スポーツ社会学研究
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33 巻, 2 号
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特集
  • 山口 理恵子, 中澤 篤史
    2025 年33 巻2 号 p. 3-5
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/04/30
    ジャーナル フリー
  • SDP実践の両義性
    岡田 千あき
    2025 年33 巻2 号 p. 7-21
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/04/30
    ジャーナル フリー
     近年の不安定な国際情勢と分断の拡大は、スポーツの領域にもさまざまな影響を及ぼしている。スポーツは、宗教、ジェンダー、ナショナリズムなどの異なる文脈で分断を映す鏡となる一方で、対話や相互理解、社会的包摂を促す役割を期待されることもある。
     本研究では、スポーツが分断と包摂の二面性を併せ持つ場であることに着目し、「開発と平和のためのスポーツ(Sport for Development and Peace:SDP)」の視点から、その構造と表象を検討する。とりわけ、勝敗・競争などのスポーツの特徴がSDPの現場において複雑に絡み合い、分断を不可避なものとする論理を提示する。また、SDPの実践が、グローバル社会における南北間の非対称な力関係を持つ「スポーツ開発村(sportland)」の中で行われていること、およびそこに内在する課題を明らかにする。
     事例としてホームレスワールドカップ(Homeless World Cup: HWC)を取り上げ、大会の妥当性に関する根本的な課題に加えて、ビザの取得や開催地の決定、支援の持続可能性などの今日的課題を考察する。また、近年、活発化しているHWCの地域大会の開催が、本大会の存続という観点からは分断といえる側面を有しながらも新たな発展をもたらす契機となっていることを示す。HWCの本大会の継続と地域大会の隆盛は、スポーツに内在する包摂と分断の両義性を示している。
     包摂空間としてのSDPを構成するには、草の根の声や地域固有の知と接続し、対話を重ねるプロセスが求められる。スポーツの両義性を自覚し、制度設計と実践の往還を通じて「分断」の意味を問い直すことが、SDPの理念、ひいてはスポーツそのものの理解を深化させる鍵となるだろう。
  • 稲葉 奈々子
    2025 年33 巻2 号 p. 23-38
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/04/30
    ジャーナル フリー
     五輪は開催地の都市空間で排除を引き起こしてきた。これは1984年に五輪に民間スポンサー制度が導入されたことに起因する。開催地の財政負担が大幅に軽減される一方で、IOCは、スポーツ・メガイベントとしての五輪の市場価値を高めるビジネスを発展させ、五輪をブランドとして確立した。五輪誘致にあたっての競争には、大企業が資本を拡大するためのより有利な構造的条件を提示した都市しか勝利できない。そのため五輪開催は、都市開発によるジェントリフィケーションをともなうようになった。これに対する抗議も開催地では起きている。フランスの場合、マクロン政権は、「脱物質主義」的価値観に基づく新自由主義的な社会政策を展開し、古典的な階級問題に基づく格差や貧困問題は自己責任に委ねられ、社会運動は弾圧された。こうした状況下において、パリでは運動団体「DAL(住宅への権利運動)」が、ホームレスの人たちによる公共空間の占拠を手段とし、五輪によるジェントリフィケーションにより、貧困層が都市空間から排除されることだけではなく、公共サービスを商品化する新自由主義の論理に対して異議を申し立てた。
  • 自己内省的分析からスポーツ公共社会学の可能性を探る
    小林 広治
    2025 年33 巻2 号 p. 39-50
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/04/30
    ジャーナル フリー
     近年デジタルメディアを通じた一般公衆との対話が可能になり、公共社会学的な実践が一層求められている。本稿の目的は、2020年にSNS上で炎上したナイキの広告をケースとして取り上げ、特にナイキと分断、ネット右翼、排外的言説への介入について内省的な視点から考察することである。本ケースの分析では、社会の分断構造を的確に理解するためには、グローバルとローカルの対立という側面だけでなく、右派的思想と左派的思想の対立という側面にも注視する必要があることを指摘した。また、筆者自身がこのケーススタディに取り組む過程を通じて、言説への介入には、SNS上での炎上への対応、マスメディアによる解釈の錯誤への対応、学術論文としての発表という三つの段階が存在していたことを示した。一般公衆との対話の機会が増え様々な発信手段も可能となっている一方で、SNS上の言説空間における安易な介入は、思わぬ炎上や誹謗中傷を誘発する可能性がある。したがって、組織的かつ戦略的な対話の構築が求められると同時に、理論的な探求を志向する学者としての役割を見失わないことも重要であろう。結果として、本稿は自己内省的な分析の有用性を示し、そのような方法が公共社会学の実践における可能性と課題を検討する上でも有意義であることを示唆している。
原著論文
  • 千葉県X町の事例から
    宮澤 優⼠
    2025 年33 巻2 号 p. 51-65
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/31
    [早期公開] 公開日: 2025/05/30
    ジャーナル フリー
     本研究は、サーファーによる有機農業の実践を通じて、ライフスタイルスポーツの実践者が自然との関係性についての独自の感覚や認識を、いかに地域社会との関わりの中で具体的な実践として展開しているのかを分析したものである。
     従来のライフスタイルスポーツ研究は、それぞれの文化に内包する排除の論理を明らかにしつつ、実践者たちのオルタナティブを模索している。しかし、実践者たちが地域社会との関係性の中でいかに具体的な実践を展開するのかという点は、十分に検討されてこなかった。
     本研究で取り上げる千葉県X 町のF農場では、サーファー5人組が「半農半サーファー」というライフスタイルを実践しながら、約1700坪の農地で有機農法による栽培を行っている。彼らの実践には3つの特徴が見られる。
     第一に、サーフィンで培った「待つ身体」の感覚を農業に転用している点である。波を待つ身体感覚は、自然のリズムに従う有機農業と共鳴し、環境との長期的な対話を可能にした。
     第二に、農を通して身体をDIYする実践である。彼らは自家栽培した有機作物の効果をサーフィンのパフォーマンスで検証し、その経験を農業実践に反映させる循環的なプロセスを確立している。
     第三に、波の状況に応じた柔軟な時間管理が、自然のリズムに沿った農場運営を可能にしている点である。当初、この実践は地主のG氏との間に軋轢を生んだが、時間の経過とともに「土地を大切にする」という共通の価値観を見出すに至った。
     本事例は、ライフスタイルスポーツの実践者による社会変革の試みが、必ずしも対立や断絶ではなく、地域社会との重層的な関係性の中から生まれる創造的な実践として展開しうることを示している。本研究は、このような地域社会との日常的な交渉や協働の過程に焦点を当てることで、ライフスタイルスポーツ研究における新たな視座を提示するものである。
研究ノート
  • 東京都足立区におけるオランダ王国との連携を事例に
    篠原 果歩
    2025 年33 巻2 号 p. 67-75
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/31
    ジャーナル フリー
     国際連合によって持続可能な開発目標(SDGs)達成の「成功要因(enabler)」と位置づけられているスポーツであるが、東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会を一つのきっかけに、日本においてもSDGsやダイバーシティ&インクルージョンの重要性が謳われるようになった。特に、大会ビジョンの一つである「多様性と調和」に関わり、大会の主要人物たちが「パラリンピックの成功なくして東京大会の成功なし」と繰り返し発言し、大会開催を契機とした共生社会の実現を呼び掛けた。しかし、大会報告書ではアクション&レガシープランの下で実施された取り組みそのものが「成果」として紹介される程度で、その取り組みがもたらした変容や影響は必ずしも明確に論じられていない。
     そこで本稿では、オランダオリンピック委員会・スポーツ連合(NOC*NSF)が日本スポーツ振興センター(JSC)の協力を得て、2017年度から足立区などで開始したGame Changer事業を対象とし、NOC*NSFやJSC、足立区の公開資料を用いて、パラスポーツを通じた共生社会の実現を目指す足立区で創出された価値観や実践の変容の特徴を明らかにすることを試みた。
     本研究を通じて、まず、事業に携わる区職員や障害者自身を含む区民など関係者間での対話を重ねることで、従来の固定観念やエイブリズム的な考えから関係者自身を解放するという価値観の変容が目指されていたことが窺えた。次に、既存と新規の仕組みを柔軟に組み合わせ、足立区におけるパラスポーツ推進のための基盤の強化に取り組んだことが明らかになった。しかしながら、これらの過程においてスポーツや運動に苦手意識のある障害者の意見が十分に反映されていない可能性が示唆された。
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