スポーツ社会学において、「スポーツと障害者福祉」は、これまで二つの立場から論じられてきた。第一は、スポーツがノーマライゼーションの達成や社会参加に貢献することを前提にして、障害者のスポーツ参与の現状と課題を示し、障害者スポーツの改善点を提示するもの。第二は、スポーツ界におけるノーマライゼーションなどの進展を評価しつつ、障害を有していても参加可能なスポーツのあり方を論じる立場である。この二つの立場は、「ノーマライゼーション」や「社会参加」など理念的な福祉のあり方を前提としており、また福祉的課題を障害者のスポーツ参与の問題に限定している。
しかしながら、障害者福祉におけるスポーツの可能性や問題点は、障害者が生活する状況における具体的な課題や生活のありようと関わって考察されなければならない。本稿は、こうした問題関心のもとで、名古屋シティハンディマラソンを事例とした。その特徴は、
(1)重度障害者の自立生活支援を行う障害者運動団体である「愛知県重度障害者の生活をよくする会(よくする会)」が開催・運営を行っていること。
(2)「よくする会」のメンバーが“都心を走ること”をマラソンの目的としていることである。
本稿では、この二つの視点から、ハンディマラソンが、重度障害者が生活する際に問題となっている施設に関する課題に関連した場になっていること、そしてこのことが障害者福祉の支援とは異なる回路で、施設に関する問題を解消する可能性を有していることを示した。
最後に、スポーツと障害者福祉の関連を論じていくうえで、障害者のスポーツ実践を彼らが生活していく際の具体的課題のなかに位置づけ、スポーツがその問題解決に寄与する可能性を検証しながら、障害者スポーツのあり方を模索していく必要性を指摘した。
抄録全体を表示