スポーツ社会学研究
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23 巻 , 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
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特集のねらい
原著論文
  • 美馬 達哉
    23 巻 (2015) 1 号 p. 7-18
    公開日: 2016/06/03
    ジャーナル フリー
     「治療を超えて」生物医学的テクノロジーを健常人に対して用いることで、認知能力や運動能力を向上させようとする試みは、「エンハンスメント(Enhancement)」として1990年代後半以降から社会学や生命倫理学の領域で注目を集めている。とくにスポーツの分野では、新しいトレーニング手法、エンハンスメント、ドーピング、身体改造などの境界は問題含みの混乱状況にある。本稿では、医療社会学の観点から、まず、カンギレムの『正常と病理』での議論を援用して、正常、異常、病理、アノマリーなどの諸概念を整理し、正常/異常が文化的・社会的な価値概念であることを明確化した。 次に、スポーツと身体能力のエンハンスメントに力点を置いて、エンハンスメントをめぐる生命倫理学での議論を概観した。病者への治療(トリートメント:treatment)と健常者へのエンハンスメントを対比して、前者を肯定し後者を否定して線引きする伝統的な議論では不十分であることを、具体的実例を挙げて示した。また、資質と努力の賜物としての達成(アチーブメント:achievement)とエンハンスメントを対比して、前者の徳としての重要性を指摘する議論を紹介した。加えて、本稿は、エンハンスメントの根本問題とは何かという点で、現代社会のテクノロジーによる人間的自然の支配こそが再考されなければならないという視点に立って、エンハンスメントを超える展望を提示した。
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  • 久保 明教
    23 巻 (2015) 1 号 p. 19-33
    公開日: 2016/06/03
    ジャーナル フリー
     本稿は、将棋電王戦における棋士とソフトの対局をめぐる事例分析に基づいて、現代スポーツに広く見られる、人間と非人間的なテクノロジーが結びついた主体の有様を探究するものである。
     モバイル端末で体調管理を行うスポーツ愛好家から科学的トレーニングによって心身を鍛え上げるトップアスリートにいたるまで、現代のスポーツには人間的存在と非人間的存在が結びついたハイブリッドな行為体が遍在している。だが、こうした人間と非人間のハイブリッドはしばしば一方が他方に従属する形で理解され、「スポーツは人間がするものだ」という命題が維持されてきた。
     本稿では、まず、ブルーノ・ラトゥールが提唱した「対称性人類学」のアプローチを参照しながら、スポーツに対するテクノロジーのあからさまな浸透が一般化した現代において、なぜ人間中心主義的なスポーツ観が維持されているのかを検討する。そこで見いだされるのは、科学技術によって客体化される自己とこうした科学的な客体としての自己を観察し制御する主体としての自己の明確な区別に基づいて前者を後者に従属させる再帰的な主体のあり方である。こうした「モニタリングする主体」の形象によって、ハイブリッドは覆い隠され、人間中心主義的なスポーツ観が維持・再生されてきたと考えられる。
     これに対して、将棋電王戦をめぐる事例分析においては、棋士も将棋ソフトも共に人間的な要素と非人間的な要素が混ざり合ったハイブリッドな存在であること、電王戦の対局において、両者の「モニタリングする主体」としての有様がしばしば機能不全に陥っていったことに注目する。棋士とソフトのふるまいが観測可能な範囲の限界を超えて様々な人間的/非人間的要素と流動的な関係をとり結んでいく過程を検討した上で、最終的に、異種混交的なネットワークへと自らを託していく主体の有様において現代スポーツに遍在するハイブリッドな行為体を捉えうることを示す。
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  • 山崎 健
    23 巻 (2015) 1 号 p. 35-46
    公開日: 2016/06/03
    ジャーナル フリー
     身体運動における骨格-筋システムの複雑さの解明には、研究の多様化と重層化とが必要である。従来は、運動司令を出す脳-神経系と指令を実行する骨格-筋系及び運動遂行時に外乱を引き起こす環境系のトップダウンシステムのみが注目されてきた。現在では、環境系から身体系と神経系へのボトムアップインフォーメーションの反復により系全体を再構築する可能性が指摘されている。
     本研究では、この問題について、三種類の筋線維と三つのエネルギー供給系が3×3のマトリクスシステムによりエネルギー系の変動に適切に対応してスキル系を変容させ適応しているとの仮説を、実際の長距離レース中の疾走動作の変容を対象として検討した。よくトレーニングされたランナーは、レースの進捗に対応してランニングスキルを変えており、これはある意味での適応制御と考えることができる。
      しかし、このような複雑なシステムの総体を、実証的に検討することは困難も多く、多くの知見を俯瞰的に統合する研究戦略と研究システムの構築が求められる。
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  • 竹﨑 一真
    23 巻 (2015) 1 号 p. 47-61
    公開日: 2016/06/03
    ジャーナル フリー
     近年、高齢化社会の進展とともに、高齢者の間でスポーツの実施率の高まりやアンチ・エイジング市場の拡大など、老いゆく身体に対する身体実践が一般的になりつつある。先行研究ではこうした実践がクオリティライフの達成や社会関係の構築、アイデンティティ再獲得に繋がっており、高齢者にとっての価値となっていることを指摘した。しかしながら、こうした研究は、なぜ高齢者たちがその価値を求めているのか、そしてその価値をいかに構築しているのかを十分に捉えてこなかった。
     この問題意識から、本稿では東京都Sジムの男性高齢者ボディビルダーを事例に、彼らの実践に焦点を当て、彼らがいかにボディビルの価値を構築するのかを考察した。そして以下のことが明らかとなった。彼らは、ボディビルが必ずしも身体的な「老い」を解決するものではないと理解している。しかしながら、彼らはSジムに通う他の健康志向の高齢者に「普通の高齢者」像を投影することを通じて、自身の老いゆく身体を肯定的に意味づけ、自分たちから差異化することによってボディビルを価値づけていく。そして、「普通の高齢者」から差異化し続けるために、老いを受容することによって新たな身体観とその設計図を見出し、ボディビルダーであり続けようとしていた。
     最後に、高齢者の望ましい生の獲得は彼ら自身が老いを「異常な状態」と認識することによってなされる可能性があること、そして、老いゆく身体を持つがゆえに高齢者の文化として身体実践が位置づいていく可能性があることを示した。それゆえ高齢者の身体実践に関する議論は、価値論や是非論ではなく、高齢者の「生きられた経験」を捉えることから、老いゆく身体と身体実践がいかに結びついていくのかを問う必要性を指摘した。
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  • 熊澤 拓也
    23 巻 (2015) 1 号 p. 63-80
    公開日: 2016/06/03
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は、1933年から1937年までの日本におけるアメリカンフットボール(以下「フットボール」)を事例に、その中心的な活動主体だったアメリカからの日系二世留学生に焦点を当て、日本スポーツ外交史の一端を読み解くことである。
     日本においてフットボールは1902年に初めて行われたが、競技の危険性などから、その後30年間は定着することがなかった。しかし、1933年に日系二世留学生によって始められた活動は、1934年の統括団体の結成と公式戦の開催、1935年の全米学生選抜の来日、1936年から1937年にかけての全日本選抜のアメリカ遠征など、数年の内に急速に展開し、現在の日本フットボール界の起源となった。
     この背景には、1931年の満洲事変、1932年の上海事変と満洲国の建国、1933年の国際連盟脱退通告などを背景に、国際社会の中で進む日本の孤立化という時代状況があった。当時、日本の政府関係者や指導者層は、日本の正当性を国際社会に向けて喧伝する目的で、2つの手段に着目した。 第1は国際交流やスポーツ外交であり、第2は日系二世留学生である。スポーツに関しては1932年のロサンゼルスオリンピックの成功を受け、その外交的有用性が認知されていた。また、1931年の満洲事変を機に急増した日系二世留学生に対しては、日米の懸け橋というまなざしが向けられていた。これは、留学生が本国に帰った後、日本の立場を擁護する代弁者としての役割を果たすよう期待する考えである。
     以上より、1933年から1937年までの日本において、フットボールの活動が急速に展開した要因は次の2点が考えられる。第1は、日米の懸け橋というまなざしを向けられていた日系二世留学生が中心的な活動主体であったこと、第2は日米親善を目的としたスポーツ外交が求められていたことである。このことは、1937年の日中戦争勃発を機に、日系二世留学生の数が減り始め、国際交流やスポーツ外交が沈静化すると同時に、フットボールの活動も停滞し始めることと無関係ではないだろう。
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