土木工事により生じた大規模斜面における植栽の際には,自生集団の遺伝的多様性保全のために,自生あるいは遺伝的類縁性の高い近隣集団の種苗を用いるべきことが最近広く認知されている。埼玉県長瀞町および寄居町の送電鉄塔建設予定地において,生物多様性保全に配慮した緑化工を行う観点から,工事に伴う伐採前に採種して育苗したコナラ (
Quercus serrata) を建設工事跡地に植栽した。この取組みにより,植栽集団 (実生 2集団) が自生集団の遺伝的多様性に与える影響を評価するために,マイクロサテライトマーカーを用いて植栽集団の遺伝的多様性や他集団 (埼玉県内の近隣 4集団および他県 3集団) との遺伝的分化程度について調査した。その結果,実生集団の遺伝的多様性は近隣の成木集団も含めて他集団と同程度であった。 STRUCTURE解析では埼玉県と他県集団には遺伝構造がみられたが,埼玉県内集団については全体で一つの地域交配集団とみなすことできた。これらのことから,建設工事跡地に植栽したコナラ種苗は自生集団の遺伝的多様性およびその地域性を維持しており,本取り組みによって自生集団の遺伝的多様性保全に貢献できたことがわかった。
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