日本緑化工学会誌
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31 巻, 2 号
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特集
  • 荒瀬 輝夫, 内田 泰三
    2005 年 31 巻 2 号 p. 219-229
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    緑化の行われない林道周辺における植生の変化を把握するため,施工後年数と立地条件を要因に取り上げて植生解析を行った。実験計画は施工後年数 (36年,11年),林道上空の植生の開度 (開,閉),工法 (切土,盛土) の3要因の三元配置とし,それぞれ2反復 (計16区),2×5mの調査区を設けた。調査地は信州大学手良沢山演習林とした。木本類は主に動物散布型種子の灌木類で,施工後36年区で11年区より種数が増加していた。草本種数と植被率は開度の大きい調査区で増加する傾向にあったが,植生は概して疎らであった。次に,林道周辺の植生の評価に,植生だけでなく鳥類相の視点を加えることを検討するため,植生の開度,植生の空間構造,鳥類の移動の記述を加えたラインセンサスで鳥類を調査した。異なる森林環境の比較のため,手良沢山の他に大河川の河畔~亜高山帯の5調査地を加えた。鳥類種数は植生の開度に沿って変化しており,種数が最大となる植生の開度は調査地により異なっていた。また,観測時に目立った移動をする鳥類は,通年ふつうに見られる留鳥にほぼ限定されており,鳥類の生息が樹木や草本の有無に影響されていない調査地ほど,移動が多く観測された。
  • 岡村 俊邦, 杉山 裕, 吉井 厚志
    2005 年 31 巻 2 号 p. 230-238
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    「生態学的混播・混植法」は,風倒に伴う根返り跡の更新を参考に開発した自然に近い樹林の再生法である。この方法では,根返りの結果,根系が広がっていた範囲の地表部が裸地化し,そこに自然散布された多種類の樹木の種子が同時的に発芽・成長し,先駆性から極相性の樹林へと遷移する過程を再現しようとするものである。開発は,1991年に河畔林の再生法として着手され,1995年頃,現行の方法が確立され,現在まで約10年間,実証過程に入っている。この方法の特徴は,目標の設定・種子の採種・苗の養成・植栽(播種)・記録・追跡調査・評価の全体を含んだシステムとなっていることである。この結果,約10年間で北海道の河畔や堤防,ダム,道路法面等を中心に約100箇所,73種,10万本が導入され,継続的なモニタリングによるデータが蓄積されている。これらのデータの解析により,全体としては,当初目指した先駆樹種による速やかな樹林形成と,極相樹種への緩やかな遷移が実現しつつあることが確認できた。
  • 橘 隆一, 福永 健司, 仁王 以智夫, 太田 猛彦
    2005 年 31 巻 2 号 p. 239-246
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    緑化法面における土壌環境の変化を生態学的観点から捉える指標として,土壌微生物相の有用性を検討した。その結果,緑化後の年数経過にともない細菌数では減少傾向,糸状菌数では増加傾向を示した。放線菌数では明確な変化は見られなかった。一方,細菌数/糸状菌数(B/F),放線菌数/糸状菌数(A/F),細菌数/放線菌数(B/A)の各菌数比率では,いずれも年数経過にともなって指数関数的な低下傾向を明瞭に示した。また,B/Fでは緑化後の年数経過にともなう土壌のpH(H2O),全炭素含有率,全窒素含有率,A/FではpH(H2O),C/N比,B/Aでは土壌採取時の含水率,全炭素含有率,全窒素含有率の変化を反映していた。各微生物数と土壌理化学性との間にはそれほど強い相関は認められなかった。一方,各菌数比率は土壌特性を反映していた。さらに,それぞれの菌数比率によって,反映している土壌特性が異なる可能性も認められた。つまり,緑化法面における土壌発達の指標としては,各微生物数単独ではなく,各菌数を比率として用いる方が有効であると考えられた。また,希釈平板法は,他の微生物実験法に比べて実験操作が簡易で特別な機械も必要とせず費用も安いなど実用性が高く,緑化分野等,現場サイドでの利用には有効であると示唆された。
論文
  • 鈴木 弘孝, 小島 隆矢, 嶋田 俊平, 野島 義照, 田代 順孝
    2005 年 31 巻 2 号 p. 247-259
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,近年ヒートアイランド対策や地球温暖化防止対策への対応等環境負荷の少ない都市環境を形成していくための有力な手法として着目されている壁面緑化について,現在屋上の緑化や開発利用に取り組んでいる企業とその技術担当者へのアンケート調査結果に基づき,壁面緑化の市場性,普及の可能性等について民間企業と技術担当者の意識を把握し,技術的課題への認識を整理することにより,今後都市部において壁面緑化を推進していく上での技術開発の方向,研究開発分野において重点的に取り組むべき対象と範囲を検討するための基礎的資料を得ることを目的としている。調査の結果,民間企業等の意識として壁面緑化の今後の市場性拡大への期待が高いこと,技術担当者の意識として壁面緑化に関する技術開発を推進していく上で,緑化による温熱環境改善効果の定量化,建設コストの縮減,維持管理の簡素・効率化等を課題と認識していること,また壁面緑化の6種類のタイプについて対応分析を行った結果,適用場所や普及可能性に認識の差異のあることが明らかとなった。
  • 谷脇 徹, 久野 春子, 岸 洋一
    2005 年 31 巻 2 号 p. 260-268
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    都市近郊の下刈りや落葉掻きといった林床管理の施される雑木林と,管理停止後に短期あるいは長期に放置された雑木林において,地表性甲虫相をピットフォールトラップ法によって調査した。総科数,総種数および総個体数は長期放置区で最も多かった。シデムシ科の個体数割合はすべての調査区で最も高かったが,林床管理区よりも長期放置区で高かった。また,優占種であるオオヒラタシデムシの個体数と放置年数は正の相関関係にあった。シデムシ科およびゾウムシ科の個体数と落葉枝量および電気伝導度で正の相関,総個体数と土壌硬度および含水率,ケシキスイ科の個体数と相対光量子束密度および地温で負の相関が認められ,放置年数に伴った林床環境の変化に対する応答が昆虫群によって異なると推察された。除歪対応分析(Detrended Correspondence analysis, DCA)の結果,群集構造は短期放置区と林床管理区で類似したが,これらの調査区と長期放置区では異なった。また,各放置年数に特有の種群が確認された。多様な地表性甲虫相を保全するためには,林床管理の施される林分と様々な放置年数の林分をモザイク状に配置することが望まれる。
  • 吉田 寛, 森本 幸裕
    2005 年 31 巻 2 号 p. 269-277
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    厚層基材吹付工により中国産コマツナギ(Indigofera spp.)と常緑広葉樹(イボタノキ(Ligustrum obtusifolium Sieb. et Zucc.),シャリンバイ(Rhaphiolepis umbellata Makino),ヤブツバキ(Camellia japonica L.),サザンカ(Camellia sasanqua Thunb.))が混生する植物群落を形成した切土法面について,施工後約9年間の追跡調査を行った。その結果,これらが混生する植物群落を早期に形成させることにより,1)発芽・成立した常緑広葉樹は,林冠が中国産コマツナギに鬱閉された場合でも林床植生を形成して法面表層を保護できること,2)中国産コマツナギと常緑広葉樹との競合により,中国産コマツナギの密度と基底面積が低下する傾向が認められ,常緑広葉樹主体の群落への遷移を促す効果が示唆されること,3)林床植生として形成された常緑広葉樹は,イボタノキのような半常緑性の種を除いて,中国産コマツナギの落葉期においても緑量を持続できることから,特に周辺の森林が常緑性の樹木で構成されている場合には景観保全という観点からも有効であることが確認された。こうした改善効果は,今回使用した中国産コマツナギのほか,法面緑化で広く用いられているヤマハギ(Lespedeza bicolor Nakai.)やイタチハギ(Amorpha fruticosa L.)等を使用した場合においても発揮されると考えられ,マメ科低木群落が有していた,林床植生の衰退,単純林化,遷移の停滞,および落葉期の景観保全上の問題等を比較的容易に改善する手段のひとつとして有望と思われる。
  • 今西 亜友美, 今西 純一, 村上 健太郎, 森本 幸裕, 里村 明香
    2005 年 31 巻 2 号 p. 278-283
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/03/12
    ジャーナル フリー
    都市における生物多様性の保全に関する基礎的知見を得るため,京都市内14箇所の神社境内(非舗装の非樹林地)において,草本植物の 1)種数と境内面積,形状等の環境条件や人為的撹乱との関係,2)種の出現パターンと入れ子(下位の入れ子に出現する種が上位の入れ子に順次,組み入れられている状態)から逸脱しやすい種の特徴について研究を行った。その結果,種数と関係の強い環境条件は境内面積であることがわかった。また,国外外来種の種数は被踏圧面積の割合の減少や下刈り施業面積の割合の増加に伴って増加する可能性が示された。種の出現パターンは入れ子状であり,基本的には上位の入れ子の神社境内から保全していくことが望ましいと考えられた。しかし,多年草,1回出現種は入れ子から比較的逸脱しやすい種であることが示され,またレッドデータブック記載種は入れ子順位が下位の境内においても記録された。これらのことから,京都市内の神社境内における草本植物種保全のためには,下位の入れ子も含めた複数の境内の保全が必要であると考えられた。
技術報告
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