本研究の目的は、現代的なスポーツをめぐるポリティクスの様相と視角を日仏のスポーツ基本法の政策決定及び制度構造の比較を通して考察することである。
第1に、スポーツ基本法の政策決定については、政策決定過程に関係する諸アクターの行動や関係を分析した。その結果、超党派のスポーツ議員連盟による事前協議段階での政治的な調整の傾向、政党間の利害対立・争点が顕在化しない傾向、低調な立法審議と一部の議員による調整の状況、非常に短い立法協議の問題、文部科学省など官僚機構の組織変更、省庁間の権限関係や機関間関係の決定の先送り傾向、官僚機構による立法のコントロールとボトムアップ型の民主的な協議の機会の不足、国とスポーツ統括団体との権限関係の不明確さと明確な対抗関係の不在、アドバイザリーボードなど特定の関係者や専門家による組織の影響、スポーツメディアによる批評や影響の弱さと国民的関心の低さなどを指摘した。
第2に、スポーツ基本法の制度構造については、特に統治、権力、権限、秩序維持などと係わる諸規定を分析し、当該規定によってもたらされる社会的諸力の相互関係を検討した。その結果、スポーツ文化論とスポーツ立国論の対立の構造、スポーツ権規定の導入の意義と作用、スポーツ団体の努力規定の導入の背景とガバナンス論や法の支配の観念との関係、スポーツ紛争解決制度の導入及びスポーツ団体と日本スポーツ仲裁機構との対峙傾向、文部科学省の権限と機関間関係の構造、中央地方関係をめぐる政治的な対立の回避の傾向と地方分権化の影響などを指摘した。
最後に、日本におけるスポーツ政策の決定過程の曖昧さと責任や権限関係をめぐる法制度の不明確さを改善するためには、スポーツ権やスポーツ法の基本原理を確立し、スポーツ政策の政策過程と制度構造の合理化や高度化をすすめる必要があることを指摘した。また、ボトムアップ型の民主的な協議の場を確保するための制度構造を検討する必要があることを指摘した。
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