る一助になると考える.
症例は6歳,男児.日齢3に先天性十二指腸狭窄症に対して十二指腸十二指腸吻合術を受けた.3日前からの腹痛のため当院を受診したところ,膵酵素の上昇と造影CT検査で膵腫大を認め急性膵炎と診断した.MRI検査で膵頭部膵管に膵石が充満していた.また,膵頭部膵管に複雑な膵管奇形を認めた.膵石は内視鏡で摘出不能であり,開腹切石術を行った.超音波検査で膵管を同定し,膵頭体部移行部付近で膵管を開放し膵石を除去した.術中造影検査で膵頭部の膵管は三つ股に分岐し,うち2本は十二指腸に開口していた.また,膵管の分枝も拡張し,側副路の形成を認めた.膵管の十二指腸開口部に狭窄はなく,経十二指腸的に膵管ステントを留置し手術を終了した.術後は合併症なく経過した.術後33日目に退院し,現在まで膵炎の再発なく経過している.複雑な膵管奇形を伴う膵石症では,膵管走行の把握及び確実な膵石除去の方法として膵管切開術は有効と考えられた.
腸管虚血を伴った中腸軸捻転症例に対し,Ladd手術後にサイロ吊り上げ法(silo suspension method: SSM)を行い,腹部コンパートメント症候群(ACS)を回避し,虚血腸管を直視下で観察した後second look手術を行った新生児3症例を経験した.1例はLadd手術翌日に発症したACSに対しSSMを行い,サイロ内腸管の浮腫や壊死の程度を観察,全身状態改善した術後6日目に壊死腸管40 cmを切除・再建し閉腹した.他2例はLadd手術時にSSMを行い,術後2日目に25 cm,35 cmの壊死腸管切除・再建し閉腹した.3例とも術後の経過は良好であった.SSMは,①閉腹に伴うACSを予防,②腸管を直視下に観察することによるsecond look手術の時期の判断,③腸管切除範囲の最小化,という利点がある.感染リスク増悪などmorbidity悪化も認めず,中腸軸捻転に対し有用であった.
症例は日齢1の女児.胎児期に異常の指摘はなく,在胎38週2日,体重3,670g,Apgar score 8/7にて出生した.出生10時間後より嘔吐と呻吟が持続するため当院へ新生児搬送となった.腹部単純レントゲン写真で肝前面にfree airを認め,消化管穿孔の診断にて緊急開腹手術を施行した.回腸末端より15 cmの回腸に穿孔部を認め,穿孔部の肛門側に腸重積の所見を認めた.穿孔部を含む拡張腸管と腸重積部の腸管を10 cm切除し,一期的に端々吻合を行った.切除標本では腸重積と小腸閉鎖が併存している所見を認め,胎児期後期の腸重積を原因とした小腸閉鎖による消化管穿孔と診断した.新生児期の腸重積症は非常に稀であり,本症例では腸重積症による血行障害が原因と考えられる小腸閉鎖症を来していた.小腸閉鎖症と腸重積症が併存する症例は稀であり,発生機序や時期に関して文献的考察を加えて報告する.
先天性結腸閉鎖症の閉鎖部前後に狭窄を伴い,肉眼的には血流障害を認めず,切除範囲決定に苦慮し頻回手術となった1例を経験した.日齢1に消化管穿孔の診断で緊急開腹術を施行した.上行結腸の穿孔および下行結腸の索状型閉鎖と閉鎖部前後の狭窄を認め,回腸に双孔式ストーマを,閉鎖部の口側に単孔式ストーマを造設した.また,合併した囊胞型胆道閉鎖症に対し根治術を施行した.狭窄部は擬似便注入後も成長が得られなかったが,術中所見からは器質的病変か判断が困難であり,複数回の追加切除を要した.後方視的に検討すると狭窄部は下腸間膜動脈領域に一致し,病理学的に虚血後の変化として粘膜下の線維化を認めたことから,同領域の血流障害が主病態と考えられた.結腸閉鎖症において拡張するはずである閉鎖部の口側に狭窄を伴う場合,原因として血流障害を考慮し,腸管の切除範囲を擬似便注入への反応性と病理学的所見から決定する必要がある.
尖圭コンジローマ(本症)は通常,粘膜型ヒトパピローマウイルス(HPV)6型11型により会陰部に丘疹状/鶏冠様疣贅を生じる,性行為感染症(STI)の一つである.今回粘膜型HPVの関与のない本症小児例を報告する.11歳女児,3か月前より膣に角状疣贅を認め,角化した先端が脱落するようになった.生検よりHPV感染及び本症の診断となり.イミキモド外用を開始したが皮膚炎を来たし切除術を施行した.膣,子宮頸部に病変なく,性的接触の可能性は低いと判断した.粘膜型HPV定性検査,PCRは陰性であったため,皮膚型HPV感染が示唆された.術後6か月再発なし.小児では医原性や感染経路不明も多く,尋常性疣贅を来たす皮膚型HPVも検出されうる.性的虐待の見極めは重要だが,常にSTIとは限らない.児は帝王切開であり,両親のHPV検査陰性で垂直-水平感染は否定的であった.未だ感染経路は不明であるが,組織像と粘膜型HPV陰性の結果から皮膚型HPV感染による本症が示唆された.