日本緑化工学会誌
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38 巻, 2 号
2号
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特集
  • 里山ランドスケープの放射性物質汚染に関する問題と今後の展望
    小林 達明, 山本 理恵
    原稿種別: 特集
    2012 年 38 巻 2 号 p. 265-273
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    3 月11 日の地震と津波は,福島第一原子力発電所の全電源消失という事態を招き,引き続いた一連の事故は,大量の放射性物質を大気中に放出させ,その降下域は深刻な汚染に悩まされることになった。このような事態についての危惧は,原子力委員会においても,またそのような公式の会議の外でも,これまで何度か指摘されており,決して科学的に想定外だったわけではないが,国も電力会社もまじめに現実的な対策をとった形跡はない。放射線生物学の研究は,厳重管理され閉じた「管理区域」における研究にほぼ限られてきた。自然環境下における放射性物質の動きについては,1950 年代から60 年代に行われた核実験による放出放射性物質のグローバルフォールアウトを利用した土壌浸食研究や同位体比を用いた生態系循環の研究が一部の研究者によって行われてきただけである。ましてや自然環境に広く拡散された高濃度放射性物質とそれに起因する放射線の対策に関する研究は,米ロの核実験場周辺の研究かチェルノブイリ原子力発電所事故に関わる研究にほぼ限られる。したがって,環境中に広く放出された放射性物質を適切処理して, 健全な自然環境を再生する専門家は,2011 年3 月時点わが国にはいなかった。この原稿をまとめている2012 年秋の時点では,住宅や道路等都市的な環境の除染,農地の除染については一定の知見が集積しつつあるが,森林・緑地の取り扱い方,それが人や農作物,さらには野生生物へ与える影響について取り組んでいるグループはまだ一部に限られる。このような研究には,放射性物質・放射線に関する知識は不可欠だが,それだけで十分とは言えない。例えば,放射線防護の三原則は,Contain: 放射線・放射性物質を限られた空間に閉じ込める,Confine: 放射線・放射性物質を効果的に利用し, 使用量は最小限にする,Control :放射線・放射性物質は制御できる状況で使用する,とされているが,自然環境下でこれらの原則は,すべて予め崩れている。体外放射線に対する防護の3 原則とされる時間・距離・遮蔽と, 体内放射線に対する防護の5 原則とされる希釈・分散・除去・閉じ込め・集中を,自然環境中でどのように選択し,組み合わせて,矛盾少なくいかに適切にリスク低減のプロセスを進めていくかが課題となる。これらの措置は自然環境そのものにも影響を及ぼす。たとえば,森林の落葉落枝層の除去は放射性物質の除去には有効だが,土壌浸食の増加を促すので,その対処が必要である。そのようなことが,居住,飲食,教育などの生活面,農林業などの産業面で,様々に影響しあう。放射性物質管理は,社会に対して大きな影響を及ぼすので, リスクコミュニケーションは特に重要となる。私たち緑化研究者・技術者は,環境の問題を把握し,それに対処して健全な自然環境を再生すべく,これまで研究を重ね,技術を積み上げてきた。その中で放射線・放射性物質に関する問題はほとんど扱われてこなかったが,自然環境の取扱いについてはプロであり,この問題についても果たすべきことは多々あると思われる。また,自然環境の再生を訴えてきた専門家集団の倫理としても,その汚染を黙って見過ごすことはできない。そのような問題意識から,2012 年大会にて, 有志とはかって「原子力災害被災地の生態再生(I) 里山ランドスケープの放射能と除染」を企画した。本特集は,その際の発表をもとに,学会誌向けにとりまとめたものである。本稿では,緑化と関連する放射線・放射性物質の問題の所在と研究の現状を見渡し,今後の展望について整理したい。
  • 里山流域単位の除染を目指した GIS 整備
    近藤 昭彦
    原稿種別: 特集
    2012 年 38 巻 2 号 p. 274-277
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
  • 都市緑地の除染
    水庭 千鶴子
    原稿種別: 特集
    2012 年 38 巻 2 号 p. 278-281
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
  • 農地と斜面・のり面の除染について現状の対応と今後の課題
    大内 公安
    原稿種別: 特集
    2012 年 38 巻 2 号 p. 282-287
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    2011 年6 月より計画的避難区域である飯舘村での農地の物理的な除染技術の開発を目的として(独)農研機構農村工学研究所とともに調査・試験を開始して,その後内閣府の除染モデル事業と飯舘村長泥地区,飯舘村小宮地区,川俣町山木屋地区での東北農政局の農地除染実証事業で,(独)農研機構と共同開発した表土削り取り機器の指導・成果検証,福島市渡利地区のり面除染方法の検討等を担当し,一定の知見と解決すべき課題を得ることができた。
論文
  • 小川 泰浩, 黒川 潮, 阿部 和時, 久保寺 秀夫
    原稿種別: 論文
    2012 年 38 巻 2 号 p. 290-301
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    2000 年に噴火した三宅島雄山の火山噴出物に対し,高濃度火山ガスが通過する山腹斜面における緑化の可能性を把握するため,高濃度火山ガスが噴出している2 時期の酸性化した噴出物表層の試料を採取し,物理性と化学性の比較を行った。さらに噴出物表層の微細な堆積構造を土壌薄片によって観察した。これらの結果,リターが噴出物層の硬化の改善に影響を与えていることが明らかになった。リターがなく表面侵食が発生している噴出物層では雨滴による構造クラストで地表が硬化していた。硬化した場所では植物の根の伸長が困難な値 (土壌指標硬度17 mm 以上) であった。中和石灰量の測定から高濃度火山ガスが通過する調査地の噴出物層では,アルミニウム溶出に伴う根系への悪影響が生じていると推察された。したがって,高濃度火山ガスが噴出している時期に播種による緑化は困難であると考えられた。
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