スポーツ社会学研究
Online ISSN : 2185-8691
Print ISSN : 0919-2751
ISSN-L : 0919-2751
31 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集
  • 高橋 豪仁
    2023 年 31 巻 1 号 p. 3-5
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー
  • 文化論的パースペクティヴから
    橋本 純一
    2023 年 31 巻 1 号 p. 7-22
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

     現代社会においてスタジアム/ アリーナはただ単にスポーツを観戦する場所ではなく、様々な機能と意味をもつ場所となっている。そこで本稿ではそのようなスポーツ観戦空間について、筆者のいくつかの過去論稿をベースにしながらも新しい知見を参照しつつ、その文化論的パースペクティヴを提示/ 検討しながら機能/ 意味を解読し、最終的に今後の課題を示すことを目的とした。

     まずスポーツ観戦空間がどのような足跡を辿ってきたのかを、主に近代スポーツ誕生後に盛んに建造されているスタジアム/ アリーナを対象にしながら、大まかな潮流ごとにその特徴を概観する。ここではスタジアム/ アリーナが歴史的にスポーツ観戦の輝かしい場所だけでなく、暴力、男性コミュニティ、群衆の喜怒哀楽、政治的集会等に利用されてきたことを提示する。

     スタジアムの社会学的/ 文化論的機能として、ジェンダー規範、行動規範、支配的イデオロギー等、当該社会の状況、秩序、価値観を映し出すものであることを示す。同時に社会的/ 政治的な避難場所としての役割を担っていることを論ずる。

     さらにスポーツ観戦空間の理解を深めるためのパースペクティヴのうち、消費主義及びグローバル資本主義を考察した後、重要なパースペクティヴとして「アイデンティティ/ プライド」の次元と「美」的次元について補足説明を加えた。

     最後に、現時点での課題について、社会的アクティヴィズムや持続可能性の視点から検討した後、未来のスタジアム空間設計に向けて、ヴァナキュラー論、ジェンダー論、場所論の視点から、エンドユーザーを重視するホスピタリティ設計についてノーマティヴな提言を行なった。

  • 多母集団同時分析を利用したモデル比較を通じて
    上林 功
    2023 年 31 巻 1 号 p. 23-38
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー
     観客席とフィールドとの距離が近いことがスタジアムやアリーナなどスポーツ施設の評価に繋がることはしばしばスポーツファンの間で膾炙される。一方でスポーツ消費者行動研究において観戦者とフィールドとの物理的な距離に注目した研究は少ない。本稿では環境心理学における方法論的限界や建築計画学の研究蓄積を踏まえ、スポーツ観戦やスポーツ応援の魅力を論じるうえで改めて観戦者とフィールドとの距離に注目し、スポーツ消費者行動との関係について検討をおこなった。
     上林(2017)のプロ野球スタジアムの体験―行動モデルを使用し、多母集団同時分析を用いた座席エリアによる群間比較をおこなうなかで等値制約モデルのパス係数から決定係数を算出し行動意図(再来場)に対するスタジアム体験3因子の影響度について比較した。
     既存の6つの座席エリアにおいてはモデルの各因子得点に有意差は見られず、等値制約(因子得点平均値、切片)モデルにおいて各因子の影響度の違いが示された。
     つづけて任意の座席エリアを設定し、座席との位置関係から観戦者とフィールドとの距離について検討を進めた。60m、90mで区切った等距離同心円形とファールエリアとの等距離平行線形の比較をおこなったところ、等距離平行線形において行動意図(再観戦)に比較的高い影響度を示す観戦臨場体験(71.35%)がフィールドからの距離が離れるにつれて小さくなり、90m以上離れた座席エリアにおいて影響度が0%まで減少するとともに、グループ観戦体験(23.72%)や飲食サービス体験(6.05%)の増加を確認できた。臨場感を得たいスポーツ観戦者はフィールドに近い観客席の前方を選好し、応援などグループ観戦体験を得たいスポーツ観戦者は球場全体を眺められる観客席の後方を選好する、従来経験則でしか語られてこなかった座席エリアの選好傾向について定量的に示すことができた。
  • ―統制・商業化・多様性―
    永井 良和
    2023 年 31 巻 1 号 p. 39-53
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー
     応援行動に関する調査と研究は近年、さまざまな場面について多角的に行われるようになった。そのなかで指摘されているのは、応援する人びとに対する管理の強化や、応援団体への女性の進出、さらに応援が消費市場にとりこまれたことなどである。これらの諸点について、プロ野球の観客席で観察された例などをふまえつつ、方向性や今後の課題について指摘する。
     じゅうらいのローカルな応援文化は、国際化や商業化、ジェンダーレス化などの進行とともに大きく変貌している。その結果、古い応援のスタイルはすたれ、「統制された熱狂」とも呼びうる状況が生みだされた。ただし、現場ではそのような方向性にあらがう動きも確認できた。応援の場への女性の進出も着実にすすんだが、いっぽうで、それは競技スポーツの多くがそうであるように、男性/女性という区別を前提にしたかたちをとどめたままである。また、拡大する応援ビジネスに観客がとりこまれ、多くのグッズが販売されるようになった。観客は、それらの多くの商品のなかから、自分の応援のありかたを託して表現できるモノを選択し、消費行動をつうじて自己表現を行なう傾向が強まっているとみられる。
     なお本稿は、筆者の観察メモにもとづいて記述しているとはいえ、計画的に調査を設計し、収集されたデータを分析したものではない。フィールドノートに記載された断片的な事実から、現状を考え、将来的な研究課題を析出する作業をめざすものである。
  • ―文化装置としての応援空間―
    瀬戸 邦弘
    2023 年 31 巻 1 号 p. 55-70
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー
    本稿は、近代日本文化のひとつとして「応援団」と言う集団と空間に注目するものである。応援団と一口に述べると、観客やメディアを通した聴衆を含めた観衆を指す事にもなるが、本稿では「応援団」と称される常設の組織・集団を対象として、その文化を考察するものである。さて、この「応援団」なる集団は、その発祥を明治期にまで遡るものであるが、これまでの歩みの中で独自の思考と行動様式を構築し、また、それを堅持する傾向が強いと言われる。ところで、彼らは常に“応援団らしさ” を得る事、それを護る事にその存在価値を見出してきたとされるが、実は、彼らの文化が「祭祀的・呪術的」な側面をも包含しながら、ひとつの文化装置として機能し、各校の歴史や文化の再生産に与した事、そして彼らが学校の権力の維持強化にもその役割を果たす事になってきた点は興味深い。本稿では、応援団がこれまで如何なる文化・社会的な価値を醸成、表象してきたのか、そして、それらが日本社会における文化装置として如何に機能してきたのか、考察するものとなる。
原著論文
  • ―なぜ母親たちは「周辺的役割」を担い続けるのか―
    宮本 幸子
    2023 年 31 巻 1 号 p. 71-82
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー
     子どもが団体・クラブ等に所属して行うスポーツ(以下「スポーツ活動」と表記)においては、保護者に様々な関与・支援が求められる。特に母親は、競技そのものに直接関わらない、子どもたちの世話などの「周辺的役割」を共同で担うことが多い。このような状況に対しては、先行研究においてジェンダーの観点等から問題も指摘されている。それにもかかわらず、子どものスポーツ活動においては、なぜ母親が主に「周辺的役割」を担う構造が維持され続けるのだろうか。本研究は 小学生の母親に対して実施したフォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)のデータ分析を通し、社会関係資本の概念を援用してそのメカニズムを明らかにすることを目的としている。
     FGDは、1)子どもが地域クラブでスポーツ活動をし、母親の関与の度合いも高いグループ 2)子どもが現在、スポーツ活動をしていないグループ の2グループ(計10名)に対して実施した。
     母親たちは、保護者ネットワークで得られる「利益」よりも「投資」の負担を強く認識している。そのため、子どものスポーツ活動における「周辺的役割」に対して自らが労力や時間をどの程度「投資」できるか、判断を試みる。そのためには、「ママ友」を頼りにしたインフォーマルな「情報」収が欠かせない。
     「情報」が得られた母親たちは、それをもとに「投資」の可能性を判断し、スポーツ活動の「選択行動」に移る。「投資」できないと判断した母親はスポーツ活動を諦め、できると判断した母親たちは、その程度によって所属するクラブを「選択」する。このようにして、子どものスポーツ活動においては、同程度の「負担」が可能な保護者同士のネットワークが構築され、そこでの情報はまた既存の「ママ友」ネットワークにもたらされる。結果、各クラブの「周辺的役割」の程度は固定化され、母親が「周辺的役割」を担う構造が維持される。
  • ―ボディビルダーの身体的次元に着目して―
    堀田 文郎, 松尾 哲矢
    2023 年 31 巻 1 号 p. 83-99
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー
     本稿はある個人がボディビルダーとなり、ボディビルへと専心していく過程とその論理について検討したものである。先行研究ではこれまで、生活の全てをボディビルに捧げるというような極端なまでの専心性をもってボディビルダーがボディビルに身を投じる様相が報告されてきた一方で、そのような専心性が招来される機制については十分に論じられてこなかった。そこで本稿は、ある個人がボディビルへと専心していく過程とその論理を明らかにすることを目的とし、ボディビルダーという存在の身体的次元における変容、特に身体的経験に着目しつつ検討を行った。
     その結果、第一に、調査協力者らは結果が確約されない不確実な現実において、自身の努力に必ず成果をもたらしてくれる筋肉に対し「筋肉は裏切らない」という心的態度を形作り、それを動因にボディビルへと参入していることが明らかになった。
     また第二に、ボディビルへと参入した彼らは、筋肉を発達させるために自身の身体の反応をつぶさにうかがい、それに準じて生活を規律するようになること、ここにおいて身体はその反応を介して生活に絶対的な規範を授ける超越的な他者としての機能を果たすようになることが明らかになり、以上の過程において調査協力者らは生活をボディビルへと収斂させ、ボディビルへと専心していったと推察された。
     そして第三に、身体の反応に敬虔に従うようにして自身の行為を規律するボディビルダーの営為は、「こうでなければならない」という絶対的な指針が存在しない不確定な現実の中に、価値や行為に関する規範を生み出し、調査協力者らの生活、さらには人生に確固たる意味と目的を産出するという秩序化の機能を果たしていることが示唆され、ボディビルへと専心すればするほど自身の生活、そして人生の意味が明快で確実なものとへと秩序化されていくというこの論理こそ、ある個人がボディビルへと専心していく論理であろうと推察された。
  • ―千葉県長生郡一宮町の事例から―
    宮澤 優士
    2023 年 31 巻 1 号 p. 101-115
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー
     逃避的で抵抗的な文化として特徴があるサーフィン文化において、文化の担い手であるサーファーは積極的に社会運動を展開し、社会変革を試みてきた。
     しかし、こうしたサーファーによる社会運動をめぐって、当該地域において対立がみられる場合がある。それでは、サーファーによって環境保全が訴えられたときに、サーファーと関係者間において対立が生まれるとするならば、それは何に由来し、どのような論理の相違からなるものなのか。
     本稿では、サーファーによる環境保全運動をめぐって、サーファーと地域住民や専門家との間でどのような議論が交わされ、どのような結果に至ったのかを探り、サーファー自身による運動の困難性と可能性を示す。その際、千葉県長生郡一宮町を事例地とし、サーファーによる署名運動がきっかけとなって開催された「一宮の魅力ある海岸づくり会議」を取り上げる。
     サーファーによる社会運動の分析から導出されるのは、サーファーが地域における環境保全を訴えるときに発生する困難性である。サーファーは、自らのサーフィン経験を契機とし環境保全運動を展開するものの、サーフィン文化が抵抗文化と接続してきた歴史的背景、そして海への没入がもたらす身体感覚からなる経験知によって、地域住民や専門的知識とは二重にずれたところに位置づけられている。こうして、サーファーはずれたところへ位置づけられることによって、地元住民や専門家から主張が聞き入れられ難い存在となった。
     加えて、「遊び」による身体経験を契機としたサーファーによる社会運動によって、専門家の知見が更新される可能性も確認できる。本稿は、サーファーが自らの身体経験を契機とした社会運動を展開したときに見られる、サーファーが抱える困難性と、揺れ動く科学知に関わりうる可能性を明らかにしたことに意義がある。
feedback
Top