近年、運動部活動指導者の負担軽減が重要視されるなかで、これまで指導者に対する「外部からのまなざし」に関するストレスはほとんど論じられてこなかった。特に、2010年代以降はSNSの普及によって、指導者は不特定多数からの批判や誹謗中傷に晒される状況もあることから、そうした現代的なストレスとなり得る「外部からのまなざし」の詳細を明らかにすることは重要な視点と考えられる。
そこで、本研究ではTwitterにみられる高校野球指導者の語られ方を明らかにすることを目的に分析を行った。分析は、高校野球指導者に言及したTwitterの4,466投稿を対象に、感情分析やトピックモデルを用いた分析、その他の多変量解析の手法を用いて実施された。
分析の結果、高校野球指導者は、甲子園大会における勝利という成功を期待・称賛される一方、体罰をはじめとする非倫理的行為や、試合における投手の采配が批判されていた。また、高校野球指導者は、〈資質〉、〈采配〉、〈プロアマ〉、〈名将〉、〈ハラスメント〉、〈研鑽〉の6つの主要なトピックから語られていた。さらに、〈采配〉や〈ハラスメント〉にはネガティブな投稿が多いことや、〈資質〉や〈采配〉は選手権大会期間中に投稿が集中していることなどが明らかになった。
本研究の結果から、外部の人々は高校野球指導者が行う「教育」の監視者でありながら、特定の指導者に対しては、「甲子園中心主義」的な考え方から、「競技」的な側面に関わる指導を強烈に期待していることが窺えた。「見る側の論理」を持つ外部の人々にとっては、高校野球の「物語」を味わうことが重要であり、指導者に対しては、甲子園大会に関わる「競技」的な成功(勝利)へ向けた努力と責任を果たすことを求めているのである。そして、このような外部からの「監視」と「期待」のまなざしは、従来に増して複雑かつ多層的に絡み合っており、指導者にストレスを認識させている可能性がある。
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