背景.神経鞘腫はSchwann細胞に由来し,末梢神経の存在する部位から発生し得るが,胸腔内では後縦隔や胸壁発生が比較的多いとされている.肺内,気管支発生例は稀であり外科的に診断されることが多いが,今回我々は超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)で診断し,経過観察した症例を経験した.症例.77歳男性.前医入院中の胸部CTで左肺下葉中枢側に3.3 cm大の腫瘤を認め,当科紹介.気管支鏡検査では気管支内腔の明らかな不整像なく,左B6入口部から左底幹の外側方向に不均一な低エコーの腫瘤性病変を確認し,EBUS-TBNAを施行.病理組織よりS-100蛋白陽性の紡錘形細胞の柵状配列を認め,神経鞘腫と診断した.採取検体からは明らかな悪性所見なく,手術を希望しなかったため経過観察とし,診断後2年経過したが増大を認めていない.結語.EBUS-TBNAで診断した肺内神経鞘腫は稀であり報告した.腫瘍増大による閉塞症状や稀に悪性転化の報告,また手術回避にて悪性所見を見逃す可能性があり,慎重な経過観察が必要である.
症例.症例は71歳の男性.胸部打撲後に呼吸苦を自覚し当科紹介となった.胸部CTで左主気管支入口部に9 mmの腫瘍を認め,気管支鏡検査にて左主気管支内腔の約半分を狭窄する表面部分葉状で光沢のある隆起性病変を認めた.超音波気管支鏡(endobronchial ultrasound:EBUS)にて隆起性病変の充実部は上皮下層と連続していた.高周波スネアにて腫瘍を切除した.病理組織検査にてfibroepithelial polypと診断された.術後6年再発を認めていない.結論.稀な気管支原発のfibroepithelial polypに対して内視鏡的に完全切除を施行した.
背景.気管気管支骨軟骨形成症(tracheobronchopathia osteochondroplastica:TO)は特徴的な気管支鏡所見を持つ稀な疾患である.合併したポリープ病変が治療に影響したケースは報告例がない.症例.79歳女性.右下葉肺癌が疑われ経気管支肺生検を施行した際に気管の多発する白色隆起病変と気管ポリープを認めTOと診断した.遠隔転移はなくSTAGE 1Bの肺腺癌の診断で手術方針となった.ポリープが分離肺換気手術の障害になると考えられたため,軟性気管支内視鏡下にポリープ切除し支障なく右肺下葉切除が行えた.結論.軟性鏡下の高周波スネアを用いて安全にTOの気管ポリープを切除できた.
背景.肺病変を呈する節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL)は稀であり,しばしば診断に苦慮する.症例.61歳男性.受診1か月前から右背部痛を自覚.近医で右肺野結節影を指摘され紹介.胸部computed tomographyで右上下葉結節影,右肺門,縦隔リンパ節腫大を認めた.気管支鏡検査を2回施行したが診断に至らなかった.また鮮血便と18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomographyで直腸に集積を認めたため,大腸内視鏡検査を施行.直腸腫瘍があり生検したが,炎症と悪性腫瘍との鑑別がつかなかった.受診後1か月の時点で右頸部リンパ節が増大.生検で悪性リンパ腫が判明.最終的にENKLと診断した.化学療法を行ったが,原病の悪化により初診時から8か月後に永眠された.結論.生検で壊死組織が著明な場合,ENKLを考慮すべきである.早期に確定診断するには,生検回数を増やすことが大事である.
背景.炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は,全身に多彩な腸管外合併症をきたす慢性炎症性疾患で,呼吸器合併症は比較的稀とされる.症例.34歳,女性.20XX-2年3月潰瘍性大腸炎に対して,メサラジン,ステロイド,アザチオプリン併用療法を開始された.寛解導入後,20XX年6月ステロイド投与は中止したが,1週間後,喘鳴を伴う呼吸困難感にて当科紹介となった.胸部画像上,左肺無気肺を認め,気管支鏡検査にて左主気管支に粘液栓を確認した.精査の結果,アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)に類似した病態が示唆された.ステロイド全身投与を計画したが,粘液栓を自己喀出し,左無気肺は改善した.以降,再発なく,無治療経過観察を継続している.結論.IBD管理の際,ステロイドの減量に伴い,潜在性の呼吸器合併症が顕在化することがあり,注意を要する.
背景.肺放線菌症確定診断のためのガイドシース併用気管支腔内超音波断層法(endobronchial ultrasonography with a guide sheath:EBUS-GS)を用いた診断能は不十分である.病巣深部からの検体採取が肝要と報告されている.症例.52歳女性.胸部異常陰影を契機に胸部CTにて右S6に結節影を認めた.約2年間で軽度増大し,当科に紹介された.結果.EBUS-GSを用いて,EBUSでwithinから生検を行ったが,炎症性細胞浸潤などの非特異的所見のみであった.PeriView FLEXを用いた穿刺吸引針生検により,壊死性変化を認め,悪性所見は認めなかった.さらに生検検体の組織培養でActinomyces odontolyticusを認め,肺放線菌症と診断した.抗菌薬加療で病変の改善を認めた.結論.肺放線菌症の診断のため,病巣深部からサンプリングを行う際,ガイドシース併用経気管支穿刺吸引針生検は有用である.
背景.剝離性間質性肺炎(DIP)は特発性間質性肺炎の3%未満とされ,発症には喫煙や粉塵曝露の関与が指摘されている.溶接工肺との関連を示す報告は稀である.症例.48歳,男性.喫煙歴は10~20本/日×30年間.職業は溶接工.胸部異常陰影を指摘され,当科を受診した.胸部CTで縦隔リンパ節腫大と両肺にびまん性のすりガラス影を認め,経過観察を行ったが,14か月の経過で肺病変は徐々に進行した.気管支肺胞洗浄では好酸球比率の増加を認めた.診断目的に胸腔鏡下肺生検を施行し,病理組織ではDIP様の所見を認めた.術後に発熱と息切れが出現し,間質性肺炎の増悪と診断し,ステロイド療法により改善を認めた.結論.溶接工肺はDIP様反応を呈することがある.
背景.関節リウマチにサルコイドーシスを合併することがあると報告されるが,関節リウマチに対するステロイドとメトトレキサートの併用中にサルコイドーシスを発症することは稀である.症例.74歳女性.40歳時に関節リウマチの診断となり,ステロイドとメトトレキサートの併用がなされていた.胸部X線で異常影を認め,当科を受診した.胸部CT検査でびまん性の粒状影や縦隔・肺門リンパ節の多数の腫大を認め,呼吸状態の悪化から入院となり,気管支鏡検査で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めたことからサルコイドーシスと診断した.高用量ステロイド療法を開始したところ,呼吸状態と画像所見の改善を認めた.結論.関節リウマチをステロイドとメトトレキサートで治療中に呼吸不全を来して診断したサルコイドーシスの1例を経験した.関節リウマチの治療中でもサルコイドーシスの発症とそれに伴う呼吸不全に注意が必要である.
背景.ステロイド加療中に単純ヘルペス気管気管支炎を発症した1例を経験した.症例.73歳女性.喘息の急性増悪に対してステロイド加療中に咳嗽や喀痰の増加を認めたため気管支鏡検査を施行した.内腔は気管から気管支にかけて白苔付着を認めた.カンジダ感染症を疑い抗真菌薬による加療を開始したが症状は改善せず,再度気管支鏡検査を施行した.喀痰細胞診,気管支生検から核内封入体,すりガラス様変化を伴う細胞を多数認め単純ヘルペスウイルス感染症が疑われた.また気管組織から核内封入体様の所見と,封入体を含むヘルペスウイルス感染細胞が免疫染色で認められた.アシクロビル投与で症状は改善し気管支鏡で白苔の消失も確認した.結論.単純ヘルペス気管気管支炎は稀な疾患であり,肉眼的にはカンジダ感染症との鑑別が困難である.診断には気管支鏡による気管粘膜生検が有用である.
背景.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの悪性リンパ腫が気管気管支に転移することが知られており,その進展形式はびまん性粘膜下浸潤を呈することが多い.一方,マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)が気管気管支に転移し,孤立性結節の所見を呈するのは稀である.症例.81歳女性.10年前にMCLを発症し再発と寛解を繰り返していた.胸部単純CTで気管気管支内に結節が出現し,FDG-PETで同結節をはじめ,頸部・縦隔リンパ節などに異常集積を認めた.気管気管支病変はMCL転移の非典型例と考えられ,診断的治療目的に気管支鏡下腫瘍生検術を施行した.気管気管支転移を含むMCLの再発と診断し,チロシンキナーゼ阻害薬の導入により一旦は寛解を得たが,病勢の悪化で3年8か月後に原病死した.結論.MCLは多発転移の一部として気管気管支内に孤立性結節を呈することがあるため,気管気管支病変にも留意する必要があることが示唆された.
背景.悪性リンパ腫に対する超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)の診断率は低く,外科手術による診断が必要になることがある.また悪性リンパ腫の縦隔病変は気道狭窄をきたすことがある.症例.45歳女性.咳嗽および呼吸困難を主訴に当院を紹介受診し,胸部CTで前縦隔に6 cm大の腫瘤を認め,気管分岐部が狭窄していた.気管支鏡検査を施行し,気管分岐部前方でViziShot2Ⓡ 22 G針を用いてEBUS-TBNAを複数回行ったが微小検体しか得られなかった.診断を急ぐ必要があり,コアトラップ付きEchoTip ProCoreⓇ 22 G針に代えて穿刺したところ,良好な組織検体が採取できた.組織診断はB細胞性リンパ腫で,Ann-Arbor分類のII期であった.気道狭窄に対して,全身麻酔下で硬性鏡を用いて気管分岐部にDumon-YステントⓇを留置した.R-CHOP療法を開始したところ,縦隔病変は縮小しステントは留置5か月後に抜去することができた.同療法を6コース施行し完全寛解が得られ,その後再発は認めていない.結論.EBUS-TBNAで悪性リンパ腫を診断する際,コアトラップ付き穿刺針を用いると良好な検体が得られ,診断に有用なことがある.また気道狭窄を伴う悪性リンパ腫症例では化学療法前に一時的な気道ステント留置術は有効な治療法である.