スポーツ社会学研究
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原著論文
  • ―ジム空間における身体性・関係性・集合性に着目して―
    堀田 文郎, 松尾 哲矢
    2024 年 32 巻 2 号 p. 53-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    [早期公開] 公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー
     本稿は「ボディビルダーらはジム空間においていかなる世界と対峙しているのか」という問いを起点に、ジム空間で織り成されるボディビルダーらの身体文化について検討した研究である。特に本稿では、ボディビル・ジムに関する先行研究を参照しつつ、ジム空間で展開される固有の身体性・関係性・集合性の内実、すなわち、①ボディビルダーの行う身体実践やジム空間にて身体が有する意味(身体的位相)、②そのボディビルダーらが織り成す相互作用や関係性(関係的位相)、③そのような相互作用が総体として惹起する集合性(集合的位相)という3つの位相で織り成される具体的な様相と位相間の関係性に着目しつつ分析を行った。
     その結果、ジム空間においてボディビルダーらが、一方では、ウェイトトレーニングという身体実践を介して自身の身体と誠実に向き合い(身体的位相)、また他方では、身体以外のものと向き合うことを禁じる暗黙の禁忌と他の使用者との社交を必要最低限にまで抑える暗黙の規範を遵守する様相が看取された(関係的位相)。そして、このような身体実践と相互作用の一連の体系は、ボディビルダーらの間に暗黙的な一体性を醸成すると同時に、ボディビルダーらにとっての身体(筋肉)を至高の価値を有する聖なるものとして構築し、ジム空間に、身体と向き合うための神聖な教会とでもいうべき独自の世界を招来する様相が明らかになった(集合的位相)。
     そして本稿では、以上の分析をヴァカンのボクシング・ジム研究と対照させることによって、ボディビル・ジムで織り成される身体文化に関する考察を行った。そこでは、ボディビル・ジムの身体文化が個人主義的でありつつ共同的であり、共同的でありつつ個人主義的であるという特質、また、身体が空間の中心的な特異点となり、その身体的位相から共感的・身体的なつながりとしての関係的位相や集合的位相が立ち上がるという特質を有していることを考察した。
  • ー社会調査データの二次分析を通じた一考察ー
    下窪 拓也
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 32 巻 2 号 p. 69-83
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    [早期公開] 公開日: 2024/09/03
    ジャーナル フリー
     本研究は、運動・スポーツ実施の社会経済的格差の把握に向けて、運動・スポーツの実施動機と社会経済的地位の関連を検証した。これまで、世帯年収や学歴と成人の運動・スポーツ実施の関連が繰り返し報告されてきた。適度な運動の実施は健康に資するため、社会経済的地位による運動・スポーツ実施の格差は、健康の格差に繋がる。しかし、先行研究では社会経済的地位に応じた運動・スポーツ実施動機に関する議論が不十分であった。
     本研究は、量的調査データの二次分析を通じて上記の課題に着手した。分析では回答者を、「1日30分以上の汗をかく運動を週に2日以上」実施している運動習慣者、習慣者の定義には該当しないが運動を実施している運動実施者、そして過去1年間に運動・スポーツを実施していない非実施者の3グループに分け、社会経済的地位との関連を検証した。その後、運動習慣者と実施者を対象に実施動機の潜在構造を分析し、実施動機と社会経済的地位の関連を検証した。一連の分析から以下の結果が得られた。まず、運動実施者と習慣者は非実施者よりも世帯年収および学歴が高い傾向があり、さらに運動習慣者は実施者よりも世帯年収が高い傾向がある。ただし分析モデルの説明力は高くない。次に、社会経済的地位と実施動機の関連から、運動実施者の中で、運動・スポーツを楽しむことや親しい他者との交流を動機とする人は中学・高校卒者に多く、多様な目的を志向する人 は世帯年収が400万円以上ある傾向がある。一方で、運動習慣者内では実施動機と社会経済的地位は統計的に有意な関連が確認されなかった。最後に、未来志向によって社会経済的地位と運動・スポーツ実施動機の関連を解釈できる可能性を議論した。
  • 森田 達貴
    2024 年 32 巻 2 号 p. 85-99
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
     近年、運動部活動指導者の負担軽減が重要視されるなかで、これまで指導者に対する「外部からのまなざし」に関するストレスはほとんど論じられてこなかった。特に、2010年代以降はSNSの普及によって、指導者は不特定多数からの批判や誹謗中傷に晒される状況もあることから、そうした現代的なストレスとなり得る「外部からのまなざし」の詳細を明らかにすることは重要な視点と考えられる。
     そこで、本研究ではTwitterにみられる高校野球指導者の語られ方を明らかにすることを目的に分析を行った。分析は、高校野球指導者に言及したTwitterの4,466投稿を対象に、感情分析やトピックモデルを用いた分析、その他の多変量解析の手法を用いて実施された。
     分析の結果、高校野球指導者は、甲子園大会における勝利という成功を期待・称賛される一方、体罰をはじめとする非倫理的行為や、試合における投手の采配が批判されていた。また、高校野球指導者は、〈資質〉、〈采配〉、〈プロアマ〉、〈名将〉、〈ハラスメント〉、〈研鑽〉の6つの主要なトピックから語られていた。さらに、〈采配〉や〈ハラスメント〉にはネガティブな投稿が多いことや、〈資質〉や〈采配〉は選手権大会期間中に投稿が集中していることなどが明らかになった。
     本研究の結果から、外部の人々は高校野球指導者が行う「教育」の監視者でありながら、特定の指導者に対しては、「甲子園中心主義」的な考え方から、「競技」的な側面に関わる指導を強烈に期待していることが窺えた。「見る側の論理」を持つ外部の人々にとっては、高校野球の「物語」を味わうことが重要であり、指導者に対しては、甲子園大会に関わる「競技」的な成功(勝利)へ向けた努力と責任を果たすことを求めているのである。そして、このような外部からの「監視」と「期待」のまなざしは、従来に増して複雑かつ多層的に絡み合っており、指導者にストレスを認識させている可能性がある。
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